今年もよろしくお願いします。
「さあまだ開始から2分と経ってねえが、早くも混戦、混戦!」
どん!とマイクの奥から机を叩いた音が聞こえた。
「各所で鉢巻を奪い合い、1000万を狙わず2位から4位狙いってのも悪くねえ!」
マイクさんのアナウンスで騎馬達の士気が上がるのを肌感で感じ取る。
「うぉー!はっはっは、うわっはっは!」
高笑いに振り向く。
「…障子くん?」
というより障子くんしかいない。
峰田くんの声が聞こえたはずなんだけど。
複製腕をテントのように組み合わせている障子くんはそのまま緑谷くんの方へ突っ込んでいく。
というか、障子くんは峰田くんと、あとは梅雨ちゃんと組んでいたはず。
「奪い合い?違うぜこれは…一方的な略奪よ!」
「あれってもしかして複製腕を組んでできたスペースに梅雨ちゃんと峰田くんが入り込んでます?」
「…え?そんなことある?」
流石に義眼をしている状態だと人の腕の中までは見通せなくて意味もなく目を細める。
後騎馬から覗くように顔を出す尾白くんにあれですと障子くんを指し示す。
「峰田くんの小柄さと梅雨ちゃんの収まりの良さなら…行けちゃいませんか?」
「あー…行けそう。」
尾白くんとふたりで納得顔をしてしまった。
つい先ほどの疑問を緑谷くんが声に出した。
「障子くん?!あれ、ひとり?騎馬戦だよ??!」
「一旦距離を取れ。とにかく複数を相手に立ち止まってはいかん。」
緑谷くんの驚きの声に対して常闇くんが冷静に言葉を返す。
「あっ、何?!」
麗日ちゃんの声が響く。
「どうしたの麗日さん!」
「取れへん!」
峰田くんのもぎもぎが麗日ちゃんのレッグアーマーと地面をくっつけている。
「それは…峰田くんの。一体どこから…!」
「ここからだよー緑谷。」
障子くんの腕の隙間からにたりと笑みを浮かべた峰田くんが見えた。
「本当に入ってましたね。」
「いやぁ、さすが障子。」
彼ならできるだろうと思っていたとはいえ、本当にやるとは…。
というか人ふたり分乗せられる背中って、何?
「彼は随分と頑強なんだね。」
「上背もありますし、フィジカルつよいですしね。握力500位ありませんでしたっけ?」
「A組には化け物しかいないのかい?」
庄田くんが意味がわからないというような表情を作って言い放った。
物間くんのこととか教えてくれたからお返しのつもりだったというのに。
「うわ!それあり?!」
「ありよ!」
緑谷くんの疑問に審判であるミッドナイトさんが鞭を振るって答える。
「わっ!」
「どわっ!」
障子くんの腕の隙間から梅雨ちゃんの舌が勢いよく飛び出して、緑谷くんと、白髪の男の子が悲鳴をあげた。
「流石ね。緑谷ちゃん。」
「蛙吹さんもか!すごいな障子くん…。」
梅雨ちゃんと峰田くんふたりが障子くんの腕の隙間から外を覗く。
緑谷くんは感心の声を上げた。
「梅雨ちゃんと呼んで。」
お決まりとなったその台詞と同時にふたりは障子くんの腕の中に姿を消した。
梅雨ちゃんの舌と峰田くんのもぎもぎが緑谷くんを襲う。
「峰田チーム圧倒的体格差を利用し、まるで戦車だぜ!」
マイクさんのアナウンスにうんうんと頷く。
「緑谷!離れろ。」
常闇くんの言葉に答えるように緑谷くんは手元のスイッチをまた押した。
宙に浮くとき、麗日ちゃんのレッグアーマーがばぎんと悲鳴をあげて壊れた。
「あぁー!ベイビーがちぎれた…!」
「ごめん、でも離れられたよ!」
嘆くサポート科の子に緑谷くんが謝る。
ベイビーというのは、サポート用の機材のことだろうか。
産みの苦しみって言うしなぁ。
その騎馬を追うように爆豪くんが空を舞った。
「…私達も行くべきですかね?個人的には行きたくないんですけど。」
「いや、まだいいだろ。あとで掻っ攫おう。」
のんびりと心操くんが言う。
爆豪くんの爆破と常闇くんの
「まっぶし…」
「おおー騎馬から離れたぞ?いいのかあれ?」
マイクさんの声と同時に瀬呂くんが爆豪くんにつけていたのであろうテープを巻き取ってキャッチする。
「テクニカルなのでOKよ!地面についてたらダメだったけど。」
ミッドナイトさんが言うのならありだろう。
あそこまで離れていいのなら、私たちにもやりようがある。
「庄田くん、お願いがあります。」
こそりと声をかけて説明をする。
「…相澤さんがそれでいいのなら。」
そんな会話をしている間に緑谷くんたちも地面に着地したようだ。
「やはり狙われまくる1位と猛追を仕掛けるA組の面々!共に実力者揃い!…んでも相澤、影薄くなってない?」
私にも私の考えがあるわけですよ。と心の中で愚痴る。
薄くしているのだから思い出させないでほしい。
「
観客の言葉に、騎馬の3人はそれぞれの想いで拳に力を込める。
「気にしないでいきましょう。場数なんて後からどうせ踏むことになるでしょうし。」
ふわ、と笑ってみせる。
「さあ、各チームのポイントはどうなっているのか?7分経過した現在のランクをスクリーンに表示するぜ!」
ぱっと電光掲示板の表示が変わり、観客がどよめく。
「あら?ちょっと待てよこれ。A組緑谷以外パッとしねえってか爆豪も変動ねえな。」
思ったほどA組の成績が振るわなくてマイクさんの放送にも疑問符が載った。
「そろそろいきますか。庄田くん。お願いします。」
「…本当にいいのかい。」
もちろんと微笑む。
右の靴を庄田くんに向ける。
「お願いします。私が誰かの鉢巻を手に入れて、足裏を相手の方に向けたら2度目をお願いします。」
「承知したよ。」
こつん、と拳が靴底に当たる。
「それじゃあ行ってきますね。」
「行ってらっしゃい。相澤さん。」
拳の圧力が解放されて、私は低空を進んだ。
「こんにちは。初対面がこれは印象悪そうなので今度普通にお話ししたいですね。」
「っ?!おめえ、相澤!」
白髪の男の子が私の名前を呼ぶ。
私有名人なのかな?
しゅるしゅると後騎馬の女の子から荊のような髪の毛が私の元に伸びる。
「ごめんなさい。荊の扱いには都合上慣れてるんです。」
「きゃ…っ!」
荊の絡みついた左足を荊を巻き取るようにぐるりと回すと、荊の女の子はバランスを崩した。
ルーンが馴染まない間、何度うっかりミスのせいで荊で自分を雁字搦めにしたか…思い出したくもない。
「大丈夫か塩崎!」
「頂戴します!」
塩崎さんというらしい、女の子を慮ったように振り返る騎手の首に手をかけてそのままべりと1本の鉢巻を引きちぎる。
私を捕まえようとする腕を
「
「うぉっ!」
ずどんと私の靴裏に衝撃が走ると同時に白髪の彼は体をのけぞらせる。
あの程度の殴打でここまで強い力に変換されるなら、本気で殴ったらどうなるんだろう。
その力を推進力に私は自分の騎馬の元へと舞い戻る。
「うわっとと、ただいま帰りました。」
「おかえり。どう?」
勢い余って騎馬を素通りしかけてしまった。
尾白くんの尻尾が私の胴に巻き付いて勢いを殺してくれる。
心操くんが不安そうに振り返る。
「ちゃんと獲りましたよ。705ポイント。」
首にしゅるりと掛けてその鉢巻を引いてみせる。
「上出来でしょう?」
「上出来どころか満点でしょ。」
ふたりでにやりと笑って見せた。
「さぁ、残り時間半分を切ったぞ!」
マイクさんのアナウンスを聞いた爆豪くんの目が煌めいた。
彼の手が輝いて見えたと同時に指示を飛ばす。
「尾白くん尻尾で迎撃お願いします。爆豪くんです。」
「わかった…っ!」
いくら尾白くんでも勢いに乗った爆豪くんは押し返しきれなかった。
それでも私の頬を掠めていたであろう腕は空を切る。
「おいアマ!他のクラスの連中と組みやがって!クソみてえなヒットエンドランで舐めた真似してんじゃねえぞ!」
「舐めてなんてないですよ。大真面目です。」
真面目なわけねえだろ!と爆豪くんは吠える。
「火ィくれえ吹いてみやがれ!出来ねえわけねえだろうが!」
「何て無茶を。私の力は遠隔操作ですよ。」
はあ、とため息がちに今現状で答えられる範囲の答えを告げる。
は?という間の抜けた声と同時に爆豪くんの瞳は見開かれた。
「てめぇ、そういうことか。」
「はい。」
爆豪くんは本当に性格がアレだけど頭の出来はしっかりしている。
今の私のすっとぼけでおそらくそれなりに理解したのだろう。
「おい、猿。テメェも知ってんか。」
「…うん。」
ぎりと奥歯を噛み締めた彼は激昂した。
「ふざけてんじゃねえぞ!舐めプも程々にしろよ!」
「…!」
私の方に向けて伸ばされた腕を弾き落とそうとして、当然のように私の方が力負けする。
咄嗟のことで
ぶちりと鉢巻のマジックテープが結合を剥がされる音がして、385点の鉢巻を捥がれた。
爆豪くんはけっと息を吐いてテープに引かれて戻っていった。
「すみません。1本取られました。」
「取られた分は他から取り返そう。」
ところで、と心操くんは私を見上げる。
「いっつもあんな感じなの。」
「結構大体あんな感じですね。」
うわ絶対俺編入しても同じクラスになりたくない。と心操くんはうんざりした顔をした。
誰の個性にしても夢がありますよね。