「峰田さん!上鳴さん!騙しましたわね!」
ぷりぷりと怒るヤオモモちゃんの声を聞きながら昼休み中の話を回想する。
「みんなまだ食堂いるみたいだから行ってみない?」
「はい。いきましょう。」
たこ焼きとお好み焼きを食べ終わって、スタジアムに向かおうかと思っていたところで、三奈ちゃんが言うのでそれに賛成する。
「にしても最終種目、何になるんでしょうね?」
「去年はスポーツチャンバラだったみたいだよ?」
スポーツチャンバラはあるのにスケートは無名の世界、私にはよくわからない。
私が生きていた世界でもサッカーはひと昔前までメジャーなスポーツじゃなかったらしいし、流行り廃りは案外あるのかもしれない。
「スポーツチャンバラに個性が介在する余地ありますか…?」
「それぞれの汎用性によるかな…。」
なるほど、つまり向いてなければどうしようもないと。
心操くん、去年じゃなくてよかったね。とつい騎馬戦を共に生き抜いた戦友に向けて語りかける。
「八百万、耳郎。」
「ん?何か用ですの?」
上鳴くんの呼びかけにヤオモモちゃんが振り返るのを、食堂のテーブルをきょろきょろと見渡している時に見かけた。
ふたりでそちらに向かう。
「いや、クラス委員だから知ってると思うけどよ。午後は全員あの服装で応援合戦しなきゃいけないんだって。」
そう言った峰田くんは窓の外を指差す。
具体的にはクロップド丈のトップスにミニスカートという典型的チアリーディングの衣装を身に纏った女子たちを指差した。
「ええ?!」
「そんなイベントがあるなんて聞いてませんけど…。」
顔を赤くする耳郎ちゃんと困惑気味のヤオモモちゃんがそれぞれにリアクションした。
「信じねえのは勝手だけどよ。相澤先生から言伝を受けたんだ。忘れてるかもしれないから一応教えてやれって。」
峰田くんの言葉に上鳴くんがうんうんと頷く。
「おつかれおつかれ!」
「お疲れ様です。屋台でお昼食べたので遊びに来ちゃいました。」
ふたりでひらりと手のひらを振る。
「弓月さん、チアの件、相澤先生から聞いていましたか?」
「いや、私は聞いてませんけど…。というかそんなイベントあるわけなくないですか?」
いくら事情を知らない先生方がゴーサインを出したとしても、私の体のことを知っている消太さんや校長先生がそれを許すはずがない、と思う。
「いやでも、うちの高校だよ?違うとも言い切れないよな…。」
「あぁ…確かに。いやぁでも。」
耳郎ちゃんの言葉を聞いて今朝のことを思い出した。
消太さん報連相って言葉知らないしなぁ…。わからなくなってきた。
いやでも、にしても、チアなんてやるなら事前に練習の時間とかないのかな。
「と、とりあえず着替えましょう?!衣装は創りますので!」
「ええ…。」
あわあわとヤオモモちゃんが立ち上がる。
「弓月さんも早く!」
「私諸事情により太ももは晒せなくてですね。」
ぐわと詰め寄るヤオモモちゃんと私の体の間に手のひらを滑り込ませて距離を取る。
「透けないタイプのタイツも創造しますから!なんなら着圧もつけますわ!」
「え、ええ?」
ぐっと拳を握ったヤオモモちゃんに気圧される。
そこまでするのか。
そこまでしてでも出る気なのか。
というかヤオモモちゃんの個性、凄いな…。
「…はい。わかりました。」
お手上げだった。
わざわざ作ってくれたものを無碍にして逃走するわけにもいかなくて私は渋々露出度の高いその衣装を身に纏った。
…そうして今に至るんだよなぁ、と記憶の海に沈めていた意識を周囲に向ける。
「なぜこうも峰田さんの策略にはまってしまうの私…!衣装まで創造で創って…。」
よよよと崩れ落ちたヤオモモちゃんの肩を麗日ちゃんが撫でる。
「アホだろこいつらっ!」
「まぁ、本戦まで時間開くし、張り詰めててもしんどいしさ。いいじゃん!やったろー!」
ぺちぺちとポンポンを地面に投げる耳郎ちゃんの横で葉隠ちゃんは随分とやる気だ。
「えええ?!」
「透ちゃん、好きね。」
梅雨ちゃんが葉隠ちゃんを覗き込む。
「さあみんな楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!1対1のガチバトルだ!」
「最終種目はサシでのトーナメントか。毎年テレビで見てた舞台に立つんだ。」
嬉しそうな顔の切島くんを見て、何の思い入れもない私が進んでよかったのだろうかと思う。
「去年、トーナメントだっけ?」
「形式は違ったりするけど例年サシで競ってるよ。去年はスポーツチャンバラしてたはず。」
それはさっき三奈ちゃんと話した。
「それじゃあ、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります。レクに関しては進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね。じゃ、1位のチームから。」
「あの、すみません。」
俯き気味に手を挙げたのは尾白くんだった。
「俺、辞退します。」
「は?」
間の抜けた声が私の口から漏れ出した。
「尾白くん?なんで?!」
「折角プロに見てもらえる場なのに。」
緑谷くんと飯田くんの言葉を聞いた尾白くんはますます俯く。
「騎馬戦のとき、結局相澤におんぶに抱っこだった。あんなに相澤に並んで戦えるようになりたいって思ってたのに結局だよ。」
「…っ、尾白くん。」
尾白くんに駆け寄ろうとしてやめてくれと肩を掴まれる。
体格差のせいで空いた僅かな距離が煩わしい。
「俺のせいで本当は必要ない制限までかけてそれでも騎馬を2位まで持っていける相澤さんはすごいよ。でも、俺は
「何もしてないわけないじゃないですか。」
そんなわけないじゃないか。
笑みを浮かべて、私の肩を掴む大きな手に私の手を添える。
私の目線よりも落ちている視線に割り込んで尾白くんの目を見つめた。
今回もと言う言葉の意味は、追求しないでおこうと心に決める。
「尾白くんがいなかったら、空中に浮くときに心操くんか庄田くんの体に傷をつけていたかもしれません。爆豪くんが飛びかかってきた時も尾白くんが割り込んでくれてなければ私の頬くらいは裂けていたでしょう。もしかしたらもう少し酷い怪我を負ったかもしれません。」
事実をただ並べる。
尾白くん、君がいなければ私達はもう少し窮地に陥っていた。
「そして、庄田くんがいなければB組の騎馬から鉢巻を奪うこともできませんでしたし、心操くんがいなければそもそもこの面子で騎馬を組むことも、峰田くんから鉢巻を奪うこともできませんでした。」
それはまた、他の2人もそうだった。
眉を下げた庄田くんを見てこれもまた事実を語る。
誰ひとり、役に立たなかった人なんていなかった。
「オイラの鉢巻撮ったの相澤かよ!」
という峰田くんの悲痛な叫びは無視した。
と言うよりある意味一番足を引っ張ったのは私なのでは?と若干の切ない考えが頭をよぎった。
「誰かひとりでも欠けていたらおそらく本戦まで残れていません。」
「でも…!」
それでもまだ納得行かなそうな尾白くんの耳元に背伸びをして唇を寄せる。
「私、今回は尾白くんと戦えるなら戦いたいって言ったじゃないですか。」
「それ、リップサービスじゃないの?俺のことなんて眼中にないと思ってた。」
きょとんと目を丸くした尾白くんを見て、何を言っているんだこの子はと思う。
「そりゃあまあ搦手ありの遠距離ありなら多分勝てますけど。やっぱり近接じゃあ勝てないですしね。残念ながら方角が違うというか、え、戦ってくれないんですか?」
「そういう意味で言ったわけじゃないんだけどな。…ところで君たち、なんでチアの格好してるの?」
「これには海よりも深く山よりも高い理由があるんですよ…。」
急な話題の方向転換に私の精神が対応しきれなかった。へ
「ううん、青いのは好みだけど、チームアップの相性としてサポートに回ったほうがいい場合もあるわ。棄権は許可できないわね。」
「…はい。」
神妙な表情でミッドナイトさんは言った。
それに対して尾白くんも頷いた。
チア衣装とか仮装って非日常感あっていいですよね。