一日中教科書を爆速で読み込んでみたけど、やっぱり社会だけがネックだなぁ…と午前中に得た感想が変わらなかったことにため息をつく。
これで理科とか違ったらどうしようかなって思ってた。
社会とかは暗記だけど、理科みたいな理屈と実践って感じの教科の内容が変わってくると結構困るなと思ってたからそこについては安心した。
しかしながらどう考えても社会科目が問題すぎる。
ううん。
フィールドワークとかしてみようかな。社会科見学的な。
監視が必要な私には無理だな。
一瞬浮かんだ案を却下した。迷惑がかかる。
あ、でも、ミッドナイトさんとお買い物行くときに少し頼んでみようかな。と前向きに検討を始める。
ここからのお勉強方針を考えてる間にキンコンと鐘が鳴った。
鐘がなるたびにどこの世界でも学校のチャイムって大体おんなじ音なんだなぁと共通点を感じてしみじみする。
ぶっ続けで酷使した両目をもみほぐしながら上を向く。
額にペットボトルが乗せられた。
ひんやりした感触が心地いい。
ペットボトルの先に見えるごつごつとした指に見覚えがある。
「おつかれさまです。消太さん。」
「お前こそ。」
「がくせーのほんぶんってやつですから。」
にこりと笑ってみせる。
釣られた消太さんが少し笑ったような気がしたけれど、ペットボトルが邪魔でよく見えなかった。
「今日は飯、作るぞ。スーパー寄って帰ることになる。」
私がもらった教科書を段ボールに詰めながら相澤さんはそう話す。
「毎日買うのも大変ですし、一週間分くらいまとめて買っちゃいませんか?」
「あぁ。」
お弁当はランチラッシュさんのご飯が美味しすぎるので多分いらないな。
朝、晩でご飯を食べるって考えると作り置きできるおかずとかを作っておきたいなぁ。と思う。
あらかたの教科書を詰め込んだ段ボールを消太さんは軽々と持つ。
…流石に小学校前半の教科書は要らなかったので返した。
「今のところ不便は?」
という消太さんからの質問にううんと唸る。
「強いて言うなら、携帯電話が欲しいです。連絡するにしても、調べ物をするにしても、あれば便利かなと思って。」
あ、でもお金もかかりますし、無理にとは言いません。と繋ぐ。
「いや、持っててもらった方が俺としても都合がいい。ついでに買いに行くぞ。」
消太さんの両手は塞がっているので私がトランクリッドを開けて、消太さんが段ボールを置いたのを確認してから再度閉める。
「ありがとうございます。あれば本当に助かります。」
後部座席に私が乗り込んだのをみた消太さんが車を出す。
「…ところでなんですが、タッパーとかってお家にありますか?」
少し考えた消太さんが否定する。
「ないな。」
…正直なさそうだなとは思った。あのお家はあまりにも物がない。
できればおかずをまとめて作って作り置きしておきたい旨を伝える。
「そうか。それならよろしく頼む。」
「嫌いな食べ物だったり苦手な味付けってありますか?」
「特にはないから好きに作ってくれ。」
好きに作っていいと言ってもらえると選択肢が多くて少し困るけど、作りやすいものか日持ちしそうなものを作ろうと決める。
スーパーについて適当に食糧をカゴに入れる。
すいっと大きめのトマトだけカゴから棚へ戻された。
代わりにプチトマトをカゴに入れてみた。
戻されなかった。
大きいトマトがダメなのかとひとつ知って、できるだけ避けようと思う。
でも私トマト好きなんだよなぁ…どうしよう。
お買い物もトマト以外は円滑に終わり、タッパーも大小様々に購入した。
スマホの契約もすぐ済んだ。
署名の欄に相澤弓月と書くのはまだ少しくすぐったかった。
早く慣れなくちゃ、ね。
「スマホ、ありがとうございます。」
結局食材たちを全て持ってくれて、玄関の鍵を開けた消太さんの背中にお礼を投げかける。
この人なんだかんだで力仕事はほとんどやってくれる。ありがたい。
「いや、連絡も楽になるし、丁度いい。」
気にするな。とキーリングに指を通している左手をひらりと振る消太さんをみつつ、靴を脱いで、手を洗う。
「じゃあ、作っちゃいますね!」
そこから2時間は私の独壇場だった。
消太さんっていままで自炊してこなかったのかな?
そこの大根、イチョウ切りにしてくださいって言ったら頭の上に?を浮かべてた。
タッパー16個分の作り置きが完成してふうと息をついた。
「すごいもんだな…。」
「前の時も自炊していたので。都度作るより作り置きしちゃった方が楽なんですよね。」
ついでに作った今日のための生姜焼きを野菜と一緒に盛り付けると、ダイニングまでは消太さんが運んでくれた。
「いただきます。」
消太さんと一緒に手を合わせて黙々とご飯を食べる。
うーーーん昨日のランチラッシュさんのサンドイッチには劣るなぁ…まあご飯は究極、栄養さえ取れればいいのだ。
「…うまいな。」
少し目を丸くした消太さんが呟く言葉にふと微笑む。
「お世辞でも嬉しいです。」
いや、そういうわけじゃともごもご喋りながらご飯を掻き込む消太さんをみつながら少しずつご飯を食む。
のんびりご飯を食べている間に消太さんは全て食べ終えて、ウーロン茶をグラスに注いで飲んでいる。
流石にご飯にはお茶だったらしい。
「ごちそうさまでした。」
「洗い物はやるから、風呂入ってこい。」
先にお風呂に入って寝支度をする。
おやすみなさい。と二人で言って別々の部屋に入った。
今日取ったノートの分だけ復習をしたかったけど、今日も今日とて疲れちゃったなぁ…。
おやすみなさい─
ゆめをみている。
ずきりと痛む私の目は吹き出す血と共に赤色にひっくり返った。
魔法は、血筋だよと何回も聞いた。
─血筋なんてなかった。
お前には敵わないと何十回も聞いた。
─敵ったことなんてなかった。
お前如きに何ができると何百回も聞いた。
─何もできなかった。眼下に赤い花が咲いた。
左目はいつも見たくもないものを見せてくれる。
「ん…」
最悪の気分だ。はずし忘れていたお守りに気がついて、悪夢の原因を理解する。
ぴぴぴと昨日買ってもらった携帯電話がアラームを鳴らす。
「おはようございます。」
例の如く軽く身支度を整えてから部屋を出る。
「おはよう。」
ふあと欠伸をする消太さんと挨拶を交わして、顔を洗う。
冷蔵庫に入れてある作り置きのおかずと炊いておいたご飯で朝ごはんを手軽に食べる。
支度をして消太さんの車で雄英高校に連れて行ってもらって、空いている部屋で勉強をする。
ところで私が行く部屋全てに監視カメラがあるんだけど、部屋全てにあるのか、私がそういった監視できる部屋にしか通されてないのかが気になってきている。
お昼休みになると、誰かしらが私の分までランチラッシュさんのご飯を持ってきてくれて一緒に食べてくれる。
主に消太さん、ミッドナイトさん、マイクさん。あとたまに校長先生が食べにきてくれることが多い。
今日は誰がきてくれるのかなって少し楽しみになってきてる。
ミッドナイトさんの付き添いありきだけど、社会見学を兼ねて外を歩いたりするときもある。
ちょっとしたデートみたいで毎回楽しい。
最初の頃、お洋服をたらふく買ってもらってしまって恐縮したことも記憶に新しい。
やっぱり社会科目が足を引っ張っている気がして、マイクさんが暇なタイミングで授業してもらっている。それなりに社会科目も総ざらえで覚え直せてきてる。
いまだに前の社会と今の社会でごっちゃになってしまう時もある。盛大なる後方宙返り!ただし水中みたいな。
模擬試験の問題を取り寄せてもらって一通り解いてみたところ、一応は合格ラインに達しているし、それなりに学力も上がってきた気がする。
受験勉強って結局詰め込みだから何ヶ月か経ったら忘れちゃうんだろうなと思うけど、逆に言えば受験まで保てばいいなら気が楽だ。
それから、少しの空いた時間で体を鍛えた。魔法頼りの戦いしかしてこなかったので、いらないかなぁとも思ったけど手札はあった方がいいよなと思って頑張っている。腹筋も背筋も腕立ても嫌い。
戦闘術については、もう少し体が鍛えられてからがいいと言われたので、走り込んだり、筋トレしたり、サンドバッグに攻撃を仕掛けたりしていたら、少し体も締まってきた。
最近お話してくれるようになったランチラッシュさんに教えてもらったメニューで作り置きおかずのレパートリーが増えてきて、消太さんの顔色の悪さもほんの少しだけマシになった。
私という存在は少しずつこの世界に馴染んできている。
だけど、私は前の世界のことは忘れられない。
無意識のうちに、向こうで開けたピアスの穴を確認するように耳たぶを触ってしまう。
ここにいるのも楽しくて幸せで、これからが楽しみだけど、
だけど、私はまだ消太さんのことをお義父さんとは呼べていない。
夢の中身について言及するべきか悩んでいます。
明日はおまけ的なものを投稿する予定です。