『――命は、そんなに軽々しく扱うべきものではないよ。彼らの意識は帰ってこない。死者の意識が消え去るのはどこの世界でも一緒さ。』
あの世界で最悪の記憶――それに酷似したボス部屋の大扉は開け放たれたままだ。
「……」
眼前の不快な光景を目の当たりにして、俺は小さく息を吐いた。
この数ヶ月、いや、あの眩い光の粒が消え去った瞬間から何度思い出したことだろう。
悪夢であってほしい――そう何度願ったことか。
現実世界で。そして、この仮想世界で。
凄まじい勢いで湧き上がる後悔の念に押しつぶされそうになる。
すかさず頭を左右に振って、再びゆっくりと深く息を吐いた俺の前を <デスペナルティー> を嫌ってボス部屋から逃げ出してきたプレイヤー達が通り過ぎていく。
「北部はヤバイって聞いてはいたけどさぁ、コレは流石にナイよなぁ……流石に酷くね?」
「ああ、無理無理。あんなの俺達のレベルじゃ何回やったって倒せっこないでしょ……まっ、次は血盟騎士団と聖竜連合中心の多種族合同レイドがチャレンジするらしいから……それでも倒せるのかなぁ……」
肩越しに背後を窺うと、今しがた戦闘を終えたばかりのプレイヤー達は肩を落として薄暗い回廊の奥に消えていった。
「血盟騎士団、か……」
気づけば俺は笑みを浮かべていた。
それは、懐かしい名称を耳にしたからだろうか?
それとも、あの頃とはまるで違う稚拙な <ボス攻略戦> に呆れたからなのだろうか?
または……
そんな疑問、今は全く必要の無い無駄な思考と感情を消し去るように奥歯を強く噛み締める。
「うおーーーっ! あぶねぇ、ギリギリだぜ!」
「クソっ、オイっ、このやろー! おぼえてやがれっ!」
口々に叫びながら最後まで残っていたプレイヤー達が次々とボス部屋から飛び出した。
その直後、漆黒の闇を封印するかのようにギシギシと音を響かせながら大扉が閉じていく。
まだ興奮冷めやらぬ者の肩に手をかけた盾役らしい装備のプレイヤーが大きく溜息をつくと、
「みんな頑張ったけど、こいつはどうしようもないよ。とりあえず帰ったら領主様に報告……うん、そうだな。また、みんなで挑戦しような!」
戦闘直後の興奮冷めやらぬプレイヤー達だったが、その言葉を合図に皆それぞれな調子で迷宮区入り口へ向かい歩き出した。
すれ違い様、ボス部屋に向かう俺へ不信感をあらわにする者もいたが、盾役から 『おっ、スプリガンか? ボス戦頑張れよ』 と声をかけられる。
それに小さくうなずき回廊を進む。
立ち止まる。ウインドウをタップし、まだ使い慣れない片手直剣を装備した。
「おいっ! あのスプリガン――」
薄暗い回廊に響き渡る絶叫を無視して、俺は、静かに動き出した大扉の先へ。
「今、行くからな……アスナ」