「シルフ隊――突撃!」
サクヤが絶叫と共に鋭く扇子を振り下ろすと同時、リーファは鋭く地を蹴って突進した。長刀が輝きを放ち急激にその身体を加速させる。
取り囲むように構えていたシルフ隊は一瞬で飛竜の脇をすり抜ける。ファイヤブレスの劫火が消滅すると一斉にシルフ隊の剣尖が巨体に光跡を刻む。
HPゲージが最後の一本になるのを見届けると、
「ドラグーン隊! 防御陣形――!!」
余裕の笑みを浮かべたアリシャ・ルーが叫んだ。
リーファは素早く飛竜の背後に身を隠すと、上段に長刀を構える。
ボス部屋にいる全員に緊張が走った――
「さてさて、今回はナニが出るのかニャ~?」
真剣な表情ではあるものの、気の抜けた甘い声を出すアリシャ・ルーを横目にリーファは剣先を崩れ行く巨体に向ける。
直後、ボスの全身を包むモザイク状のノイズが拡散し、不快感を感じさせる激しい金属的炸裂音。
これまでどおり――誰もがそう思った。
この世界が突然姿を変えた日から、無数のプレイヤーが各地の迷宮区で幾度もボス戦に挑んだ結果判明した事象である。
それゆえにリーファもその瞬間を待っていた。
「来るぞ――」
サクヤがそう言い放った次の瞬間、不気味な黒煙が襲う。
「なっ!?」
それはボス部屋全体に充満。急速に視界を失って動揺が場を支配する。
「陣形維持――!」
部屋中にアリシャ・ルーのけたたましい叫びが響き渡るとほぼ同時、リーファは何かが一瞬光ったのを見逃さなかった。
「今の何!?」
アリシャ・ルーにそう問いかけた刹那、数メートル先にいたはずの飛竜が眼前に迫ってくる。
「――!?」
飛竜と共に壁に激しく叩きつけられたリーファは何が起きたのか理解出来ずにいた。
「……痛っ」
それでも無理矢理身体を起こし、ゆっくりと顔を上げる。
「死神……」
全身に悪寒が走り硬直する。
逃れることの出来ない刃。それが振り下ろされる――絶対的な死のイメージ。
「い、嫌っ」
激しい衝撃と痛みに襲われる、そう思った。
だが、斬られるはずの身体は突然、迫る刃をすり抜けた。
「えっ、えっ?」
瞬く間に遠ざかる死神の姿。リーファは混乱を隠せない。
「あ、あぁぁ、えっ、えと……後ろに下がって回復して、くださぃ」
小さすぎて聞き取りづらい声。その場所に視線を向ける。
「う、うん、ありが」
リーファがそれを言い終える前に、正面にあったはずの白い小さな背中が消えた。
「えっ!?」
刹那、轟音を伴って黒煙を切り裂いた眩く鋭い血色の軌跡は巨大な死神を貫く。
「「ヴォーパル、ストライク――!?」」
それを目撃した誰もが驚愕の声を発した。
「これが、閃光……」
リーファの背後で誰かが小さくつぶやいた。
「えっ……」
閃光――そう呼ばれた剣士を私は知っている。
「嘘……そんな……」
その言葉を受け入れられないまま、リーファは薄まりつつある黒煙の先に描かれる美しい輝きを追い続けた。