「やはり他種族の君を推薦することは出来なかった……皆を納得させる方法を、熟慮を重ねたのだが……すまない」
深々と頭を下げる。
「ああ、分かってるよ。傍から見ればレネゲイドだし、ましてや <亡霊> なんて呼ばれてるようなやつを推薦したら、あんたが……まずは迷宮区に潜ってみるか。いろいろ、ありがとう。じゃあ――」
そう言って席を離れようとした俺に、
「キリト君、今回の決定を君はどう見る?」
小さく溜息をひとつ。俺は椅子に座りなおすと、
「多分、かなり厳しいと思う。とはいえ、いつかは辿り着くだろうけど……それじゃ、遅すぎる」
「……そうか。私もそう思う。これまでの経緯を踏まえれば、たとえ九種族会議の合意事項であろうとも、全プレイヤーがそれに従って行動するとは到底考えられない」
小さく頷く。
「ああ、だからどんなイレギュラーが……まっ、そういう意味なら俺もそうなんだけど」
そんな自虐的な答えに領主はフフっと笑うと、
「確かにそうだな。君の動向が最も読めない。しかし、多種族に戦力で劣る我々を牽引し、最難関と言っても過言ではない北部ルートを突破出来たのは……君のおかげだ。ありがとう、キリト君」
深々と頭を下げる領主に、
「いやいや、そんなことないだろ。礼を言うなら俺のほうさ。好き勝手やってる俺達を容認してくれた……あんたのおかげだよ」
穏やかな表情で、
「私としては、君が我々の領土に現れた奇跡に感謝するしかないのだよ。まさか、あの <ソードアート・オンライン> をクリアしたプレイヤーの君が――」
「それは違う。俺がクリアしたわけじゃない」
話を遮ると俺は席を立った。
「とりあえず、また何かあったらメッセージを飛ばすよ」
「ああ、こちらも。気をつけて。くれぐれも無理はするんじゃないぞ」
「はいはい。善処します」
「キリト君、私はこのアルヴヘイムも君がクリアに導いてくれると信じているんだよ」
――大げさな。
俺は苦笑いを残して、その場を後にした。
店の外に出ると、俺はロングコートの胸ポケットを軽く突付いた。
「ユイ、どうだ?」
ひょこっと顔を出したユイは困ったように、
「はい。世界樹内部のリプログラミングは依然止まりません。もっと近づければ具体的な状況が分かると思うのですが……ごめんなさい、パパ」
「そうか、ありがとう。迷宮区に入ればさらに何か分かるかもしれないな」
「はい! 私も頑張ります!」
小さな頭を指先で撫でると、ユイは笑顔を見せてポケットに潜り込む。
「……行くか」
深くフードを被りなおして、俺は世界樹を目指し雑踏に紛れた。