もしもポケモン世界に、そんな人物がいたとしたら……?
「無敵のダンデ」
そう呼ばれ続けて、もうどれくらい時間が経ったことか。10歳の頃にガラル地方のポケモンリーグチャンピオンとなって以来、無敗を貫き続けること十年以上……挑んでくる挑戦者たちを倒すたびに、アイツの顔が脳裏をよぎる。
ヨロイ島で一緒に修行をし、ヒトカゲを貰ったオレに対してアイツが選んだのはフシギダネ。タイプ相性の上でも有利であったことを抜きにしても、初バトルとしては申し分ない……そう思い、オレはアイツにバトルを挑んだ。
結果は、オレの負け。お互いに初戦だったということもあって、その日はそのまま解散となった。
本島に戻ってきてから、オレは当時リーグ委員長だったローズ委員長から推薦状を貰い、ジムチャレンジに参加した。この時、オレは幼馴染のソニアとアイツもジムチャレンジに参加すると知って、大いに喜んだ。それから、旅路の中でオレはアイツと何度も勝負をした。何度も、何度も、何度も……それこそ、十戦は戦ったキバナ以上の回数を、だ。
……ただ、オレは一度もアイツに勝てなかった。同じ道を歩み、同じ過程を辿ったはずのアイツに、ただの一度だってオレは勝てた試しがなかった。いろんなポケモン、いろんなコンビネーションを試してはアイツに挑んだ。なのに、オレはアイツに勝てなかったんだ。
今更だがこんな話、弟に話したとして信じてもらえるだろうか。いや、信じない(反語)。
シュートシティの前で、最終調整と称したバトルをした。
オレの当時の手持ちはギルガルド、ドラパルト、オノノクス、ガマゲロゲ、バリコオル、そしてリザードン。
対するアイツの手持ちはテッカニン、トゲキッス、シャンデラ、スターミー、ドリュウズ、そしてフシギバナ。
勝負は一進一退を繰り返し、最後はお互いのエースポケモン同士の対決になった。ほのおタイプのリザードンと、くさタイプのフシギバナ……誰がどう考えても、リザードンが圧倒的に有利な対面……なのに、オレはこの時、終始冷や汗が止まらなかった。信じられないかもしれないが……オレのリザードンは、アイツのフシギバナに勝ったことがない。タイプ相性では有利なのに、アイツはあの手この手を使ってオレのリザードンを翻弄し、圧倒する。……フフッ、こればかりは直接バトルを見てもらわないと、きっと話しても信じてもらえないだろう。それくらいすごいんだ、アイツのフシギバナは!
「リザードン、だいもんじ!」
「躱して、フシギバナ!」
「ザード!」
「バナァ!」
リザードン渾身の大文字も、フシギバナはひょいと回避してみせる。まったく、どんな育て方をすれば、フシギバナがあんな軽快に動けるんだ!
「げんしのちから!」
「つるのムチで打ち落とせ!」
「ならば、エアスラッシュだ!」
「ヘドロばくだんで迎撃!」
こちらの攻撃を、次々と相殺していく。初めてのバトルから、もう何度繰り返したことか……だが、今度こそは勝ってみせるぞ!
「突っ込め、リザードン!!」
「グオォ!!」
エアスラッシュとヘドロばくだんの激突で生じた煙幕を利用して、一気に距離を詰める!確実に当てられる距離で、デカい一発を叩き込む!フシギバナは煙幕を見上げて右へ左へとキョロキョロしている。リザードンを探しているようだが、見つけられないようだ。
煙幕を突っ切ったリザードンが姿を現し、上空から一気に距離を詰める!この距離なら避けられないぜ!
「リザードン!だいも――」
「つるのムチ!!」
「――ッ!だいもんじだ!」
だが、オレの指示よりも先にアイツの指示が飛んでいた。オレは構わずだいもんじを指示したが……一歩遅かった。
リザードンを視認することなく伸ばされた蔓は、なんとリザードンの二本の角に絡みつき、引っ張り上げることでリザードンの首を強引に動かしてだいもんじの射線をずらしてきた!結果、だいもんじは空撃ちとなり、続けて伸ばされた多くの蔓にリザードンの全身が絡め取られ、一気に引き寄せられた!
「フシギバナ、げきりん!!」
「バアアァナアアァッ!!」
「グオアァッ!!」
「リザードン!?」
げきりんが直撃し、リザードンが吹っ飛ばされた。倒れ込んだリザードンの上に、フシギバナがのしかかる。……よく見ると、フシギバナの口元がモゴモゴと動いている……キーのみを持たせていたのか!
「これなら、ひこうタイプのリザードンにも直撃させられる……」
「まさか!?」
「フシギバナ……だいちのちからぁ!!」
「バナアアアアァッ!!」
「――――ッ!!」
「リザードン!!」
フシギバナのだいちのちからが直撃した!リザードンは……!
「……リザードン、戦闘不能!フシギバナの勝ち!よって勝者、ツツミ!!」
「……ふぅ。対戦、ありがとうございました」
「……あぁ、ありがとうツツミ。いいウォーミングアップになったぜ」
「どういたしまして。…………」
もう一人の幼馴染、ツツミ。オレが一度も勝てない女の子。今までも……そして多分、これからも。
「どうした、ツツミ?」
「ほら、シュートシティのポケモンセンターでポケモンを休ませましょ?」
「……ううん、ここまでよ」
「……なに?」
ツツミは、今にも泣きそうな顔をしている。一体どうしたんだ?
「ごめん、二人共。ここまで来て、今更なんだけど……私、ジムチャレンジを辞退するよ」
「……?え、は?な、何言っちゃってんのツツミ!?」
「そうだぜ!?バッジを八つも集めてここまで来たのに、なぜだ!」
「……私の実家、知ってるでしょ?」
ツツミの実家……たしか、ポケモンの預かり屋をやってるんだったか。追加料金を支払えば、育成も代行してくれるというガラルにはないサービスも提供してくれる。
「実は、お母さんが病気で倒れちゃったの。……さっき電車の中で、連絡が来て……私の家、母子家庭だから、お母さんが倒れたら預かり屋を続けられなくなっちゃう……。そうなる前に実家に戻って、預かり屋を続けたいんだ。
……だから、私はここまでだよ」
「そんな……!」
「…………」
最大の好敵手の、まさかの辞退……オレは状況を理解するのにかなり時間がかかった。なんとか引きとめようとするソニアだが、ツツミの意思は固く、説得には失敗したようだった。茫然自失となったオレが我に返った時には、既にツツミはいなくなっていた。
「……行こう、ダンデくん」
「…………」
「そんな顔しないの!それに、ダンデくんのライバルはここにもう一人いるってこと、忘れないでよね!?」
「……あぁ」
そして、オレはチャンピオンになった。……不完全燃焼ではないと言えば、嘘になるかもしれない。チャンピオンリーグでツツミに勝利し、チャンピオンになる……オレのささやかな願いすら、叶うことはなかった。
それからオレは、アイツの……ツツミの実家を何度か訪ねている。おいそこ、たしかにオレは方向音痴だが、ちゃんと対策はしているんだぜ?そらとぶタクシーを使うとか、な。
ツツミは預かり屋として忙しない日々を送っていたが、充実した毎日を過ごしているようだった。バトルからは一線を退いたそうだが……心なしか、ジムチャレンジの時よりも洗練されているのは気のせいか?もしや、育成代行の仕事でポケモンを育てているうちに、勝負の腕前も磨かれているのではないのか?
……もしも。もしもツツミのお母さんが病気で倒れることなく、ツツミが最後までジムチャレンジを続行できたとしたら。果たして誰がチャンピオンになっただろうか。オレか、それとも……ツツミか。
「もう、そんな野暮な話はしないでって、いつも言ってるでしょ?」
「……っと、すまん。……お前と話していると、つい……な」
「……はぁ、やれやれ。今やあなたは誰もが憧れる無敵のチャンピオンなんだから、どんと胸を張ってたらいいのよ」
「オレの気が済まないんだよ」
「ザド」
「ほら、リザードンも納得いかないってさ」
「……子は親に似るとは言うけど、ポケモンも一緒なのかしら」
はぁ、とため息をつくツツミだが、おもむろに立ち上がると裏へと出て行った。オレもあとに続いて外に出ると……そこには、ツツミのパートナーである六体のポケモンが勢ぞろいしていた。……この流れは、もしや……!!
「それじゃあ……十数年越しの決着、改めて付けてみる?」
「……!もちろんだッ!!」
今やホップだけでなく、あの子もジムチャレンジに臨む者として、お互いに研鑽を積んでいることだろう。……そう、かつてのオレたちのように!
「行くぞ、リザードン!」
「Break it(敵を倒せ)!フシギバナ!!」
お互いに、最高にして最強のパートナーを繰り出す。今ここに、誰も知らない最終決戦の火蓋が切って落とされた。
ふと湧いてきたネタ。一人くらいいてもいいと思うのは自分だけ……?
以下、人物紹介
ツツミ
ダンデ、ソニアの二人と共にジムチャレンジを駆け抜けた幼馴染の女の子。ダンデとはヨロイ島での修行も共にした仲。
バトルの実力は指折りで、ジムチャレンジ中のダンデとのバトルは驚異の全戦全勝。このままいけばあわよくばチャンピオン……というところで、母親が病に倒れる急報が届き、実家の預かり屋を守るため無念の辞退となった。
手持ちポケモンはテッカニン、トゲキッス、シャンデラ、スターミー、ドリュウズ、フシギバナ。テッカニンの特性"かそく"や変化技で積んだあと、後続のポケモンにバトンタッチする戦法が鉄則。それ以外は逐次対応するべく初手に繰り出すポケモンを変更する。
実家は預かり屋。追加料金で育成代行も務める、昔で言う育て屋を経営している。母子家庭で母親が一人で経営していたが、病に倒れたため急遽ツツミが継ぐこととなった。
時折だが、ダンデが訪ねてくることがあり、その際は雑談が主だが、バトルをすることもある。