モンゴルという国がある。歴史上ではユーラシア大陸の半分を支配する大帝国を築いたり、最強の騎馬部隊を率いた彼らだが清の支配下を経て独立したときにはすでに騎馬部隊の活躍する場所は残されていなかった。地上は鋼鉄の馬が疾走し、空では何倍もでかい航空機が爆弾を落とし、弓など比べ物にならないほどはるか遠くから攻撃できる銃を用いた遠距離戦が主流となっていた。
とはいえモンゴルという国だけで見れば別にそこまで不幸とは言いづらい。モンゴルはソ連と中華人民共和国の間に位置しているが両国ともに社会主義国家でありソ連と中華人民共和国が対立した際にはその戦略的要地として莫大な経済支援を受けて裕福な暮らしが出来ていた。
しかし、それはBETAが地球に降り立つまでの話であった。モンゴルは中国が侵攻を受けた際に歴史的対立や中ソの対立などを理由に最初から参戦を拒否していた。とはいえいつ攻め込まれてもいいように軍の動員を行い国境部に展開していたが一切の侵攻を受ける事はなかった。それゆえに、モンゴルは中国を見捨てるように対岸の火事として動向を見守ってたがソ連がハイヴ攻略に失敗するとそうもいっていられなくなった。
ソ連はワルシャワ条約機構加盟国に対して参戦するように言ったがモンゴルの参戦はさせなかった。ただでさえ劣勢な状況でモンゴルまで戦闘に参加することで戦線が延びる事を恐れたのだ。結果、モンゴルはソ連ら社会主義国が戦っている中で指をくわえてみている事しかできなかった。しかし、そんな彼らを社会主義の同志たちが快く思うはずがない。たとえソ連の命令だったとしてもだ。
気づけばモンゴルは社会主義の国から孤立していた。シベリアまでBETAが侵攻した際に国民の国外脱出をする際にはソ連は国内の通行許可を出さなかった。ソ連内部においても彼らに眉をひそめる者が一定数存在したという事であった。結果、モンゴルは物理的にも孤立した。四方八方がBETAの制圧下となり、どこにも逃げる事が出来なくなってしまったのだ。
ならば一点突破を図って逃げればいいと考えるかもしれないがモンゴルは戦術機を持っていない。そんな状態でBETA相手に突破して逃げる事が出来るとは思えなかった。国連としても孤立する彼らを支援しようにも難しい状況であり、結局見放す形となってしまった。
「我々は、どうすればいいのだ……」
モンゴル人民共和国
「武器弾薬ともに問題はない。食料も人口の少なさが幸いしてすぐに飢え死にする事はない。……だが、それも長くは続かない」
今、モンゴルに出来るのは2つだ。
1つは救援や事態の好転があると信じて耐え忍ぶ道。人口300万人を永遠に食べさせる余裕はないが開墾は既に始めており、最悪の場合、BETAに食わせる事で口減らしをすることも視野に入れればこの状態を維持していく事が出来るが、来るかもわからない希望を信じて耐え続けるのはとてもつらい決断となるだろう。
2つ目は全ての国民を連れてこの地から脱出する方法だ。モンゴルから攻撃を仕掛ける以上BETAが押し寄せてくるが比較的人類の生存圏まで近い北部に全国民を集めて軍を先頭に逃げるという方法だがこの場合、確実に無傷では済まない。最悪の場合はたどり着けずに全滅という可能性すらあった。というよりもそれが高かった。去年の時の方がまだ到達の可能性が高かった今では無理であった。
つまり、今のモンゴルに出来る事はない。人類が死に行く様を眺めていずれ来る破滅を受け入れる事しかできないのだ。ツェデンバルとしてはこの状況を何とかしたいのだが既に何をするにも手遅れ。出来る事は何も残されていなかった。
「最近では国民の不満や不安が高まってきている。このままでは遠からぬうちにつぶれてしまう……」
四方八方をBETAに囲まれた状態で「手出ししなければ安全ですので安心してください」と言われてはいそうですか、と納得できる者など多くはない。こんな状況となってしまった事に不安を持ち、政府を批判する流れになるのに時間はかからなかった。首都のウランバートルでは市民と警察との間でちょっとした衝突が発生するなど日に日に過激さを増している。近いうちに反乱が発生するのではないか? と予測できてしまう程治安が悪化していた。
「何とかしてこの袋小路を抜け出す手を考えないと……」
ツェデンバルは閣僚を集めて対策を講じるが実現可能な物は何一つ出てこなかった。
そして、ツェデンバルの予想は最悪の形で実現する事となる。
きっかけは些細な事だった。最近では頻繁に衝突が起こるようになった警察と市民。しかし、何度も起こる衝突にいら立ちを覚えていたとある警官がついに我慢の限界を向けて市民に発砲。射殺してしまったのだ。それに怒り狂った市民がその警察官をなぶり殺すとその者たちを逮捕しようと警察が動くが理不尽だと抵抗する市民。お互いの数は増していきついに市民の武装蜂起という形となってしまった。BETAへの不満から市民はウランバートルの人民会議場に乗り込むとツェデンバル以下全閣僚を皆殺しにしてしまったのである。
結果、モンゴルという国は統制を失い、いくつもの指導者が乱立する戦国時代の様相を見せた。軍でも次のモンゴルの指導者を目指す者が複数現れ血で血を洗う内戦へと突入していったのだが、更なる不運が彼らを襲った。国境部で対立する者同士が銃撃戦を行っていたのだが、運悪く国境を越えた先で移動中だった戦車級に被弾してしまったのだ。気づいた時にはすでに手遅れでBETAは四方八方からモンゴル領内になだれ込んだ。統制を失っていた彼らはBETAに成すすべなく蹂躙され、包囲殲滅のごとく300万のモンゴル人は皆殺しにされ、また一つ、大陸の国家が滅んだ瞬間だった。
こうして大国の思惑で成長し、大国の思惑で孤立化したモンゴルはあっけなくその半世紀ほどの歴史に終止符を打つこととなった。そして、モンゴルという国家の滅亡を世界の人々が知るのはまだまだ先の事となる。
次話は2022/11/06 23:15投稿予定です
まりもちゃんは
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マミる(原作準拠)
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マミらない(トラウマ回避)
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武の精神をぶっ壊せ(更なるグロ描写)