海王星作戦が成功に終わったことで、その立役者と言える第666戦術機中隊は英雄として扱われた。特に要塞級をたった一機で8体も倒したアルフレートは表彰されるなどの栄誉を得ていた。
そして、グダンスク周辺からBETAが消えたことで大規模な戦力を留めておく必要がなくなり、第666戦術機中隊は東ドイツへ帰還する事となった。
「リィズはシュタージの犬ではない。でなければ命をかけてまで仲間を救おうとはしないはずだ」
「なるほど……」
テオドールはこれまでのリィズの監視を行った報告をアルフレートにする。作戦会議でも使われたこの部屋にはアルフレートとテオドールのほかにアイリスディーナとグレーテルもいるが全員の表情は厳しい。
海王星作戦の序盤、橋頭堡を確保する際に要撃級に背後を取られたカティアをリィズは守った。視界が悪く、味方を見失っていたという状況だったこともあり、わざわざシュタージの犬が助けに動くとは考えられなかった。テオドールはそれを以てリィズを判断したのだ。
そして、そのことに一定の納得をアルフレートは見せたがその表情はまだ疑っているのが見て取れた。
「……まぁ、今はそれでいいだろう。どちらにしろ今の東ドイツに余裕はないからな。イェッケルン中尉」
「はっ! エーベルバッハ少尉、これはいまだ一部のものしか知らないことだが、新たなBETA群が発見された。モスクワハイヴから出てな」
そういうとグレーテルは詳細なデータをプロジェクターを使って画面に映し出した。そこにはモスクワから東ドイツまでの東欧の地図があったが、その大部分がBETAの占領地気を意味する赤い色で染まっていた。
「モスクワハイヴから西進する群はおおよそ15万だ」
「15万!? 海王星作戦の時よりも多いじゃないですか!」
「それだけではない」
驚くテオドールだが最悪な事にまだ悪夢の如き情報があった。
「海王星作戦の直前に発見されたのだが、ソビエト連邦領ミンスクに新なハイヴが建設された」
「っ!」
「今はまだフェイズ1。建設間もないがいずれこの欧州を飲み込む前線基地となるのは明白だ」
「くそ! 何でこんな時期に……!」
「おそらく決め手はポーランドからの撤退だ。BETAは前線から遠く離れた場所にハイヴを作る傾向にある。これまではポーランドと近く、モスクワハイヴからでも問題ないと判断されていたのだろう」
「だが、ヴィスワ川防衛線からの撤退を受けて距離が遠くなった結果……」
「ハイヴの建設を行ったというわけか」
状況は最悪に近い。ミンスクハイヴを何とかしようにも前線からは遠く離れている。海王星作戦を行う前であれば無理やりにでも攻略する事も出来たかもしれない。しかし、発見は海王星作戦の直前である。今にして思えばアクティブディフェンス時に大量にBETAが現れたのはミンスクハイヴを攻撃する余力を残さないためだったのかもしれない。テオドールはそんな風にさえ感じていた。
「そして国家人民軍も最悪だ。海王星作戦の終了後、シュタージによって複数の将校が逮捕された。容疑は反体制派の結成、およびクーデターの未遂だ。しかもシュタージの手は党にまで伸びた。党も軍も大きな痛手を受ける結果となった」
「ここにきて権力争いかよ」
「ここまで来ても、だ。海王星作戦だって軍が影響力を保持するためのものだったからな」
「最悪の場合、軍の指揮権をシュタージに奪われるかもしれない。そうなればわが中隊は真っ先に解体されるが海王星作戦で我々の価値は高まっている。大義名分もなく解体をするはずが……!」
アイリスディーナがそこまで言ったときだった。船内全体にけたたましいブザー音が響き渡った。
『総員! 警戒態勢! 総員! 警戒態勢! 各員は所定位置にて待機せよ!』
そのブザー音を聞き四人は外に出る。外ではアネットにカティア、リィズが既に出ており、船の進行方向先の空を見上げていた。
「何が起きた!」
「あ! テオドールさん! 戦術機が……!」
空を見上げれば10機ほどの戦術機が向かってきていた。その前方には一機のヘリがおり、こんなことをする組織が何なのかをアルフレートは理解した。
「シュタージか……!」
「あれは……。シュトゥルムヴィント戦術機中隊!?」
「アクスマン中佐か……」
各員の予想通り、戦術機の護衛のもとヘリが着陸するとそこからアクスマン中佐が姿を見せた。彼に尋問を受けたことがあるテオドールは厳しい視線を向けており、知らないといった反応を見せたリィズもテオドールが尋問を受けたと聞いて眉を潜めている。
「何か御用ですか? アクスマン中佐」
「どうやら警戒させてしまったようだな。何、私は職務を遂行しに来ただけさ」
前に見た時よりもやせた印象が見えるアクスマン中佐はアイリスディーナとアルフレート両方に視線を向ける。
「アイリスディーナ・ベルンハルト大尉、それとアルフレート・ヴァルデ少佐。君たち二人を国家反逆罪の容疑で拘束させてもらう」
「……一応聞きますが詳しい理由は?」
「ベルンハルト大尉はこの前にとらえた反体制派の将校が協力者として名前が挙がったからさ。そしてヴァルデ少佐。君はもっといけない。監査官という立場を利用してアイリスディーナの動きを見逃していたどころかシュタージ内部にも協力者を作っていたのだからね」
「……そのようなことがあると本気で思っているのですか?」
「思うも何もすでに証拠は挙がっている。シュタージ内部の不和は君の逮捕でもって完全に収まるさ」
「……まさか、モスクワ派を!?」
シュタージの動きは察知していたはずだった。しかし、アクスマン中佐の動きは早すぎた。既にモスクワ派は壊滅状態にあった。というのもモスクワ派に属していた者が密告。反体制派への協力をベルリン派に伝えたことでベルリン派によってモスクワ派の主要メンバーは逮捕または粛清された。シュタージ長官のエーリヒ・シュミットをはじめ、ベアトリクスの影響でモスクワ派に属していたヴェアヴォルフ大隊も解体。衛士は半数が逮捕、半数が粛清されていた。
結果として本人がどうかはともかくとして現状で自由な状況にあるのはモスクワ派から監査官として派遣されたアルフレートしか残っていなかったのだ。
「わかったかね? なに、安心したまえ。アイリスはBETAの動きから恩赦が決まっている。第666戦術機中隊はこれまでのような働きを十分に出来るだろうさ」
「……そうなりたければ言う事を聞け。そういう事ですね?」
「そう受け取ってもらっても構わないさ。それに、そこにいるリィズ・ホーエンシュタインと言ったかな? とても怪しいとは思わないかね? 本来、家族は同じ隊に所属できない。誰かしらの仲裁がない限りね」
「っ!!」
突然話題を振られたリィズはテオドールの腕にしがみつく。そんな彼女にアクスマン中佐は笑みを浮かべながら近づいていく。
「久しぶりだね、エーベルバッハ少尉。そして初めましてホーエンシュタイン少尉」
「……お久しぶりです、同志中佐」
「……」
「おや、すっかり警戒されてしまっているな。まぁ、それも仕方ないか。だが、どちらにしろ君ついては話は聞いているよ。シュタージのスパイ」
「!」
「……かもしれないとね。いやはやシュタージ内部の不和は無くなったとはいえ全員のひも付きを知っているわけではないのでね。私も誰が君を派遣したのか知らないんだ」
「っ! 私はシュタージの犬なんかじゃ……!」
「そうかい? 怪しい経歴の君を誰が信用するというのかね? 私とて君を疑っているし、状況によっては君を消さないといけない」
「なっ!? 何を言って……!」
「何しろ君が不和を招いた者たちのひも付きなら君も反体制派に協力していたかもしれないのだから」
つまり、アクスマン中佐はモスクワ派が派遣したスパイであれば粛清すると言っているに等しかった。そんな彼の態度にテオドールは怒りを覚えるが仮にも相手は階級が上である。手を出すことは辛うじて思いとどまった。
「……アクスマン中佐。この部隊は私が監査をしていました。何か問題があればすぐにでも報告をしています」
「確かに、君は思想はともかく職務には忠実だった。そこは評価しているとも。だが、怪しいのは事実だろう?」
「中佐はここに監査官がいる部隊にいる隊員を尋問しに来たのですか? 覚悟はとうに決まっています。行くのであればさっさと行きましょう」
「……そうか。ではアイリスとともにご同行願おうか」
アルフレートの言葉にアクスマン中佐は同意してアイリスディーナとともにヘリに乗り込んでいった。そして、その様子を見ていた第666戦術機中隊の面々は不安そうな表情をして、それもアネットは今にも泣きそうな表情で見送るのだった。
一つの異物が混じっていることも知らずに。
-さぁ、準備は整った。
-作戦実行のために障害となる奴らは消えた。
-スケープゴートも用意した。
-そして、拾った哀れな子羊の願いを果たす準備も出来た。
-始めよう。
-東ドイツのすべてを奪い取る、“終末の革命”を!
次話は2022/11/18 23:00投稿予定です。
唐突だけど他作品をBETAで蹂躙したくなった。何処が良いと思う?なお、BETAはこの作品のやつらとする。
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GATE
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日本国召喚
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ありふれた職業で世界最強
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コードギアス
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地球防衛軍5
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僕のヒーローアカデミア
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ゼロの使い魔(アニメ版)
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幼女戦記
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進撃の巨人
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ストライクウィッチーズ
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短編にして全部書け!