きっかけは些細なものだった。1988年3月、アメリカ合衆国ロサンゼルスにて中華系難民が地位向上を願うデモを行った。このような動きは前々から起きていたがアメリカへの信用度が下がった今なら多少は聞いてもらえるかもしれない。そう考えた人々がデモを開始したのだ。
参加人数は約1万人。ロサンゼルスのみならず周辺にいた難民のほとんどが参加した大規模なデモとなった。これを知ったロサンゼルス市長は中華人民共和国だけでも信用度を上げるべきだと考えて地位向上に前向きな姿勢を見せた。
しかし、市長がそう考えていたにも拘わらず、ロサンゼルス警察は何故か
「中華の民たちよ! 今こそ立ち上がる時である! この地に住まう悪鬼どもを蹴散らし、我らの楽園を作り上げるのだ!」
当初はバラバラに動いていた反乱だが一人の男がリーダーとなって以降は組織的な動きが始まり、アメリカを苦しめる事となる。アメリカは早期鎮圧を狙って戦術機すら投入して鎮圧に動くも負けじと反乱軍も戦術機を用いて抵抗。数に勝るアメリカ軍が優勢となっていくがそれでも被害は増え続けていた。
この反乱に対して一番の反応を見せたのは中華統一戦線である。台湾に逃げ込み、中華民国政府と合流した中華人民共和国だがアメリカの支援を受けないと国家としての抵抗が出来ない状況にあった。何度か台湾上陸を狙ってBETAが侵攻してきており、そのたびに多大な犠牲を払って迎撃している状況だった。
そんな中でのアメリカでの反乱である。しかも反乱を起こしているのは自分達と同じ中国人。中華統一戦線は慌てて謝罪と反乱に加担した中国人への即時降伏を呼びかけたが無視。それどころか、
「中華統一戦線は人類の敵たるアメリカと手を組んでいる! それはつまりBETAの手先という事に他ならない! 我らこそが真の中華政府である!」
として建国まで宣言してしまう等勢いを増す結果で終わった。これにより、中国人の地位は低下した。信用は出来なくなりつつあったとはいえアメリカの支援を受けていた国は多い。しかし、反乱のせいでその支援が一時的に止まっているのだ。アメリカは反乱の鎮圧が完了次第支援を再開すると言っているがそれはつまり鎮圧できなければ支援は再開できないという事でもあった。
結果としてこの事態を引き起こした中国人への差別や迫害が始まった。難民は更なる困窮を極め、どこに行っても迫害される生活が始まり、ならばといまだにアメリカで抵抗を続ける反乱政府に合流する者が出始めていた。反乱政府は西海岸の一部を完全に制圧し、そこから難民を受け入れる体制を築き上げていた。当初数万規模だった反乱勢力はこれ以降急速に数を増していき、数百万もの中国人がアメリカに集まり、反乱政府の一員としてアメリカ軍と戦うようになっていく。支援を受け入れられなくなった国で迫害された中国人がアメリカにわたって反乱勢力に加担する事でアメリカの支援再開は遠のくという負のスパイラルが繰り広げられる結果となった。
1989年になると反乱政府は西海岸を手中に収め、ロッキー山脈を防衛ラインとしてアメリカ軍を相手に優勢に戦いをすることが出来るようになった。戦術機もアメリカ製の物だけではなく欧州連合や中国、ソ連の物も見かけるようになっていき、着々と戦力を整え始めていた。
人口も1千万を突破し、行政や立法などの政府機関が整備されるなど最早一つの国家としての様相を本格的に見始める事となっていた。
そしてこの動きによって日本でも大きな問題が起きようとしていた。
「何故ですか!?」
「君、落ち着きなさい」
日本の公務員の杉原は目の前の警察官に食って掛かった。理由は単純だ。警察官たちに囲まれ、手錠をつけられている
確かにズーヅァは難民と多く関係を築いていたがそれは彼らの職業斡旋の為であると杉原は反論したのだ。しかし、警察官は令状を見せると会社に押し入りズーヅァを引きづるように外に出すと手錠をかけて拘束したのだ。引きずられる事に抵抗したためかズーヅァはぼろぼろになっており、警察官は殴る蹴るの暴行を行って大人しくさせた。
「黙りなさい。彼の罪は明白なのだ。逮捕されて当然の人間なんだよ」
「そんなことはあり得ない! 彼は本当にそんな事をする人間じゃない! そこまで言うのなら証拠を見せてみろ! 俺たちを納得させる証拠を!」
「そうだそうだ!」
「シャチョーをはなせ!」
あまりにも横暴すぎる警察官に杉原や社員の中国人はそう言って取り囲む。しかし、そんな彼らをめんどくさそうな表情をしながら警察官は言った。
「はぁ、どうやら逮捕するべきだったのはこいつだけではなかったみたいだな。お前ら全員公務執行妨害で逮捕だ!」
「はぁっ!? 何馬鹿なことを言っているんだ!」
「社長を返せ!」
「社長! 逃げて!」
「シャチョー!」
警察官の対応にキレた社員たちが一斉にとびかかる。4名いた警察官は50人を超える中国人にもみくちゃにされ、その隙にズーヅァは救助された。しかし、その瞬間だった。
一発の銃声とともに倒れるズーヅァ。音の方はもみくちゃにされていた警察官の一人が抜け出してズーヅァに拳銃を発砲した姿があった。
「ふー! ふー! ……くそ! 中国人風情が逆らいやがってぇっ!!!」
「っぎ!?」
銃声に驚き固まる隙をつくように警察官はそう叫ぶと社員たちに発砲する。それを援護するように他の警察官も発砲し、血だまりが発生する。
「ふざけんな!」
「ぶっ殺せ!」
「なっ!? おいよせ!」
発砲までしてきた警察官に中国人はさらにキレて殴りかかる。それを杉原は慌てて止めようとしたが飛び掛かれた警察官の一人が腕を振った際に発砲してしまい、その弾が杉原の胸に刺さる。
「ぐっ! あれ……?」
いきなりの事で何が起きたのか分からない杉原は力をなくしたようにその場に倒れこむ。杉原はぼんやりと意識が薄れゆく中で大勢の中国人にぼこぼこにされていく警察官をみながら、まるで去年ロサンゼルスで起きたことの焼き直しみたいだと考えていた。
「……もしか、した。ら……あれも、しくま、れt……」
杉原は最後まで言う事はなく意識を手放した。そして、彼が目を覚ます事は二度と訪れる事はなかった。そんな彼の様子をズーヅァが笑みを浮かべながら見ていることも知らずに。
後に警察官と思われた4名は警察官ではなく、中国人を差別する者たちであったと判明するがそのころにはその4名は殺され、焼かれ、骨は砕かれて海に捨てられた後だった。日本政府は原因がどうあれ中国人たちを逮捕する事としたが当然ながら日本中の中国人は反対した。ここでこれが許されれば自分達も逮捕される。そういう脅迫概念がここまで辛うじて暴走を抑えていた中国人たちを刺激した。
彼らは逮捕された同胞が収監された刑務所を襲撃するといつの間にか沿岸部までやってきていた反乱政府の船に乗り込んで国外脱出を図った。日本政府は追っ手を差し向ける事も検討されたが護衛として戦術機もいたことで断念。反乱政府へ遺憾の意を示すにとどまった。
この事に逆に反発したのが日本人であり、彼らは今回の襲撃を行った反乱政府と中国人の処罰を求める抗議運動を展開。特に日本の頂点である政威大将軍をないがしろにしていると感じているものは特に活発な動きを行っていた。結局日本政府が今は余力がない事、必ず処罰を与えると約束する事でこの抗議運動は少しづつ沈静化していくがそれでも日本政府に不満を持つ者が多く誕生する結果となった。
さらに、これ以降国内の中国人は一斉に国外に逃げ出した。元々迫害や差別が前々から起きつつあった日本では今の世界とは違い歪な安定を見せていたが今回の一件でそれが崩れ去ったのだ。アメリカの次に多く難民が訪れていた日本にいた中国人のほとんどが合流する事で反乱政府はさらに力を伸ばすこととなり、最終的に中華帝国を建国し、アメリカ政府と講和するに至った。中華帝国はロッキー山脈以西を領土とし、中国人の理想郷を作り上げる事となる。その中で領土内にいたそれ以外の民族は急速に消えていくが彼らがどうなったのかを知る者は誰一人として存在しないのだった。
ここまでやるつもりじゃなかったのに……。というかこれでトータルイクリプス実質的につぶれてない?って書き終わってから気付いた。
次話は2022/11/30 23:26投稿予定です。
唐突だけど他作品をBETAで蹂躙したくなった。何処が良いと思う?なお、BETAはこの作品のやつらとする。
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