夕呼が話した南米へのBETA上陸。それは11月に実際に行われた。最初に発見されたのはチリの首都にほど近いバルパライソである。突如として沿岸部に現れた突撃級に誰もが度肝を抜かれ、大混乱に陥った。11月という冬だったために浜辺に人がいなかったとはいえそれが何の慰めにもならないほどBETAの侵攻は過激だった。
僅か一時間でバルパライソを縦断するとその勢いのままチリの首都サンティアゴに殺到した。当然ながらBETAがここまで上陸してくることなど完全に予想外であり、サンティアゴは僅かな兵士の奮闘むなしく壊滅した。更に、その後に上陸してきた要撃級、そして戦車級によって生き残った人間は食い殺され、周辺一帯から生物を完全に消し去った。
ほぼ奇襲を受けた形のチリは政府機能の早期消失によってオーストラリアやニュージーランドの時と同じように指揮系統が麻痺し、効果的な動きが出来なくなっていった。
とはいえ彼らとチリが違うのは大陸にある国家である為に援軍がすぐに着きやすいという事だった。
「これ以上BETAの好きにさせるな!」
『『『『『了解!』』』』』
真っ先に駆け付けたのは隣国アルゼンチンの戦術機部隊だった。実戦こそ初めてだがBETAとの戦闘に備えて鍛錬は続けてきたために実力はそれなりに有していた。彼らはアンデス山脈を駆け降りる突撃級を狩っていく。レーザー級はいないのかまだ山脈の向こう側なのか姿は見えず、突撃級は一方的に狩られていく。
「アンデス山脈を越えさせるな! ここが南米の生命線と思え!」
『隊長! 戦車及び砲兵は一時間以内に到着するとの事です!』
「よし! ならば我々はここでBETAの屑どもを食い止める! 総員訓練の成果を見せる時だ! 派手に暴れろ!」
『『『『『うおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!』』』』』
南米に上陸したBETAは予想外にもアルゼンチン軍の前に前進を阻まれた。アンデス山脈という巨大な山が要害となっていることもあったがそれでもアルゼンチン軍は東進を阻むことは出来ていた。
しかし、それはあくまでアンデス山脈がある場所に限られていた。チリ軍は南北に分断された上に混乱が広がっていたために大陸南部のパタゴニア地方への侵入を許してしまった。ここにはアンデス山脈のような険しい山は存在しない。アルゼンチン軍の展開数も少なかったこともあってアルゼンチン領内にBETAの侵入を許してしまった。
一方の北部ではペルーやボリビアが援軍として駆け付けたことで戦線の構築に成功。BETAの北進を防ぐ事に成功した。BETAも一番近いハイヴが地球の反対側と言える程の為か上陸してきたBETAの数は多くはない。精々が1万ほどであり、南米諸国の軍勢に足を止められ確実に数を減らしていった。
そして1992年の年始には援軍が大量に駆け付けたことで唯一劣勢だった南部も膠着状態にすることに成功した。そして、南米連合軍は反抗作戦を計画。年内の完全奪還を目指して準備を始めるのだった。
このように南米の上陸が失敗に近い形で終わってしまったが全体で見れば人類は劣勢と言えた。欧州ではイタリアが半島の一部とシチリア島以外の領土を失いスウェーデンは首都ストックホルムの防衛線を開始。デンマークはユーラン半島を失った。スイスも全土がBETAの手に落ち、フランスはベネルクス三国以外の東部国境線すべてがBETAの勢力圏と繋がるという事態に陥った。
中東ではアフガニスタンが完全にBETAに飲み込まれこそしたがBETAを駆逐出来ていることもあって戦線の後退は緩やかだ。しかし、シリア領の一部が奪われるなど少しづつ追い込まれていた。
インドでは政府機能がバンガロールからスリランカに移動、亜大陸の陥落は目前にまで迫ってきていた。
東南アジアではマレー半島の防衛線の構築に失敗。大東亜連合軍は南北から挟み撃ちにされる結果となり、シンガポールが絶望的な防衛線を繰り広げている。連合の艦艇による支援砲撃が行われているのが不幸中の幸いと言えた。しかし、ボルネオ島が陥落するなど大東亜連合は少しづつ消滅の危機に陥っていた。
オセアニアではようやくオーストラリア臨時政府が発足。指揮系統が復活し、効率的な防衛を行えるようになったが人口が集中していた東部沿岸を初動で失ったことで広がる防衛線をすべて維持できる数がそろえる事が出来ないなど詰みに近い状況にあった。
そして、北米においてはグレートスレーヴ湖とマッケンジー川の防衛線の構築によってBETAの侵攻を阻止する事に成功していた。しかし、北東部の諸島は確実にBETAの手に落ちているだけではなくグリーンランドが完全にBETAの勢力圏となるなど確実にBETAは版図を広げている。
「撃てぇ! 撃って撃って撃ちまくれ! 弾薬の消耗を気にするな!」
インドは亜大陸に広がるデカン高原を要塞化していたがBETA侵攻の脅威がなかったために遅々として進まず、侵攻してきた当初は要塞と呼ぶには不十分な設備しか存在していなかった。
それでも他の場所よりも守りは強固であることでインド軍はここで絶望的な防衛戦を展開するしかなかった。インド軍は国民を徴兵すると物資を惜しみなく消費してBETAを吹き飛ばしていく。戦術機はアメリカから供与されるはずであったがカナダ上陸によってそちらに全力を注ぐことになったことから見送られている。つまり、インドは自国で細々と開発した戦術機とそれのもとになった第一世代の供与品で戦わざるを得なかった。
「くそ! 奴らはどれだけいやがるんだ! 全然減らないじゃないか!」
北の地に目をやれば一面BETAだらけ。どれだけ銃を撃ち、砲撃を放とうとも一向に減らない。人類が苦戦する最大の原因が今目の前に広がっていた。
「っ! 突撃級がくるぞ! 衝撃に備えろ!」
前線指揮官がそう叫ぶと同時に突撃級が要塞に激突する。土台は頑丈に出来ていた要塞は突撃級の突進を受け止める事に成功していたがそれもいつまでも持つわけではない。突撃級がぶつかった瞬間を狙って上空より無防備な背中に攻撃を行っていく。
「突撃級の死体を壁として利用する! こいつらの肉体で攻撃を防ぎ、要塞をより強固なものにする!」
最前列の敵を倒せばその後ろの突撃級は身動きが取れなくなる。上を登るという手もあるがそうなれば動きが鈍った隙をついて攻撃され、新たな壁にされてしまうだけだ。
「これで少しはもってくれればいいが……」
「大変です! 戦車級が接近しています!」
「っ! 急いで迎撃するんだ! 死骸の間を通られたら一気に接近されてしまうぞ!」
しかし、戦場においてそんなものは簡単に覆される。突撃級で駄目ならばと体躯が小柄な戦車級がその数を活かして一気に進みだした。死骸まで一匹でも多く仕留めんと砲撃や銃撃が戦車級に襲い掛かるが隣の同胞が死んでも関係ないと言わんばかりに進む彼ら相手では攻撃を食い止められているとは思えなかった。
「一部戦車級が要塞内に侵入! 死傷者多数!」
「指揮官! 敵後方からレーザー級が迫ってきています! このままでは航空戦力が無効化されます!」
「くそっ! ただでさえ戦術機が少なく、BETAと戦える戦力が少ないというのに……! こうなったら航空戦力が使えなくなるまでに全機発進させろ! 倉庫にある爆弾を全部落としてしまえ!」
前線指揮官はどうせ使えなくならと今のうちに全弾投下する事を決めた。亜大陸にこれ以上後退できる場所はない。レーザー級によって今後インド洋は航空戦力を投入できない場所と化す。その前に一匹でも多く倒す。前線指揮官はそう決意した。
「急げ! BETAどもにいいようにやられたいのか!? 人類の力を見せてやるんだ!」
約一時間後、インドでの最後の爆撃が行われた。全ての爆弾を投下したこの爆撃は地形を変える程の総火力となり、万単位のBETAを吹き飛ばすに至った。これにより、BETAの侵攻は一時的に停止され、その隙をついてインド軍は敗走寸前の西部から全面撤退を決定。半島内部の防衛に全力を注ぐことになる。
しかし、これにBETAは怒り狂ったのか、お返しと言わんばかりにボパールにハイヴを建設。更なる圧力をかけていく事になり、インドでの戦闘は苛烈さを増していくのだった。
夕呼先生の処遇
-
人類と運命を共に
-
繁殖場に
-
脳くちゅ