【本編完結】BETA転生   作:鈴木颯手

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第四十話「二つのドイツ」

「これで、10体!」

 

 東ドイツ亡命政府国家人民軍第666戦術機中隊を率いる中隊長アルフレート・ヴァルデ()()は今日の戦闘において10体目となる要塞級の撃破に成功した。足のバランスを失い、倒れ行く要塞級の下には多数の戦車級がおり、無残にも下敷きとなった。

 

『こちらシュヴァルツ02! レーザー級の撃破に成功! ただし燃料弾薬ともに限界!』

「こちらシュヴァルツ01、了解した。総員傾注! 我々は役目を全うした。帰投するぞ」

『『『『『了解!』』』』』

 

 アルフレートは副官であるアネット・ホーゼンフェルト()()の言葉を受けて撤退を決めた。彼らが抜けた穴にはソビエト連邦の戦術機大隊が入る。とは言え今の第666戦術機中隊は度重なる戦闘によって定員を大幅に下回っており、数は7機しか存在しない。つまり、本来なら30機以上で守る戦線を彼らはたった7機で守り通していた事になる。

 

『中隊長。だいぶ我々の数も減りましたし、そのうち小隊に降格されそうですね』

『不安になるようなことを言うな。あたしたちは東ドイツ()()の戦術機部隊だ。事実上そうなっていたとしても上が認めるわけがないだろう』

 

 シュヴァルツ05の軽口をアネットは注意する。この10年で戦い続けた彼女は少女ではなく立派な女性へと成長していたが、それでも幼さを残す容姿と性格から東ドイツのみならずソビエト連邦内でも人気が出始めていた。

 

「シュヴァルツ05。気持ちは分かる。だが、部隊編成は上が決める事だ。一軍人の我らが口にしていい事ではない」

『へいへい。隊長ってなんだかんだ言って東ドイツへの愛国心が強いですよね~』

『05!』

 

 05の言葉は反逆と捉えられてもおかしくはない。言外に自分は忠誠を持っていないと言っているに等しかったのだから。

 東ドイツがアラスカに亡命政府を構えて最初に行ったのは粛清だ。そもそも、国家保安省(シュタージ)のクーデターで戦場の様子が確認できず、東ドイツは国土を失ったためにシュタージ関係者は次々と粛清されていった。

 一時はアルフレートも対象となったが海王星作戦での活躍やクーデター当時につかまっていた事、クーデターを起こしたベルリン派とは違うモスクワ派に所属していたことから粛清を辛うじて免れ、戦死したアイリスディーナに代わり第666戦術機中隊の中隊長としてシベリアで暴れる事となった。

 しかし、東ドイツは既に中隊規模の戦術機を保有する力はなかった。移転当初こそ数は20以上存在したがそれも度重なるシベリアでの戦闘で次々と破壊され、今では第666戦術機中隊の7機しか残っていなかった。さらに言えば歩兵戦力も1000人程しか存在しない。一番多い時でともにやってきた国民を徴兵して万近い数をそろえたが、一度の戦闘で徴兵した兵の8割を失ったことで少数精鋭の如き戦術を用いるようになっている。

 

「シベリアは南部は艦隊の砲撃支援もあり防衛が出来ている。一方で北部は極寒の地という事もあり劣勢だがそのために失っても惜しくはない土地ばかり……。いずれにせよここはまだまだ持ちこたえられそうだな」

 

 アルフレートは世界中の戦況がよくない中でここが一定の安定を見せている事がよかったと呟く。たとえそれが本心ではなく、信頼を得るためにしている事であったとしても。

 

『それもこれも中隊長たち“海王星作戦の英雄”がいるおかげっスね! 俺その時8歳だったけど新聞で読んだっスよ!』

『わ、私もです! 要塞級を一人で倒しちゃったって……!』

 

 シュヴァルツ06の言葉に07も同意する。01のアルフレート、02のアネット、03のイングヒルト以外の4名はまだ10代の若者であり、海王星作戦は子供のころに新聞で読んだ遠い話なのだ。それでも自分たちがその英雄と肩を並べ、同じ舞台にいる以上は恥ずかしくない行動をとろうと決意を固めていた。でなければ戦術機に搭乗してまだ2年にも満たない新人が光線級吶喊(レーザーヤークト)を主任務とする第666戦術機中隊についていけるはずがないのだから。

 

『帰投したらぜひとも当時の話を聞かせてください! 俺、包囲されたときの話を聞きたいです!』

『俺は要塞級を倒した時の話が聞きたいっス!』

『わ、私はホーゼンフェルト中尉の恋バナを……』

『うぇっ!? あ、あたし!?』

『ふふ、それなら私がいっぱい話しちゃうわ』

『イングヒルトォッ!??』

「ふ。帰投中だからいいがもう少し周囲には気を配れよ新人たち。まだまだここは戦場なんだ。レーザー級に攻撃されるかもしれないと警戒は怠るな」

『『『『了解!』』』』

 

 アネットに飛び火し、そこにイングヒルトがガソリンをぶちまけたがそんな彼らの会話に笑みを浮かべたアルフレートはそう注意をして基地へと戻っていく。アルフレート達にとって10年も変わりがない日常がそこには存在し、それを楽しんでいた。

 ……いずれ自分たちで壊す事になる日常だったとしても。

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁっ!!!!」

 

 西ドイツの第51戦術機甲大隊フッケバインのキルケ・シュタインホフは雄たけびを上げながら目の前の要撃級を撃破する。彼女の周りにはこと切れた無数の要撃級や戦車級が転がっており、どれほどの数を葬ってきたのかがうかがえた。

 

『シュタインホフ中尉! 交代の時間です』

「……了解。これより帰投する」

 

 味方からの通信は彼女にとってありがたかった。時間が迫ってきていたゆえに弾薬も燃料も使い切るつもりで消費していたために既に限界が近かったから。

 

『お疲れ様でした。中尉は少し休んでください』

「ありがとう。確かにずっと戦い続けていたし少し休ませてもらうわ」

 

 交代要員の到着を以て後方へと下がる。彼女が駆る戦術機は戦い続けたことによる消耗が激しく、しばらくは休養が言い渡されていた。キルケは久しぶりの長期の休日だが疲れからか戦術機を降りるとまっすぐ自室に戻りベッドにダイブした。

 

「ふぅ……」

 

 彼女たち西ドイツ軍が展開しているのはフランスが国境部に築き上げたマジノ線の後方基地である。マジノ線は第二次世界大戦でフランスが築き上げた大要塞だがBETAとの戦争がはじまると国土の防衛を目的としてフランスがこの要塞を改修。第二次世界大戦時の比ではない文字通り鉄壁の要塞として完成するに至った。

 そんなフランスが心血そそいで作られた要塞は目論見通りBETAの侵攻を防ぎ続けている。ベルギーからイタリアまで一つとなったこの要塞は西ドイツ軍をはじめとする欧州連合軍が協力していることもあり、いまだに要塞が突破された、侵入されたという報告が上がらないほどの堅牢さを見せている。

 

 それでも、人的消耗や武器弾薬の消費は激しい。加えて戦術機の衛士の質はお世辞にもいいとは言えない。衛士にとって重要な初陣での死亡するまでの時間、死の8分を乗り切れる者があまり多くはない。火力による面制圧を戦術とする彼らでは戦術機の質を上げる事が難しかったのだ。

 結果的に領土的損失はないが人的・物資の消耗が激しくなっている。それでも国土を失うよりは幾分マシと言えるが。

 

「いつまでこんなことが続くのかしら……」

 

 北欧ではストックホルム防衛線が苛烈さを増しており、隣国のノルウェーではこれ以上の領土の損失は防ごうと絶望的な防衛戦を行っている。デンマークはフェン島を絶対防衛線として定め、全戦力を配備している。その関係上、スウェーデンが陥落すれば東からのBETAに対応できずに敗北するだろう。

 南欧においてはイタリアが半島の先端、カラブリアにおいて戦線を維持できている。しかし、度重なる戦闘においてイタリアは既に軍隊らしい軍を持っておらず、イギリスやアフリカ各国の義勇軍が代わりに防衛を行っている。

 いまだ戦火にさらされていないアフリカ各国も近年のBETAの動きから対岸の火事として見ている事は不可能だと判断して、積極的なBETAとの戦闘に打って出始めていた。その一環として地中海を挟んだ先にあるイタリアに軍を派遣していた。イタリアが落ちれば地中海を通って北アフリカに上陸してくる可能性が出てくることもあっての派遣だった。

 

「……ヴァルデ少佐たちは元気にしているかしら……」

 

 シベリアへと旅立っていった海王星作戦の英雄たち。風のうわさで今もシベリアで活躍を続けていると流れてきている。それに対してフッケバインは散々な目にあっている。西ドイツへの電撃的奇襲を受けた際、前線にいたフッケバインはすぐに戦闘を開始したが、複数の重レーザー級が突如として出現したことで部隊の半数が撃墜される形で撤退を余儀なくされた。その後もドイツを守ろうと戦闘を続けたが次々と隊員たちが落とされていき、今では大隊36機にも満たない20機しか存在しない。それを半数に分けて補給と戦闘を繰り返しているのが現状だった。

 

「少しは力をつけられたと思ったけど、まだまだね……」

 

 キルケはあおむけになり、天井に手を伸ばしながらそうつぶやくと疲労からくる眠気に身を委ね、眠りについた。次の出撃までに体力を回復させるために。

 




次話は2022/12/04 23:32投稿予定です。

夕呼先生の処遇

  • 人類と運命を共に
  • 繁殖場に
  • 脳くちゅ
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