【本編完結】BETA転生   作:鈴木颯手

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第四十四話「帝都燃ゆ・前編」

「約20年ぶり、だな……」

 

 日本帝国海軍第六艦隊旗艦である出雲に乗艦している山口提督はそうつぶやいた。彼の視線の先には艦砲射撃を受けて爆発する朝鮮半島の姿が映っている。しかし、夜間という事と、大雨のせいで視界が悪く、視認性はひどく悪かった。

 

「BETA先頭集団、対馬海峡より入水。なお、後続多数!」

「……やはり艦隊の数が足りていないな」

「……連合艦隊の他の船はこの台風の影響で出港出来ていません」

「BETAもやってくれる。わざわざこの日を選ぶとはな」

 

 1998年の夏。強い台風に日本列島が見舞われる中で鉄原ハイヴに集結していたBETAが動き出した。朝鮮半島南端より入水すると日本に向けて侵攻を開始したのである。偵察兼朝鮮半島のBETAの間引きを行っていた第六艦隊がこの動きを察知して入水の阻止を行おうとしたが艦艇の数の不足から失敗。続々と入水されていた。

 

「ですが北九州はこの日のために要塞化されています。……20年前の侵攻で西日本が壊滅したために帝都以西にほとんど人は残っていません」

「あの時は突撃級のみが上陸した。おかげで我々は助かったが見たまえ。BETAは本気で日本を落とすようだぞ」

「……すでに報告は行っています。我々は少しでもやってくるBETAの数を減らすことに専念しましょう」

「……そうだな。我々ではあの数のBETAを防ぎきる事は出来ないからな」

 

 山口提督は自分たちの無力さを感じつつも軍人としての役目を全うしていく。

 1998年、BETAの日本再上陸が開始された。

 

 

 

 

 

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 その日、帝都にある衛士養成学校の寮に一人の少女の悲鳴が響き渡った。その悲鳴に山城上総(やましろ かずさ)が駆けつけてみれば受話器の前に人だかりができていた。そこにいる全員が上総の親友たちであり、この学校でともに切磋琢磨してきた者たちであった。

 

「どうしましたの!?」

「九州に配属されていたあの子の彼氏が……」

「……そう」

 

 上総の言葉に答えた甲斐志摩子だが最後まで言う事は出来なかった。しかし、それでも何が起こったのかは理解できた。数日前に北九州に上陸したBETAはその日のうちに要塞化された北九州を突破。九州全土に侵攻を開始した。そして、第二防衛線として同じく要塞化されていた下関を次の日に蹂躙すると本土に上陸を果たしていたのだ。この素早い侵攻により、防衛していた軍は全滅。上総達の前で泣き崩れている少女、能登和泉の彼氏は多くの犠牲者の一人となってしまったのだ。

 

「さっき、ニュースで流れていたけど舞鶴と神戸を結ぶ京都前面に防衛線を敷いたって」

「多分だけど訓練の繰り上げってそれが原因だと思う」

「私たちも、戦場にって事ね」

 

 いまだに訓練を満了できていない学生である自分たちも防衛に参加する。もちろん新兵以下の自分達が前線に立つ事はないだろうが初の実戦が迫ってきているという事実に上総の表情は硬くなっていく。

 

「それでも、私たちでも役にたてるって事よね?」

「それはそうだけど私たちも戦えるのかな……?」

 

 明らかに近づいてくる戦闘の気配に石見安芸は弱音をこぼす。いまだに満足に訓練も終えていない自分たちが戦えるのか。それがどうしても不安要素として安芸の心の中に燻っていた。

 

「……それでも、私たちはやるしかないのよ」

 

 そんな彼女に対して覚悟を決めた様子でそう言ったのは篁唯依だった。譜代武家の娘として育った唯依は常にこの時が来ることを想定して心構えを作っていた。そして何より、亡き父からの言葉が大きいと言える。

 

『あの日、私は自分の無力さを嫌という程思い知った。古き良きこの古都が蹂躙されていくのを私は見ている事しかできなかった。いや、その時には避難していたから実際に見ることすら出来なかった。だから唯依、お前はそんな無力感を感じないように努力しなさい』

 

 約20年前に上陸してきたBETAは突撃級のみであったが人口の約半分を失う程の打撃を日本に与えた。日本アルプスで辛うじて駆逐できたが、そこに至るまでの土地は突撃級に蹂躙されてしまっていた。今の帝都も、その後に再建された都市である為にかつての歴史は写真でしか見る事が出来ない過去の物と化していた。

 

「もう二度と大切な物を失わないために……!」

「……そうね。確かにそうだわ」

「やろう! 訓練の成果を見せるんだ!」

 

 唯依の言葉に誰もが同意して覚悟を決め、士気を高めた。そして、それぞれが来る防衛戦に備えてそれぞれの準備を進めていく。この戦争で死んでしまうかもしれないと覚悟を決めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 1998年7月15日。ついにBETAは帝都付近にまで侵攻した。この日に備えて最終防衛線には日本帝国軍・在日米軍・国連軍の三軍が集結しており、射程圏内に入ると同時に激しい砲撃を開始した。

 BETA群はいつも通りの陣形でもって進んでくるがその数は異常とも言える程だった。先頭の突撃級だけで五重の波となっており、万は超えていそうな勢いだった。さらに、レーザー級が先頭集団にいるようで突撃級を上空から攻撃する戦術機が次々と撃ち落されていく。

 

『くっ! 第一防衛ライン突破されました! わが隊の損耗率60%を超えます!』

『ひ、ひぃ!? た、戦車(タンク)級が取り付いて……!』

『つ、潰さr……!』

 

 司令部につながる通信には現場の悲鳴がいくつも聞こえてくる。その内容からもまともな防衛が出来ていないのがうかがえた。

 

「BETAの勢いが激しすぎる……!」

 

 そんな現場の様子は後方に配置された嵐山補給基地にいる唯依たちにも聞くことが出来た。如月佳織の指揮のもと補給基地の防衛任務についた唯依たちは前線には出来ずに待機状態となっていた。それゆえに、聞こえてくる通信は彼女たちの心に恐怖を植え付けてくる。

 

「大変でしてよ! BETAの一部が鷹峯にまで来ていると!」

「鷹峯!? 目と鼻の先じゃない!」

 

 上総が教えてくれた情報を聞いて唯依たちは外に出る。見れば先ほどまではなかった炎と黒煙が真っ暗な夜を照らしている。あまりにも早すぎるBETAの動きに誰もが不安となるがその不安を掻き立てるような出来事が発生する。

 

「っ! 戦術機だ!」

「補給、よね?」

 

 前線から嵐山基地に向かって飛んでくる二機の戦術機。激しい戦闘があったためか二機ともボロボロであり、辛うじて飛んでいるという印象を受ける程だった。そんな戦術機を見て安芸が補給の可能性を考えた。しかし、

 

「違う……!」

 

 何かに気付いた唯依が断言すると同時に、後方の一機がレーザー級の攻撃を受けて撃墜された。目の前であっけなく破壊された戦術機に小さな悲鳴が上がる。そして、レーザー級の攻撃が飛んできたためかもう一機が回避行動を始めるがそんなことは関係と再びレーザー攻撃が行われ、命中。煙を上げて墜落した戦術機は地面にぶつかると爆発四散した。

 これから自分たちが乗る戦術機があっけなく撃ち落される様子は恐怖と不安を植え付けるには充分だったが、そんな彼女たちに構っている暇はないと言わんばかりに警報音が響き渡る。出撃の合図だった。

 

「っ! 行こう!」

 

 出撃の準備は整っている唯依たちは急ぎ自分の戦術機のもとに向かう。整備兵たちが準備を整えており、唯依たちは戦術機を起動すると動き出す。

 

『BETA先頭集団が突出! 数はおおよそ300! 突撃級がその半数を占めている。その後方から要撃級、戦車級。レーザー級がその後ろに控えている。レーザー級を最優先でたたく! 攻撃部隊と支援部隊に分け、速やかに排除! 局地的にでも制空権を奪い取るぞ!』

「『『『『了解!』』』』」

 

 如月中隊長の言葉を受けて唯依たちは出撃する。それぞれの思いを胸に抱きながら。祖国を守らんと、彼女たちは戦術機に乗り、空を駆けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして、そんな彼女たちをはるか西方より見ていたとある男は目を見開くと大きく口角を上げ、顔をゆがめると呟いた。

 

「いいね。あの娘たち。可愛いから手に入れようか」

 

 少女たちの覚悟を踏みにじらんと悪意が急速に駆け回る。逃れる事すら難しいそれは彼女たちを覆い、そして離れる事が出来なくなっていく。

 彼女たちに悪意が接触するまで、残り僅か……。

 





【挿絵表示】

1998年地図です
次話は2022/12/08 23:39投稿予定です。

夕呼先生の処遇

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