篁唯依は成績の良さと家柄から嵐山守備中隊の第二小隊隊長に選ばれている。初の実戦でいきなり指揮を行う事になったが何とか小隊をまとめてBETAと戦闘を開始した。
しかし、戦闘開始から十分は経過した頃から唯依は違和感を感じ始めていた。最初は気のせいかと思っていたが死の8分と呼ばれる新兵が死ぬ平均時間を超えるとほぼ確信へと至った。
「私たちを避けている……?」
BETAはどういうわけか唯依たちを攻撃する事はほとんどない。正確には攻撃してくるが優先順位が低いのか、他の小隊を狙う傾向にある。いくら唯依たちが攻撃をしてもその傾向が変わる事はない。最初こそ背中を見せるBETAを殺していった小隊の面々も次第に困惑してくる。
『唯依、これってどういう事なのかな?』
『私たちは敵にすらなってないって事……?』
攻撃をあまり受けないのはいいことなのかもしれないが、そのせいで他の隊員が襲われるのなら罪悪感も出てくる。だが今は好都合と無防備に背中を見せるBETAを駆逐していく。
『っ! 増援を確認! 数は……、見える限り300はいます! 突撃級を先頭に急速接近中!』
『増援だと!? そんな報告は……! コマンドポスト! 応答しろ! コマンドポスト!』
報告にない増援の出現に、如月中隊長はコマンドポストに呼びかけるが一切の返事は帰ってこない。それもそのはずであり、すでに嵐山基地は陥落しており、中の人間は逃げるか喰われるかのどちらかとなっている。それに伴い一時的な指揮系統の混乱が起こっており、それにつけ入るようにBETAは攻勢を強めていた。いくつかの防衛ラインは崩壊、または突破されており、京都の都市部にまで入り込みそうな勢いであった。
「くっ! 弾薬が……!」
『120ミリ100! 36ミリ1マグ!』
『36ミリ残弾0!』
まともに補給が来ない状況である為に弾薬は激しく消耗していく。しかし、彼女たちを囲むように要撃級の群れが迫ってきており、危機的状況に陥り始めていた。
『……ここを死守する意味ももはやない、か。全小隊に告ぐ! 直ちに戦域を離脱! 第8ラインにまで後退せよ!』
「『『『了解!』』』」
如月中隊長の指示により中隊は一気に飛び立っていくがその中で一機、長刀で戦いを続ける者がいた。九州で恋人を失った和泉であり、BETAを殺すことに一番意欲的だった少女だ。
「和泉! 撤退よ!」
しかし、和泉は長刀を振るうのをやめない。既に事切れた要撃級に対して何度も何度も長刀を振り下ろしていく。それはまさに憎い相手を殺すときに行う行為のようであった。
「和泉!」
『いや! 逃げるなんてできない! 敵を……ここで敵を討つんだ!』
「和泉……」
和泉の気持ちは唯依とて分かっている。だが、ここで一人だけ残って戦っても無駄死に等しい。それゆえに唯依が強い口調で命令をしようとした時だった。
「っ! 和泉避けて!」
『……え?』
和泉の背後より要撃級が接近。無防備な背中に前腕部を叩きつけた。
『きゃぁぁぁぁぁっ!!??』
「和泉!!」
『よせ! 篁! レーザー級が迫ってきている! 急げ!』
足を失い、うつ伏せで倒れる戦術機に要撃級は馬乗りになり今度は腕を破壊していく。そんな目の前の光景に唯依が銃撃を行おうとしたが如月中隊長がそれを止めた。遠くを見ればBETAの後方からレーザー級が見えており、今は味方が斜線上にいるために問題はないがすぐにでも攻撃が始まりそうな様相を見せてた。
「……ごめんなさい!」
唯依は和泉を見捨て、撤退を始める。その後ろで、和泉の乗る戦術機に戦車級が群がっていくのが見える。四肢をもがれ跳躍ユニットも破壊された彼女の戦術機に抵抗する力はない。通信がイカれたのか彼女の悲鳴や悲痛な叫びが聞こえてこないのが不幸中の幸いと言えるだろう。
『急げ! 直ぐに飛んでくるとは思えないがいずれにせよここd……!』
『中隊長!?』
中隊の面々に指示を出していた如月中隊長は突如飛んできたレーザー攻撃によって撃墜された。後方を見てみれば丘の上から唯依たちを狙っているレーザー級の姿があった。他のBETAが丘を降りたことによってレーザーの射角が開けたのだ。
複数のレーザーが飛んでくる。それらは数少ない中隊の戦術機を次々と撃ち落していき、気付けば残ったのは倒された和泉以外の何時もの面々のみだった。
『このままじゃ全滅よ! 何とかしないと……!』
『でも向こうの丘までまだ距離が……!』
悲鳴にも似た叫び声が通信されてくる。それだけ絶望的な状況であり、逃れるのが難しい局面であった。しかし、そんな彼女たちを救うようにレーザー級をはじめとするBETA群に大量の砲弾が突き刺さる。
『爆発!? 一体何が……!』
「艦砲、射撃……?」
それは琵琶湖に停泊する第二艦隊による砲撃であった。まだ前線には多くの兵がいる中での砲撃、しかも帝都を自ら破壊するような攻撃を行わなければならず、艦砲射撃を実施した小沢提督の心は荒れていたが、おかげで唯依たちは後方に撤退する事に成功していた。
しかし、すでに防衛ラインのほとんどが機能していない。アメリカ軍に至っては勝手に後退までし始める始末だった。現在戦闘を行っているのは日本帝国軍の残党と国連軍、琵琶湖にいる空母艦隊とその艦載戦術機のみだった。それに対して、BETA群はさらに数を増していた。軽く見積もっても戦闘開始時の倍は存在しているだろう。
『私たち、どうなっちゃうのかな……?』
『BETAにだけは喰われたくはないわね』
BETAは人間を食べる。それはこの世界の誰もが知っている常識だった。それが栄養を摂っているのか別の目的があるのかは判明していないが、食い殺されるのだけは嫌だと誰もが思っている。
「せめて味方と合流出来ればいいんだけど……」
たった4人しかいない現状。それも全員が訓練を繰り上げて出てきたばかりの新兵である。不安しか感じない状況であり、味方と合流する事を考えていた。
そんな唯依の思いが通じたのか? 唯依たちの通信にノイズが走る。
『……よ。こ……は……』
「っ! こちら嵐山守備中隊第2小隊隊長篁唯依です! 聞こえますか!?」
『……えている。私は国連軍第66戦術機大隊隊長
「っ! 失礼しました! 少佐殿!」
『篁と言ったか? 貴官も後退中か?』
「はい! 私を含めて5機が健在です!」
『よろしい。ではともに行動しよう。あいにく我が隊も損耗が激しく3機のみしか残っていなくてな』
大隊にも関わらず3機しか残っていないという時点で激しい戦闘が行われたことは確実と言えた。やがて防衛ラインの方から3機の黒い戦術機が現れ、唯依たちに合流した。
『篁、済まないが先導を頼む。日本に来たのはつい最近でな。まだ地理を把握できていないのだ』
「了解しました。我々が先導します。ついてきてください!」
そう言って唯依たちは飛び立つ。ベアトリクスと名乗った女性は、通信オンリーでカメラが起動していないためか、口角を上げた。
『もちろんだ。だが、ここから先は
「……え?」
その瞬間、味方と思っていた3機の戦術機に唯依たちは銃撃を受けまともな抵抗も出来ずに戦術機を落とされた。
第二艦隊による艦砲射撃によって辛うじてBETAの勢いを止める事に成功した日本帝国軍は戦力を再編成すると京都の防衛を継続したが、8月15日に京都は陥落。戦場を東日本へと移すこととなった。
そして、初日に発生した嵐山補給基地の陥落においてその守備についていた戦術機中隊で生存が確認されている人物は
次話は2022/12/09 23:00投稿予定です。
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