【本編完結】BETA転生   作:鈴木颯手

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第四十六話「佐渡島」

 1998年夏より始まったBETAの日本上陸。たった一週間で九州・中国・四国地方を落とすと日本帝国軍・国連軍・アメリカ軍による三軍共同の京都防衛ラインを一か月の戦闘によって陥落させた。帝都が陥落したが首都機能は既に東京に移していた事で被害と混乱を最小限に抑える事が出来ていた。

 しかし、だからと言ってBETAの勢いを抑えられたわけではない。京都陥落後、BETAは上陸当初の勢いこそないものの、ゆっくりと東進しており、前回の上陸では最終防衛線として機能した日本アルプスに猛攻を仕掛けていた。

 ここはBETAが四方八方から上陸したときに備えて建設されている要塞が存在しており、その建設の目的通りBETAの侵攻を食い止めていた。しかし、もともと建設途中という事もあり完全に防げているわけではなく、少しづつ損害が出始めていた。さらに言えばこの要塞にこもる場合には放棄する予定である沿岸部の東海地方や北陸地方はBETAの侵攻を受け大きく後退していた。

 そして、京都陥落より約一月後の9月25日。佐渡島は戦場となった。元々新潟方面に戦力を割いていた佐渡島には極わずかな戦力しか残されていない。それらも新兵などで数をそろえている状況であった。しかし、幸いにも日本海防衛の要所として早くから要塞化されてきていた。そのために迎撃準備は整っており、一方的に蹂躙されるような事はないと言えた。さらに言えばこの時帝国海軍第二艦隊が哨戒中であり、防衛戦闘に参加するべく動き出していた。海上からの支援もあり、少しは防衛が出来ると思われていた。

 

 

 

「BETA群第一波機雷源に接触!」

「機雷源、第3から第7まで消滅!」

 

 佐渡基地中央作戦司令室ではBETAの接近により騒がしくなっていた。BETAの接近の叫び声が響き渡り、関係各所への通信でいつも以上の騒がしさを見せる。

 

「砲台から砲撃準備よろし、との報告!」

「十分に引き付けるまで待て! どちらにしろ海底のBETAに有効打にはならん! それと各戦術機中隊は出撃体制を急げ!」

「BETA進行速度落ちません!」

「第一波、第二警戒ラインに突入!」

 

 佐渡島を取り囲むように張り巡らされた地雷源は効果を発揮しつつもBETAを止めるには至らなかった。何しろBETAはそんな機雷で倒しきれない程の数で以て侵攻してきているのだ。むしろ一匹でも数を減らせられたと考えるべきだった。

 そして、一定の距離にBETAは接近してきた。最初に突撃級が海上に姿を見せ、海に浸かっているために遅くなっているとはいえその巨体から信じられない速度で近づいてくる。

 

「各砲、所定の目標に向けて効力射開始!」

 

 岩城副官の命令に従い、佐渡島中に設置された砲塔から一斉に攻撃が始まる。更には第二艦隊が反対側の沖合より艦砲射撃を実施。BETAを次々と葬り去っていく。その威力はすさまじく、あっという間に接近していた第一波のみならず第二波まで殲滅する威力だった。

 

「第一波及び第二波消滅! 続いて第三波及び第四波来ます!」

 

 しかし、そんなものはBETAにとっては何の損害でもない。人間に例えるなら10万の軍勢の中で一人が戦死した程度の損害でしかない。そして、100から1000の兵士が常に補充されるようなものなのだ。

 それを示すように第三波が全滅する間を縫うように第四波が防護壁に取り付いた。沿岸部に作られたこの防護壁は海から出て直ぐであったために勢いが足らなかった突撃級の足止めに成功していた。急こう配のせいで登る事は出来ず、後ろに下がろうにもその後ろからやってきた突撃級によって身動きが取れない状況になってしまっていた。

 

『防護壁沿いの突撃級を掃討する。全機兵器使用自由! 猪どもを黙らせろ!』

『『『『『了解!』』』』』

 

 そんな突撃級を背後より攻撃していくのは佐渡島に配備された戦術機中隊の一つであるA中隊だ。ここには10日前に配属されたばかりの駒木少尉をはじめとして4名の新兵がいた。うち3名は初の実戦であったが今の状況はBETAとの戦闘において最も楽な実戦と言える。何しろ防護壁に邪魔されて身動きが取れない突撃級を背後から攻撃するだけなのだから。新たにやってくるBETAに背後を見せる形にこそなるが現状においてはただ掃討するだけでいい流れ作業であった。実際にA中隊は僅か数分で突撃級を殲滅すると補給のためにいったん戻り、B中隊に後を任せていた。

 

「A中隊防護壁周辺の掃討を完了」

「第五波到達まであと1分です!」

 

 報告をする兵たちにも安堵の雰囲気が見え始める。まだまだ予断を許さない状況だがそれでも防衛に成功しているのは事実なのだから。

 

「想定していた戦力に対して何とか回っているようです」

「予備の戦術機部隊はない。薄氷の勝利でしかない。本当の防衛戦はここからだ。米軍の支援はまだか?」

 

 日米安保条約はいまだに有効である。それを証明するように京都の防衛線でも活躍していたがここにきてアメリカ軍の動きは確実に鈍くなっていた。

 

「依然として山形沖に停泊したままです……」

「くっ……!」

 

 そしてそれはこの佐渡島の状況を見ても同じだった。アメリカ軍に動きはなく、確実に見捨てていると言われてもおかしくはない行動だった。そして、それが分かるからこそ基地司令の橘雅清は怒りを露わにした。

 

「もしここで大量に来るか要塞級のようなBETAが来ればこの戦況はひっくり返る。……そうなれば佐渡島は陥落し、日本海防衛の要所を失う事になる! それがどういう意味につながるかを連中は理解しているのか!? そんなにカナダに全力を注ぎたいのなら変な期待を見せずに帰ればいいのだ!」

 

 カナダの防衛に戦力を注ぐアメリカは世界中の戦闘から戦力を引き始めている。京都陥落こそ日本帝国の帝都であったから防衛を行ったがそれ以外では戦力の消耗を避けたい。そんなアメリカ軍の思惑は見え隠れしている。

 

「B中隊第五波掃討完了」

「A中隊も補給完了。いつでも出撃出来ます」

 

 そんな基地司令が怒りを露わにしている中でもBETAとの戦争は続いていく。現状では特に問題もなく防衛に成功している。このまますべての攻撃を防ぎきれたら……。そんな淡い願いを打ち砕くように警報が走る。

 

「っ! 5606地点より新たなBETA反応!」

「5606だと!? B中隊と同一座標ではないか!」

『こちらB01! 要塞級の出現を確認! それも2、3……5体だ!』

「馬鹿な……!? 要塞級の入水報告はなかったはずだ!」

「それが……、大陸側からの侵攻と思われます……」

「大陸側……。厄介な……」

 

 本来は大陸側からの侵攻を防ぐ目的の佐渡島。その本来の役目通りにBETAがやってきたわけだが完全に目の前のBETAに気を取られてしまっていた。

 

「っ! 防護壁の一部が破壊されました! BETA第六波、佐渡島に上陸!」

「A中隊の出撃を急がせろ! B中隊はこのままでは全滅するぞ!」

 

 ただでさえ戦闘を終えたばかりのB中隊は消耗しているのにこのまま要塞級と戦闘できる余力はほとんど残っていない。

 

「くそっ! 支援要請を出せ!」

「本土も師団規模BETA群と交戦中。こちらに向かえる状況ではなく……」

「米軍は!?」

「……いまだ、一切の返答がありません」

「何のための安保条約だ! 要塞級がレーザー級を排出すれば終わりだぞ……」

 

 今でこそ空を自由に飛び回り、BETAの侵攻を食い止めている戦術機もレーザー級が出現すれば空を飛べなくなる。そんなことをすればレーザー級の餌食になるだけなのだから。

 

「A中隊出撃! 迎撃を開始しました!」

「新たな要塞級出現! 数は5体!」

「これで10体……。ここまでか……」

 

 あまりにも絶望的な戦況に基地司令はあきらめの感情が浮かんでくる。米軍の援護もなく、現有戦力では防衛すら難しくなってきている。

 

「! A中隊が上陸地点の要塞級を5体撃破!」

「新たな要塞級出現! 7体!」

 

 倒した数を上回る数が補給されるように出現する。更には要塞級の攻撃によってA中隊にも悲哀が出始めていた。

 

「A中隊05、06、08通信途絶!」

「第七波来ます! 数は1万2千!」

「B中隊は!?」

「出撃可能な機体が残っていません……」

「! 撃破した要塞級より溶解液が発生! 防護壁によりかかっていた事で壁が傾いています!」

「なんだと!? 止めろ! 防護壁を破られれば市街地が……!」

「だめです! ……防護壁、倒壊しました」

 

 司令部の中央モニターにはBETAを示す赤いマーカーが壁を越えて市街地に入っていく様子が移されていた。それが意味するのは佐渡島の防衛線の決壊と失敗を意味していた。

 

「市街地、被害甚大!」

「だ、第八波が沿岸部より来ます! 数は2万!」

「BETA共め……!」

 

 基地司令はそこまで報告を聞くと深く息を吐く決断をした。

 

「佐渡島を放棄する。各員撤退をさせろ。各戦術機中隊は逃げる島民の警固をさせろ」

「……了解しました」

 

 佐渡島の放棄。それがどれだけ大きい意味を持つのかをこの場の誰もが理解している。しかし、すでに大勢は決し、島に残っても蹂躙されるだけである。ならば少しでも助け次に備える。いつか訪れるであろう人類の勝利の日のために。

 

「……第二艦隊より司令部へ。両津港へ退避せよと通信が入っています」

「小沢提督か……。感謝するとだけ伝えてくれ」

「了解しました!」

 

 基地司令のその言葉の意味。それが何を意味しているのかは簡単であり、それがどれだけの決意と責任感でなされているのかがうかがえる。たとえそれが無意味どころかBETAに利する行動であったとしてもだ。

 

 

 

 

 1998年9月25日。この日佐渡島は5万近いBETAの侵攻により陥落した。同時に北陸地方も陥落。日本帝国軍は更なる戦線の後退を余儀なくされた。更にはアメリカ軍がカナダへの戦力集中を理由に日米安保条約を一方的に破棄。日本帝国内から軍隊を引き揚げさせてしまった。これにより展開していた戦力としてみれば大幅に低下せざるを得ず、更なる劣勢が予測された。

 しかし、これ以降BETAは不審な動きを見せた。佐渡島と横浜にハイヴが建設されたのだ。これまでBETAは沿岸部からそれなりに距離があるか前線から遠く離れた場所にしかハイヴを建設してこなかった。にも拘わらずまるで攻撃してこいと言わんばかりのこの動きは挑発とも、人類をなめているともとれる行動だった。そんなハイヴの建設に対して人類が出した結論は簡単である。その挑発に乗る事だ。

 たとえ罠だとしてもその罠ごと叩き潰す。その覚悟で以て日本帝国軍は国連軍と共同で横浜ハイヴ攻略戦、明星作戦を1999年に決行するのだった。

 





【挿絵表示】

オーストラリアのやつは追々……

次話は2022/12/10 23:48投稿予定です。

夕呼先生の処遇

  • 人類と運命を共に
  • 繁殖場に
  • 脳くちゅ
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