第五十話「マブラヴ」
2001年10月22日。明星作戦から二年以上経過したがいまだに主人公らしき人物が現れる様子はない。後一月ほどで今年も終わってしまう。そろそろ現れてもおかしくはないのだがな。
そもそもこの世界の作品を知らない事が致命的すぎるよな。今更ではあるけど原作を知っていれば俺の行動の差異を知ったり、原作をどうするかを決める事も出来たしどこにいるのかもわからない主人公を探してこんなに苦労する事もなかったはずだ。
仕方ない。今はもう一つの重要事項の精査をするか。
オルタネイティブ4。俺は当初こそG弾の集中運用によるハイヴ攻略と厳選された人類の他星系への移住が計画内容だと思っていたがどうやらこれは違うらしい。オルタネイティブ5という予備案だったこれを表向きは採用しつつこれを隠れ蓑に本来の計画が進められていた。
00ユニットと呼ばれる生物的根拠が0だか何だかを使ってBETAとコミュニケーションを取る。そしてその過程でこちらの情報を引き出して今後の戦争に役立てるというものだ。俺が、というよりBETAが人類を生物として認識していないからこそ計画されたものらしいがかわいそうに。人類を生物として認識していないのはBETAの一般常識のようなものであり、俺は
創造主。俺たちBETAを作った宇宙人で驚くべきことに珪素、つまりシリコン生命体との事だ。創作上ではよく見かける生命体だが俺も詳しくは知らない。というか見たことがないからどういう姿かたちをしているのかが分からない。もしかしたら人型ではないかもしれないしな。ちなみに、実際に珪素生命体が存在するか否かという話があるが存在しない可能性が高いらしい。理由は忘れたがな。それにそのことを理由に否定した場合、まさにBETAの認識と同じになってしまう。BETAは創造主が炭素から生命体が生まれる確率は低いと言われてその事を前提に動いているのだから。
さて、話がそれたが主人公が見つからない以上このオルタネイティブ4の計画からして物語に深くかかわっているのは確実だ。だが残念ながらこの計画の最高責任者である香月夕呼はBETAが人類内部に入り込んでいる事に気付いているようだ。だからこそオルタネイティブ5を隠れ蓑にして極秘に動いているみたいだしな。その秘匿性と言えばさすがと言わざるを得ない。
である以上こちらも慎重に動く必要がある。すくなくとも手駒を近くに配置する事は出来ない。内部の様子は
ふふ、楽しみだなぁ。気づかれないように隠匿に隠匿を重ねた結果、最初から知られていたと知った時の彼女の表情。常に澄ました表情でいる香月夕呼がどう歪むのかすごく楽しみだ。それまでに“終焉の日”の準備を完璧にしないとね!
白銀武という男がいる。彼は尤も数奇な運命にある人物と言えた。彼はもともと平凡な学生でしかなかった。まるでラノベのごとく美少女に囲まれる生活を送っていたとはいえ戦争とは無縁の青年だった。
しかし、彼の平穏な生活は突然終わりを迎えた。10月22日、武はその日パラレルワールドと呼べる別世界にやってきてしまった。平和な日常は終わり、BETAと呼ばれる地球外生命体との戦争に明け暮れる事となったのだ。
そして人類の敗北とオルタネイティブ5の発動。それによるG弾の投下と絶望的な戦争を終えた彼は気付けば存在しなくなっていたはずの自室にいた。まるでBETAなど最初から存在していなかったと言わんばかりに。
「……夢?」
そうとしか言いようがない。そうでなければ目の前の光景が説明できない。武はゆっくりと立ち上がると部屋を出る。目指すは外だ。
「そうだ。BETAなんて存在しなかったんだ。外に出ればいつも通りの風景が……!」
しかし、現実とは非常である。外に出た武が見た光景はこの世界にやってきたときと同じ、荒廃した横浜の姿だった。だがこれは既に過去のものであった。では何が起こっているのか? 単純である。この世界にやってきた時間に巻き戻っただけである。
「くそ! またこの日なのか!? 今度は過去に戻ってきたとでもいうのかよ!」
武は地面をたたいてそう叫ぶが叫んだところで何かが変わるわけでもない。武は混乱する頭を何とか落ち着かせて周囲の様子を見る。全てはこの世界にやってきたときと同じ、いや、
「ここは間違いなく現実だ。ってなると今までの事は予知夢って事になるけどそれでもいい……! 今度は絶対にオルタネイティブ4を完遂させる!」
武はそう決意を固めると横浜基地に急ぐ。前回の時は現実と受け止められずに拘束されてしまったがそれでも人類を救うキーマンとなる人物に出会う事が出来た。今度こそオルタネイティブ5を防ぐためには彼女に、香月夕呼に出会う必要があった。
「!」
途中、武は一本の桜に気付いた。本来、その桜の下には明星作戦において出た犠牲者を記した石碑があったがあるはずのそれがなかった。それはこの世界では初めて感じる大きな違和感だった。
「見間違い、か? もっと別の場所にあったとか?」
流石の武も記憶違いかと気に留めることなく再び歩き始めた。しかし、この時に感じた違和感は香月夕呼と対面し、理由が判明するまで武の胸の中でとどまり続ける事になる。
次話は2022/12/14 23:24投稿予定です。
夕呼先生の処遇
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脳くちゅ