「ちくしょう……」
白銀武は突如としてパラレルワールドのBETAに襲われる地球にやってきて彼らとの戦争に身を投じる事になったが気付けば自分がこの世界に来た10月22日に戻ってきていた。そして後二か月で始まるオルタネイティブ5を阻止するべくオルタネイティブ4の最高責任者である香月夕呼に会うべく横浜基地を訪れたのだが……。
「なんでまた牢屋に……」
そう、前回と同じように彼は牢屋に入れられることとなったのだ。元の世界では学ランだった白い制服を身にまとった武が基地に近づくと突如として門兵たちに拘束。抵抗や何かを発言する暇もなく牢屋にぶち込まれることとなったのだ。
「しかもなんで検査みたいなことや尋問まで……」
加えてCTスキャンや採血などの検査に加えて顔のいかつい軍人やハニトラでも仕掛けてきそうなぐらマスな女性から尋問を受けて武は前の時以上に混乱していた。
「俺何もしてないんだけどな……」
こうしている間にもタイムリミットは近づいてきている。それにも関わらず武はまだ香月夕呼に会う事さえかなっていない。このままではいけないと検査や尋問のさいに何度も会わせてほしいと言ってみたが聞き届けられることはなかった。
「このままじゃ……!」
「このままじゃ何が起こるのかしら?」
「っ!?」
独り言を拾った声。その声はまさに武が待ち望んでいた人物の声であった。牢屋の中であおむけに寝ていた武は体を起こすと牢屋の外を見る。そこにはまさに香月夕呼の姿があった。
「夕呼先生!」
「……あたしは教え子を持った記憶はないけど?」
「あ、えっと……」
厳しい視線を向けてくる夕呼に武はしどろもどろになってしまうがそれでも何とか落ち着かせて真っすぐに彼女の眼を見る。
「……信じられない話かもしれませんが聞いてください」
そうして武は話し始める。自分がどういった存在で、何を見てきたのかを。そしてその目的のために夕呼と話したかったことを。
「だからオルタネイティブ5が発動するまであと二か月しかないんです! その前になんとしてもオルタネイティブ4を完遂させないといけないんです!」
「……あなたの言いたいことは理解したわ。それにそれが嘘ではないことも、ね」
「! 信じて、くれるんですか?」
「ええ、信じるに値する方法があるからね。でも、その前に言わないといけない事があるわ」
夕呼は先ほどよりも険しい表情で告げる。
「まず、この世界においてオルタネイティブ4はあなたが話したオルタネイティブ5となっているわ」
「なっ!?」
「
「……表向き?」
一瞬自分が見てきたオルタネイティブ4は存在しないのかと思った武だが夕呼の話を聞く限りそうではないと安心しつつ次の言葉を待つ。
「ええ、まずあなたが言うオルタネイティブ4は今秘匿して行われているわ。G弾の集中運用によるハイヴ攻略を隠れ蓑にしてね」
「なんでそんなことを……」
「その前に
「……?」
夕呼の言葉に疑問を感じつつ牢屋を出た武は部屋に向かうまでに前の世界で夕呼に教えてもらった世界の歴史を言っていく。所々でピクリと夕呼が反応を見せつつも口をはさむことなく最後まで聞き終える。そのころには部屋にたどり着いており、自身の椅子に座った夕呼は深くため息をつく。
「あなたがいた世界は
「……平和、ですか」
「ええ、平和よ。すくなくとも
まるで自分たちは出来ないかのような言い方だが次の言葉で武は驚愕しつつその理由が理解できた。
「まずいうわ。この世界のBETAは狡猾で人類を知り尽くした動きを見せているわ」
「それは、どういう……」
「そうね。順を追って説明するわ。
まず、カシュガルにオリジナルハイヴが建設された事は同じよ。だけどそこからBETAは
「……」
最初から違っていた。BETAは西進をしていたはずなのにここでは東進。それも攻撃された国にのみ攻撃を仕掛けている。本当に人類の事を知っていないと出来ない動きだ。
「そこで人類は気付くのよ。攻撃しなければ襲われないとね。結果としてソ連と中国以外の国は援助を取りやめたわ」
「なっ!? そんなこと……!」
「誰だって手を出さないと襲われないと攻撃してこない相手にわざわざ攻撃を仕掛けたりしないでしょ? 結果的に中国に派兵をしていた日本、アメリカ、国連以外は武器弾薬などの物資の支援だけで済ますようになったわ。その結果でしょうね、1977年には中国全土がBETAの手に落ちたわ」
「そんなに早く……」
「そうね。あたしは中国が20年以上持ちこたえていたと聞いて驚いてしまったわ。
で、1979年にBETAは日本に上陸するわ。ただ、この時は突撃級のみの蹂躙でそれ以降の侵攻はなかったけどね。だけどこの侵攻で西日本は壊滅。日本アルプスで殲滅出来たけど人口の半分である5000万人が犠牲となったわ」
「……」
衝撃と言わざるを得ないこの世界の歴史。夕呼のいう通りこれを聞く限り前の世界はまだ平和だったかもしれないと思い始めるがそれを補填するように話は続く。続いてしまう。
「1981年にはモスクワが陥落。1983年には東ドイツとベルリンが落ちたわ。この時欧州連合軍も攻撃をしていたけどBETAは東ドイツで動きを止めて欧州連合軍の土地には一切入らなかったわ」
「それは何故?」
「後の話になるけど確実に戦闘する国を減らしたといったところね。実際欧州連合軍はBETAとの戦争から離脱したわ。結果的に世界から信用を失う事になったけど国土を蹂躙されるよりはマシと考えたんでしょうね。
これ以降兵数が減った欧州戦線は完全に瓦解。人が住める領域はほぼ喪失したわ。そしてここからがひどいわよ。まだ聞いていられるかしら?」
「ここまで聞いたんです。最後まで聞かせてください」
「……いいわ。BETAは攻撃してこないなら攻撃されない。この話が世界に広まるとヘイトを集めた民族が出始めたわ」
「……中国人ですね?」
「そうよ。中国人が攻撃したからBETAは動き出したと考える人が出始めて中国人は世界中で迫害される事になったわ」
「人類で結束しないといけないのに迫害なんて……!」
「あなたのいう通りよ。結果的に最悪の形で浮彫となったわ。1988年、中国人がアメリカの西海岸で暴動を起こしたわ。これはあっという間に拡大して1990年には西海岸を占領してしまっていたわ」
「なっ!?」
「これを受けてアメリカはロッキー山脈を挟んで講和する事になるわ。中国人は迫害されない自分たちの国を手に入れたのよ。人類同士で争って国力を削ってね」
「……」
「そしてその直後よ。まるで準備は整ったと言わんばかりにBETAは無差別に侵攻を開始したわ。この時侵攻されてこなかった国々の動きは恐ろしいほど鈍くて国境線はあっという間にBETAに塗り替えられていったわ。
BETAも準備は進めていたんでしょうね。1991年に始まったこの侵攻では年を迎える前にアフリカ以外のすべての場所に進出していたわ」
「それじゃ、オセアニアとか南米、アメリカも?」
「ええ。北米はカナダとハワイに、南米はチリに、オセアニアはほぼ全域ね。結果的にニュージーランドは陥落。オーストラリアも政府が崩壊して無法地帯となっているわ。おそらく来年には完全にBETAの手に落ちるわ
そして、これが今の地球の現状よ」
そう言って夕呼は壁のモニターに世界地図を映し出す。そこにはBETAに占領されたことを意味する赤く塗られた箇所が世界の半分近くを占めていた。
前に武が見た地図よりもBETAの勢力圏が広がっていた。前の世界においては欧州が完全に陥落していたがこの世界ではいまだに国土を維持している国がある。だが、その代わりと言わんばかりに北南米両大陸にBETAが侵攻し、オセアニアのほぼ全域が占領されていた。
「大東亜連合は去年のバタビア防衛線で全滅。南米連合軍はパタゴニア地方を放棄して河川沿いに防衛線を構築しているけどハイヴを作られた以上これまでの数倍の規模のBETAによる侵攻が予測されているわ」
「そんな……! これじゃ人類は……!」
「残念だけどBETAに敗北する、とほぼ確定的な予測が出されているわ」
「だ、だったら残った戦力を結集して一致団結して抗えば……!」
「不可能よ」
武の言葉を夕呼はバッサリと切り捨てて険しい表情で言った。
「話を聞いて不思議に思わなかった? BETAはまるで
「……まさか!?」
「そうよ。BETAは
おそらくオリジナルハイヴが中国に侵攻を開始した時点で始まっていたはずよ。そしてそれに気づくには人類は遅すぎたわ。BETAは人間社会の中枢近くにまで潜り込んできている。誰が敵で誰が味方なのか分からない。疑心暗鬼に陥りかけているのが今の人類なのよ」
「……」
「だからこそあたしたちはG弾の投下を隠れ蓑にして活動しているわけ。理解できた?」
「……はい」
前の世界ですら悲惨だったのに今度は比べ物にならない程の最悪な状況。前の世界で身に着けた知識や技術、肉体を持っている武には理解できた、理解出来てしまった。
人類に勝利は訪れないという事を。
次話は2022/12/15 23:49投稿予定です。
夕呼先生の処遇
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人類と運命を共に
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繁殖場に
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脳くちゅ