【本編完結】BETA転生   作:鈴木颯手

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第五十四話「アルゴス」

「これは中々に厄介ね……」

 

 スウェーデン王国陸軍少尉ステラ・ブレーメルは目の前に立つ()()()を見てそうつぶやいた。目の前の戦術機は味方ではなく、いままさに()()()()()()()()()()()()()であった。

 というのもスウェーデン王国はほぼ全戦力とデンマークやノルウェーの残党を吸収してストックホルム周辺の防衛を行っていた。世界との通信は途切れ、補給もなくただ三方向より迫るBETAに蹂躙されるのを待つだけの状態となっていた。そのためか、それらは突如として現れた。漆黒の戦術機はBETAの中を突き進んできてストックホルムに攻撃を始めたのだ。そんな戦術機に混乱しつつもスウェーデン王国軍も反撃を開始したが元々損耗が激しい軍隊は次々と撃破され、今では北部からやってくるBETAによって市街地の6割を失う痛手を負っていた。それにも関わらずBETA側にいると思われる戦術機は一機たりとも落とせていない。

 スウェーデン王国軍はこれまでにJ-35 ドラケンやJA-37 ビゲンに加えて第三世代機であるJAS-39 グリペンを開発・配備していたがそれらは度重なるBETAとの死闘で大きく損耗しており、現在はそれぞれ2機の計6機が残るのみだった。そこにデンマークやノルウェーの戦術機も加わって十数機がストックホルムに集結していたが漆黒の戦術機はセンサーで追う事すら難しい最大速度に人類の戦術機の後ろを軽く取れてしまえる平均スピード、突撃級を思わせる各部の装甲、銃火器に加えて頭部につけられたレーザー級の照射粘膜、そして何よりも十数機に対して合計50を超える圧倒的な数で押し寄せる漆黒の戦術機に僅か一時間ほどで半数が撃墜されていた。

 ステラは現存するグリペンに乗っているが既に弾薬は尽きかけている。弾薬の補充をしないといけないが目の前の戦術機はそれをさせてくれないだろう。となると残りの弾薬と気持ち程度に装備された短剣で倒すほかない。

 

「全く。BETAも中々やってくれるじゃない」

 

 ステラは愚痴を零しつつ距離を取ろうと跳躍ユニットを吹かして飛ぶ。しかし、それに対して漆黒の戦術機もついてくる。幸いにもその一機以外に反応はなく、後方の機体に集中が出来る状態となっていた。

 

「これなら、どう!」

 

 ステラはビルの合間を縫うように進み途中でセンサーを反対方向に飛ばすと物陰に息を潜めた。並みのBETAならこれで簡単に騙される手であり、無防備な背中を撃ちここまで生き残ってきた。そしてそれが漆黒の戦術機にも通じれば……。

 

『っ!!!!!』

「やっぱり駄目ね」

 

 漆黒の戦術機はセンサーの方につられて背中を見せたものの発射と同時に急上昇して回避して見せた。対応の早さと運動速度は他の機体よりも高く、明らかにエース級の実力者と感じられる動きだった。

 

「っ! やばい!」

 

 そして急上昇した漆黒の戦術機は頭部の装甲を開き、レーザー照射を開始した。ステラは慌てて斜線上にビルが来るように回避するがレーザー照射によってビルは破壊されてしまう。あたりに土煙が巻き起こりその隙をついて再びビル群の間に隠れるが漆黒の戦術機は先ほどの事を警戒してかはるか上空から索敵を行っていた。BETA側であるがゆえにレーザー級の脅威がない彼の戦術機は悠々と空中を飛んでいる。ステラが同じことをすればすぐに撃墜されるであろう光景だ。

 

「決めるなら一撃で決めないと……!」

『出てこい! ぶっ殺してやる!』

 

 ステラが決意を固めているとノイズ交じりの叫び声が聞こえてくる。戦闘前にも聞こえていたその声は戦術機を動かしている衛士の声だろう。ステラはその声を聴いて最初こそ驚いていた。何しろその声は明らかに幼いのだ。別にこの世界でそれが珍しいわけではない。だが、そんな幼い少女がエリートになれるだけの実力を持っていた事に驚いていたのだ。

 

「何故貴方がBETAに組したのか知らないけど私だってここで死ぬわけにはいかないのよ……!」

『っ! そこか!』

 

 お互いに通信は通じていない、というよりもステラの声が相手に通っていないだけであるがそれでもステラは叫びながら銃口を向け、発砲する。二発放たれたそれは発砲と同時に見つかったことで軽くよけられた。それどころか跳躍ユニットを全力で吹かして隕石のごときスピードで一気に接近すると背中に背負っていたブレードを振り下ろしてくる。落下の力も加わったそれはステラをして避けるだけで精いっぱいであったが完全にはよけきれずに左の肘先から切断された。

 

「っ! 厄介、ね!」

 

 とはいえやられっぱなしというわけでもない。右手に装備していた突撃砲を左の脇腹に当てるとゼロ距離で発射した。

 

『なっ!? コノヤロー!!』

「っ!」

 

 銃弾は36ミリであったためか貫通には至らなかったがダメージを与える事には成功したらしく、少女が怒りの声を上げた。それと同時に左腕で殴り飛ばされ一度距離を取らされる。

 

「これで少しは動きが鈍ってくれるとありがたいんだけど……」

『絶対に許さねぇ!』

「そう簡単に倒れはしないわよね!」

 

 漆黒の戦術機は特に動きが鈍る様子もなく高速で接近をしてくる。ステラはここまでの戦闘において敵が高機動・近接格闘戦を得意とする、もしくは好んでいる者と推測できた。そんな敵を破るには距離を取って戦うのが一番いいがそれは出来ない。

 まず、敵の運動性能の高さから引き離すのは難しい。更には相手は好んでいるだけで遠距離の兵装を有している。照射粘膜を始め背中には突撃砲を、背中には要塞級の触手らしきものが存在している。遠距離戦といえど苦戦は必至だ。加えて遠距離の要である弾薬の残量が少なく打ち合いになればさきに力尽きるのは明らかだった。

 

「仕方ないわ。せめて相打ちに持ち込む!」

『死ねぇ!!!』

 

 それゆえにステラは逃げる事をやめた。漆黒の戦術機はブレードを両手でもち、大ぶりな軌道で横なぎに払ってくる。防ぐことも難しい必殺の一撃と言えるがそれゆえに躱すことが出来れば大きな隙となる。

 ステラは横なぎが行われる瞬間に全力で以て機体を下に落とす。そしてそれは見事成功して躱す事に成功した。後は右手の突撃砲をコックピットがあると思われる胸部に押し当てる、それだけのはずだった。

 

「……え?」

 

 瞬間、ステラは機体全体から感じる衝撃に襲われた。よくよく見れば足元を通じて背中の触手が伸びており、その攻撃によって起きた衝撃だと推測できた。問題はそれによって起きた損害であるが確認するのも惜しいとステラは強行する。

 

「うああぁぁぁぁっ!!!!」

『こいつ……!!!』

 

 ステラは機体が動かなくなる前にと言わんばかりに突撃砲で殴るかの勢いで胸部に押し当てる。胸部は装甲で守られているが隙間がないわけではない。銃口すら入らない小さな隙間だがそこに見事押し当てると弾切れの心配などしないと言わんばかりに連射する。

 

『お、おまえぇぇぇぇっ!!!』

「悪いけどただで負けるつもりはないのよ!」

『ぢ、くしょ……!!!』

 

 最初の数発は装甲に弾かれたがそこからは隙間を大きくして見事中にダメージを入れていった。そのダメージがどれだけの被害を与えたのかは少女の声が聞こえなくなり、漆黒の戦術機が動かなくなったことからも理解できるだろう。

 

「……あ」

 

 そしてそれを見て力尽きるようにステラの機体も倒れた。正確には触手の攻撃を受けた箇所から上下に分断されたのだ。辛うじて駆動系は生きているが上半身だけでは全く動かず、加えて突撃砲も弾丸が0となっていた。

 

「ここまでね……」

 

 ふと、遠くを見れば漆黒の戦術機がさらに5機向かってきているのが見えた。それらは頭部の装甲を開き照射粘膜を露出させていて今にでも攻撃してきそうな様子だった。

 

「ふふ、最後に一機を倒せた事。誇っていいのかしらね……」

 

 ステラはそう言って目を閉じる。瞬間、5つのレーザーがステラの機体に向かっていき、稼働しなくなった漆黒の戦術機ごと爆炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2001年12月8日。日本帝国においてクーデターの後処理が進む中でストックホルムは陥落した。スウェーデン王国軍とノルウェー王国軍・デンマーク王国軍残党は全滅。北欧は完全にBETAの手に落ちる事となった。

 北欧のBETA群は資源回収のための群を除きすべてがフランスに向けて南進する事となり、ただでさえ防衛線が突破されたフランスはこれ以上の戦線維持は不可能と判断してフランス全土の放棄を決定。生き残った部隊をイギリスとスペインに撤退させて戦力の再編を始める事となる。

 そしてスウェーデン王国の一報を聞き、国連軍横浜基地の副指令香月夕呼も新型OSのトライアルを予定を早めて10日に行う事を決定した。

 




次話は2022/12/18 23:02投稿予定です。

夕呼先生の処遇

  • 人類と運命を共に
  • 繁殖場に
  • 脳くちゅ
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