「スウェーデンが落ちたわ」
「っ!」
クーデターの後処理が進む中で武は夕呼からのお使いを終えたところだった。というのも夕呼が進めているオルタネイティブ4の計画において必要な数式を武が元居た世界の夕呼自身から受け取ってきたのだ。これは以前に行われていた事であり、武に改めてこの世界で戦う決意を生み出させる要因にもなっていた。
そんな武が預かった数式を渡した中で言われたのが上記の言葉だった。
「もともと通信自体は前々から途絶していたわ。衛星からもストックホルム全体でスモークが発生しているせいであまり詳細に確認できなかったけどそれでも8日の時点で陥落した事は間違いないわ」
「……」
前の世界ではこの時期にはすでに陥落していた場所ではあるがここではスウェーデン王国軍の奮闘もあり10年近く防衛線が行われていた。そんな都市が陥落したという報告は武の胸にもくるものがあった。
「そのせいで北欧のBETA群は南下してフランスに向かっているわ。フランス政府は国土を放棄。イギリスとスペインに改めて防衛線を構築する事にしたそうよ」
「フランスが……。住民はどうなったんですか?」
「アルパイン線が突破された時点で全土に避難命令が出ていたから犠牲者はほぼいなかったそうよ。ただし後退する際に軍の一部が損害を受けたけどね」
それでも人が残っている方がいいと武は感じている。武田信玄の名言にもある通り人の命にはなにものにも代えられないと感じているし、BETAと戦うには人がいないと力は発揮できない。
「だからこそ、ってわけじゃないけど例の新型OSのトライアルを行うわよ」
「っ! いよいよですか……」
「ええ、本当はもう少し後にやる予定だったけどね。明日行うわよ」
「明日……明日!?」
「そうよ。それに伴ってあなたたちは正規兵となるわ。よかったわね。あなたが望んでいた力が手に入るのよ」
「っ!」
前の世界においては正式任官は引き延ばされ、オルタネイティブ5を迎えていた。しかし、ここではそんな事はなく正式に任官されるのだ。それがこの世界だからなのかそれとも誰かの意志があってなのかは武には分からないがこれでBETAと戦えると闘志を燃やす。
「正式な話はこの後されると思うから急ぎなさい。一人遅れてしまって正式任官が取り消される、なんてことがあるかもしれないわよ?」
「! 確かにそうですね! 失礼しました!」
武は少し駆け足気味に部屋を出ていく。それを見送った夕呼は部屋のモニターに移された世界地図を見る。北欧はBETAの勢力圏である色たる赤に完全に染まり、また一つ人類の生存圏が消えたことを意味していた。
「本当にBETAの動きは早くて強くて予測が難しいわね。そして
そもそもストックホルムの部隊が全滅したのは逃げ場がなかったからだ。ノルウェー、デンマークが陥落したことでストックホルムだけ孤立してしまっていたのだから。だからこそBETAが大胆に動けたわけであり、たとえ証拠があったとしても見つける事は出来ないと予測していたに違いない。
「ふぅ、本当に厄介だわ。そしてあたしも、白銀も動くのが10年遅かったわ」
せめて大規模侵攻が始まる前かその直前に今の地位があれば話は変わってきた。人類は、特にBETAの脅威にさらされていなかった国々はあまりにも脆すぎたのだ。そしてBETAと戦った国々は力を消耗し過ぎた。人類の終焉はあの日から始まっていたと夕呼は感じている。
「最悪の場合、無条件降伏もしないといけないわ。勝てない以上、一人でも多くの人類を救わないと……」
BETAに負けないと意気込んでいたかつての夕呼は既にいない。彼女が動き出した時にはすべてが遅かったのだ。これから人類が出来るのは10年以内の滅亡か、その前の特攻か、そして、
「人類が勝てたとして、その時の地球に果たして人類は残っているのかしら。残っていたとしても文明は維持できるのかしら。そして、
夕呼は考えれば考える程底なし沼に引きずりこまれるような感覚を感じながらも抗うように思考を巡らすのだった。
「あはははははははっ!!!! まさか落とされるなんてな!」
『うるさい!』
ストックホルムにおいて量産型戦術機、正確には戦術機級と呼べるBETAの起動実験を行ったが結果は意外なものだった。何しろ相手側の消耗からみて完勝出来ると思っていたのに結果を見ればエース機が撃破されたんだから。そして俺の目の前で怒りの声を上げる戦術機級がそのご本人というわけだ。
ここで戦術機級を軽く説明しておこう。元々人が乗れるタイプの戦術機と並行で作っていたわけだが当時は頭脳級を乗せるという方法で動かしていたわけだがそれではコストがかかってしまう。そこで代わりに人間の脳を搭載する事にしたんだ。正確には人間を戦術機級に憑依させて自分の体のように動かすといった感じだ。だから動きが人間らしい様をのこすこととなったがそれでコストの心配は消えた。幸いにも使える人間は万近く存在する。資源に回している家畜人間と呼ぶにふさわしい奴らに教育を施せばさらに倍は増える。教育も脳に詰め込めば一週間はあれば完了する。操作と敵の識別方法、連携なんかを教えればいいだけだからな。
「それで? 敵はどうだった?」
『……強かったよ。しかもあいつは近接戦闘よりも遠距離とかを得意にしてそうだった』
「つまり得意分野のお前が分野違いの敵に負けたって事か!」
『うう、うるさい!』
きっと人間の姿だったら顔を真っ赤にして叫んでいるんだろうなぁ。人間の姿はどこかアネットと似てて面白かったなぁ。戦術機級を動かす関係上操作に慣れてもらうために人間の体に戻る事はほとんどない。だから戻ったとしてもうまく体を扱える奴はいない。なまじ戦術機級の方が出来る動きが多いからな。
「まぁ、これでいい実戦になっただろう? 安心しろよ。普通の人間は
『……』
理解できても怒りは収まらないって感じだな。暫くは荒れそうだし怒りを発散できるようにホールの一つを貸し出すか。BETAなり戦術機なり相手にすればいい。戦術機はともかくBETAはいくら殺しても問題ないしな。すぐに補充が出来るから。
「そういやそいつは回収できなかったのか? それだけの腕前があるなら是非とも戦力に加えたいが……」
『直接見たわけじゃないけどあたしがやられた後に乗ってた機体ごと吹き飛ばされたみたいだぞ。死体すら残らず粉みじんだよ』
「あらら。それは残念だ」
まぁ、別になんでかんで必要なわけではないから死んだら死んだで別にいいけどな。どうせ戦場でのことだ。下手に捕縛に動いて逃げられる・反撃されるよりはマシだ。余計な損害や損失を出すくらいなら必要はない。経験豊富な者は育てないといけないが育てればいいだけの話だからな。
『で? 次の出撃はいつなんだ?』
「んー、不明だな。ただ長くても数年だな。それも人類の動き次第で長くも短くもなるな」
『えー! せっかく動けたのに暫くお預けかよ!』
「別に良いじゃないか。お前らが暴れる時は人類の終焉の時だ。つまり、それ以降はまともに暴れる事は出来なくなるって事だ。それに楽しみを取っておいた方が行動する時がさらに楽しくなるだろう?」
『それは、そうだけど……』
「安心しろって。お前にはとっておきの相手を用意してやるからさ」
不満たらたらな彼女をなだめつつ俺は考える。終焉の日を実行した場合、俺は本当にやる事がなくなってしまう。その際に俺は退屈な状況に耐えられるのだろうか? いくらBETAという寿命も不明な生物になったんだ。最悪の場合地球の消滅まで生存する可能性がある。そうなる場合に備えていろいろな娯楽や趣味を作っておくべきかもしれないな。
戦術機級最初は脳みそを入れて86のレギオンみたいにする予定だったけどそれだとバックアップとかの問題が出てくるのでこんな感じになりました。
次話は2022/12/19 23:54投稿予定です。
夕呼先生の処遇
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人類と運命を共に
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繁殖場に
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脳くちゅ