「また、みんなを……!」
白銀武はこの人類が詰んだも等しい世界で3回目のループを経験した。つまり、BETAとの戦争が続く世界にきて4回目のループとなった。しかし、武は3回目においてあまりにも大切な人たちを失い過ぎた。
2回目と同じく行われた甲21号作戦で香月夕呼をはじめとするオルタネイティブ4の実行者を軒並み失った事で事実上とん挫する結果となった。元々香月夕呼の天才的頭脳に依存する形で進められたこの計画は彼女がいなくなったことで今までのような進行が出来なくなったのだ。
加えてBETAが総攻撃を開始。世界中で戦術機が目撃され、僅か一年で人類はアフリカ以南と北海道、ラテンアメリカを残して全てを失った。特に北海道はカムチャッカ半島が2002年の4月に落ちて以降北方からの防衛もしなくてはならなくなり武が死ぬ直前には安全圏と呼べる場所は残されていない程荒廃してしまっていた。
そもそもあの3回目は武が回避しようと動いた出来事全てが裏目に出る結果となっていた。
クーデターを回避しようとしたら実際よりも早く起こり、政威大将軍である煌武院悠陽が右腕を失う重傷を負う結果となり、甲21号作戦では上述の通り2回目の時を超える損害を出す結果で終わった。
そして武は再び死に、また10月22日に戻ってきたのだ。最初こそ次こそは、という思いで挑み、夕呼とのコンタクトを取り、訓練兵という立場になることも出来たがターニングポイントとも言える甲21号作戦の日付に近づくごとに武の胸の中では不安が広がっていた。
-今度こそ本当に助けられるのか?
-何度繰り返しても同じなんじゃないか?
-むしろ俺が動かない方が事態が良い方に進むんじゃないか?
-俺は何の為に戻ってきているのか?
-いっそ、全てを捨てて逃げた方がいいんじゃないか?
気づけば武の情緒は不安定になり、訓練にも顔を出す事が出来なくなっていた。辛うじて00ユニットに必要な論文を前の世界に取りに行く事は出来ているがそれ以外の行動はもう出来なくなっていた。
「俺は……俺は……」
そしてこの日も武は毛布にくるまり部屋の隅で蹲っている。ブツブツと何かを呟くその姿は誰がどう見ても憔悴していると分かる姿をしており、とても痛ましい様相をしていた。
「白銀? 入るぞ」
「……」
ドアのノック音の後に聞こえてきたのは元の世界でも武の先生だったまりもだった。まりもは蹲る武の隣に座るとゆっくりと話を始めた。
「一体どうしたんだ? みんな心配しているぞ」
「まりもちゃん……」
武はまりもの来訪に気付き、元の世界で言っていた愛称を口にしていた。そんな武にまりもは特に気にした様子もなく話を続ける。
「何があったのかは分からないがきちんと食事はとっておけ。いざというときにお腹がすいて力が出ませんでした、では話にならないからな」
「……」
別に死んでしまってもいい、武は無意識のうちにそう思っていた。そして、どうせ死んだとしても次に目に入るのは
「……白銀。貴様がどんな過去を歩み、どんな経験をしてきたのかを聞く気はない。だがこれだけは言わせてもらう。お前を待っている者たちはここにはたくさんいるんだ。せめて顔くらいは見せてやれ。出来るのなら相談しろ。たとえ解決に向かう事がなかったとしても心は軽くなるのだから」
「……」
まりもの言葉に武は答えない。だが、心にすっと入っていったのも事実であり、それが理解できたまりもはそれ以上は何も言わずに立ち上がり部屋を出るために扉へと向かっていった。
「……まりもちゃん。俺が、
「……もちろんだ。白銀、お前の言葉なら
「俺は……」
武は話し出した。自分の過去を。これまでに経験してきたことを。人類を2回、救う事が出来なかったことを。まりもはそれに対して笑うわけでも貶すわけでもなく静かに聞いていた。
「……以上が、俺が見てきた世界です」
「……白銀」
「っ!?」
突如としてまりもは武を抱きしめる。母性すら感じさせるあたたかな感触に包まれ武は狼狽えるがまりもは気にせずに頭を撫でながら抱きしめ続けた。
「今までお疲れ様。白銀、もう無理をする必要はない。よく話してくれた。後は任せてゆっくりと日々を過ごしていい。
「まりもちゃん……」
「だから今はお休み」
武はまりもに促されるように目を閉じる。暖かいぬくもりに包まれた武は自然と眠気に襲われそれに身を委ねていた。辛い現実を忘れるように。実際に、眠る武の表情はとても穏やかであり、元の世界で過ごしていた日々の感情を取り戻したかのようであった。
「……白銀武。話してくれてありがとう。これですべてのピースは揃った」
それゆえに、まりもが口角を上げてそう言っている事に気付くことはなかった。まりも、正確にはまりもの意識を乗っ取り表層に出てきたあ号標的は武をベッドに寝かせるとその隣に腰を落ち着かせた。
「2回目と3回目。白銀武が死ぬとループすると分かった以上俺がとるべき行動はたった一つだ。ふふ、お前は感謝する事になるぞ。俺はお前を
絶対に殺さない。肉体的にも精神的にも絶対に殺さないさ。だがそれでもお前は必要ない。男に興味はないんだ。お前が女なら考えたけどな。
だからお前には夢を見せてやるよ。お前がいた世界を再現したいつまでも続く平和な日常。映画のワンシーンを永久に体感する事になるが疲れ切ったお前にはそれに気づけず、気付いたとしても抜け出そうとは思えなくなるはずだ。そうすれば外的要因がない限りお前は死なない。つまりループしないで済むというわけだ。
流石に絶対に死なないとは言い切れない。肉体には限度があるからな。だがBETAの技術を用いれば億単位で延命させる事は出来る。それだけ生きられれば俺も満足できる。その時は殺してやるよ」
あ号標的はそこまで言うと再びまりもに肉体を返す。横浜基地の特性上BETAとかかわりを持つ人間がいるとは思わせないためにもあ号標的が出てくる時間はほんの僅かとしていた。
「それじゃまたな。白銀武。近いうちに迎えに行かせるとしよう」
最後にそう言ってあ号標的の意識はまりもの中から完全に消え去った。
-大崩壊を再設定する。
-世界をループさせないためにも今後主人公白銀武は抹殺ではなく保護を最優先事項とする。
-その関係上BETAによる一斉攻勢は白銀武の保護が完了してからとなる。
-それゆえに、我々が行うべき事はただ一つである。
-
-さぁ、俺の切り札たちよ。
-横浜基地を攻撃せよ!
次話は2022/12/25 23:00投稿予定です。
夕呼先生の処遇
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人類と運命を共に
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繁殖場に
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脳くちゅ