【本編完結】BETA転生   作:鈴木颯手

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最終話です。長い間ありがとうございました。そしてここから始まる外伝もお楽しみください。


最終話「大崩壊・終焉の日」

 2002年7月。本格的に夏が到来するこの時期にようやくカシュガルハイヴ地下の大都市の開発に成功した。将来的に地球から酸素と大気がなくなり人間が住む事が出来ない環境になる事を想定して建設していたがついに完成したのだ。大気と酸素が常に供給され、人間が過ごしやすい環境にしてある。これはこのカシュガルハイヴ以外にもいくつも建造されており、いずれは1億人くらいは余裕で済める状態にまでもっていこうと思っている。

 

「夕呼先生。新たな研究室は気に入ってくれたか?」

「ええ。そうね。あたしとしては悪い点を探すのが難しいくらい完璧ね」

 

 大都市の一等地には俺やアイリスディーナ達の住居が並んでいるがその中で唯一住居以外の建造物が建っている。それは夕呼先生の研究室で、前々から希望を出されていたからこの機に作ってみたわけだ。夕呼先生は研究者なだけあって研究しているのが好きみたいだしこれからは思う存分研究に没頭してもらうつもりだ。

 

「それにしても酸素や大気まで作り出すなんてあなたは何を目指しているのやら」

「そうでもしないと俺はともかくアイリスディーナ達が生きている事は無理だろう? あれでも人間と変わらないんだから」

「その辺も改造してあげればいいのに。態々人間の状態を保持するなんてあなたも物好きね」

 

 確かに夕呼先生のいう通りだ。BETAである以上人の形は保っても中身まで同じにする必要はない。むしろBETAのようにどんな環境でも動ける肉体にするべきなのかもしれないが俺としてはそこまでするつもりはない。

 

「こう見えても人間よりも頑丈で多少の悪環境には耐えられる肉体にしてあるんだ。まぁ、態々人間に近づけているのは人間だった頃が忘れられないかもしれないな」

 

 この身だけではなく精神まで俺はBETAに汚染されている。人間が食い殺されても何とも思わないしむしろ人間を生命体として認識できなくなってきている。そのうち夕呼先生たちを認識する事も出来なくなるかもしれない。それもあって人間に近づけておくことで人間のころの様子を保持しておきたいと思っている。

 

「態々不完全な状態にすることで自我を保つ。あなたもどうやら人間としての意識が残っているようね」

「それはないさ。現に俺は()()()()()()()()()()()

 

 2002年1月1日、欧州完全陥落。1月10日、アメリカ崩壊。2月5日、南米確保。2月24日、北アフリカ上陸。翌日スエズ運河制圧。3月10日、北米完全制圧。4月1日、アフリカ南部を残したすべての大地を制圧。そして5月10日、アフリカ南部陥落。この日をもって俺が確保した個体以外のすべての人類は絶滅。地球はBETAの星となった。

 6月からは各地にハイヴを建設しまくりハイヴ数は2001年までと比べて倍以上に増えている。いずれ地下を通じてすべてのハイヴが繋がり、地球は中身がスカスカな死の星となるだろう。

 

「結果的に生き残ったのは僅か1000万ほど。それも大半が繁殖場のやつか。つまり人類はBETAによって家畜となったわけだ。アイリスディーナ達はさしずめ牧羊犬と言ったところだな」

「それならあたしはどう言う立ち位置になるのかしら?」

「知るか。たとえでしかないんだ。態々掘り下げられても答えられねぇよ」

 

 ただでさえ地頭では夕呼先生の方が上なんだ。理論的な話では絶対に勝てない相手だ。だが、そんな夕呼先生も改造済みであるために反抗する事はない。そういう意思は思えば思う程消えていくんだ。だから最終的にはもとから反抗の意思が薄いやつが一番反抗的な心を持っている。そんな皮肉とも言える状態に陥るわけだ。

 夕呼先生やA-01部隊はまさにそうなっている。彼女たちは人類の事は路肩の石程度にしか既に感じていない。BETAに親近感と愛情を持ち、それに対して疑問を持たない。アイリスディーナ達が辿ってきた状況となっているわけだ。

 

「そういえばあなたが作り上げた中華帝国、大規模な間引きをしたそうね」

「そうだ。さすがに人口の3割くらいは普通の人間だったからな。抵抗しなければ繫殖場に、抵抗すれば殺して資源にしたさ」

 

 数年のうちに地球上から大気と酸素は消え失せる。既にその兆候が出始めているんだ。そのために俺が駒としたソ連や東ドイツ、中華帝国の人間をハイヴ内の都市に移住させようとしたわけだが中華帝国にはいまだに何も知らないやつらが大勢いた。だからそいつらを間引きという形で処理した。

 

「間引きは完了したし今はこの地下都市に人類を移送中だ。今はゴーストタウンと化しているこの都市もいずれ規模に相応しい喧騒に包まれるだろうさ」

 

 すべてが改造したか人間級だがだからと言って人間らしい生活をしないわけではないんだ。特に問題もないしそのまま人間らしい生活をさせるつもりだ。

 

「それじゃ俺はそろそろ他の所を見てくるか」

「あらそう? ならあたしはこのままここにいるわ。今まで仕事だった分いろいろと研究したいこととかあるから」

 

 夕呼先生と別れて俺は次に向かう。向かった先は京都防衛戦でゲットした篁唯依が住む日本家屋だ。かなりの豪邸と言える様相となっているが唯依の話によると実家と同じという事らしいからさすがは武家の家系と感心したなぁ。

 

「唯依姫いるか?」

 

 門をくぐり玄関にやってきたが返事はない。まぁ、ここまででかいと声だけでは届かない場所もある。今唯依がいるであろう道場もその一つだ。唯依は予定がない時は冥夜達と一緒に稽古をしている事が多い。人間の時よりも無茶が効く体になったから鍛えがいがあると言っていたっけな。

 道場に顔を出せば唯依のほかに冥夜を始めとする207B小隊の面々がいた。正確には唯依と同じ衛士学校に通っていた者たちもいる。今日は初めて見る大所帯だ。

 

「あれ? どうかしましたか?」

「いや、単純に顔を見にきただけだ。それにしても今日は何時もより多く集まっているな」

「ええ、唯依殿の道場は広く、使いやすいので今日はとことん訓練するために集まったんです」

「私はともかくたまは完全に巻き込まれた形になるけどね」

 

 千鶴の言葉通りなのだろう。彼女の隣でたまと呼ばれた少女がくたばっている。きっとしごかれたんだろう。こんな彼女が狙撃の腕ではこの中でトップというのが何とも言えないがな。

 

「あなたもどうですか? 一緒に汗を流しませんか?」

「遠慮しておくよ。この体は特別性で鍛える事が出来ないしその必要がない物だからな」

 

 俺が使う事を前提としているために人間らしい機能はない。だから汗を流して体を鍛える必要はないし出来ない。メンテナンスをすればそれに比例する事がすぐに完了できるしな。

 

「んじゃ俺は行くわ。訓練も良いが程ほどにな」

「わかりました。では折り返しとして今までにやったことをもう一度やったら今日は終わりにします」

 

 冥夜がそういった瞬間にたまの悲鳴が聞こえてきたがまぁ大丈夫だろう。きっと死ぬことはないだろう。それよりもつらい目にあいそうではあるがな。

 さて、次はどうしようか。この後に回る予定だった面々がみんないたしまわる予定がなかった伊隅姉妹の所に行くか。

 

「よう。伊隅シスターズ。相変わらず元気そうだな」

「そっちこそな」

 

 とある一軒家に来れば伊隅四姉妹がそろっていた。A-01部隊の隊長である伊隅みちるを改造後、彼女に懇願されて四姉妹を回収する事になった。まぁ、四女がまさに食い殺される寸前だったから少しでも遅ければ3姉妹となっていただろうが何とか回収できた。んで全員改造して以降はこうして4姉妹で穏やかに過ごす事が増えているようだ。長女以外は軍人であるために常に臨戦態勢であったことの反動かな。残念ながら4姉妹の思い人は食い殺された後だったからあきらめてもらうしかないがその辺は後に引かないように改造済みだ。場合によっては忘れさせてもいいかもしれないな。

 

「ん? 何してんだ?」

「見ての通りカードゲームだ。あんたが作ったやつの一つだよ」

「……あー、それかぁ」

 

 伊隅4姉妹はテーブルを囲んでカードゲームをしていたがやっている物が微妙過ぎた。何しろやっているのは友情破壊ゲームの異名を持ったカードゲームだからなぁ。あれをやるとマジで信用って言葉が無価値に思えてくる。

 

「あー、まぁ。程ほどにな」

「わかっている。……あきら、これはねずみだ」

「本当? 信じるよ?」

「姉を信用できないか?」

「わかった……」

 

 あーあ。後ろから絶叫が聞こえてくるからきっと騙されたんだろう。4姉妹の絆にひびが入らないことを祈るか。

 

「……む」

「……お」

 

 次はどうするかと考えながら歩いていたらアイリスディーナと遭遇した。東ドイツの軍服を着ているという事は戦術機に乗っていたわけではなさそうだな。

 

「見回りか?」

「そうだな。夕呼先生とか唯依とか伊隅4姉妹の所を見てきた。新しい家には慣れたようだし作った甲斐があったというものだ」

「それはよかったな」

 

 そういう会話をしながら俺とアイリスディーナは歩く。碁盤の目になるように作ったこの町は道が直線状にずっと続いている。そんな道を歩いているとふとアイリスディーナが話し始めた。

 

「……正直に言って改造された当初はこうなるとは思っていなかった。正確には()()()()()()()()()()()()()()

「……BETAが駆逐されることを望んでいたと?」

「ああ。そうだ。その時はまだ私にも人類を思う気持ちがあったのだろう。そんなもの、()()()()()()()()()()()()()()

「それはそうだ。そうなるように改造したんだから」

 

 思えば思う程それがどうでもいい存在となる。改造した者たちに共通する事項だ。

 

「だからこそ私は今この状況に満足してしまっている。ふふ、祖国を守るために戦っていた私も堕ちたものだな」

「そんなことを言うのなら俺はBETAとなって積極的に人類を駆逐し始めた最悪の裏切り者さ。気にするだけ無意味な事だ」

 

 そう、すでに人類は滅びたんだ。である以上そんなことを考えるよりもこれからを考えるべきだろう。

 

「アイリスディーナ・ベルンハルト。人類は滅びたがだからと言ってお前の役目は変わる事はないんだ。これから戦術機部隊の長としての活躍を期待しているぞ」

「ふ、一体何と戦わせようとしているのかは分からないが精々期待以上の活躍を見せてやろう」

「ああ、期待しているよ。……さぁ、次の楽しみを探しに行くとするか」

 

 俺はそう言って嗤った。

 




次話は2022/12/31 23:33投稿予定です。

あ号君の名前に関して

  • 名前なんていらねぇ!
  • 呼びづらいからさっさとつけろや!
  • てめぇに任せられねぇ!変わりにつけてやる
  • あ号君が本名でしょ?何言ってるの?
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