「つまり、あの門の向こうには別世界が広がっているという事だな?」
10年ぶりに感じる興奮を抑えつつ俺はアイリスディーナに問いかける。あの襲撃から二日が経過し、漸く状況整理がついたところだ。
「はい。闘士級を複数体と人間級数名を偵察に向かわせた結果、門の先は平原が広がっていたようです。こちらがその写真になります」
そう言ってアイリスディーナはモニターに写真を映し出す。あ、ちなみに俺たちがいるのは都市の地下に作ってある会議場だ。U字の形に並んだテーブルには俺やアイリスディーナの他に夕呼先生や伊隅みちる、篁唯依などの主要メンバーが参加しているよ。
んで、写真だが確かに平原だ。向こうは昼らしく降り注ぐ太陽光に一面に渡り生い茂る野草。歩きづらそうな山や丘など地球では見られなくなった自然の姿がそこにはあった。
「見る限りこの世界ではなさそうだな。で? 襲撃者に関して情報は?」
「今は急ピッチで翻訳作業を進めているところよ」
俺の質問に答えたのは夕呼先生だ。ぶっちゃけこの人のおかげでこの都市が機能していると言っても過言ではない程の成果を出している。今回の翻訳作業も夕呼先生に丸投げしてしまっているし。
「翻訳は4割が完了しているわ。ただ、向こうの固有言語らしい一部の単語の翻訳に手間取っているわ。それさえ完了すれば解析はほぼ出来たも同然なのだけど……」
「いやいや、たった二日で4割完了している時点でヤバいよ? 俺だったら一月はもらわないと」
思い出すのは中国語を学ぼうとしていた時の事だ。あの時は会話を成り立たせるのに多くの中国人を犠牲にしたなぁ。今となっては懐かしい日常の一コマだ。
「それで今の状態で得られた情報は
敵が帝国という国名である事
こちらには征服と侵略、後は略奪を目的にしている事
人間とは違う種族が存在する事
くらいかしらね。まぁ、帝国の兵士たちの装備を見る限り火薬兵器が登場する前、中世までの文明である可能性が高いわね」
「なるほどね……。異世界ファンタジーか」
「異世界ふぁんたじー?」
ああ、そうか。夕呼先生たちこの世界の人間は知らないんだよな。そもそもこの世界自体娯楽がほとんどないからサブカルチャーも発展しなかったのか……。
「要は異世界、つまりこことは異なる世界という事だ。はっきり言おう。異世界を俺たちの常識で当てはめるのはやめておけ」
「それほどまでに危険なんですか?」
「危険というよりは何が起こってもおかしくはないんだ。それこそBETAを超える力を持つ者がいるかもしれないしな」
自分としては某宇宙人による格闘漫画のようなヤバい奴らがうようよいる世界ではないことを祈りたい。あんなのが大量にいてはBETAなんて物量という強みが無効化されてしまうからな。
「……だが、少なくとも門周辺にいるのは帝国で確定している。そして帝国は圧倒的に技術力で劣っているくせに俺たちに襲撃を仕掛けてきた。……態々こちらから手を引いてやる必要はないよな?」
やられたらやり返す。俺たちに手を出したことを後悔させてやる。だが、別に怒っているわけではない。久しぶりの興奮を覚えるような出来事を提供してくれたあいつらには感謝しているんだ。是非とも最後の一滴まで搾り取って楽しみたいところだ。
「それではすぐにでも異世界へとBETAを派遣しよう。残念ながら要塞級が通れる大きさではないが突撃級、要撃級さらには戦術機も辛うじてだが通る事が出来る。ハイヴ建設も視野に入れて大規模侵攻と行こうではないか」
「それならまずは戦車級を偵察兵代わりにだしましょう。ないとは思いますが敵の反撃でこちらが損害を受ける可能性もありますので」
確かに戦車級は最も数が多いが能力としては問題ない。この世界でも歩兵はバズーカとかを使わないと倒せない程度の頑丈さに戦車程度なら破壊できる筋力もある。そして戦車級は100だろうと1000だろうと失っても懐が全く痛まないコストの安さもある。前衛としては申し分ないか。
「よし、ならそのようにしよう。アイリスディーナ、唯依姫、伊隅次女が連携して指揮を執れ。ぶっちゃけ用兵に関しては俺よりもお前たちの方が上手いからな。臨機応変に対応してくれ」
「「「了解!」」」
「さぁ、諸君。新しい世界に行こうではないか」
ゾルザル・エル・カエサルが
とはいえ最初こそゾルザルはそれに対して興味はなかった。そもそも異世界側が積極的な侵攻を行っていない事は明らかな上に妹であるピニャ・コ・ラーダが率いる薔薇騎士団が偵察任務に出ている事から自分から動く必要はないと静観していた。むしろこの失敗で皇帝の権力が落ちれば自分が皇帝になる機会が高まるとさえ考えていたがそこに待ったをかけた人物がいた。
「ここで殿下自らが別の世界に軍を送り成功させることで殿下の権力を高めるのです」
元
「これで俺は皇帝にさらに近い存在となるのだ!」
そう確信していたゾルザルだが彼のもとに入った報告は最悪なものだった。
侵略先の巨人によって門を潜った軍勢の9割が死亡。
その三日後には逆侵攻を受ける。
侵攻してきた軍勢は化け物ばかりであり、次々と人を食べた。
化け物は基本的に人よりも巨大であり、馬よりも速いスピードだった。
現在は草原一帯が敵の支配下になっている。
と、見方によればモルト皇帝以上の失態をやらかしたと言える。侵攻失敗より約二週間。この失敗をゾルザルは隠してこれたが化け物が侵攻を始めればたちまちゾルザルの失態が知れ渡る事となるだろう。
「くそ! なんとしても奴らを駆逐せねば……!」
ゾルザルは自分の邸宅にてそう焦りを零す。そんな彼をテューレは冷めた目で見下していた。自分を奴隷としたゾルザルに復讐するためにゾルザルを積極的に行動する馬鹿として仕込んだ彼女はその一環として異世界侵攻を提案していた。
そもそも、帝国が門の先を侵攻先に選んだのは近場に侵攻できる場所がなくなったからであり、帝国としても異世界への侵攻は初めての試みだったのだ。それが盛大に失敗したことを考えれば今回も失敗する可能性が高いというのは簡単に想像できた。
結果的にゾルザルは失敗し、自分の失態を隠そうと焦りを見せ始めている。こういう時は少し甘い言葉をかけるだけで楽だとテューレは更なる一手を打とうと動き出す。
「殿下、こうなっては仕方ありません。帝国軍を用いましょう」
「馬鹿な……。既に帝国軍は敗れ去っているのだぞ? しかも大半はいまだに練兵中だ。とてもではないが使えないぞ」
「ええ、ですので怪異を使うのです。敵の化け物にはこちらも怪異を用いて対応するのですよ」
「なるほど……。確かに怪異は大量に存在する。帝国兵が少なくなっている以上管理する個体数を減らす意味合いでも使用できるか……。よし! では早速その通りに動こう!」
ゾルザルは良い解決策が出来たと喜びさんで部屋を出ていく。その背をテューレはうまくいったと歪んだ笑みで見送るのだった。
あ号君の名前に関して
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名前なんていらねぇ!
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呼びづらいからさっさとつけろや!
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てめぇに任せられねぇ!変わりにつけてやる
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あ号君が本名でしょ?何言ってるの?