「前進!」
アイリスディーナの指示により、突撃級を先頭にBETAが動き出した。門の出現より二週間。周辺の草原を完全に制圧したBETAは橋頭堡を確保できたとして侵攻を開始した。前日には化け物が攻勢を仕掛けていたが大半が戦術機級や戦車級に蹂躙されてほぼ全滅している。もはや彼らの侵攻を阻む存在は周囲に存在しなかった。
「見れば見る程懐かしい光景だ」
アイリスディーナは目を細めながら懐かし気に草原を見つめる。草原に見覚えがあるわけではない。ただ、惑星の地表に自然が存在するというのがアイリスディーナにとっては久しぶりの光景なのだ。
「アイリス、私は東に向かう。西は任せたぞ」
「ああ、任せろ」
伊隅の言葉にアイリスディーナは返事をして自分が担当する西側を見る。草原のはるか先には山脈がそびえたっており、とりあえずはそこまでを支配下に置くことを最初の目標にしてあった。
この二週間で夕呼による言語翻訳が完了し、情報を得られるようになった。それによって帝国の情報をある程度入手できるようになっていた。そして、その情報の中には同じように門を開き、失敗して逆に侵攻を受けているアルヌスに関してもあり、アイリスディーナは興味を持っていた。
「(鉄の象に鉄の天馬……。もし、これらが戦車やヘリを表しているのならこの異世界最大の脅威になりうる存在となる。最悪の場合ミサイルを撃たれて門を破壊されてしまう可能性もある。レーザー級による対空迎撃とハイヴの建設を急がせるか……)唯依、ちょっといいか? ハイヴに関してだが……」
門周辺の防衛を担当する唯依に今後の状況を話す。あ号標的はまだこの異世界には降り立たず、アイリスディーナ達に全てを一任していた。
「(楽しみと言いながら積極的に動きはしない。……彼は一体何を考えているんだ?)」
どこか不気味とさえ感じるあ号標的の様子にアイリスディーナは恐怖を感じつつ自分に与えられた役目を淡々と果たしていく。
この日、帝国はファルマート大陸東部を喪失した。その地に住まうすべての住人は逃げた者以外すべて捕らえられ、繁殖場やG元素に変換されることとなる。特に亜人と呼ばれる者たちは研究対象として解剖などが行われ、繁殖場に優先的に回されることとなる。
特別地域、通称“特地”と呼ばれるこの世界に進出した自衛隊は一月にも満たない期間の間に様々な出来事を経験していた。まず、異世界において最強の存在と言ってもいい特地甲種害獣、炎龍との戦闘や帝国の要衝イタリカの防衛やそこを襲った賊の殲滅。更には帝国の皇女ピニャを介した講和交渉の開始など、とても濃い時間を過ごしていた。
「陸将、帝国東部が何者かによって占領されたとのことです」
そんな自衛隊にBETAの動きが伝わったのは大陸東部陥落から僅か二日の出来事だった。見知らぬ土地にやってきた自衛隊は門の防衛体制を固める一方で偵察隊を組織して周辺地理の把握に専念していた。そのために比較的早い段階で情報を入手出来ており、同時に帝都に向かった外交官からも同様の連絡が入っており、信ぴょう性は高いと判断されていた。
「どうやらここ以外にも門が開いたようで帝国はしっぺ返しを食らったようです」
「つまり我々と同じように帝国に反撃しているという事か?」
「どちらかと言えば逆侵攻をしていると言った方がいいでしょう。彼らは僅か数日で帝国の東部を占領しているのですから」
一体その者たちがどんな勢力かは分からないが接触する場合は穏便に、そして友好的に行きたいと特地に派遣された自衛隊の総指揮官である狭間陸将はそう願った。帝国を一方的に反撃できる力と進行速度から見ても機械化された軍隊である可能性が高く、場合によってはこちらと同等の技術力を持っている可能性すら感じられた。であればそんな者たちと戦闘すれば両者に被害が出るのは確実だ。ただでさえ特地に自衛隊を派遣する事に反対する意見は多いのに戦闘すれば撤退すらあり得るだろう。
「……今は様子見だな。偵察隊を出して情報取集に専念するんだ。もし、攻撃を受けた場合は撤退を優先させるように」
「はっ!」
狭間陸将に報告を行った柳田はそう指示を受けると部屋を後にする。今はまだ情報が少なく推察する事しか出来ないがその勢力が日本に敵対的な存在でない事を祈るのだった。
「これは中々面白い技術ね」
夕呼は都市の中心部に突如として現れた門の解析を行っていた。この解析作業を始めておおよそ一週間。まだまだ分からない事が多いがそれでもこれが科学技術を用いた物ではないという事だけははっきりと判明していた。
「夕呼先生、これは本当に科学ではないのか?」
「そんな物ではないわ。これを科学で再現しようというのなら後30年くらい先の技術が必要よ。これは同じ世界に瞬間移動するのとはわけが違うのよ。異なる世界に道を作る。とてもではないけど既存の技術じゃ再現なんて出来ないわ」
「となるとこれは魔法、か」
「魔法、ね。随分とロマンティックな言葉を使うのね。でもその通りよ。これは一種の超能力のようなもので作られているわ」
この世界にはあくまで転生した存在であるあ号標的にとっては魔法という言葉の意味は異世界ファンタジーにおけるそれである。しかし、そんな娯楽が存在しないこの世界で生まれ育った夕呼にとっては少し意味合いが違っている。夕呼が考える魔法とは錬金術などの非科学的現象の総称でしかないのだ。
「どちらにしろこれを俺たちではすぐには作れないわけか……」
「ええ。だからこれが欲しいのであればあちら側でこれを作り上げた人から聞き出すしかないわ」
「……」
あ号標的は少し厄介だと感じる。ただ蹂躙するのであればBETAを動かすだけでいい。しかし、特定の人物を捉えるとなるとそれは出来ない。そいつがどんな奴なのか分からない以上下手にBETAを侵攻させては誤って殺してしまう可能性がある。最悪の場合、すでにそうなっている可能性もあった。
「……仕方ない。侵攻は始めたばかりだが一旦停止させよう。そしてこの世界の人間をベースとする人間級を四方八方に送り出して情報収集をさせるべきだな」
「それが最善ね。どうせならESP能力も付与してみれば? あれは中々有用だと思うけど?」
「それもそうだな。試してみるか」
あ号標的はどこか楽し気に人間級の改造プランを考えながら門を離れていく。そんな彼の様子を見ながら夕呼は呟いた。
「あ号標的、貴方は本当にBETAという人間とは相容れない存在なのね。
あ号標的が燃え尽き症候群に陥った理由や門開閉後に楽し気にしている様子から彼の精神を読み取った夕呼は改めてあ号標的というBETAに恐怖を抱くのだった。
次話は2023/01/03 23:08投稿予定です。
あ号君の名前に関して
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名前なんていらねぇ!
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呼びづらいからさっさとつけろや!
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てめぇに任せられねぇ!変わりにつけてやる
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あ号君が本名でしょ?何言ってるの?