アイリスディーナ達はこの世界に関する情報をある程度入手できるようになっていた。四方八方に放った人間級から毎日情報が送られてくるためにその精査で時間を取られるくらいには膨大だった。
その中の一つにどうしても無視できない情報が存在した。
「炎龍。架空の生物であるドラゴンね……」
「どうやらこれは私たちを襲った帝国の聖地アルヌスより南に位置する森に住みかを作っているようだ。だが、数日前より炎龍が姿を消したと」
「巣を移したという事ですか? であればどこに巣を作るかですが……」
「そうではない。炎龍はまっすぐにこちらに向かってきているようだ」
唯依の推察を否定してアイリスディーナは炎龍の動きを伝える。人間級からはリアルタイムで飛んでいく姿も確認できている。それに付き従うように飛ぶ二匹の龍の姿も。
「……私たちを攻撃しようとしていると?」
「そのようだ。だがドラゴンはそもそも一生物に過ぎず、わざわざ巣を離れてまでこちらにやってくる理由がない」
「つまり誰かが操っていると?」
「可能性が高い。そうなると我々がどう動けばいいかだが……」
アイリスディーナ達はまだ知らないが炎龍は空飛ぶ戦車の異名を持つ厄介なドラゴンである。自衛隊ですら炎龍を安全に仕留める方法に大部隊による高火力砲撃を提案するくらいだ。鱗も硬く、モース硬度は9を誇っている。
「レーザー級100、重レーザー級10。現在この世界に進出しているすべてのレーザー属種及び戦術機級20を投入する。敵の強さが分からない以上全力で以て対応するべきだ」
「それもそうだな。私は賛成だ」
「私も賛成です。一応他のBETAも囮として投入しましょう。空を飛んでいるとはいえ囮には役立てると思うので」
アイリスディーナが提案した戦力ははっきり言って過剰戦力過ぎた。そもそも、炎龍はレーザー級が数体いれば方がつく。モース硬度9とはいえBETAからすれば紙装甲に等しい。ましてや重レーザー級の攻撃など受ければどの部位に当たっても即死に至らしめるだろう。
さらに言うのであれば戦術機級の突撃砲でも炎龍を討伐可能だ。36㎜はともかく120㎜なら確実に炎龍にダメージを与えられる。弾薬の種類ではさらに簡単になるだろう。
「とにかく我々は炎龍が到達するポイントにこれらの戦力を配置する。もし炎龍が進路をずらす場合はそれに沿って動かすが最悪の場合は戦術機級のみで対応する事になる」
「ならレーザー級の指揮は私が執ろう」
「では私は囮部隊の指揮を」
「という事は私が戦術機級の指揮だな。……炎龍をしとめるぞ」
「ああ」
「はい」
「……」
テューレは自らに与えられた部屋に戻ると天井を見ながら考えていた。ゾルザルを唆して怪異を投入させることには成功していた。そしてファルマート大陸東部を占領してしまっていることも判明している。
だが、そいつらはまさに化け物と呼ぶほかない奴らだった。密偵のボウロが放った者たちは9割が殺されており残った数名が命からがらな状態で情報を持ち帰っていた。
「人のみならず大地まで喰らう化け物、ね。まるでイナゴじゃない」
ゾルザルはまさに開いてはいけない世界に門を開いたのだ。場合によっては日本すら霞んで見える程の脅威となるだろう。
「そしてそんな奴らを率いている女たち。彼女たちはこの世界からすれば悪魔に等しいわね」
別に化け物がいくら暴れようともテューレとしては何の問題もなかった。むしろ帝国の力が弱まると喜んでさえいる。問題は別にあった。
「まぁ、貴方たちからすれば化け物を許せるわけないわよね」
ボウロからのもう一つの情報。それは炎龍が二匹の新生龍と共に化け物の勢力圏に向かってるというものだ。新生龍の背にハーディの使徒であるジゼルが乗っていた事から神々が動き出したことを示していた。それもアルヌスの門の破壊に用いるであっただろう炎龍を投入している事から優先度が逆転したという事だろう。
テューレはこのまま化け物が負けてしまうのではないかと不安を覚えていた。炎龍とはこの世界において天災そのものであり、相対すれば死は確実とさえ言われている存在だ。化け物がいくら数が多くても炎龍に勝てるとは思えない。ましてや新生龍二匹も一緒ならば一方的に蹂躙されてしまうと考えていた。
「せめて、少しでも帝国の力を削いでから死んでよね」
テューレは炎龍の勝利を疑う事すらなく化け物、BETAが門に逃げずにファルマート大陸に散って人々を襲う事を願うのだった。
「へぇ、ここが帝都か」
Q.俺が今いるのはどこでしょう?
A.帝国の帝都
そう、俺は今帝都にいる。いつも使っている中国人の体は目立つためにこの世界の人間に合わせた人間級の一体を操作している。帝国はどうやらローマ帝国っぽい要素が多くみられる。街並みや人々の服装とかもそれっぽさが出ている。
「ん? あれは……」
俺はもう一人の人間級と一緒に悪所? って呼ばれているところに来てみたがまぁ、酷い場所だ。スラムって言葉がぴったりな場所だ。そして帝都内では珍しい亜人達の巣窟だ。人間至上主義らしい帝国における亜人の掃きだめってところだろう。
そしてそんな悪所で面白い人物を見つけた。斑模様の服、つまり迷彩服に身を包んだ人物だ。明らかにこの世界の人間ではない。という事は彼が自衛隊、この世界とも違う別の異世界から者たちなのだろう。
「よう! お前なんか変な格好をしているな!」
「っ!! ……!?」
「ん? 俺の言葉分からないのか?」
気さくに話かけたせいだろうか。自衛隊員は驚いて言葉らしい言葉を言えていない。まぁ、仕方ないだろう。誰だっていきなり気さくに話しかけられて驚かない奴なんていないし、しかもそいつが見知らぬ人物だったら困惑するだろう。
「ところでお前って誰?」
「自、自分は……!」
「ああ! 最近噂の自衛隊ってやつだろう?」
「そ、そうですけど……」
「態々こんな悪所に来たって事は帝国の偵察か? ご苦労なこったな。こんな掃きだめのような場所までくるなんて……」
正直に言ってここはあまり居心地がよくない。別に悪所が悪いわけではない。帝都のどこだって、おそらくこの世界のどこでだって俺は居心地が悪いだろう。理由は簡単だ。周りにいるのは何時敵になってもおかしくない、俺が改造をしていない、作った者たちではないからだ。
「ま、お前も頑張れよ。帝国に気付かれれば兵を投入されて皆殺しだろうからな」
「は、はぁ……」
最後まで困惑したままの自衛隊員から離れる。帝都も悪所も表面は確認できた。珍しさはあるがそれだけの場所だったな。具体的に言えば生活している人がいる古代ローマの遺跡って言葉がぴったりだ。遺跡に興味ない俺としては退屈だ。炎龍っていうドラゴンが接近しているらしいしそちらの方を見てみようかな。
「それじゃ俺は帰る。後の偵察はきっちりと行えよ?」
「了解です」
従者のごとく後ろにいた人間級にそう言って俺は操作をやめ意識を戻す。今頃操作から解放された個体は偵察を再開しているだろう。こういうところが遠隔操作の利点だよなぁ。
「さて、それじゃ何時もの肉体で炎龍との戦闘を見学するとしますかね」
負けるなら負けるで問題はない。その時は門を破壊して帰ればいいだけの話だ。もったいない気がするが勝てない相手をこちらに引き入れる必要はないわけだしな。
だが、討伐出来るようなら是非とも炎龍は回収したい。あれ単体だけでも膨大な情報の塊だ。夕呼先生に渡せば従順なクローンでも作ってくれるだろう。何ならBETAとしての改造を施してドラゴン級にしてしまうのもありだな。いやぁ、楽しみだなぁ。早く来ないかなぁ。でもその前に俺が向かわないとな。
頼むから向かうまでに戦闘が始まるなんて事にはなってくれるなよ?
次話は2023/01/05 23:18投稿予定です。
あ号君の名前に関して
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名前なんていらねぇ!
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呼びづらいからさっさとつけろや!
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てめぇに任せられねぇ!変わりにつけてやる
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あ号君が本名でしょ?何言ってるの?