「面白いことになったな」
アメリカ合衆国大統領のディレルは日本が門を通じて繋がったもう一つの地球ともいうべき世界の宇宙人と会談するという話を聞き、そう言葉を漏らした。アメリカにとって特地とはフロンティアであり、未開拓の大地という思いが強かった。それゆえに日本政府に対していろいろと援助を行いつつ特地進出の機会をうかがっていた。
そんな特地に厄介な宇宙人がいると発見されたのはつい最近の事だった。とは言え最初こそディレルは日本からもたらされた情報を信用しなかった。何しろその宇宙人というのが日本で開発・販売されている18禁ゲームの敵だというのだから。
「日本がついに現実を見えなくなったのかと思ったが違うようだ。それでもいまだに信じるのは難しい」
「お気持ちお察しします大統領。我々も確たる証拠や情報を入手した今でも半信半疑といった具合なのですから」
しかし、そこは超大国アメリカである。即座に様々な分野から情報を集めるとそれが真実であると真っ先に理解し、準備を開始していた。いまだ他国ではサブカルチャーの見過ぎだとみなして取り合わない国しかない状況でのアメリカの判断は迅速と言えた。
「とにかく日本政府と会談するというのなら今は見守るのみだ。会談の様子は見る事が出来るのか?」
「相手側の要望によりビデオ撮影が行われ、編集なしで各国に渡す事が決まっております」
「それはつまり彼らは我々と取引を望んでいるという事だ。そして門を閉じさせたくないのだろう」
ディレルはあ号標的の狙いを正確に見抜いた。日本政府が今後門からの撤退を選んだとしても会談の内容次第では世界中の国々がそれを阻もうとしてくるだろう。それでも強硬手段に出たとすれば日本は国際的信用を落とす事になる。最悪の場合世界から孤立する可能性すらある。そうなれば日本と領土問題を起こしている国々が何かしらの動きを見せてくるだろう。
「なるほど……。ではエイリアンどもは我々を満足させられるだけの物を持っていると?」
「クリアロン君。君はエイリアン共が登場するゲームを概要だけでも見たかね? 見たのであればそのような言葉は出てこないはずだよ。エイリアンどもがどんなものを出すかは分からないが確実に世界が欲しがるもののはずだ」
クリアロンの懐疑的な言葉にディレルはそう言って断言した。実際、マブラヴ通りの世界であるのならどんなものでも魅力的だろう。あちらの世界ではあり触れた物でもこちらではその何十倍の価値がする場合だってあるのだ。ディレルはそう言ったものがこの世界に流れてくることを期待しつつ、自国の利益になるように準備を進めていた。
「是非ともエイリアンを我が国に招待したいものだ。前回は失敗したが今回はあの時以上に合衆国に利益をもたらしてくれるだろう」
「わかりました。日本政府に圧力をかけてみます。エイリアン側も我々の招待を受けない、という可能性は低いでしょうからね」
マブラヴの世界であろうともアメリカは強大な国家として存在していたのだ。それは彼らにも分かっているだろう。たとえ分かってなかったとしてもこの世界においてもアメリカは超大国として君臨をしている。日本政府程度強請る事は容易かった。
こうして、アメリカが着々と準備を進めていく中でロシア、中国と言った大国も情報が真実だと気づき、水面下で動き出したがその時点ですでにアメリカに大きく後れを取っていたのだった。
「大変な事になった……!」
伊丹耀司がすべての事を知った時には事は終わった後だった。耀司は異世界で出会った三人娘の一人、レレイ・ラ・レレーラの学都ロンデルでの発表に会わせて留守をしていた間にあ号標的が自衛隊と接触。耀司が戻ってきたときには日本政府との会談日すら決まりその日を待つのみの状態だった。
「あれが……」
「ああ、自分からあ号標的と名乗った。つまり、エロゲーの世界ではない可能性があるという事だ」
「分からないですよ?
「転生者、ね……。こちらとしてはその方がやりやすいな」
耀司は自衛隊の宿舎前でなぜかバーベキューをしているあ号標的達を遠目で見ながら柳田と話をする。見た目は中華風の好青年といった感じだがあ号標的を名乗った以上あれが本当の姿かどうか疑問すら感じてしまう。その理由の一つとしてここまでたった三人で来るだけのフットワークの軽さも存在していた。
「……あれって!?」
「気付いたか? すくなくともあの世界は1983年より後という事だ。それも東ドイツが陥落したとみて間違いはない」
「……」
フードを外し、バーベキューをつついているアイリスディーナ・ベルンハルトとカティア・ヴァルトハイムの姿に耀司は驚き、柳田は警戒する。マブラヴオルタネイティブのスピンオフ作品で去年完結したばかりのシュヴァルツェスマーケンの主要人物二人が敵であるはずのあ号標的と一緒にいる。それがどれだけ不自然なのか耀司には痛いほど理解できてしまった。BETAと和解できた、とは考えない。すくなくとも特地においてはBETAが本来の用途通りの見せているのだから。人間と和解したとは思えない行動だ。
「……それで? 三人娘はどうしているんだ?」
「ああ、レレイとテュカはロゥリィに付き添って街に隠れているよ。流石にあの警戒しようじゃな」
ジゼルが捕まり、拷問ともとれる悲惨な状況にある事は主神であるハーディを通じてすべての神に伝えられている。そして今後亜神が狙われる可能性も高い事から近づかないようにと命令が伝えられており、ロゥリィもその命を受けてBETAの親玉が来ていると聞いてからは常に周囲を警戒するようになってしまったために、信頼できる者たちだけで町に隠れる事になったのだ。
「その方がいいだろう。あんまり言いたくはないがおそらくここが特地で一番安全だ」
「……そうなのか?」
「ああ。最近入った情報だがBETAが動き出した」
「っ!?」
「一斉に西に動き出している。つまり、BETAは帝国と会話する気がないという事だ」
「でも今更なんで……」
「それはあ号標的との会話で判明している。やつらは門を作り出す技術を欲していたようだ。だからそれが誰かは分からないうちは動きを止めていた。そして」
「それが分かったから、用済みと判断されたって事か……」
「その可能性が高いだろう。今は急ぎ帝都から外交特使を呼び戻している最中だ。帝都は目と鼻の先だからな……」
耀司は想像する。突撃級に吹き飛ばされ、要撃級に潰され、無数の戦車級に食い殺される特地の民たちを。それを思えばバーベキューをして楽しんでいるあ号標的が本当の宇宙人に思えてくる。すくなくとも転生者であったとしてもその中身は既にBETAと同じになっているとさえ思ってしまった。
「そんな状況にもかかわらずに世界中ではあ号標的を招待しようという国が多い。特にアメリカなんて真っ先に名乗りを上げてほぼ決定事項のような感じにさえなってしまっている」
「あ号標的はそれを了承しているのか?」
「あいつが望まなかったら決定事項になんてなっていないさ。すくなくともあいつはどこの国が影響力を持っていて誰に接近すればいいのかを理解しているようだ。厄介な相手だよ」
日本政府は門が通じているから便宜を図っているだけで目標はお前らじゃないと言わんばかりに両者の動きは早すぎた。それだけに柳田は両者が合意に至った場合、どのような事になるのかを想像が出来なかったが悪夢と呼ぶにふさわしい事になるだろうと予測はしており、耀司にもそれがなんとなくだが察する事が出来、憂鬱な気持ちとなるのだった。
それと今さらですが特地の地図は漫画版を描いている”さを”さんのものを参考にしています。
次話は2023/01/11 23:29投稿予定です。それ以降に関しては体調次第です。
あ号君の名前に関して
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名前なんていらねぇ!
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呼びづらいからさっさとつけろや!
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てめぇに任せられねぇ!変わりにつけてやる
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あ号君が本名でしょ?何言ってるの?