「ふむ、敵は強大だがこの程度ならまだ何とかなるな」
アイリスディーナは自らの戦術機に乗りながら周囲に散らばるこの世界で遭遇した機械の残骸を見回す。アイリスディーナ達はまだ知らないことだが“レギオン”と呼ばれる青い外装を持った多脚戦闘機械であり、この世界の人間を脅かす無人殺りく兵器であった。
このレギオンを開発した国家は運用直後に革命で滅びてしまっており、主人をなくしたレギオンたちは独自でリーダーを作り、人間の抹殺に動き出していた。
アイリスディーナ達がいる位置はそんなレギオンによって侵攻された国家の領土におり、無人と化した都市にいた。
「この調子であれば問題はないでしょうがやはりBETAの損耗が気になりますね」
たった一度の戦闘でBETAは半数がやられてしまっていた。そもそも、レギオンはBETAの上位互換ともいうべき存在である。同じように大量に存在し、動きが俊敏で人間を襲う。そして彼らはそれぞれ人間を殺すには十分すぎる武装をしている。遠距離武器を何も持っていないBETAはむしろこれだけよく生き残ったというべき数であった。
「ベルンハルト大尉。各戦術機の点検が終わりました。全機出撃可能です」
「分かった。ではこれより我々はさらに前進し、敵の情報をさらに集めるぞ。今回の襲撃で敵にも我らの事はおおよそ伝わっているはずだ。全機気を抜かずに進むように」
「了解!」
現状においてBETAの中でナンバー2の位置にいるといっても過言ではないアイリスディーナの命令に従いBETAはさらに進み始める。最終的には門周辺の地域を完全に確保し、補給を円滑に進められるようにしたいと考えていた。
「(この死と隣り合わせの感覚。BETAと戦っていた時を思い出すな。あれから数十年。随分と遥か昔の記憶になってしまったものだ……)」
兄を売ってまで助かった結果がこれか、とアイリスディーナは自分の人生をふと振り返った。東ドイツ陥落とともにBETAにつかまり、改造されて以来BETAの手先として人間を滅ぼす手伝いを行ってきた。時には自らBETAを指揮して人類と戦ったこともある。兄が見れば嘆くような現状もアイリスディーナは自嘲こそすれ後悔や反抗心を抱くことはない。そういう風に改造されたのだから。
アイリスディーナはBETAに仕える現状に不満も不安もない。ただただ満足してしまっているのだ。たとえ、改造される前に崇高な意思を持っていたとしてもそれをかつての記憶としてとらえてもそれを今の自分とは別の存在として考えてしまうのだ。アイリスディーナ達あ号標的によって改造された者たちは皆そのような状態にあったのだ。
「(どちらにせよ今の私がしなくてはいけないことは人類を滅ぼすことだ。あいつが飽きないように次の獲物を見つけないと……)っ! レーダーに反応があるぞ! 総員警戒を厳となせ!」
アイリスディーナは突如としてレーダーに映りこんだ影に気づき全員に警戒するように伝える。レーダーに映る影は次第に大きくなっていき、それが目視で確認できるようになるがそれを見たアイリスディーナは怪訝そうに眉を顰める。
「鳥? いや蝶か? 機械で出来ているという事はこれも奴らの仲間なのか?」
飛来したのはこれまでに戦った敵よりも小さい蝶のような姿をした機械だった。しかし、一体一体は小さいそれらだが太陽の光を通さないほどの大群でもって近づいてきていたのだ。そしてその蝶の飛来とともにレーダーは反応が悪くなり、瞬く間に使い物にならなくなっていった。幸いな事に短距離での通信は辛うじて行えているがあ号標的との通信は不可能となり、状況を知らせることは出来なくなっていた。
「敵が接近している可能性がある! 総員警戒を怠るな!」
『大尉! 前方に敵の大群が見えます! 総数は不明ながら100は超えています!』
通信とレーダーを封じたうえでの物量攻撃。アイリスディーナは少し深く入りすぎたか、それとも敵を侮りすぎたと後悔するがその考えを脳の隅に追いやり命令を出す。
「仕方ない。ここは撤退する。アネットとイングヒルト、それと唯依達京都組が殿を務めろ」
『『『『『了解!』』』』』
京都組と呼ばれる京都防衛線時に改造された篁唯依達と近接戦のスペシャリストにして継戦能力が高いアネットと同じく継戦能力が高いイングヒルトが殿として残りは撤退をするべく動き出した、……が。
「っ!? 何だ!?」
突如として戦術機はエラーを大量に発生。跳躍ユニットから火を吹き地面へと落下したのだ。それはアイリスディーナだけではなく、全ての戦術機が同じであり、中には爆破し、完全に壊れてしまっている機体も存在していた。
『跳躍ユニットが損傷! 先ほどの蝶の機械が入り込んだようです!』
「バードストライクのようなものか! くそ! 動ける機体は歩いて後退せよ!」
『大尉! 前方より長距離砲撃が来ます! 数は10!』
「何!? 衝撃に備え……!」
アイリスディーナは最後まで言葉を発する事は出来なかった。敵が放った長距離砲撃による砲撃が直撃したのだ。戦術機の装甲を楽々と貫き、アイリスディーナを肉片へと変えたうえで爆発し、肉の欠片を一つたりとも残さずに消滅した。
『っ! 大尉が消滅した! 次の指揮を……!』
そして、生き残った面々は指揮系統を構築する間もなく様々な距離からの砲撃を受けてあっけなく壊滅した。BETAに至っては最初の長距離砲撃で大半を持っていかれた為に戦術機以上になんの抵抗も出来ずに全滅したのだった。
その後、ストックの肉体で復活したアイリスディーナ達より報告を受け敵の強大さを知ることとなる。戦術機を含む多数の損害は油断と慢心こそあれど最初の地球でも見たことがない初めての大損害であり、BETAに後退をさせる初めての出来事となるのだった。
そしてこれが、あ号標的の心に苛立ちを生み出す原因となった。
アイリスディーナ達改造された者たちはわかりやすいように捕縛された位置でグループ分けされている
第666戦術機中隊→ドイツ組
篁唯依達訓練生→京都組
伊隅ヴァルキリーズ→横浜組A
207小隊→横浜組B
などなど
次話は2023/09/17 23:30投稿予定です。
あ号君の名前に関して
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名前なんていらねぇ!
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呼びづらいからさっさとつけろや!
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てめぇに任せられねぇ!変わりにつけてやる
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あ号君が本名でしょ?何言ってるの?