「ギャハハ!おいガキ!オメーがBランクの冒険者になれるわけねぇだろ!」   作:へぶん99

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017:汚物の消毒 やってみた!

 

 一瞬で消し飛ぶ藁人形。超高温の熱に消毒されて、的は灰さえ残さず消失してしまった。

 

「す……すげぇ。想像以上のデキだぜ」

 

 熱い空気が顔の全面に押し寄せてくるこの感じ……堪らねぇぜ。

 こりゃ、ザコ敵相手には火炎放射器ひとつで事足りるかもしれんな。魔法の効かない相手には従来のエンチャント武器投擲をするとして、使い分けで大分楽になるぞ。

 

「気に入った。高い金払って良かったぜジジイ」

「ヘッヘッヘッ。お前が気に入ってくれて良かった、仕事冥利に尽きるってもんよ」

 

 しかもこの炎、普通の火じゃねぇ。延焼速度が尋常じゃなく早い。可燃物に着弾した瞬間、まるで意志を持っているかのように膨れ上がりやがった。

 これがジジイの言ってたアレンジってやつなのか。この武器だけでSランクになれるんじゃねぇの?

 

「バイクの機動力と組み合わせたら無敵じゃないですか!」

「いいんスかこれ、強すぎっスよ」

 

 ゴン達が言うように、俺が習得した一級相当の火属性魔法と組み合わせれば大抵の敵は完封できそうだ。

 例えば前にちょっと使った【炎陣(イグ・フィールド)】という火属性魔法の技。これは好きな範囲にデケェ炎の壁を焚く技なんだが、単体で使っても相当使い勝手が良くてお気に入りの技だ。実際の使い道としては、敵の逃げ道を炎の壁で塞いだり、円状に打ち立てた炎の壁を内側に狭めていくことで、逃げ場の無くなった敵を焼き殺したり……。

 

 そんな【炎陣(イグ・フィールド)】と火炎放射器を組み合わせたらどうなるか。

 【炎陣(イグ・フィールド)】で敵の逃げ場を無くして、超火力の火炎放射器で薙ぎ払う? 考えただけでも強すぎる。終わりだろ。

 

「どこかに火炎放射器受けてくれるヤツいねぇのか。生きてるヤツに試し打ちしてみてぇよ」

「……クヒヒ。ゴンは氷属性魔法の使い手ですよ」

「なにっ」

「おう、じゃあ受けてくれるか?」

「無理に決まってるでしょ! 火炎放射されたら人間は死ぬんスよ!」

「冗談だよ」

 

 まぁ、今度個人的に試し打ちをするとしよう。森の中じゃもちろん使えないし、洞窟内やダンジョン内でもおいそれと使えないから、割と限られた範囲での使用になるか。

 う〜ん……森を抜けた先に荒野があるから、そこの害虫駆除クエストで実践することにしよう。

 

「今日のところは解散だな。トミー、レックス、ゴン、ピピン……今日は付き合ってくれてありがとよ」

「お易い御用です!」

「しばらくしたら王都に行く必要があるから、そこまで自由行動だ。俺ん家に来てもいいし、クエストに誘ってくれてもいい。予定さえ合えば、俺がオメーらを誘うこともあるかもしれん。そこんとこヨロシク」

「ウス!」

 

 今日は盛り沢山だった。カミナの冒険者登録、初クエスト達成、火炎放射器の入手……家に帰って疲れを癒そう。これでも一応、怪我から回復したばかりだし。

 全員で飯を食って解散した後、俺とカミナは我が家に向かう。夕食を食って満足したのか、うとうとし始めてしまうカミナちゃん(きゅうじゅっさい)。俺の袖を摘みながら遂に船を漕ぎ始めてしまったので、仕方なくおんぶして帰路を歩く。

 

「んん……えへへ、ノクトさん……」

「何だよ」

「むにゃむにゃ……」

「寝言か」

「…………」

「90歳4ヶ月」

「…………」

「ほんとに寝てるのか。ごめんな」

 

 そんな中、俺ん家に帰るまでの道で知り合いに会った。

 

「あっ」

 

 例のガキ共――ダイアン、ティーラ、ミーヤの3人である。

 ミーヤは俺と目が合った瞬間に変な声を上げていた。ダイアンとティーラが手を上げて近づいてくるが、ミーヤはその場に立ち尽くしたまま。まだ俺とカミナのことを勘違いしたままらしい。

 

「ノクティスさん、こんばんは!」

「よぉガキ共、上手くやってるか?」

「はい! ノクティスさんのおかげで全部上手く行ってます!」

「そいつぁ嬉しいな。だが、上手くいってる時こそ油断するなよ。時には勇気を出して撤退することも大事だって教えたよな? 失敗を恐れず、とにかく生き残ることを第一に考えるんだぞ」

 

 ダイアン、ティーラの頭をわしわし撫でてやると、2人は満面の笑みで俺の懐に飛び込んできた。

 ギャハハ! でっけぇガキ共だぜ。まるで俺がパパみたいじゃねぇか。

 

「ノクティスさんっ、この前デュラハンを討伐しましたよね!? その時のお話、ぜひ聞かせてほしいです!」

「確か緊急クエストの副産物……? っておっしゃってましたよね? 私達、興味があるんですよ」

 

 ダイアンとティーラが、餌を前にした小鳥みたいに首を伸ばしてくる。そんな中、堪らなくなったミーヤが俺の裾を引っ張ってきた。

 

「……の、ノクティスさんっ!」

「どうしたミーヤ」

「ピピンさんから聞きました! その女の人とは付き合ってないんですよね!?」

「いきなり何だよ。付き合ってねぇって」

「ほんとですか!?」

「おう。誓ってもいいぜ」

「っし……良かったぁ……!」

「…………」

 

 ……ミーヤ、割と聞こえてるぞ。そんなに俺のことを好いてくれてるのか。もちろん嬉しいけど、こんなに堂々と好意を表に出されると照れくさいな。

 

「立ち話もなんだし、家に入って話そうぜ。お茶も出すからよ」

「いいんですか! 失礼しまーす!」

「お邪魔します」

「うぅ、入るの久しぶりだなぁ……」

 

 俺は3人を家に招き、寝室にカミナを置いた後客室に通した。

 その後、近況報告も兼ねて、俺達は夜が更けるまで話に花を咲かせたのだった。

 

 ――後日。覇和奮(パワフル)大連合のトミーとレックスにカミナの面倒を見てもらうことにして、俺は森を抜けた先にある荒野へと向かった。

 目的は火炎放射器の試し打ち。モンスター相手に実践的な評価を重ねてみないことには、火炎放射器の運用方法も分からないというものだ。

 クエストの内容はBランク相当。ある程度は危険性も高い方が評価しやすいと考えたからだ。今回の標的は、貴金属を好んで食べる蜘蛛である。

 

 植生の少ない激しい気候においては、草食よりも肉食・雑食である方が生存できる可能性は高い。砂漠や氷に覆われた大地にもなると、少ないリソースを巡って強烈な進化を遂げた個性溢れるモンスターが多い。

 この蜘蛛もそのうちの一例で、コイツらは「ふえぇ……植物や肉が他のモンスターに取られちゃったよぉ……そうだ! 貴金属なら誰も食べないから独占し放題だし主食にしよう!」という感じで進化してきたのだろう。

 しかし、荒野を通ろうとする人間が身につけているアクセサリーまで狙ってしまうものだから、今回は駆除の依頼が出てしまったわけだ。絶滅しない程度に数を減らさせてもらおう。

 

「カミナのやつ、トミーの熱血指導でひぃひぃ言って音を上げないといいけどな」

「……で。何でオレとゴンを連れてきたんですか兄貴」

「トミーとレックスと一緒にハルバード仕込んでみたかったっス」

 

 クエストに同行してもらうことにしたのはゴンとピピン。トミーとレックスには、身体作りの一環としてカミナにナイフ術を仕込んでもらっている。

 採取クエストなんかよりも、警備とか討伐クエストの方がよっぽど儲かるからな。最終的には単価の高い討伐クエストをこなして馬を購入して貰いたい。

 

 また、寝る前に本の読み聞かせをしてやることで、カミナは既に文字の「読み」の部分ができるようになっていた。どうやらカミナは天才らしく、1ヶ月もしないうちに文字の「書き」の部分も習得できそうな見通しだ。

 この調子で行けば、王都に行って帰ってくる頃には言語を完全習得できるのだろう。普通に考えてヤバい。その飲み込みの速さからして、恐らく勉強もできるだろうから、貧弱な身体以外は全くスキの無い少女だ。

 

「オメーらを連れてきたのは他でもねぇ」

「どんな理由ですか?」

「暇そうだったからだ」

「しょうもな!」

「たはは……ひどい言われようスね。まあ事実だからしょうがないけど」

「「「ギャハハハハ!」」」

 

 おう、オメーらはそこに居てくれるだけでいンだわ。さっさと行くぞ。

 踵を返してエクシアの街から出ていこうとすると、あることに気付いたピピンが俺を呼び止める。そしてわざとらしい会話を繰り広げながら、ピピンは意地汚い笑みを浮かべて街の一角を指差した。

 

「あ、待ってくださいよ兄貴。“アレ”やりましょうよ」

「えー。ちょいちょいピピン、やっちゃうんスか、今ここで。それはまずいっスよぉ」

「良いだろ別に、ちょっとくらいバレないって!」

 

 その場所には食べカスやゴミが溜まっており、清掃の者が来るまで放置されているようだった。

 誰かが始めたポイ捨てから、積もりに積もって汚れが蓄積しているのだろう。

 

 ピピン達はその一角を例の一言と共に「消毒」して欲しいようだ。つまり、まどろっこしい真似は壮大な前フリなのだ。

 よくある男のノリだが、嫌いじゃねぇ。

 汚物の消毒は大事だからなぁ?

 俺が綺麗にしてやらねぇと。

 

「そうは言ってもっスよ、ヘヘヘッ……ピピンも人が悪ぃぜ。そんなことしたら、清掃業者の仕事が無くなっちまうスよ?」

「この一角だけだって。大丈夫大丈夫! 騎士団にはチクらないから! ほんとに少しだけだから!」

 

 ありがちな誰かの真似をしながら、ピピンとゴンが俺の前で小芝居を続ける。

 釣られて笑いながら、俺は頬を掻いて周囲を見渡した。

 

「“アレ”をやるんだろぉ? ったく、しょうがねぇなぁ……」

「キタキタキタ……」

「来るぞ……」

「オラ行くぞ――汚物は消毒だ――っ!!」

 

 俺は街の角に溜まったゴミに向かって、火炎放射器の火力を限界まで調整した一撃をお見舞いした。

 

 ――ちょびっ。

 

 限界まで絞った蛇口から、限界まで水圧を弱めた水を噴出しているかのようだった。

 あっという間にポイ捨てされたゴミが消え、建物の陰から汚物が消毒された。そこにはかつての小綺麗な空間が生まれ、パッと見の街並みを美しく変えてくれた。

 

「近隣住民の皆さ――ん! 街の“汚れ”はオレ達が消毒するのでぇ! 困ったことがあったらこちらの御方ぁノクティス・タッチストーン様にお知らせくださァい!!」

「ギャハハ! ポイ捨てしたらぶっ殺すぞ! 流行病が怖ぇ! 衛生のために意識高めていこうぜ!」

「街の美意識高めていきましょ――!!」

「まあ消毒したから万事解決とは言わないスけどね」

 

 こうして俺達は火炎放射器の試し打ち……試し打ち? を終えた後、貴金属を主食とする蜘蛛の討伐に向かった。

 そして、俺達は荒野で強烈な刺客を相手にすることとなる。

 

 


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