「ギャハハ!おいガキ!オメーがBランクの冒険者になれるわけねぇだろ!」   作:へぶん99

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021:ギャハハ!よ〜く見とけよ!オメーが好きだった女の変わり果てた姿をよォ!

 

 俺達が向かうダンジョンは『死人の地底湖』。その名の通りアンデッド系統の敵が中心種族であり、地底湖とその周りの洞窟を舞台にした薄暗い閉所ダンジョンである。

 既にスタートからゴールまでの道が確立されているため、測量道具などを持ち込む必要はないのだが――本来のルートから外れた場所に中継地点が隠されているため、帰り道を知っておくために道具を持ち込んでやった。

 

 実際、トレジャーハントを生活基盤にした冒険者には人気のダンジョンだが、行方不明者が絶えない場所でもある。地底湖の中を通じて新たな通路が見つかったりするので、入り組みすぎてて道を覚えるとかそういう次元じゃないからな。

 

 ワイト達アンデッド部隊は、地下水路を抜けた先に中継地点を用意しているらしい。曰く、ものすごく見つかりにくい場所にあるんだと。

 昨日の人間堕ち通話を聞いてすぐに転移してきたなら、中継地点の隠し部屋でスコーピオン君とかち合うことになるか。

 ……まぁ、俺がヴァンパイア部長だったらすぐこっち側に転移しちゃうだろうなぁ。敵からすりゃ、一刻も早くワイトを取り返しに来たいはず。Aランク相当のモンスターを奪われて洗脳(?)されるのは、純粋に戦力の面から見てもかなり痛いだろうし。

 何なら、スコーピオン君だけじゃなく頭数を揃えてこっちに来るかもしれないな。

 

「このダンジョンは初めて来たっス」

「危ねぇダンジョンだしな、そういう奴も多いと聞いてる」

 

 ダンジョンに突入した俺達は、灯りを掲げながらバイクで進んでいく。俺のバイクのサイドカーに乗せられたワイトは、周りから見て目立つように亀甲縛りにされて磔状態だ。しかも目隠しによって視界は完全に奪われている。

 これなら魔王軍も迂闊に手は出せまい。不意打ちもできないはずだろうし、こっち有利なのは変わりないぜ。魔王軍に関係ないモンスターはバリバリ襲ってくるけどな。

 

『き、きさまらぁ……どこに向かっているんだぁ?』

 

 ワイトを連れ出したのは今日の未明のこと。何も告げずにバイクに縛り付け、ダンジョンまで直行してきたのだ。

 何も知らないワイトだったが、亀甲縛りスケルトンになりながらも「どこかに移動している」と勘づいているようだな。

 

 昨日ダンジョンの中継地点のことを中心に吐かされたんだから、もちろん薄々気づいてるとは思う。わざわざ強がって聞いてくるのは、中継地点に行くと信じたくないからかもしれない。

 

「さぁ……どこだと思う?」

『いっ、言え! 言わなかったらどうなるか……この私が教えてやる!』

「ほう。言わなかったらどうなるんだよ」

『そ、それは――』

「答えてみろ――よっ!」

 

 俺は羽根ペンで勢いよく背骨の辺りを撫でつけた。

 肋骨を極限まで膨らませ、身体全体を大きくたわませながら、ワイトはこの世ならざる甘い声を上げた。

 

『ひゃあぅんっ!』

「ギャハハハ! テメー威勢の良いこと言ってたくせに身体は正直じゃねえか! 肩甲骨もビンビンに立ってるぜ! さっきの威勢はどうしたぁ!」

『ふえ〜ん! 助けてスコーピオンくぅん! もっとくすぐってくださいぃ!』

 

 コイツは自分の快楽を追求したいのか、魔王軍の使命を全うしたいのか、一体どっちなんだよ。

 ダンジョン内をバイクで突き進みながら、俺達はエリア内最大の地底湖の前に差し掛かる。ワイトが言うには、この地底湖に潜って壁の向こうの通路に出ないと行けないらしい。そりゃ誰にも気づかれないわけだ。

 

「ゴン、レックス。水を動かしてくれ」

「アハ!」

「了解っス!」

 

 ゴンは水属性魔法の使い手で、レックスは氷属性魔法の使い手。2人が協力すれば、このダンジョンで開けない道などない。

 ゴンが地形に溜まった水を動かして、湖底が露出するまで()()()()()()。その結果、湖を縦に割るようにして新たな道が出現した。そのままではゴンの魔力が尽きてしまうから、すかさず放たれたレックスの氷属性魔法によって地底湖の水は全て凍りついた。

 

「この先に部屋があるらしい。スコーピオン君が来てるかもしれねぇから、更に気を引き締めて行くぞ」

 

 俺達は湖底をバイクで走り抜けて、ダンジョンの未開領域に足を踏み入れた。

 新しいゾーンだと言っても、これまでのダンジョンと代わり映えしない景色が続いている。ワンチャン新種モンスターが出るかもしれないから、警戒を怠るのは絶対アウトだがな。

 

「ここからはバイクじゃ行けねぇ。徒歩で行くぞ」

「ワイトはどうしましょう?」

「俺が連れていく」

「了解です!」

 

 ピピン達に地図を作ってもらいながら、俺達は道を慎重に進む。特にモンスターと出会うこともなく探索すること10分。遂に俺達は、魔王軍が転送魔法の中継地点としていた隠し部屋を発見した。

 その部屋にはキッチンとソファが備え付けられており、食料用なのかキノコが自生している。転移魔法用の魔法陣の隣には、足湯が用意してあり、実質的なチルスポットがあった。

 

 デュラハンやワイトがチルしてから俺達を襲撃しに来ていた……と考えるとむかっ腹が立ったので、俺はワイトの目の中に羽根ペンを突っ込んでかき混ぜてやった。

 

『んおぉぉぉぉ』

 

 そのまま喘いでいるワイトの首根っこを持って、圧縮ポーチから取り出した盾に括り付ける。八つ当たりの意味もあったが、この行動にはちゃんとした意味があった。

 その理由は――部屋の奥の方から僅かな物音が聞こえたからだ。

 

 もしかしたらスコーピオン君がチルしているのかもしれない。つまり、先手を打つためにワイトを盾に縛り付けてやったのである。

 

『私を盾に縛り付けてどうする気だ……!』

「あ? やることっつったら1つしかないだろ?」

『は……はぁぁ! たしかにぃぃぃ!』

 

 目隠しを外されたワイトは、盾に無抵抗で縛り付けられながら俺に運ばれていく。その最中、中継部屋の陰から飛び出してくる巨影があった。

 巨大な人外の化け物……二足歩行のサソリ形モンスター、スコーピオンその人である。背丈は俺の2倍以上。湯気を撒き散らしながら自然のサウナから出てきたところだった。

 転移魔法によって失った魔力を、サウナで調えることによって回復していたのだろうか。湯気を撒き散らしながら俺達を見つけたスコーピオン君は、盾に縛り付けられたワイトを見て触覚を吊り上げるのだった。

 

『ス――スコーピオン君!』

『ワイトさんっ!』

 

 感動の再会である。アンデッドと虫系モンスター、深い絆で結ばれた2人の絆が見て取れるな。

 だが、感動の再会はもう終わりだ。俺達モヒカンの頭部を見てならずものだと勘づいたスコーピオン君は、その身に纏ったタオルを放り投げて、触肢を含めた6本の脚に刀剣を装備した。

 そのままスコーピオン君が威嚇するように剣を擦り合わせると同時、俺達全員も臨戦態勢に入って即座に武器を取り出す。

 

『お前らがワイトさんを洗脳したならずもの……! 覚悟してもらおうか!』

「おっと待ちなよスコーピオン君! 盾にされたお仲間を前にして、その剣は振れねぇだろうよい」

『っ……』

 

 俺の構えた大盾に縛り上げられているのは、赤い縄に亀甲縛りされて変わり果てたワイトの姿。

 これを見て剣をぶん回せるほど鬼畜野郎なわけないよなぁ? スコーピオン君は優しいもんねぇ……!

 

 スコーピオン君は土属性の魔法を刀剣に纏わせていたが、ワイトの醜態を見て武器使用を躊躇している様子。

 ギャハハ! その甘さ! その甘さがテメーの足を引っ張っているんだよスコーピオン君。分からんか?

 勝ちたくば、容赦を捨ててモヒカンになれ。弱者になっちまったら、食い散らかされるぜ?

 

『スコーピオン君……ごめんね。力が入らないの。……これ以上仲間の手を煩わせるわけにはいかない。だから……私ごとモヒカン達を殺してくれないかな……?』

『そんなこと――出来るわけがないですよっ! 知らない間にそんなドスケベな姿に変わり果てて……! 許せないっ! 変えるのなら自分の手で開発したかったのにっ!!』

「ん?」

 

 開発……なんか……え? 気のせいかな? やはり魔王軍と俺達じゃ価値観が違うらしい。

 しかも俺達がワイトを狂わせたなんて勘違いしやがって……元々コイツはスケベなサキュバスだったぞ?

 

『お前ら……ワイトさんに何をした!?』

「おい、聞いたかオメーら。ナニをしたか、だってよ! ギャハハハッ! 言うまでもねぇよなぁ!」

「クヒヒ……兄貴、見せちゃいましょうよ。ワイトの“本当の姿”ってヤツを……ね」

 

 スコーピオン君は何か勘違いしてらっしゃる。

 オメーの好きだった女……女? コイツ女じゃねぇな……まあ、ほら……とにかく、オメーの好きだったワイトは既に存在しねぇんだよ。

 

「おう、なら見せてやるか。スコーピオン君の知らねぇ、ありのままの姿のワイトをよ……」

『な……んだと……』

 

 俺はワイトごと大盾を天に掲げると、4人に目配せして羽根ペンを持たせた。

 何が起こるか知らないスコーピオン君には、その羽根ペンが見せしめの呪詛攻撃にでも思えたのだろうか――

 

『や――やめろぉぉぉぉ!!』

 

 男らしい絶叫が地下洞窟に響き渡った。

 

『んお゙お゙お゙お゙お゙!! オッホ! ヤッベ! ヤベェ〜〜!! イッ……恥骨のッそこ……ッ!! スコーピオン君の前で――こんな……ギモヂィィ〜〜ッ!!』

「よく見ろぉ! コイツはもうワイトじゃねぇ! 自称サキュバスのドスケベアンデッドなんだよぉ!!」

 

 ――拷問の回数を記録するため、俺達がワイトの骨盤に刻んでおいた『正』の文字。

 そして、『モヒカン専用情報漏洩穴↑』と書かれた下顎骨。『バカ』『骨』『骨粗鬆症』――様々なメモ書きのなされた全身。

 

『う――うわああぁぁぁぁあああああああっっ!!』

 

 ワイトに刻まれたメモ書きを目の当たりにしたスコーピオン君は、絶叫しながら刀剣を取り落とすと、白目を剥いて気絶してしまった。

 

 俺達が意中のアンデッドを先に開発し尽くした結果、脳が完全に破壊されてしまったらしい。

 ――スコーピオン君。Aランク相当のモンスターだったのだが、精神的苦痛に耐えられず俺達は不戦の勝利を収めることが出来た。

 

『ごめんなさいスコーピオン君……もうこの人じゃないと満足できないの……』

 

 ワイトがそんなことを呟いていたが……本当に何なんだろうコイツ。死ねばいいのに。……アンデッドだからもう死んでるか。

 

 


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