「ギャハハ!おいガキ!オメーがBランクの冒険者になれるわけねぇだろ!」   作:へぶん99

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024:怪しすぎて怪しい男を追うぞ!

 

「――Bランク冒険者のディーヴァ。いくら何でも怪しすぎっしょ〜」

 

 シャーナイの言葉から始まった飲み会は、異様な様相を呈していた。

 俺達をAランクの冒険者と知ってか知らずか、周囲のテーブルからひっきりなしに好奇の視線が飛んでくる。

 

 1人は大柄なモヒカン男。冒険者ギルド大改革前の世紀末を想起させるアウトローな風貌で、我ながら近づきたくない男だなと思う。

 1人はチャラ男。

 1人はオシャレボウズ。

 1人はハイライトのない暗そうな女。

 ……こんなテーブル、見るなという方がおかしい。俺が周囲の客だったらメンツが濃すぎて絶対ガン見しちまうぜ。

 

 チャラ男こと――Aランク冒険者・シャーナイ。軽妙な雰囲気の槍使いだ。時々クエストを手伝い合う仲で、ミーヤ達ガキ共と絡む前は1番話してたかな?

 普段はトレジャーハントを主目的にダンジョン攻略系クエストを受けている他、メインルートから外れた場所の開拓を行うアクティブな冒険者だ。Bランクの冒険者3人とパーティを組んでいる。

 

 オシャレボウズこと――Aランク冒険者・ロンド。彼は大盾を担いだ甲冑の騎士で、防衛系のクエストを得意としている。

 普段は最前線で活躍しているのだが、「落ち着くから」と言って定期的にエクシアの街に帰ってくる冒険者だ。生まれ故郷を大切にしているということだろう。

 

 ハイライトのない暗そうな女こと――Aランク冒険者・ココン。目の下にクマのあるボクっ娘で、耳が見えないくらいバチバチにピアスを空けている。痛そう。

 見た目は不健康で怖そうなお姉さんだが、彼女は正統派の剣士だ。クエストは選り好みしておらず、俺と同じように後進育成に力を入れている冒険者のひとりである。

 

 ――とまぁ、メンバー紹介はこんな感じで終わりにするとして……問題はディーヴァの怪しすぎて怪しい言動だ。

 あの男、間違いなく何かを隠している。あからさますぎて逆に釣られてるのかな? と思ってしまうくらいだ。もしディーヴァに後ろめたいことが無ければ疑惑は晴れるし、あったら捕まえられるので……どっちに転んでも前に進めるからやらない手はないけどな。

 

「ボク、ディーヴァのことあんまり知らないんだけど〜。誰か知ってる人いる? ノクティスさんはどう?」

「俺は知らないな。急に台頭してきたもんだから、目をつける暇もなかったぜ」

「ですよね〜」

 

 ココンが肉にかぶりつきながらへらへらと笑う。

 俺とココンが知らないんじゃ、この場にいる誰も知らないだろうな。シャーナイは肩を竦めながら俺達に問いかけてくる。

 

「とりあえずディーヴァ君を調べることは確定として、どうやって調べる? 試しにあの倉庫に侵入して調べてみるかい?」

「いや、ディーヴァはデトリタス局長に鍵を渡したんだ。あの倉庫にやましいことは隠してないだろう……多分」

 

 エクシアの街のギルド局長であるデトリタスさんは、ディーヴァから鍵を受け取っている。それに、今はギルド職員が倉庫に出入りして監禁場所を作成しているところだ。

 倉庫には俺達の欲しがる証拠はないだろう。……情報が無さすぎるから、結局行くはめにはなりそうだけど。

 

「まずはディーヴァの言ってた『仲間』を探してみないか? そこから何か見えてくるかもしれん」

「そうですねぇ……」

「二手に別れて調査するのはどうだ。ワシとシャーナイさん、ココンさんとノクティスさんのチームで動こう」

「善は急げだ、さっさと飯食って動こうぜ」

 

 こうして俺達は二手に別れ、ディーヴァの身辺調査を始めることになった。

 ロンドとシャーナイのコンビと別れた後、俺とココンは彼らの向かった方向とは逆――倉庫の方向へと向かう。ギルドの職員に軽い会釈をしながら、俺達は人の出入りが激しい倉庫へと入った。

 

「ディーヴァはいないっぽいか〜」

「あぁ……どこ行きやがったんだ?」

「うへぇ、ロンドさん達に先越されそうだなぁ……」

 

 ココンがげんなりしながら舌をベロンと露出させる。うお、コイツ舌ピアスまで空けてんのか。痛そうだなぁ。

 

「倉庫の中は割と広いな」

 

 ギルド職員が入り乱れる中、俺とココンは既に設置済みの檻の前にやってきた。

 

「ねぇねぇギルドの職員クン、この檻って誰が設置したの?」

「あぁ、檻は既に用意されてたんですよ。確かディーヴァさんが持ってきたはずです」

「……そっかぁ。ありがとね、職員クン」

 

 今からまさに収監されようかというワイトとスコーピオン君。手頃な檻さえ既に用意していたディーヴァ……ますます怪しいぜ。

 どうあってもワイトとスコーピオン君を手元に置いておきたいという強い意志が感じられる。これ、掘れば掘るほど言い逃れができなくなるんじゃないか?

 

 しかも俺は、円卓会議の際ディーヴァがあっさり引き下がった理由に心当たりがあるのだ。

 それは――ワイトを捕らえて人間堕ち通話させた時のこと。あの時スコーピオン君は俺のことを『アンデッドに興奮する変態』だと言っていた。

 そして円卓会議の時、ディーヴァは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。普通ならあの場面はもっと詰めてきてもおかしくなかった。

 それなのに、円卓会議で俺の変態性にあっさり納得した事実――これは逆説的にディーヴァが()()()()の内容を知っていたことに他ならないのではないか。

 

 仮にディーヴァが魔王軍と癒着しているなら、彼が所有する倉庫にヤツらを監禁し続けるのはまずい。隙を窺ってワイトとスコーピオン君を逃がされるのがオチだ。

 その時は多分、「まさか檻を壊されるとは思わなかった」みたいなセリフがついてくるんだろうな。今の状況は割と超法規的な措置が取られているから、ディーヴァの失敗に対してギルド側は強く出られないはず。

 そこまで見越しての行動であれば、敵ながらあっぱれ。魔王軍側はかなり厄介な手回しをしてやがるぜ。

 

 俺は藁にもすがる思いで、相変わらず亀甲縛りされているワイトに声をかけてみる。

 

「おいワイト、ディーヴァって冒険者について何か知ってることはあるか?」

『ディーヴァ? ……知らないですね』

「……嘘ついてたら羽根ペン掻き回すところだったが、どうやら本気で知らねぇみたいだな……」

『ひ、ひえぇ……』

 

 ワイトは俺の前ではかなりの正直者だ。その点だけは信頼している。

 ……コイツが知らねぇってことは、ヴァンパイア部長が寄越してきたんだろうか。それともスコーピオン君? 少なくともワイトの所属していたデュラハン部隊に直接的な関係は無さそうだ。

 

「……困ったな。スコーピオン君はまだ脳が破壊されたままだし、ワイトも知らねぇとなったら……」

「あの2人が尾行に成功して、何かしらの情報を掴んでくるのを期待するしかない……みたいだね」

「……だな」

 

 ギルド職員が拷問用の羽根ペンを取り出したり、その他氷属性魔法や闇属性魔法の装置を設置し始めたりして、声をかけられるような雰囲気ではなくなってきた。

 お邪魔になりそうなので、俺達は倉庫から退出する。結構長い時間ディーヴァ本人と魔王軍癒着の証拠を探したものの、特に何が見つかるわけでもなく……俺とココンの収穫はゼロと言っても良かった。

 

 唯一得られた情報は、ディーヴァが檻を用意していて準備が良すぎたことか。

 まあ、シャーナイとロンドがどれだけやってくれたかに期待だな。もしかすると、俺達が疑り深すぎるだけで何も無かったりして。

 

「こっちはこれ以上やることもないし、向こうの様子でも見に行こうぜ」

「さんせ〜い」

 

 ココンのダウナーな雰囲気に絆されて、少しだけ気が緩む。そのまま俺達はシャーナイ達が歩いていった方向へ向かった。

 そんな時――風に乗って微かに血の臭いがした。臭いの源は街の路地裏。ココンと俺の視線が路地裏の薄闇を彷徨う。

 

「何か鉄臭くね?」

「気のせいっしょ……」

 

 茶化した口調だが、俺達の目は本気モード。

 鉄の臭いを探るように、俺達は自然と路地裏に足を踏み入れる。

 

 路地裏の薄闇に溢れた不穏な空気。鉄のむせ返るような香り。俺達は自然と武器を取り出しながら、背中合わせのままゆっくりと進んでいく。

 

「近い」

()()()俺が防御に回る」

「おけ、攻撃は任せて」

「ココンは俺の背中に隠れろ」

「いつでもいいよ」

 

 血の臭いが限界まで濃くなった。この先に何かいる。

 足音を消して壁に張り付く。俺は半身を捻るようにして曲がり角の先を睨んだ。

 

 すると――視線の先。

 石畳に倒れ伏し、血を流しているシャーナイとロンドの姿があった。

 

「……!!」

 

 駆け寄りたくなる気持ちをぐっと堪えて、俺は暗闇や曲がり角の死角を隅々まで確認する。

 枝分かれした道の先にも、家屋の屋根の上にも誰もいない。

 後ろからついてきたココンは眉間に皺を寄せながら、倒れた2人の首根っこを掴んだ。

 

「――ココン、退却だ!」

「はいっ!」

 

 そして俺の合図と同時、ココンが2人の男を引きずって全力ダッシュを開始した。

 路地裏で一刻も早い治療を施したかったが、襲撃者が誰か分からない以上迂闊に背中を晒せない。人目のある大通りに出るのが先決だと考えたのだ。

 

「シャーナイ! ロンド! 意識はあるか!?」

「……うぅ」

「はいはい、大丈夫だからね〜。軽傷だからね〜」

 

 俺とココンで声掛けしていると、ロンドは単純に気絶しているだけで、シャーナイの出血が酷い状況だと分かってくる。

 まずいのはシャーナイの方だ。結構ドバドバ血が出てるぜ。

 ……一体、誰にやられたんだ。

 

 大通りに出て人目に晒された瞬間、俺達は圧縮ポーチを探って回復薬と包帯を取り出して応急処置を開始した。

 ロンドの口周りには水属性魔法の形跡があり、不意打ちで窒息死寸前に追い込まれたことが分かった。いくらAランク冒険者とはいえ、突然呼吸できなくなればパニックになってあっという間に無力化されてしまう。

 奇襲を回避し、襲撃者と戦闘になったシャーナイが切り傷をつけられてしまったということか。

 

「すまん……油断したわ……」

「喋るな、安静にしてろ」

「へへ……この程度じゃ死なんから喋らせてもらうわ。……敵はディーヴァだ。俺っちもロンドさんもヤツにやられた……」

「!」

「尾行してるつもりが、誘い込まれてたみたいでさ……やられたよ」

 

 シャーナイは脇腹に刺し傷が刻まれており、シャレにならない出血具合である。

 いくら不意打ちとはいえ、実力のあるこの2人をディーヴァが倒したというのか。あまり信じたくない事実だ。

 

「2人共聞いてくれ……。あの野郎……人間じゃなかった。腕を切り飛ばしたのに生えてくるし……Bランク冒険者なんて肩書き、嘘っぱちだったっぽいぜ、ちくしょー……」

「な……何だと?」

「多分……仲間なんておらん。あいつ自身が諜報部隊の一員だったんだ……」

 

 ディーヴァが人間じゃない?

 アイツ冒険者じゃなくてモンスターだったのかよ……しかも諜報部隊の一員とは。

 今明かされる衝撃の事実に、俺とココンは固唾を飲んでシャーナイの言葉に耳を傾ける。

 

「……ヤツは好機を窺うとか……策を講じるとか……そういう回りくどいこと全部すっ飛ばして、ギルド周りを強行突破するつもりだ……!」

「強行突破……? どういうことだ」

「この街にいるAランク冒険者はたった4人……俺っちとロンドさんを潰して戦力を削いだのは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……! 俺っち達を潰せば、ヤツらを止められるのはアンタら2人だけ……戦力差はほとんどないし……仮に転送魔法が使えるとしたら、あっという間にヤツらは逃げちまうぞ……」

「……!」

「そんなの……ノクティスさんの苦労が無駄になっちゃうじゃん!」

「ああ、そうだ……。だから2人共、さっさと行け……俺っちの処置は通行人に任せて、倉庫に向かったディーヴァを止めてくれ……ワイトとスコーピオン君を逃がさないために……」

「――おいココン、今すぐ向かうぞ!」

「分かった! ごめんねシャーナイさん、後でまた見に来るから!」

「ああ……気をつけろよ。……敵は狡猾だ……」

 

 続々と集まってきた野次馬にシャーナイとロンドの手当を任せ、俺達は全力疾走で倉庫へと向かった。

 ディーヴァはあえて怪しい言動を取ったのかもしれない。円卓会議という高ランク冒険者の集いに乗じて、わざわざ俺達を釣るような発言をしたのだ。

 そして、俺達が結託してディーヴァを調べ始めれば、逆に俺達を人気のない場所に誘い込めると踏んで、強引な手段に出たのだろう。

 実際、その作戦は成功し、俺達の戦力は大きく減ってしまった。しかも、倉庫に向かうディーヴァと入れ違いになってしまった。まずいのは俺達の方だ。ヤツを野放しにすれば、ワイトとスコーピオン君を魔王軍へと逃がしてしまうことになるのだから。

 

 ワイトやスコーピオン君を敵陣に返してしまえば、エクシアの街の内部の情報がダダ漏れになってしまう。

 ……それだけは、何としても止めなければならない。

 

 俺とココンはエクシアの街を駆け抜けて、あっという間に倉庫の前にやってきた。

 

 


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