「ギャハハ!おいガキ!オメーがBランクの冒険者になれるわけねぇだろ!」   作:へぶん99

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026:サキュバスの“理解”らせ方

 

「ワイト、よ〜く見とけ。これが俺達人間に逆らった魔王軍の末路だ」

『お、お……っほ、おぉ〜……』

「どっちにしても、テメーらにゃ選択権なんてないんだよ」

 

 重々しいロングソードを木の棒の如く軽々しく振るい、ドッペルゲンガーことディーヴァを殺し続けるココン。俺はワイトの首根っこを掴みながら、彼女の殺戮の様子を眺めていた。

 

 もはや、「ちょっと待って」と静止をかけることもできないディーヴァ。口が再生し切る前に肉塊にされるんだから、そりゃ無理だわ。

 喋る暇さえ与えられずに殺される気分はどうだ? まぁそれに対するコメントを頂けない凄惨たる惨状なので、殺しのループの恐ろしさがよく分かるな。

 

 えげつないことをしているのは自覚しているが、俺は構わないと思っている。何故なら、ドッペルゲンガーが本物のディーヴァを殺しているから。

 ココンの殺戮ショーはその報いと言っても良いだろう。

 こんなことなら大連合の4人も呼んでおけば良かった。アイツら今頃何してるんだろう。

 

「ノクティスさん、コイツ全然死なないよ〜」

「死ぬまで殺せ」

 

 何分経過したのかは分からないが、気絶しているスコーピオン君が復活することを心配してしまうくらいの時間は経過している。

 実はドッペルゲンガーを殺した後、核らしき塊を時々見かけることがあった。その度に壊そうと試みているものの、核が小さすぎる上に、一瞬で肉塊を再集結させて防御し始めるので破壊が難しいのだ。

 

 だったら結局殺し続けるのが丸いよねってことで、今はドッペルゲンガーの心が折れるのをじっくりゆっくり待っている状況である。

 

「おっ」

「あっ」

 

 よりどりみどりの死に方を体験させていると、突然ディーヴァだったものが形を無くして溶け始めた。肉塊がグシャグシャの液体になって床に広がり、人間の形に戻らなくなったのである。

 

「あ〜……“希望”失っちゃったかぁ」

「ギャハハ! 記録は約30分! また来世でチャレンジしてくれよな!」

 

 生きる意志を失ったドッペルゲンガー。ヤツが憎まれ口を叩くことは二度と無くなった。

 悲しいかな、知能があるばっかりに苦しみ抜いたのだろう。今すぐ楽にしてやるからな。

 

 小指の爪ほどの核部分が転がってきたので、迷わず踏み潰して破壊してやった。これでドッペルゲンガーは討伐完了。本物のディーヴァ君もさぞ無念だっただろう……これで仇は取ったぜ。

 

「ココン。ひとまず転移魔法は止まってるから、覇和奮(パワフル)大連合の4人を呼んできてくれねぇか。Bランク以上の冒険者なら誰でもいいが、なるべくそいつらがいい」

「え。コイツら逃げようとしてるんだし、誰か呼ぶ前にさっさと殺さないの?」

「いや……やっぱり生け捕りにできる機会なんて滅多にねぇだろ? わざわざ人間様の土地まで出向いてくれてんだから、丁重に監禁してやらねぇと可哀想だと思ってな」

「なるほど納得。じゃあ呼んでくるから、監視よろしく」

「おう」

 

 俺も殺すか監禁するかはまだ迷っているが、やはり今後のことを見据えるなら殺すよりも生け捕りだろう。同じ失敗を繰り返さないように、次は俺達Aランク冒険者が責任をもって監禁すりゃ良いわけだし……。

 俺の考えに納得してくれたココンは、ロングソードを背中の鞘に収めると、人を呼ぶために近所のギルドへと向かった。

 

『――【迅風刃(ウィンドカッター)】!』

「おっと……」

『…………』

 

 そしてココンが地下室から居なくなった瞬間、ワイトは俺に向かって風の刃を放ってきた。

 俺はその魔法を盾で逸らしながら、ヤツのしつこさというか鬱陶しさに溜め息を吐いてしまう。

 

「何だよワイト、まだ抵抗する意思があるんだな」

『わ、私は誇りある魔王軍アンデッド部隊の一員! 貴様のようなならずものに靡くわけがないだろう!』

「……面白ぇ。1回分からせてやろうか」

 

 俺とワイトは戦闘体勢に入る。

 だが、接近戦を仕掛けてワイトをさっさと潰そうとした矢先――俺はとあることに気づいてしまった。

 

「……ところでワイト。スコーピオン君はどこ行った?」

『――勘の良い人は嫌いですよ』

「!」

 

 部屋を見渡したところ、さっきまで完全に伸びていたはずのスコーピオン君の姿が消えていたのだ。

 まさか、ワイトのやつ。隙を突いて隠伏の魔法を念じていた? コイツは風魔法の使い手だ。空気を捻じ曲げてヤツの姿を隠しているのかも――

 

 背中から襲われたら防げねぇ。

 俺は壁まで後退して盾を構える。

 予感は当たっていたらしく、透明になったスコーピオン君に向けてワイトが叫んだ。

 

『同時に仕掛けるよスコーピオン君!』

「テメー、この――!」

 

 ワイトから飛んでくる魔法。防がないと殺られるが、避けても透明になった敵がいる。どこにいるか分からない。ワイトの魔法を暴き、スコーピオン君を可視化させねぇと――

 

『――誇り高きアンデッドの戦士は、ならずものなんかに負けないんだからっ!』

 

 避けらんねぇ……!

 

「っ――は!」

 

 ワイトの魔法を弾いた瞬間、脇腹に冷たい感触が走った。寒気が走り、全身の力が抜けていく。

 少し遅れてスコーピオン君が実体化し始め、俺の脇腹に剣が突き刺されているのが分かった。

 

『――やったのか!?』

『と、とにかく転移魔法を完成させてください! 一緒に逃げるんですよワイトさん!』

 

 剣を振って敵に距離を取らせるが、壁に貫通するまで深々と刺さった剣は致命傷だ。

 身体を巻き込んで壁に刺さった剣のせいで身動きが取れない。この場合、抜かないでじっとしているよりも剣を抜いた方が良いだろう。そう思い立って、気合を入れながら何とか剣を抜く。同時、脇腹からどっと血が溢れ出した。

 

「ぐっ……ふ、がはっ……!」

 

 音を立てながら床に落ちる刀剣。姿勢を保てなくなって、俺もまた床に倒れ伏してしまう。

 油断した……! あの時の【迅風刃(ウィンドカッター)】を防いだ時、何かボソボソ呟いてたなと思ったんだが……それが透明化の魔法だったとは……やられたぜ。

 

 もう鍔迫り合いするような力は残っていない。俺はトドメを刺そうと接近してくる敵を火炎放射器で牽制しつつ、ココンが帰ってくるまでの時間稼ぎに徹することにした。

 そして、俺が時間稼ぎしようとしていることに気付いた敵は、俺を無視して転移魔法と魔法陣に集中し始める。

 

「く……そ……」

 

 脇腹……痛すぎて痛くねぇ。つーか熱い。

 こんなにズッポシいかれたのは久々だな……なんか寒くなってきた……。

 ふと床を見ると、お漏らししたみたいに血の海が広がっていた。しょっからい鉄の味が喉の奥からせり上がってきて、四肢の末端が冷たくなっていく。

 死にたくない……が、あと少しなら動けるか? いや、やっぱり無理そう。頭ん中だけが元気だ。こんな時に限って鍛えた身体は動きそうにない。

 

『――我が令に応じよ――【転移門(トランスファー・ゲート)】! よ、よし! あと少しで開きますよ……!』

『これでならずもの共ともおさらばですね……!』

 

 ワイトが転移魔法の詠唱を完成させると、チョークで描いた魔法陣の傍に時空の狭間が生まれ落ちた。

 ダメだ……ワイト達を行かせちゃなんねぇ。足止めしなきゃ。こんなんじゃココンに申し訳が立たねぇ。

 

 俺は奥歯を噛み砕きながら、火炎放射器をつっかえ棒にして何とか立ち上がった。

 そして、開き始めた転移門に逃げ込もうとするワイト達に向かって、血を吐きながら叫んだ。

 

「待てよワイトぉ……スコーピオンくぅん……! 話はまだ終わってねぇんだが!?」

『――!?』

『まだあんな力が……!?』

 

 火炎放射器を構え、トリガーに指をかける。

 その威力を知っているワイトは動きを止めてしまう。それがヤツらを引き止める唯一のチャンスであった。

 

「いいのかワイトぉっ!! もう弄ってもらえなくなるんだぞぉ!! オメーのツボを知ってるのはスコーピオン君じゃなく、この俺だけだ!! まだ分かんねぇのかぁ!?」

『――――』

 

 精神力を振り絞って1歩前に出る。

 その気迫に慄いたワイトとスコーピオン君は、俺の姿に釘付けだった。

 

「テメー好きだったよなぁ、尾てい骨を羽根で撫でられるの! 肩甲骨も弱いし、下顎骨さすられても気持ちよくなってたよなぁ!? 忘れられるのかよ!? 俺のいねぇ生活が耐えられんのかよ!? 生粋のドスケベサキュバスのテメーがよ!!」

『な、何を言ってるんだアイツは……壊れちゃったのかな? あんなやつ無視してヴァンパイア部長の所に帰りましょうワイトさん。……ワイトさん?』

 

 俺の言葉を聞き届けたワイト。

 ヤツはスコーピオン君の言葉に応じず、動かなかった。

 

 そればかりか、ヤツの身体からは――ぴちょん、ぴちょん、と――何かに期待するかのようなアンデッド汁が滴っており。

 大腿骨はガクガクと、尾てい骨はビクビクと震えていた。

 

 ――効いている。この口撃は効果抜群なのだ。

 やはりワイトと言えどもドスケベなサキュバスの本能には抗えず、大義を見失おうとしている。

 

 困惑するスコーピオン君。震える尾てい骨。

 しばらくして、ワイトは己の前に魔法陣を形作った。

 トドメを刺される。逃れようのない死を覚悟したが、ワイトが行おうとしたのは魔法攻撃ではなく――どこかの誰かに対しての通話だった。

 

『――もしもし、こちらマゾ。ヴァンパイア部長……私、大事な報告があります』

【何を言っているんだね君は】

 

 相手方はヴァンパイア部長。何をしでかすか分からないワイトを横目に、俺とスコーピオン君は睨み合いを続ける。

 ……『負けそうです』? まさか、絶体絶命の俺にもワンチャンスが残されているのか?

 俺は失血で気絶しそうになりながら、唯一の勝ち筋を掴むために必死に意識を保つ。

 

『ヴァンパイア部長。私、好きな人ができました』

【は? 任務は?】

『運命の人です』

【これは何がどうなっているんだ? 朕に対する嫌がらせかね? それとも精神操作の魔法でも受けているのか? ワイト、任務の状況と併せて大至急報告しなさい】

『ヴァンパイア部長、今までありがとうございました』

【あ?】

 

 滴るヴァンパイア汁。きりきりと吊り上がるヴァンパイア部長の眉。

 大腿骨をガクガクと震わせながら、ワイトはスコーピオン君に向き直る。ワイト直下の床はもうビショビショの汚水溜まりができていた。

 

『さよならスコーピオン君……私、この人と一緒に暮らします……』

『はぁ!? 何言ってるんです!?』

【やっぱりな……! このワイト、元々おかしなやつだと思っていたんだ……!】

『きっとスコーピオン君にはもっといいモンスターがいるから、私のことなんて忘れて……ね?』

 

 何か……思ってたよりカオスなことになってきたぞ。

 スコーピオン君は引き止められなさそうだが、ワイトに関してはスケベなサキュバスだから何とかなりそうだ。

 

 そのワイトは、転移門をスルーして俺の隣に歩いてくる。

 そのまま腕を絡めてこようとしてきたが、普通に気持ち悪いので渾身の力で振り払った。

 

『それともスコーピオン君も一緒に来る?』

『!?』

『でも、その時はノクティスさんの2番手になっちゃうけど……それでも良いなら』

 

 良いわけねぇだろ。

 コイツ……Aランクモンスターなんて可愛いもんじゃないぜ。

 本物の“バケモン”だ。誰にも止められない。魔王よりも恐ろしい怪物。やっぱり前言撤回、コイツは魔王軍に追い返そう。俺が面倒見切れるわけねぇ。

 

 そう思ってワイトを転移門へと蹴飛ばそうとするが、失血によって力が出せない。一歩動くだけで精一杯だ。

 

【なぁスコーピオン君、朕は何を見せられているんだ?】

『と、とにかくワイトさんを連れ戻します!』

【我らの通話は魔王様にも提出しなければならない。この前の一件と言い、これ以上は魔王様に対する誤魔化しが効かなくなるぞ】

『分かってます!』

『私はもう戻りません、ノクティスさんと一生添い遂げます』

【何なのだお前は!】

『安心してください部長。私、人間堕ちしてもアンデッドの誇りだけは失いませんから……!』

 

 いや、もう誇りなんて欠片も残ってねぇだろ。

 何でいちいち女騎士みてぇなこと言ってんだこのキモ骸骨は。

 

『とにかく……お世話になりました。ヴァンパイア部長、スコーピオン君、みんなのことは忘れないから……!』

『いい加減目を覚ましてくださいボケっ』

『……私はボケじゃない! サキュバスだ!』

【いい加減に――】

 

 ワイトは通話をガチャ切りすると、自分で作り出した転移門を移動させ――ワイトに襲いかかろうとしたスコーピオン君にすっぽりと被せてしまった。

 

『うわあっ!?』

 

 強制的に始まる遠方への転移。時空の狭間が閉じ始め、向こう側に出てしまったスコーピオン君の姿が地下室の背景に塗り潰されていく。

 

『ワイトさんっ!! ワイトさぁぁぁんっ!!』

 

 そのまま転移門が閉じると同時、スコーピオン君と地下室は完全に分断され――地下室は痛いほどの静寂に包まれた。

 スコーピオン君は魔王軍の元へと強制転送され、ワイトは自ら監禁の道を選んだのだ。何か大事なモノを失ったが、ほとんど俺の策略は成功と言ってよかった。

 

「――かはっ」

 

 力を使い過ぎたのか、俺は膝をついて派手に吐血してしまう。

 そんな俺の隣で、ワイトは俺に治癒の魔法をかけながらこう言った。

 

『……これからよろしくお願いしますね、ノクティスさん。――いえ――ア・ナ・タ♪』

「――――」

 

 性別不詳、年齢不詳、生前の種族不詳、自称サキュバスのワイト。

 そんなおぞましい存在が目をハートマークに変えながら爆弾発言をぶち込んできたため、情報処理が追いつかなくなった俺は――眠るように気絶してしまった。

 

 




ワイトとかいう大人気メインヒロイン
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