「ギャハハ!おいガキ!オメーがBランクの冒険者になれるわけねぇだろ!」 作:へぶん99
029:いざ王都へ
アンデッド部隊の一件がある程度落ち着き、俺の体調が回復してから数日経った日のこと。
王都で行われるデュラハン討伐記念の祝祭に招待されていた俺は、
「オレ達の正装ってどっちなんですかね? 普通にTPOを弁えてる方なのか、それともオレ達にピッタリのアレなのか」
「実はずっと迷ってるんだが……とりあえず両方持っていくことにしよう」
「結構大々的な祝祭っスから、王室側が求めている冒険者像によって変わってくるっスね」
カミナはともかく、少なくとも俺達5人は国王や民草の前に出て“魔王軍幹部の一角を倒した凄腕の冒険者”であることを見せつけなければならない。
そう、王都の民が求めるのはまさに“ザ・冒険者”。強くてカッコよくて誠実で、みんなのヒーロー的なスタイルを期待しているわけだ。
モヒカンスタイルの俺達が求められているわけじゃないのは何となく分かる。
ただ、俺はモヒカンではない俺自身に戻れなくなってしまっていた。
俺の格好は全て、ギルド大改革前の混沌とした世紀末の空気を引き継いでいる。短くはなかった荒廃の時代に染まった結果、俺は今風の冒険者になりきれなくなってしまったのだ。
……制度が整ってチンピラが一掃されるまでは、そりゃ酷いもんだった。
力が全て。因縁をつけたりつけられたりしてケンカするのは日常茶飯事。力の誇示は見た目から始まっていて、ガラの悪い冒険者がテンプレだったな。
俺はあの時代の残党……とでも言えばいいのだろうか。何年も前からモヒカンだったし。
中にはその風潮に逆らって真っ当な冒険者をやっていたヤツもいたが、当時の俺はモヒカンになることを選んでいた。
今じゃそんなヤツ俺以外ほとんどいないけどな。本気でヤバい冒険者は改革後に速攻で廃業したし、今残ってるのはちゃんとしてる人間しかいない。
俺は当時から武器を投げまくってたから、こんなに変わってないのは俺くらいなもんだ。
「ま、昔の格好も準備しておくだけ損はないさ」
俺は圧縮ポーチに色々な服をぶち込んだ後、
あの4人とは王都で別れることになるだろう。そもそもデュラハンを倒すために無理言って呼びつけたわけだし。俺は彼らに迷惑をかけた原因であるワイトを睨んだ。
「…………」
『な……何ですか、人の裸をまじまじと……』
「黙れ」
こいつ、裸なんだよな。裸ローブ。それだけならまぁギリギリ許せるのだが、王都招集に当たって最悪なことがあった。
それは、王室から「お前デュラハンの部下を仲間にしたんだって? ちょっと見せてくれよ(意訳)」という連絡が来てしまったこと。この連絡により、俺達はどうにかこのバケモノを表舞台に露出させなければいけなくなってしまったのだ。
人は第一印象で決まる。ワイトの醜態を公開する際、俺達にはふたつの選択肢が存在した。
「ワイトを支配下に置いてます」という俺達の力関係とワイトの無力性をアピールするために、首輪を引いて手錠で拘束しながらヤツを登場させるか――
それとも、いつもの格好で拘束もなく自由に出歩かせるか。ふたつにひとつ。
前者は「ノクティスはサキュバスを裸にして連れ回す変態」という噂が出回りかねない。だからといって、後者の選択肢はワイトが一般人を襲うのではないかという懸念があるためやりづらい。
エクシアの街で放し飼いにされても被害は出なかったんだが、それでも王様とか貴族がいる王都で放し飼いしろってのはちょっとな……。
とにかく、ワイトが最も大きな悩みの種。
ヤツの処遇を考えるだけですっかり板挟みの状態であった。
本来であれば、この汚点を王都に連れて行くなど有り得ない話。
俺と連合の4人がエクシアの英雄として王都に招集されているんだから、王都遠征の間ワイトを地下室に拘束しておけば事足りるはずだったのに……国王がワイトを見せろって言うから……。
……ちくしょう。王様が見たがってるんだから、断り切れないよなぁ。断ったら死刑確定だし。
王の前でワイトが粗相したとしても、それはそれでちゃんと死刑にされるだろうけどな。ギャハハ! ワイトと関わった時点で俺の人生終わりじゃねえか!
最近ただでさえみんなの目がちょっと軽蔑的なのに、王様に嫌われた上で処刑されることになったら……俺、耐えられねぇよ!
「おい、ワイト。オメーそんなんでも高位のアンデッドなんだよな」
『そ、そうですけどぉ……急に罵倒しないでくださいぃん』
「すげー魔法も使えるんだよな。実際使ってたし」
『あっはい。一応使えますよ、一番得意なのは風の属性ですけど……』
「だったらよぉ、『擬態』とか『偽装』の魔法は使えねぇのか? もし使えるんだったら人間の姿に化けてほしい」
『わ、私に人間の格好をさせたいんですか……!?』
「……まぁ、世間体のためにな……」
『あ〜』
ワイトが人間の格好に化けられるんだったら、世間様からの視線もある程度柔らかくなるだろう。
エクシアの街での俺の評価は、骸骨に興奮する変態モヒカン冒険者。エクシアの街の冒険者から密やかな信頼を得ていたはずなのに、デュラハンを倒してから全てが狂ってしまったわけだが――
で、その俺の良くない噂が王都に伝わっていたとしよう。そんな状態で、俺がワイトの首輪を引きながら王都に堂々参上したらどうなると思う? 終わりってことだよ。
人間に化けたワイトの首輪を引いて参上するなら、ある程度奇異の視線を向けられることも無いと思ったんだけど――
……ん? いや、待て。無い。無いわ。何を考えてんだ俺。どう考えても人間に首輪散歩させてる方がヤバいじゃねえか。俺、ワイトと関わりすぎて頭がおかしくなったのかな?
……権力者から「ワイト見せろ」って通達来た時点で詰みじゃね?
『急にそんなことを言われて驚きましたけど……王都を出歩く際はモンスター丸出しの見た目をやめてほしいということなんでしょう?』
「そうだ。王都に行く時、テメーの見た目が大問題なんだよ。エクシアは小さい街だからギリギリ許されてるが、王都で骸骨が走り回ってると国中が大パニックだ」
『つまり、私の見た目を変えれば良いと?』
「あぁ」
『アンデッドの誇り……とか言ってる場合じゃなさそうですね』
「よく分かってるじゃねぇか」
『まぁ、魔王軍にもそういう見た目の問題はありましたからね……結局人間の世界でも同じなのですか』
「世間体終わってるオメーが言うのか……」
『で、人間に化けて欲しいんですよね? 私できますよ、ホラこんな風に』
「うおっ!? できるのか!? す、すげぇ……」
ワイトは魔法を唱えると、見目麗しい人間の女性に変身してしまった。
金髪碧眼。抜群のプロポーション。女騎士然とした凛々しい雰囲気を纏いながら、ワイトは『変身』の説明を付け加える。
『分類は風の魔法です。……水に濡れたら変身が解除されますので、悪しからず』
「変身解除する前に所々骨が透けてるじゃねぇかよ!」
『すみません、乳首はデータ不足で……』
「乳首だけじゃねえよ! へそも透けてるぞ」
『えっ!? や、やだっ恥ずかしいっ』
「俺はオメーの恥の基準が分からねぇよ……」
本当に裸ローブになったワイトを見て一瞬ドキッとした俺自身に絶望してしまう。見てくれだけは俺の好みの女騎士だったから、つい反応しちまったぜ。乳首が透けてて助かった。
「ま、まぁ……首輪付けなけりゃ済む話か……」
『?』
首輪をつけてあらぬ噂を立てられては困るので、ワイトは徹底的な監視下に置くことにしよう。まぁ、俺以外の元に行く心配は今のところないしな……王都の住民に危害を加えることはないだろう……多分……。
「テメーの服は用意しておく。もうすぐ出発だから、それまではゆっくりしとけ」
当分は俺のお古を着させて、透けてしまう部位を隠せば良いだろう。そんでもって雨と水には要警戒……と。
ワイトの本当の姿を見せるのは王室関係者だけで良いのだ。基本的に変身は解かせないようにしよう。
ワイトにそのように伝えた後、俺は家の前にバイクを出した。
「ノクトさん! もうそろそろ出発ですか?」
「おう、カミナ。準備しとけよ」
そんな俺の元にカミナがやって来る。カミナは蛇頭を隠すように深く帽子を被り、いつでも準備オーケーのようだ。
本当に……元モンスター同士、どうしてこうも違いが出てしまったのか。普通にしているだけでカミナが超絶良い子に見える。
ちなみに、ワイトとカミナの仲は普通に険悪だ。原因を考えれば当然だが、カミナはワイトに対して心を開いていないのである。
もちろん俺や
「……ノクトさん。家に突然入ってきたあの金髪の女騎士みたいな人……誰?」
「ワイトだよ」
「え?」
「人間の姿に変身してもらった」
「キ……何でですか?」
「いや、元の姿のまま王都をぶらつくのはヤバいかなと思ったんだが――今キモいって言いかけたよな?」
「いえ? 別に……」
ほらな。カミナはワイトのことになると怖いんだ。
しばらくすると
自宅から街の外に差し掛かる道中、ミーヤら一行を見かけたのでバイクを減速させる。そんなに長く王都に滞在するつもりはないが、少なくとも2週間はエクシアの街に帰ってこれないだろう。
ミーヤ・ダイアン・ティーラの3人が駆け寄ってくる。事前に王都に行くことはみんな知っていたので、「いよいよ出発ですか」という軽妙な反応であった。
「おうガキ共。ちょっくら王都に行ってくるぜ」
「お気をつけて、ノクティスさん!」
「エクシアの代表として、王様にかっこいいところをアピールしてきてくださいね!」
「ねぇノクティスさん! いつ王都から帰ってくるんですか!?」
「さぁな。長く滞在する予定は無いぜ」
「あたし達っ、ノクティスさん達が帰ってくるまでにCランク冒険者になっておきますっ! だから楽しみにしておいて下さいね!」
「おぉ! いいじゃねえか! 良い報告待ってるぜ!」
「はいっ!」
ギャハハ! ミーヤめ、すっかり頼もしくなったな!
こいつらがいりゃエクシアの街は大丈夫そうだ。
「あばよ、ガキ共!」
「ヒャハァ!」
俺達は法定速度を遵守して王都への道のりを走る。
こうして俺達は一旦エクシアの街に別れを告げ、混沌の街・王都へと向かうのだった。