「ギャハハ!おいガキ!オメーがBランクの冒険者になれるわけねぇだろ!」   作:へぶん99

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003:後輩のケツを拭くのは先輩の役目だぜ

 

 いよいよゴブリンキングの本拠地が近づいてきたのだが、俺は知りたくなかった事実に気づいてしまうことになる。

 

「……ここら一帯の地形が変わってやがる」

 

 ゴブリン共が踏み荒らしたのだろうか、森の地形はすっかり変化して荒地のようになっていた。

 Bランク以上の冒険者は踏査地の地図の調製も義務になるから、測量資格の獲得が前提となっている。つまり、第一発見者かつBランク以上の俺がこの辺の地図を作り直さないといけなくなったわけだ。

 ……面倒臭ぇ。さすがに後で代行してもらうか。

 

 それより今は後輩共の救出が先だ。

 バイクに探知機能を組み込んでいたので確認したところ、丁度進んだ先にゴブリンの群れと例の親玉の反応があった。

 

「ミンチにしてやるぜ」

 

 俺はゴブリンキングの元に向かうべくアクセルを勢い良く捻り込む。そのまま奴らの本拠地に突入すると、バリバリ轢き殺しまくっていたゴブリンとは違う2つの人影が見えた。

 恐らく人間――レイン村の村長が言っていたDランク冒険者パーティだろう。

 

 男の剣士と女の弓使い……2人ともボロボロだが、これで駆け出し冒険者パーティは全員なんだろうか。

 戦闘後にも見えるし、何が起こったのか気になるな……。

 

 俺は火属性魔法でゴブリンを焼き殺しながらその人影に近付くと、疲れ切った表情の冒険者の片割れが俺の顔を見上げてきた。

 身体のあちこちから出血しており、軽傷ではあるものの憔悴し切っている。

 

「おうテメーら、Dランクの冒険者パーティか。早くに見つかって良かったな」

「あ、あなたは……?」

「俺はAランク冒険者のノクティス・タッチストーン。……森にゴブリンキングがポップした。テメーらじゃ太刀打ちできねぇだろうから、さっさとエクシアの街まで避難してろ」

「で、でも――仲間のティーラがゴブリンに攫われて――」

「何? よりによってキングがいる時に攫われたのか?」

 

 俺は2人の途切れ途切れの言葉を聞いて愕然とする。

 通常のゴブリンに攫われたならどうにかなったが、キングのいる群れに引きずり込まれたんじゃあ……残念ながら生存の可能性は低い。

 

「何分前に攫われた?」

「つ、ついさっきです」

「おぉ、それならそいつが生きてる可能性もゼロではねぇな。テメーらバイクに乗れ。そいつを助けに行くぞ」

 

 圧縮ポーチからトゲトゲのサイドカーを取り出し、俺は2人の冒険者をそこに押し込んだ。

 サイドカーに腰を落ち着けるのを待たずにバイクを発進させ、暗がりから出てきたゴブリンを肉片に変えながら俺達は状況を整理した。

 

「もう一度言っておこう。俺はノクティス、オメーらの名前は?」

「お、オレはダイアンです」

「……あたしの名前はミーヤです」

「仲間の名前と連れ去られた方向は?」

「ティーラっていう女の子で、丁度今走ってる方角に連れ去られたと思います」

「オーケー分かった。追加で聞いとくが、ゴブリンキングの姿を見たか?」

「い、いえ。それは全く……」

「ならいい。今からティーラって女を救いに行って、そのついでにゴブリンキングをぶっ殺す。2人はそのつもりで戦闘の準備をしとけよ」

「「は、はいっ!」」

 

 普通、Bランク以上を対象に討伐許可が出されているゴブリンキングを相手に、新人の冒険者を連れていくなんて事態は滅多に起こらない。

 ギルド側がそういう規則を設定したからだ。「緊急時以外、己のランクを上回るモンスターを相手にしてはならない」……みたいな感じで。

 パーティに足でまといがいると死亡率が跳ね上がってしまうとか、ちゃんとした統計に基づく理由があったはずだ。

 とまぁそんなわけで、通常時は冒険者を格上モンスターに挑ませることが許されていないのである。

 

 今回はもちろん緊急時なので、例外のパターンになる。

 当然、Dランクの冒険者とBランクのゴブリンキング同士をガッツリ戦わせる気なんてないがな。

 こいつらに相手してもらうのは雑魚のゴブリンになる。

 

 そのことを知らないダイアンとミーヤはガタガタと震えており、ちょっと可哀想に思えてしまう。

 多分、Bランク相当のモンスターと戦わされると思って怯えてるんだろうなぁ。仲間を救いたい一心で勇み足なのかもしれんけど。

 

 温い風を切って走っていると、探知機が人間の放つ魔力の波を感じ取った。

 

「ん……近くに人間の反応がある。ティーラって奴がここにいるのかな?」

「本当ですか!?」

「どうやら生きてるみてェだ。運の良い奴だぜ」

 

 俺は生体反応に向かって一直線に走り、彼女を担ぎ上げるようにして走っていたゴブリンを丁寧に轢死させていく。

 ものの十秒ほどで完成する肉の山。残ったのは涙を流しながら首をブンブン振る青髪の魔法使い1人だけ。

 金髪モヒカンにトゲトゲ甲冑の俺をモンスターか何かと勘違いしているようで、ツタに拘束されながら芋虫のようにもがいている。

 

「ギャハハハハッ! おいコラ、テメー命拾いしたんだぜ! 自分の悪運と仲間に感謝することだな!」

 

 俺は火属性魔法でティーラを縛っていたツタを灰にすると、そのまま放り投げるようにしてサイドカーにぶち込んだ。

 ティーラはモンスターが人間語を話したことに驚愕した後、サイドカーで身を乗り出していた自分の仲間を見て更に驚いていた。呆気に取られた表情で俺を見上げてくるティーラ。澄み渡ったアメジストの双眸が俺を見つめていた。

 

「――あなたはいったい」

「俺はノクティス・タッチストーン……今日で自己紹介するのは何回目だ? 言ってみろよ」

「え? あ、何かすみません……」

「4回目だ! オラ行くぞ!」

 

 周囲は真っ暗闇なので、バイクを走らせていた方が何倍も安全だ。俺は魔導バイクのエンジンを震わせながら、ゴブリンキングの反応に向かって一直線に走った。

 その傍ら、ダイアン・ミーヤ・ティーラの3人は互いの無事を確かめ合って涙ぐんでいる。

 

 冒険者という職業は、そのキャリアに関わらず死の危険が付き纏う。世間一般で見れば高給取りの部類ではあるが、間違いなくリスクリターンの見合っていない職業のひとつだ。

 ……そんな冒険者になったってことは、こいつらにも事情があるんだろうな。人を守りたいっていう夢があるとか、金を短期で稼ぎたいとか。

 ま、1度きりの人生なんだ。死なないうちは好きにすりゃいいさ。

 

 横目で3人の新人が抱き合っているのを確認していると、速度メーターの隣にある探知機がゴブリンキングの強大な反応をピンポイントに示してきた。

 この速度で走っていれば、あと10秒もしないうちに接敵するほどの至近距離。俺はガキ共に向き直りながら、バイクの速度をゆっくりと落としていった。

 

「……おい、ガキ共。そろそろゴブリンキングのお出ましだ」

「!」

「ガキ共はここで見てろ。俺がボス格との戦い方を教えてやる」

 

 ごくり。3人の新人が生唾を呑み込む。

 ……正直な話、魔導バイクでモンスターの周囲を走りまくって、なおかつ火属性魔法をグミ打ちすれば大抵のモンスターは完封できる。

 しかし、それはあまりにも……こう……俺にしかできない戦い方だ。もうちょい分かりやすい戦い方を見せてやった方が、こいつらの将来に役立つというもの。

 

 俺は停止したバイクから降車し、背中のロングソードを抜き放つ。

 サイドカーの陰から神妙に見守る3人のDランク冒険者。そして闇の中からライトアップされた荒野に姿を現す怪物――いや、ゴブリンキング。背丈は俺の倍以上。横幅に至っては5倍くらい違う。

 生臭い吐息が肉薄して感じられるほどの威圧感に包まれ、背後でティーラが押し殺したような悲鳴を上げていた。

 

 ゴブリンキングの間合いは広い。その巨体に加えて、倒木をそのまま武器にしたような棍棒まで持ち合わせているのだ。俺が奴の懐に潜り込んで剣戟を与えるには些か苦労するだろう。

 

 エンジンの鼓動だけが響き渡る夜闇の森。互いの間合い外で歩みを止めるゴブリンキング。

 背後で3人の冒険者が見守る中、ロングソードに【炎の息吹(エンチャント)】をかけて火属性を含ませた俺は――

 

「ヒャッハァ――――ッ!!」

 

 ――そのロングソードを敵の頭に向かってぶん投げた。

 

「あぇ?」

 

 炎の剣が闇を一閃。

 誰かの素っ頓狂な声が飛んで――

 ゴブリンキングは脳天を貫かれて死んだ。

 

「――ふぅ。これでゴブリンキングの討伐は終わりだ。おいっす〜お疲れぃ〜はい解散〜」

「ちょっ、ちょっと待ってください! 本当に終わり!? もうクエストクリアですか!?」

「おう。ゴブリンもゴブリンキングも全員ぶっ殺したしな。さぁ街まで帰って上手いメシ食おうぜ! 俺が奢るからよぉ!」

「えぇ……」

「うぅ……もっとこう……ボス格との戦い方を教えてやるって言うから……何か凄いのがあると思ったのに!」

「ヒャッハ〜って何だったのかしら」

 

 3人が何か言っていたが、俺は至って真面目だ。

 英雄譚みたくバケモンと1対1なんかしたら普通の人間は死んじまうだろ? デカい奴は強いと相場が決まってる。それに人間は物をぶん投げる時が1番強ぇんだ。

 

「おう、ダイアン。コスい手を使うのは嫌か?」

「あぁいえ、全然そういうわけじゃ……」

「いやいや分かるぜ? 剣と剣をぶつけ合って好敵手との死闘――みてぇなやつを期待してたんだろ? 確かに俺も昔は憧れたんだがなぁ……死ぬのがあんまりにも怖いからよぉ、結局()()()()()に落ち着いちまった」

 

 ――残念ながら、俺は弱い人間の部類だ。ちょっと腕が立つとしても、この強さは正統派じゃねぇ。

 魔導バイクをふんだんに使って敵を轢き殺すし、火属性魔法をばら撒いて雑にぶっ殺すし、ロングソードをぶん投げて間合いの外から即死させたりする。

 俺はそういう冒険者なんだよ。死ぬのが怖いから。

 

「別に実力があればカッコイイ戦い方をしてもいいと思うぜ? だがな……人ってのはマジですぐ死ぬ。俺は死ぬのが怖ぇのさ。……ま、人生1回きりだ。ロマンを求めて生きても全然構わねぇよ。そこんとこは好きにしてくれや」

 

 自分の人生の主人公は自分だ。でも、歴史の主人公は自分じゃねぇんだよな。

 俺は歴史を作れねぇ。英雄とか王様みたいな選ばれた奴が歴史を作っていくんだ。

 

「――すみませんノクティスさん。先輩に対して過ぎた口を……」

「そんなん気にすんなよ! オラオラ、しんみりしてねぇで帰るぞ帰るぞ! ギャハハハ! 帰ってクエストクリア祝いのパーティだ!」

「は、はいっ!」

 

 俺はゴブリンキングの頭からロングソードを引っこ抜き、3人の新人をサイドカーに乗せてバイクに跨った。

 


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