お 守 り く れ る 怪 し い 老 人 作:老人というだけで怪しい(偏見
1.ロールプレイ含有率10%
それは本当に突然のこと。
「ほほ、ちょいとお嬢さん方、お待ちくださらんか?」
大通り。
騒がしく賑やかな市場を抜けた後のこと。
あれだけ密集していた店々がまばらになって、人通りも減って、だから少しばかりの物悲しさが顔を出し始めた頃、彼女らに声をかける者があった。
彼女ら。つまり、この国で最も有名なクラン『アウリヌス・レクス』に最近加入した、新人でありながら最強と噂される四人の少女たち。先ほどまで市場でもみくちゃにされ、これから冒険に出るというのに沢山の食材を持たされて少しばかり困り顔なその四人に、誰かが声をかけたのだ。
暗がり。暗がりだ。店が減って人が減って、そこにぽっかりと開いた家と家の隙間。つまり路地。
そこからぬぅっと白い影が現れて、そこからぬぅりと声をかけられたものだから、少女らの内で最も怖がりな少女ユティは「ひゃあっ!?」なんて悲鳴を上げて尻餅をついてしまった。
「ほほ、すみませぬ、驚かせてしまいましたかな」
一瞬腰の剣を抜きかけた者もいたくらいには突然だ。未だ新人、経験の浅い彼女らとはいえ、その実力は本物。レンジャーとして耳の優れる少女もいる中での突然は、つまり一切の気配を悟らせなかったということ。仲間が尻餅をついてしまっていることも相俟って、他の三人が警戒態勢へと入るのも致し方のないことだった。
「何者だ」
強い声で問う。
老人。老人だった。白い影はそれもそのはず、真っ白な顎鬚を膝のあたりにまで蓄えているものだから、暗い路地でも白くぼんやりと光っているらしかった。
声からして男性であろうその老人は、ほほ、なんて笑いながら、剣の柄に手をかける少女に対しあるものを差し出す。その懐から何か、木製の。
「これは……タリスマン?」
「ほう、見たことがありましたか?」
「ええ、村の長老が持っていたのを一度だけ……」
警戒は緩めないが、会話をしなければ膠着状態に陥ることも知っている。前衛を務める少女らが最大限に気を張っている中で、交渉役……メイジであるフィミルが老人と言葉を交わし始めた。
「物乞いか」
「いえ、いえ。お代は要りませんとも。ほほ、老人の節介というやつですよ、お嬢さん方。どうやらこれから冒険に、それも魔物の退治に行く様子。であればこれを持って行ってくだされ。これはお嬢さん方のような冒険者を危険から守る──」
「ええ、では、ありがたく。それではこれで失礼しますね、お爺さん」
些かひったくるようにして受け取り、少女らはその場を去っていく。
こういう場合、「怪しいから要らない」だとか「そのようなものは受け取れない」だとか、理由をつけて断ろうとすると面倒になる、ということを少女らは知っていた。この国はさほど裕福ではないがために、こういった遠回しな手法を用いてくる物乞いや押し売りも少なくはない。
ゆえに、タダでいいというのなら貰うだけもらって、その後にいちゃもんを付けられる前に去る。それが一番楽な対処法であるのだ。
さっさと、ささっと。
受け取ったタリスマンを荷物袋の適当な場所に突っ込んで、彼女らは老人の前から去っていった。
☆
突然だが、この世界はデスゲームになったVRMMORPG……の、その後な世界である。
特に特別な事は別にない。デスゲームになったといってもGMがいたわけじゃないし、PKとかMPKが大量発生したとかそういうこともない。
攻略こそ遅々としたものになったけれど、閉じ込められたプレイヤーがちゃんと協力してちゃんとゲームをクリアして、晴れてプレイヤーは解放──。
されなかった、というだけ。
クリアしてもゲームは続いた。続いて続いていくうちに、日常になった。日常を続けて行くうちに、歴史になった。
今でも俺のようにこの世界で生きているやつもいれば、とっくのとうに死んじまったやつも多い。いつか帰れると、帰ることができると信じて、信じたまんまに死んでいった奴は数えきれないだろう。悲しいかな、それでも世界は続く。世界は回る。
結局デスゲーム化したんじゃなくて良く似た異世界に全員で転移した──みたいな話だったんだろう。だからまぁ、ここが今の現実で。
俺は今、街にいる怪しい老人ロールプレイをしているってカンジ。
さて、何故俺がそんなロールプレイをしているかについて話はしない。特に理由とかないから。
強いて言えばゲーム時代にやっていたことの延長線上であるのと、見た目を最大限に利用した結果って感じだ。それ以上の理由なんかないし、それ以下の理由は……まぁ楽しいから、が来るんだけど。
これが俺の最終ジョブ。スキルツリーやジョブツリーが枝分かれしていくスキルポイントシステム系のゲームで、これ以上の、これ以降の進化はありませんよ、っていうのが最終ジョブ。お隣さんには
生産系の中で、どちらかというと仕上げに位置するジョブである。鍛冶とか木工系のスキルを持つジョブで良い武具防具を作って、最後に能力付与術師がプラスの能力をつける、みたいな位置。成功率とか何のスキルをつけるか、あるいは付けられるか、というのは勿論術師の練度に依るから、最終ジョブで且つ練度も完凸していた俺は、まぁ、なに? そこそこ儲かっていたって話。
だから、というわけじゃないけれど、時が経つにつれてプレイヤーが減って、技術力とか何やらの質がダダ下がりしていくこの時代の新米冒険者にはなんと無料でタリスマンを配っているのである。なんと無料で。
……まぁ下心はフツーにある。
キャラメイクしたプレイヤーはそれはもう見目麗しい集団だった。あの時代はよかった。どこを見ても誰を見ても美男美女。まぁネタプレイしてるやつはとんでもない化け物みたいなのもいたけれど、基本的には誰も彼もが目の保養。
その時代が終わって、段々と容姿というのが平均化されていったというか、普通になっていって。
──故に美男美女は宝となった。
いや。
いやね、下心だよ。勿論下心。こんな老人姿で言うのもなんだけど、可愛い子は宝なんだよ。あ、イケメンもね。いや俺バリバリ容姿で人を判断するよ? 人間第一印象オンリーだよ。
無論下心オンリーってわけじゃない。大部分下心であることは認めるけれど、それだけじゃない。
というのも、そういった美男美女の中でも、自然的に発露しない髪色や目の色の存在はさらに優遇する。たとえばさっきの少女ら四人。前衛らしい剣士の子は赤髪だったし、俺に声をかけられて驚いて尻餅をついた少女の目は結膜が真っ黒だった。
まーないよ。いくら異世界でも人体はそーはならんよ。染めてるとかカラコンでない限り中々ならん。
でもなっとるやろがい、ってことで、つまり彼女らはプレイヤーの子孫である確率が高いのだ。自然では出てこない色素を持った存在ってことは、キャラメイクを遺伝している可能性が高い。
繋がりはまぁ、ないのかもしれない。あるのかもしれない。その子見て「先祖アイツだ!」とはならない。けどさ。
ならないけど、やっぱり親近感というか、何かあるよね。他の……つまりNPCの子孫より、同郷の子孫であるってわかってる子は、優遇したくなる。その遺伝した特徴がフレンドやクラメンのものだったらなおさらに、ってね。
というわけで、美男美女保護のため、そして同郷の血を絶やさないために俺は慈善事業をしている。
PN『稼ぎ頭3』。サブキャラだからネー、変な名前もご愛敬である。
ところで、
なので日中は基本国内をほっつき歩いて、奇抜な髪色や美男美女っぽいのを見かけたらさっきみたいに「ほほ」なんて言って接触、守護系のタリスマンを押し付けることにしている。
今の時代、スキルとかステータスとかレベルとか、ゲーム時代にあったアレコレが劣化してきているというのは前述した通りだけど、だからと言って人類が弱くなっているかと言ったら話は別だったりする。なんだろう、ゲームのスキルという理不尽な力が取り除かれて、本来の……えー、武術だとかナントカが発展してきている、というか。
俺が全くできないからなーんにも語れないんだけど、かつてスキルでやっていたものを秘伝、あるいは奥義として、それに似た"人間のできる動き"を基にした無数の流派が成立、それがちゃんと理に適って魔物にも対抗できている……とかなんとか。人類スゲー。
ちなみに武術だけじゃなくエンハンサーとかメイジとか、魔法というものも様変わりしてきている。
バカ魔力を消費する極大魔法みたいなのは禁術扱いでほぼ使われなくなって、代わりに拘束系……各属性の殺傷能力の無い魔法が注目されている。要は生活に役立つ魔法ってやつだ。戦闘時においても仲間を巻き込む可能性のある範囲の広い魔法はめったに使われず、細かい調整のできる水魔法と土魔法が活躍のメイン。
昔は火とか風とかが主流だったのになぁという懐古。FFなかったからね、広範囲最強だった。
なおエンチャンターは……まぁ、あんまり息してない。
結局生産職で、しかも完成品にプラスするいわゆる"仕上げ職"だ。現存するエンチャンター達は、言っちゃなんだけど貧乏人は依頼のできない値段で商売をしているもんだから、まーまー依頼がない様子で。売れないなら値段下げろよ、と思わないでもないんだけど、確かに価値としてはそれくらいの値段するから何とも言えねえというのが俺目線。
んで金のあるやつはそもそも冒険者にならん。基本的に冒険者は貧乏人がなるジョブなので、高級志向なエンチャンターは用無し。だから練度も上がらない。練度が上がらないと成功率も上がらない。成功率上がらないとワンチャン相手の装備を破壊しかねん……とかいう悪循環。
まぁ、ゲームの頃なら自分でサブキャラ作って練度上げ用装備作ってエンチャントして、みたいなサイクルができていたこのジョブも、現実となると生き難いんだなぁ、って。
ちなみに俺の付与成功確率は文句なしの100%。素材がどんなものでも、だ。最終ジョブで練度完凸は伊達じゃない。
ま、装備にエンチャントするんじゃなくて俺みたいにテキトーな木片をテキトーに彫り込んでタリスマンって言い張って、それにエンチャントすれば練習にもなるし売り物にもなるし、それが一番良いとは思うんだけど……やり方は教えない。
教えたが最後、粗悪なタリスマンがこの世に出回りまくるだろうから。すでに一部出てきてるけど。
「あ、ガシラさん。お久です」
「ほ? ……ってなんだ、お前かよ、ベンカスト」
今朝見た少女たち以外、派手な遺伝的特徴を持つ美男美女が見つからず、そのまま正午を過ぎてしまった頃のこと。
街外れの噴水の縁に座っていた俺に、一人の少年が声をかけてきた。
黒髪黒目の十二歳くらいの少年。白地に金と黒のラインの入ったローブを被っていて、その顔はなぜか見えない。どんな角度からでも影になっていて見えない。手に持つ錫杖にはこれまた金と黒の飾りがジャラジャラとついているのだが、それも何故か音がしない。どれだけ揺らしても音が鳴らない。
当然、プレイヤーである。PN『ベンカスト』。ローブで隠れているけれど、その耳は典型的なエルフ耳。故の長命種。
「怪しい老人RP、身についてますね。ガシラさんと呼ばれたのにその反応とは」
「いやぁまぁ、この見た目で"おん?"とか言えねえだろ」
「あはは、それはそれで怪しいというか、怖い部類ですけど」
懐から木片を取り出し、
アサシンジョブのスキルだけど、流石に真昼間。効果時間はさほど長くはならないだろう。それを見越しての++だ。
「で、何用だよ」
「お久しぶりです、って言ったじゃないですか。偶然ですよ、用とかないです」
「嘘こけ。お前、結構な役職だっただろ。法国の……大司祭だっけ?」
「大主教、です」
「そうそれ。上から二番目だっか」
現存するプレイヤーは、俺みたいなロールプレイを楽しんでいる奴や旅に出て根無し草やってる奴を除いて、各国における重要なポジションについていることが多い。なんならそいつを起点に新たな国が興ったりもしているくらいだ。
それくらいのことができるというのも勿論あるが、まぁ大体の理由は「長命だから」だな。
コイツも平均エルフの何倍も何十倍も生きている。だからエルフの長老共からはハイエルフと崇められているし、コイツの所属する法国では生き字引として重宝されている。
「それじゃあ本題に入りますね」
「やっぱり嘘なんじゃねーか。まぁいいけどさ」
「といってもあなたにお願いすることなんて一個しかありません。至急、我が国のミスリルメイル三十個に『不死者耐性+++』、『霊体耐性+++』、『呪毒耐性+++』を付与してください。報酬は言い値でおっけーです」
「……また急な。つか、なんだそのラインナップ。死霊系ダンジョンでも攻略すんのか?」
「そんなところです。頼めますか?」
これがまー、俺の非日常だ。
新米冒険者にタリスマン押し付ける日常の中で、たまにコレが起きる。
俺をプレイヤーだと知っていて、俺を練度完凸の
これはプレイヤーだけに限らない。別に口止めしてないからな、プレイヤーがそうでない者に俺の正体を教えることも稀にだがある。そういうのからくる依頼も受け付けているので、金さえ払えば依頼は受ける。
……が。
「流石に数が数だ、時間がかかる。ついでに+++となると効果時間はかなり減るぞ。一週間くらいだ」
「構いません。ですが、運搬にかかる時間は取られたくないので、ガシラさんには法国まで足を運んでもらいます。あ、送迎は僕も同行するのでご安心を。他にも腕利きをたくさん取り揃えておりますので」
ま、これが付与術師の弱点というかあんまり人気じゃない要因というか。
エンチャントに制限時間があるのだ。強いエンチャントは短期の効果、普通のエンチャントは長期の効果、微弱なエンチャントは永遠の効果、ってな具合。エンチャントの強度は"+"で表され、強いものをつければつけるほど、みたいな話。
つってもゲーム時代の効果の話で俺は今モノを語っている。俺が作る永遠エンチャントは現代のロストテクノロジーくらいの効果がある。
それの、耐性+++発注。
何をやろうとしているのかは知らんが、どんだけやべーもんを依頼してきたかはわかってくれるだろう。
「今すぐ行くか?」
「はい、できるなら」
「了解」
いやまぁ、あるよ?
あの少女たちがどーなったのか、とかさ。気になるよ?
でもほら、タダ働きと言い値報酬天秤にかけたら……まぁ後者取るよねって話でさ。
ってなわけで、法国イグリーリュグスへれっつらごー。
☆
ガタゴト……とは揺れない馬車。
まー生産ジョブのプレイヤーはそれなりにいたからね、馬車の改良とか上下水道とか、デスゲームクリア後当時はかなりやりたい放題やってたはずだ。俺のとこにも依頼来てたし。特に水道の、水流系の永遠エンチャントの依頼は多かったなー。
「で、どうよ最近。お前さん、女の影ってもんが全くねぇけど」
「……馬車に乗っての開口一番がそれですか。で、毎度言ってますけど僕中身女なんで。ないですよ、結婚とか」
「あー、そうだっけ? すまんすまん、友達多いから誰の中身がどうだったかとか覚えてねーんだわ」
「それ友達じゃないんじゃないですか?」
当然だけど、ゲームだった頃のキャラクターには、ログインしている本人とは性別や年齢が違う、という者も多かった。俺はまー、別に男が女になってようが女が男になってようが気にはしなかったが、世界が現実となってくると彼ら自身に恋愛という壁が出てくる。
同性愛自体はそれなりに認知されてきた時代とはいえど、ソイツがそうであるかどうかはまったく別の話。そしてそうではないケースがそれなりにあって、だから独り身のまま子孫を残さず死んでいったプレイヤーも多い。
俺がプレイヤーの子孫の保護にかかるのはそういう理由もあるのだ。下心の方が割合は大きいが。
「んじゃあ、なんだ。最近の事情。今回の依頼についちゃ詮索しないが、あー……なに? 法国の……財政事情とか?」
「そんなの今回の依頼以上に言いませんよ」
「じゃあほら、新ジョブとかどうだ。俺も探してはいるけど」
「こっちも収穫ナシです。新スキルも同じく」
「……変わんねぇなぁ最近」
「ですねー」
新ジョブや新スキル。
ゲームが現実に変わったんだ、新たなジョブや誰も考えつかなかった、辿り着かなかったスキルが生まれ出るんじゃないかとプレイヤー一同期待していた……んだけど、まーこんだけ歴史が巡ってもそんなことは起きず。
上述の通り劣化していくだけ、あるいは様変わりしていくだけで、なんならスキルそのものはどんどん失われて行っている現状。
別に新ジョブ新スキルなんて血眼になって探すもんでもないんだが、あるいはホラ……異世界の扉を開く、みたいなのが出てきたらさ、ワンチャン帰れるかもな、とか。まぁ。あるんだよ。希望は持っておきたい、一縷の望みくらいは、って気持ちがさ。
「
「お、なんだ。なんか引っかかったか?」
「あぁまぁ大丈夫だとは思うんですけど、ミニマップに赤点が四つほど映ったので」
「ミニマップなぁ。サブキャラにも積んでおくべきだったよなー絶対」
「あはは、まぁ便利ですよ、そりゃ」
ゲームにおいて、ミニマップはスキルの一つだった。
ジョブツリーとは別に、汎用スキルにもスキルポイントが振れるシステムで、ミニマップとかダッシュとか跳躍とか、そういうものに1ptでもスキルポイントを振っていればそれが使えた……のだが。
まぁサブキャラには取らないよね。戦闘ジョブのメインには当然積んであったし、採取系のサブにも積んであった。つーか必須だった。
けどさ、国内で一生エンチャントしてるだけのサブにミニマップなんか積まないって。跳躍とダッシュも同じ。その他汎用スキルのほとんどをこの『稼ぎ頭3』は持っていない。
「汎用スキルがエンチャントできりゃ常時身に着けるんだがなー」
「ミニマップが付与された腕輪とかあったら、僧兵の全員に配りますね」
「法国一強になるからウチの国の兵士にも配らないと……」
「けどガシラさん配れる立場にないじゃないですか」
「……まぁエンチャントできないんだけどな」
ベンカストの口がパクパクと動く。
音はしないのに発声はしているのがわかる。これは。
「外の連中に?」
「はい、警戒を、と。どうにも近づいてくるっぽいので」
「命知らずな」
「あはは、まぁそうですね」
耳飾りに『遠話+』がエンチャントされているらしい。俺製じゃないから、法国にもそれなりに腕のいいエンチャンターがいるんだな。
「なんですか? 僕の顔に何かついてますか?」
「いやお前の顔見えねえだろ」
「あはは、冗談ですよ。で、気になったのはコレでしょう。まぁお察しの通りです。ウチでも優秀なエンチャンターが育っていましてね、ガシラさんには当然遠く及ばない上、スキルもほとんど使えないのですが、こうして近距離の仲間と話せる程度で十分便利なものでして」
「じゃあなんだ、後学のために俺の仕事をソイツらに見せる、とかか?」
「いえいえ、参考にならないもの見せたって絶望させるだけですよ」
「そりゃそう」
憧れられるのはまだしも、教えを請われたら困るからな。スキルショートカットからスキルを使って、とか言えねーんだわ。
「……今なら追加料金ナシで適当な武具貸すけど」
「いえいえ、ご心配には及びません。ウチの僧兵結構強いんですよ」
「それならいいがね……」
聞こえてきた。金属音と悲鳴。馬車が止まる気配こそないものの、近くで戦闘が起きているのはわかる。
いいなーミニマップ。それが見えてりゃそりゃ安心できるだろうけど、見えてない俺からしたらドキドキハラハラなんだわ。
腕利きっつったってこの時代において、だろー? 何が襲って来てるのか知らないけどさぁ。
「あ、終わりましたね」
「怪我人は?」
「いませんよ。多分ガシラさんはこの時代の兵士とか大丈夫か、みたいなこと思ってるんでしょうけど、今回連れてきた僧兵はゲーム時代の小規模クラン程度なら殲滅できる実力がありますからね。ぶっちゃけこのあたりの敵に対しては過剰戦力だったりします」
「……さっきの悲鳴は」
「敵ですよ。あ、盗賊のパーティだったみたいです」
「それを先に言え」
魔物じゃないなら今までの心配はいらない。
まぁ盗賊の中にプレイヤーが混じってた、とかならわからなくなるけど、人間vs人間の戦いで法国の僧兵が負けることはまぁまぁ無い。ましてや
ちなみに人が人を殺すことについてはまー、もう何も思わないかな。いや何も思わないは語弊がありすぎるけど、最初の頃はあった忌避感とかは無くなった。戦場に滅多に出ないとはいえ、それなりの修羅場もくぐってきたからヌー。
「それよか、追加料金払うので『追い風+』とか『疲労軽減+』とかくださいませんか? 早く到着できるに越したことはないですから」
「いーけど、それこそ外の連中引き離すぞ」
「大丈夫です。僕の護衛なので」
にっこりと。
……成程、パワハラな職場らしい。
懐から木片を取り出し、
作った瞬間ベンカストが何らかのスキルを……というかまぁ多分『鑑定』だろうスキルを発動し、そして舌を出した。
「ちぇ、永遠エンチャントはダメですか」
「やっぱりそれが狙いか。早く着きたいという割に弱いエンチャントを指定してきたあたり、ソーダと思ったよ。ダメだダメだ。永遠エンチャントはパワーバランス崩しかねねえんだから、そう簡単にはやらん」
「あはは、++でもかなりありがたいです。ありがとうございます、ガシラさん」
油断も隙もねー奴。
昔からだけど、ベンカストはホント……信用しちゃいけないやつNo.1だわ。真面目ではあるんだけどなぁ、もったいない。