お 守 り く れ る 怪 し い 老 人   作:老人というだけで怪しい(偏見

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13.ロールプレイ含有率30%

 さて。

 

「参りましたね。……まさかロビー空間とは。僕、死んでしまったんでしょうか」

 

 そこにいた。

 真白で、どこか青みがかかっていて、それでいて金色の光降り注ぐ空間。

 足元に敷かれたあまりにも広大な魔法陣は一文さえも読み解けず、その発光がまだ生きていることを報せてくれる。

 

 ベンカストはそこにいた。

 そんな空間で、ずーっとずーっと歩き回っていた。

 

「メールも送れなければフレンドリスト表示もなし。頼みの綱は書置きメッセージですけど、あのバカ二人が読み解けるかどうか……。ガシラさんなら大丈夫だと思うんですけど、まおうはアホですからねー」

 

 ぶつぶつと呟く。呟けど、誰もそれに答えない。

 なんせ誰もいない空間だ。果ての無い、建造物の一つもない空間。

 けれどこの場所をベンカストは知っていた。否、プレイヤーならだれもが知っている空間だ。

 

 ロビー空間。あるいはログイン空間。

 ゲームをスタートして、アバターとしてのキャラクターを選択する場所。本来であればここにズラりと作成したキャラクターが並んでいて、どれに"成る"かを選んでゲームの世界に入っていく。

 デスゲームになってからは目にする機会の無かったこの空間は、それでもちゃんとベンカストの記憶に残っているらしかった。

 

「あのホロウナイト……に、ロビー空間へ転送するスキルがあったのなら驚異的ですけど……ま、普通に考えたら何かしらの手段で殺されて、ここは天国みたいな扱いと考えるのが妥当ですかね」

 

 あっさり、さっぱりと。

 なんでもないことかのようにベンカストは笑む。

 

「さて……となると、なんで僕意識があるんでしょうか。とっとと消してくれたらいいものを、考えることができちゃうのは……成程、そういうタイプの地獄ですか?」

 

 声を発しても。

 にこやかに問いかけても。

 

 答えは──。

 

 

「返ってこないんですねぇ。今みたいな変な間を開けたらガシラさんが『ほほ、ちょいと突然すみませぬ』とかふざけながら声かけてきてくれないか期待したんですけど」

 

 やっぱり、無い。

 

 

 ☆

 

 

「時に、お主の魔法で人捜しはできんのか? 闇属性魔法で影を捜すとか、時属性魔法で過去の残像を辿るとか」

「流石にそういうことはできない……ん? いや、闇とか時とかないぞ!? 何を言っているんだセギ!」

「ほほっ、そうかそうか」

 

 ほぼ確定で違うゲームのプレイヤー。

 まぁVRMMO飽和時代と言われてたくらいだからな、最近……じゃねえ、千年前は。

 国産海外産問わず様々なVRゲームが生まれていて、MMOだけじゃない普通のRPGとかシューティングゲームとか、それはもう色々あった。

 その内の一つから来たとすれば、サーチマジックやサーチスキルに引っかからないのも頷ける。 

 

「では、魔神の力はどうなんじゃ。魔神というくらいじゃから、人探しくらい余裕なんじゃないのかの」

「あー……できなくは、ない」

「ほほ、ではやってくれい」

「が、できるのは登……歴史に名が残っている奴だけだ」

「ほ? 歴史とな」

「あ、いや……歴史に名を遺すほどの奴だけ、っていうか」

 

 ……まぁ時とかいう概念を扱う手合いだ。

 魔神目線、英雄とか偉人とかなら見つけられるってことか?

 

「待て……そうだな、そのベンカストだったか、そいつの肩書を教えてくれ。最古にして最高の能力付与術師(スキルエンチャンター)の友人であるならば、オレも知っている可能性がある」

「不思議な言い方をするのぅ。……まぁ良い。ベンカストの肩書は……ふむ。法国のNo.2、とかかのぅ、有名なのは」

「法国……聖王法国イグリーリュグスのことか?」

「おお、そうじゃ。ベンカストはそこのNo.2での」

「No.2……聖王の下か。あー……まさかあの性悪大主教……いや、アレ完全な悪役だしな……」

「性悪大主教。ほほ、それじゃそれ」

「マジか!?」

 

 確かにベンカストの名そのものは知名度が低いのかもしれない。それでも見聞として……あるいは醜聞として、法国には性格の悪い大主教がいる、ということが伝わっていてもおかしくはない。

 

「マジかー……友達?」

「そうじゃの。友人じゃと思っとる」

「えー……」

 

 ラクサスはしきりに「えー」とか「なんか……ヤだな」とかなんとか言いながらも、俺に隠れてなんらかの操作をしているらしかった。隠しきれてないけど多分ウィンドウを弄っている。

 

「……お、いた」

「どこじゃ?」

「ちょ、み、見るな!」

「何をじゃ?」

「え? あ、そうか、見えないのか……いやなんでもない。ハハハ、安心しろセギ。お前の仲間はまだ生きている。そしてつまり、そこにオレのホロウナイトもいる!」

「だから、どこじゃ?」

「ちょっと待て……えーとこの座標は……-44444444444,-44444444444,-44444444444? は? 地中深くってレベルじゃないぞ?」

 

 げ、イベントフィールドかよ。

 何に巻き込まれたんだか知らないけど、さーてどうする。イベントフィールドを作ることはやった、イベント聖霊を模倣するのもやった。

 けどイベントフィールドに赴く、っていうのは……ああいや、できる、か?

 必要魔力量がわからないのだけがネックだな。

 

「ラクサス、提案があるんじゃが」

「む、そうか。それで行こう」

「……内容をまず聞かんかい」

「何を言う。世界最高にして最古の能力付与術師(スキルエンチャンター)。オレは確かに魔神に見初められ、魔神の力を存分に揮える偉大なる存在だが、同時にただの一般人でもある。脳の出来に関してはお前に遥かに劣る。それを認めることを悔しいと思わない程にはお前は他と隔絶した能力を有しているんだ」

 

 だから、と。

 

「オレはお前の提案に乗る。オレは決してお前たちの味方ではないが、積極的に敵になりに行くつもりもない。何より休戦協定を結んでいる今、お前の言葉を疑う理由がない。違うか?」

「……それはそうなんじゃが、お主が不利益を被る提案かもしれんぞ?」

「それは当然ではないか? 誰も損をしないメリットなど湧かせられるのは、それこそ魔神くらいだ。オレもお前もヒト。あ、いや、お前がそうであるかは明記……じゃない、明らかじゃないが、少なくともオレはヒトだ。あ、種族的にはデーモンだけど」

 

 わからん。

 結構話したけど、コイツがわからん。

 味方じゃない。敵ではあるかもしれない。

 だけど良識があるようにも感じるし、一切考えていないようにも思う。

 

「流石にオレの命を犠牲にする、とかだったら辞退するが、もしそうなら提案などせず強制的にやっているだろう。お前にはそれができるとオレは知っている」

「……確かにそうじゃの」

「だろう? オレはお前のことをよく知っているからな。さて、ではやってくれ。お前の本領、能力付与(スキルエンチャント)を!」

 

 疑問は後回しで良い。

 コイツの気が変わらない内に、やってしまうとしよう。

 

能力付与(スキルエンチャント):Enc(ID:EventSpirit_MoveEventField(Op:Specify(Cd:-44444444444,-44444444444,-44444444444))).Ob(ID:ReedRod).Op(SignalMana(BootUp)/Active(Coercion))」

 

 お馴染み……ではないが、イベント聖霊がイベントフィールドにイベントモンスターを召喚するためのスキル。それを懐から取り出した葦の杖に付与する。オプションは二つ。一つは魔力を貰うと強制起動することと、常に強制起動状態であること。

 

 つまり──。

 

「これが……伝説の能力付与術師(スキルエンチャンター)の技術を施した杖……うっ!?」

「悪く思うなよラクサス。というかそうするしか方法がなかったんで我慢してほしいんじゃがの。そいつは魔力を吸って対象を指定の場所へ転移させる杖。いっかいこっきりでボキっと行ってしまうが、効果は折り紙付きじゃ」

「い……いや、大丈夫だ。これくらいの量なら……少し驚きはしたが、平気だ」

「ほ……ほほ、なんともまぁ、物凄い魔力量じゃの。それでは──少しばかり、行ってくる。ホロウナイトもいたら連れ帰ってくるでのぅ」

「ああ、頼んだ」

 

 ラクサスが吸い込まれていく。

 否、俺だ。俺が空間に吸い込まれて行って。

 

 行って──消える。

 

 消えた。

 

 

 ☆

 

 

 白い世界。

 真っ白な世界で、ベンカストはまだ歩いている。

 立ち止まることは無い。

 それが解決にならないことを知っているから。いや、あるいは、そうでもしていないと要らないことばかりを考えてしまうからかもしれない。

 ずっと真っ白だった。

 青みがかかっていて、金色の光が降り注いでいて。

 でも太陽もなければ星や月もない。風も吹かなければ見渡す限り起伏もない。

 白。白。白。白。

 

 真っ白な場所でベンカストは。

 

「──ほほほ、ちょいと、立ち止まってはくれんかの、今にも泣きそうな()()()()

 

 声に、足を止める。

 歩いていなければおかしくなってしまいそうだったから動かしていた足を。

 

「僕は……男ですよ」

「そうかい。そいじゃま、お坊ちゃんでもいいがね。よぅベンカスト、泣きそうじゃねーの」

「ロールプレイするなら最後までしてください。ちょっといい雰囲気だったのが台無しじゃないですか」

「感動の再会っつーのは時間的余裕があるときにやるもんなんだよ」

 

 そこに、いた。

 真白の空間よりかは白くない、けれど真っ白な髭を膝下まで蓄えた老人。枯れ木のような頼れなさそうな、貧弱そうで脆弱そうな男。

 戦えもしないくせに、命の危険に常に苛まれているくせに──何故かずっと、自信満々で呑気な奴。

 

「遅いですよ、ガシラさん。僕、書き置き残したんですけど、もしかして解読できなかったんですか」

「え、書き置き? 見てないけど?」

 

 ──やはり。

 この二人に感動とか再会とか、似合わないらしい。どーやっても演出できないと誰もが匙を投げるのだろう。

 

「もういいです。それで、来たってことは戻る方法あるんですよね?」

「あるよ。あるけど、ここの探索もしたさあるな」

「ここなんもないですよ。ロビー空間っぽいですけど、誰かのアバターが安置されているわけでもなし。魔法陣の中心に行ったの含めてざっと七十km程歩きましたけど何にもありませんでした。アークビショップが有する最高射程のスキル、暴力的なまでの神秘(アーケインビーム)も使いましたけど手ごたえ無し。地面に焦げ跡さえつかずじまい」

「この魔法陣自体の効果は?」

「僕じゃ解読できませんでした。ガシラさん読めますか?」

 

 足元の巨大な法陣。

 ぎりぎり曲線であることがわかるから円であることは確実だけど、その全体像を見るためにはどれほど移動しなければならないのか。

 現在の二人の足元。

 そこに刻まれた文字は。

 

「……(いちい)苛草(いらくさ)、柊……接骨木(にわとこ)(もみ)、また苛草、(はしばみ)、んでもってまた櫟」

「読めるんですか」

「ああ……よく使うからな」

「よく使う?」

「使ってた、が正しいか。俺のサブ垢の稼ぎ頭2が彫刻師(エングラヴァー)なのは知ってるよな?」

「ああそういえばそうでしたね。……どうせならあの美少女でデスゲームに参加すればよかったのに、まさかこっちの枯れ木のような老人とは」

「ありゃ俺の趣味じゃないからいいんだよ。なんだっけアイツ……ほら、最終的に攻略組に入った」

「口刂匚'ノさんですね」

「そうクチリットウハコダッシュノ。アイツのキャラメイクデータが勿体ないから使ってほしいって言われて仕方なく美少女にしたんだよ」

 

 雑談に花を咲かせて。

 

「で、結局どんな関連性が?」

「あ……あぁ、だから彫刻師がスキル使うときに出てくる文字なんだよコレ」

「へえ。どんな意味なんですか?」

「だから知らないって。読めはするけど文法とか単語とか無いに等しかったし。図書館とかにあんじゃね、なんか。法国帰ったら漁ってみろよ。俺この身なりだから国の図書館入れないんだよな」

「美少女にしておけば……」

「うるへー」

 

 一通り、言葉をかけあって。

 

「とにかく無事でよかったよ。あとはこっから出るだけだ」

「方法、あるんですよね」

「あるよ。ただその前に、お前さんを連れてきたホロウナイトはどうした?」

「それがよくわからなくて。何か怪しい素振りを見せたら殺そうと思って機を窺っていたら、いつの間にかここにいた、という感じで」

「そうか。まぁ見つからなかったって言えばいいか」

「?」

 

 セギは、インベントリから一本の杖を取り出す。

 それは彼がラクサスに与えたものと同じ、葦の杖。

 

「そういえば、ですけど」

能力付与(スキルエンチャント):Enc(ID:EventSpirit_MoveEventField(Op:Specify(Cd:0,50,0))).Ob(ID:ReedRod).Op(SignalMana(BootUp)/Active(Coercion))/Range(1*2)」

「ホームポイント帰還、なぜか使えないんで、ワープとか転移とか無理だと思いますよ」

「え?」

 

 その杖に何かをエンチャントしたセギ。

 ベンカストがそれを持って、一瞬だけ顔を顰める。

 

「……なんですかこれ。呪いの装備? とんでもない量の魔力持ってかれましたけど」

「発動しない……だと……」

「ああ、じゃあコレが転移系のエンチャントなんですね。あ、折れましたね。発動したけど効果は発揮されなかった、って感じでしょうか?」

「……たぶん」

「明らかに元気無いなぁ」

 

 まっずい。

 そうか、ここイベントフィールドはイベントフィールドでも、ロビー空間だから……この場所からワープとかできないってこと?

 やっばいじゃんそれ。

 やっべー。

 

 え、どうする?

 

 ら……ラクサスー! まおうー!! 気付いてくれー!!

 

「もしかして補助案ナシの一点突破で来た、とか言いませんよね」

「ははは」

 

 よし。

 

「ベンカスト」

「はい、なんでしょうか」

「──お前の知恵を貸してくれ」

「僕一人の知恵で出られなかったからあなたが助けに来たんじゃないんですか?」

 

 これ、詰んだな。

 

 

 ☆

 

 

 アニータは一人荒野を爆走していた。

 尚も変わらず赤い月。尚も変わらぬ黒い土。

 変化の無い魔界を爆走し爆走していた。

 

 理由はただ一つ。

 

「──今、助けに行きます、ベンカストさん……!」

 

 握りしめた紙切れ。

 それは本当に一瞬のこと。アニータが水を汲みに応接間を出たその一瞬で、ベンカストはいなくなっていた。開け放たれた窓。急いで書いたのだろう書き置きには、殴られるようにこう書かれていた。

 

 ──"二番目のラボ。死霊系テイマーは悪。残された忌み子を。これはオバンシーの箱。状態黒。浮かない顔でこれを為せ"。

 

 アニータは鼻を鳴らす。

 解読したのだ。この一見して意味の分からないメモを。不穏なことが書かれていながらも、何をしてほしいのかが全く分からないこのメモから、ベンカストが誘拐されたことまでもを読み解いた。

 

 どこへ連れ去られたのかも、だ。

 

 走れ、走れ、アニータ。

 目指す先は西。

 現魔王城が建立される前にあった、今は誰も使っていない古城。

 

「に、し、の、こ、じょ、う!」

 

 流石はアニータ、まおうの娘だけあって、頭が良かった。

 

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