お 守 り く れ る 怪 し い 老 人   作:老人というだけで怪しい(偏見

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常に笑っている老人は怪しい(偏見


2.ロールプレイ含有率60%

 法国イグリーリュグス。

 この世界というか大陸にはいくつかの国や町があるのだが、現在に至るところのほとんどは新しく興された国々で、ゲーム時代には無かったものが多い。もともとあった国々が併合してできた国、あるいは分裂してできた国もあれば、たった一人の英雄を中心に多くが集ってできた国なんかもある。

 そんな中で、法国イグリーリュグスはゲーム時代から存在する国だ。教会関連のクエストの発生場所で、聖職者(プリースト)系のジョブの聖地でもあった。まぁアクセスが楽だから法国にマイホームを設置するプリーストが多かったってだけだけど。

 イグリーリュグスは白と青を基調とした……なに? きっちりとした、THE☆規律正しいみたいな国だ。建物も人も、テイムされた魔物までもがキッチリしている……ので、俺の姿は結構目立つ。

 

 浮浪者にも見える老人。膝まである白い髭、顔の至る所に深く刻まれた皺、糸目、あまり上質には見えない衣服。身長は低くもなく高くもなくで、極め付きの喋り方。

 まー、いないわな。法国には。この国は節制と規範の国なれど、貧富差というものは他国に比べて限りなく少ない。くいっぱぐれる奴がいない。病で死ぬ奴もいない。法国出身で盗賊に身を窶す奴は一人だっていない。

 節制と規範さえ守れば、絶対の力で国が守ってくれる──そんな国。

 

 理想の一つではあると思うよ。上から二番目がベンカストである、ってのがちょっと俺はヤだが。

 

 さて、馬車が法国に到着し、そのまま国内へ入れば──目の前に広がるのは、超巨大な階段。

 

「ほほ……いつ来ても、法国の階段は壮観よのぅ」

「ご老体、あなたにはこの長さは厳しいでしょう。どうか私の背にお乗りください」

「ではありがたく」

 

 僧兵の一人に負ぶってもらう。

 ゲーム時代は何とも思わずに突き抜けていた階段だけど、いやぁこれ毎日上がり下がりするのダルすぎる。そりゃ僧兵も強くなるわ。足腰鍛えられすぎるもんなーコレ。

 

「それじゃあ、セギ老。僕はこれで失礼いたします。ウヒャルド、セギ老のことは頼みましたよ」

「ハッ!」

「ほほ、ベンカスト殿、改めて問うが、不死者耐性、霊体耐性、呪毒耐性で良かったかの?」

「はい。それの最高強度でお願いします」

 

 ぺこり、と小さく頭を下げて、ベンカストはスキルを使う。

 メイジ系のどっかで手に入る『浮遊』のスキルだ。別にコイツ極振りとかじゃないから、聖職者ジョブ以外のスキルもたくさん持っているってな話。浮遊もなー、取っとけばなぁ。まぁこれはジョブスキルだから適当なアイテムにエンチャントすればいいんだけど。

 

「それでは失礼いたします、ベンカスト様」

 

 ウヒャルドと呼ばれていた僧兵もまた頭を下げ、次の瞬間には走り出していた。

 速い速い。そして揺れない。どーいう体幹してやがるのか、ものっそい速度で走ってる上にぴょんぴょん跳んでて尚揺れない。何か魔法を使ってる……んだとしても、ゲーム時代になかった奴っぽいな。

 ゲーム時代の魔法の方が強力であるというのは言わずもがなだが、実のところ、生活や生き残るための戦闘に即した形に様変わりしている現代の魔法の方が色々と便利ではあったりする。

 例えば、魔法で作り出した水というのは何とも言えない味がする……正直言って不味いのだけど、その雑味を無くした精製水を作り出す魔法、とか。基本的に攻撃力のありまくる風魔法を、何か物を持ち上げられる程度にまで弱めたもの、とか。

 

 新スキル新ジョブというのが見つかっていない代わりに、魔法はポンポン新しいのが出てきている。それはまぁ、魔法が魔力というエネルギーを基にした学問であるからなのだろうけれど。

 

「到着いたしました」

「ほ……随分と速い。道中でのこともそうじゃが、法国の僧兵というのはよく鍛えられておるようだのぅ」

「恐縮です」

 

 身体的特徴にキャラメイクの名残らしきものはない。無論ナチュラルキャラメイク……自然発生に留まるレベルのキャラメイクをしていたプレイヤーがゼロだったわけではないので絶対にそうとは言えないが、NPCの子孫でこのレベルなら本当に凄いと言わざるを得ない。

 戦争になったら法国一強かなぁこれは。戦争なんかならないで済むならそれでいいんだけど。

 

「こちらです」

「ひぃ、ふぅ……ほほ、ミスリルメイル三十個、確と。これより作業に取り掛かるゆえ、何人たりとも作業場に入れぬよう頼むぞ」

「お任せを。鼠一匹入れません」

 

 別に入られてもできるし、見られてもいいとはいえ。

 見せびらかすのもまた違うしな、っていう。

 

 さて──その真っ白な建物に入る。ガチャりと鍵が閉まれば、そこは完全な密室。窓もない。

 一応、左手の中指に嵌めてある指輪を撫でて、エンチャントされたスキルを発動させる。

 

「サーチトラップ、サーチスキル、サーチマジックに引っかかるものなし、と。ほほ、純粋な依頼のようじゃの」

 

 一応声漏れを考えてロールプレイはやめない。そうでなくとも外から入る手段なんざいくらでもありそうだし、寝っ転がってだらけながら作業してるところに僧兵が入ってくる、とかあったら目も当てられん。

 今の俺はあくまで怪しい老人だ。

 法国の大主教がわざわざ足を運んでまで連れてきた、どこからどうみても怪しい老人。

 ちなみにセギ老というのはロールプレイ中に名乗ってる名前ね。カセギガシラ3だから。

 

 で、今回の依頼は三十個のミスリルメイルに対しての三つのエンチャント依頼である。

 これを、例えば一つ一つにこれまた一つ一つエンチャントをしていったら、最初にやったものと最後にやったもので効果時間に差が出てしまう。俺の魔力そんなに多くないから休み休みやらなきゃいけないのだ。

 それを解消するために、少しばかり違う手法を取る。

 用意するのは『魔力増強+++』、『魔力回復量+++』、『魔力回復速度+++』、『魔力節約+++』の能力が付与された指輪四つ。

 これを身に着けることによって起きるのは、莫大なまでの魔力上限突破。二十倍ほどに増えた俺の魔力が、それなりの速度で回復し始める。

 本来のメイジジョブであれば基礎が……つまりスキルツリーの最初の方でこれらを習得しているため、本職のやつらがつければもっともっと上がるのだが、まー生産メインのサブキャラはこの程度が関の山。

 俺がベンカストに言った「時間がかかる」というのはこの魔力回復を待つ時間のことだ。だったら馬車に乗ってる時点から着けとけよ、っていうのはまぁごもっともなのだが、これらはそれなりの貴重品。あの時点ではベンカストの依頼に裏がないかどうかとかわかんなかったからな。

 ここへきて、この部屋に来てようやく安心して、それで取り出すことのできた品というワケだ。

 

 ……しかし。

 法国から一週間以内でいける範囲にあって、三十人も必要な超高難度死霊系ダンジョン、ね。

 そんなの無かったはずだが。

 

 考えられるとすれば、新しいダンジョンが見つかったか……もしくは。

 

「どっかの町が滅びたかのぅ。さてはて、嫌な話じゃて」

 

 死霊。読んで字のごとく。

 人間……というか生物が大量に死ぬことで発生する魔物であるが、生前の魂と死霊の人格に関連性は無い。姿かたちこそもととなった生物を模すけれど、たとえばデミリッチとかアークリッチとか、人語を解す死霊系に生前のことを尋ねても答えは返ってこない。

 魔物になった時点で完全に別物な個体になるのだとか。じゃあ生物の魂はどこへ、って話は、その死霊系の魔物の動力源に移る。

 大体の死霊は体のどこかにコアを持っている。赤い、深紅ほどはいかない暗さの、真紅ほどはいかない鮮やかさのコア。光り揺らめくソレこそが生前の魂だ。

 故、それを取り込んでいる死霊を浄化するなりして解放してやるか、コアそのものを砕いて解放してやるかすれば死霊は死ぬし魂も浮かばれる。だから物理無効とかそういうことはないし、聖なる何かじゃないと倒せない、なんてこともない。ちゃんと魔物だから不必要に怖がる必要もない。

 

 が。

 

「呪毒耐性となると……それなりに病んでいると見るべきかの」

 

 不死者耐性、霊体耐性だけなら上述の通りの魔物だ。デミリッチやアークリッチでさえ、この二つの耐性だけで大分楽になる。まぁ他にプラスするなら武具に不死者特効、霊体特効なんかをつける感じか。

 が、呪毒耐性も欲しいとなると、ちょっとばかし話が違う。

 呪毒。まぁ読んで字のごとく呪いで毒だ。死霊魔物の中でも最上位に近い奴らが使うフィールド魔法。攻撃が当たらなければ毒や呪いを付与できない、なんて欠陥攻撃をしてくるほど魔物は甘くない。自分には効かず、獲物にだけ効くよう広範囲を状態異常フィールドに作り替えて、そうやって防御と攻撃を兼ねるのが魔物だ。

 これは死霊系だけに限らず、他の魔物も同じ。強くなればなるほど自身のテリトリーを定め、そこに自身が有利になるような仕組みを敷く。

 だからこそゲーム時代のエンチャンターは儲かった。スキルツリーシステムだから耐性系取り忘れてる奴は大勢いたし、一週間で切れるエンチャントだからこそいいと、その場凌ぎだからこそ後で他のをつけやすいとそれはもう依頼がガッポガッポ。

 無論俺だけが能力付与術師(スキルエンチャンター)で稼いでたワケじゃないから市場独占とまではいかなかったけど、それでも、まぁ、うん。やっぱり人が面倒くさがることを率先してやっておくと儲かるんだなってのがMMOの学びだよね。

 

 話を戻そう。

 つまり、呪毒耐性が必要ってことは、町全体がフィールド魔法に飲まれている可能性が高いってことだ。余程悲惨な事件があった、と見るべきだろう。局所的に多量の死者が現れたりしなきゃ、そうはならない。死霊系ダンジョンはまた話が別だが。

 あの時ベンカストが話を逸らしたあたり、法国の失敗とかで起きた事件だったりするか?

 ……そこまでは早とちりか。ま、なんにせよたくさんが死んだのは間違いない。

 

 ヤだヤだ。

 せっかくみんなで頑張ってゲームクリアしたんだからさ、もう平和になろうよ。まぁクリアしたのどんだけ昔だって話だけど。

 

 よし。

 魔力は半分ほどまで回復した。

 これ以上面倒なこと考える前に、寝て過ごすとするか。

 

 

 

 

 

 夕刻。

 起きた。まー、別に何か特別凄い事件が起きたとかは無い。法国だからな。この国を揺るがすほどの何かとなれば、寝ている暇なんかなかっただろう。

 デスゲーム時代ならもうちょっと色々あった……気はしているけど、現実となってからの長い間はイベントらしいイベントはほとんど経験してこなかったなぁ。ありはしたらしいんだけど、如何せん俺が外でないから。

 

 で、魔力。

 うん、完全回復している。これならできるだろう。

 目の前の鎧立てに置かれた鎧群……ミスリルという青白い鉱石を網目状に編んだ鎧であり、柔軟性と強度の双方において非常に秀でている鎧。それに対し手を翳し。

 

能力付与(スキルエンチャント):Enc(ID:ArchBishop_UndeadResist+++).Ob(ID:MithrilMail).Op(Range(6*4))」

 

 呟く。

 瞬間、ごっそりと俺の魔力が……具体的には四分の一が減る。代わりに強い輝きを放つミスリルメイル達。

 当然だけど、このやり方は正規じゃない。デスゲームになってから生産職は暇な時間が多かったからな、色々試してたらできちゃった非正規なやり方……多分グリッチと呼ばれるものだ。

 スキルエンチャントまでは普通に発動して、本来はどんなスキルを付与するかだけを宣言するスキルなのだけど、そこに細かな指定を入れることで範囲や強度を変えられる。ゲームという軛から解放されたからこそのやり方であり、同時にこの世界にまだゲームシステムが残っていることの証左。

 

能力付与(スキルエンチャント):Enc(ID:ArchBishop_GhostResist+++).Ob(ID:MithrilMail).Op(Range(6*4))」

 

 これを見つけたからこそ、新ジョブ新スキルに恋焦がれている部分も大きい。

 何か。

 ログアウトとか、異世界転移みたいなスキルが……あるいはその構文が見つけられたら。

 俺がそれをゲートとかに付与してさ。みんなで……まだ生きている奴らだけでも一緒に帰れるんじゃないかって、そう思うんだ。

 

能力付与(スキルエンチャント):Enc(ID:HolyKnight_CursePoisonResist+++).Ob(ID:MithrilMail).Op(Range(6*4))」

 

 一気に三つ。

 魔力を四分の一まで残して、エンチャント作業を終了する。

 目の前にあったミスリルメイルはさらに輝きを増し、ただあるだけで必要以上の存在感を放っている。三十個全部が、だ。いやぁキツい。キツい魔力消費だった。

 老骨には堪えるというものだ。ねぎらい、ねぎらいを寄こしなされ。

 

 なんて冗談はさておいて、よっこらせ、と立ち上がって、ドアを内側から叩く。

 鍵の開く音。すぐに扉が開き、ウヒャルド君が顔を覗かせた。

 

 ……俺、昼から夕方にかけてまで寝てたんだけど、もしかしてその間ずっと外に立ってたの?

 いやごめんじゃん。先言えばよかったな、魔力回復の時間寝るよ、って。まぁ護衛の意味で立ってたならどっちみちかもしれないけど。

 

「どうかされましたか?」

「ほほ、いや何、作業が終了したのでな。ベンカスト殿に鑑定をお願いしたく思うての」

「……時間がかかると聞いておりましたが、終わったのですか?」

「昔なら到着してすぐに終わらせられたんじゃがのぅ、年を取るというのは悲しいことじゃて」

 

 因むと、世の中のエンチャンター……特にスキルの使えない、技術と魔法オンリーでエンチャントしているような奴らは一個のアイテムへのエンチャントに一日も二日もかける。まぁ当然だ。魔法が定着するようにアイテムに細工をする必要があるし、その細工も一筋縄ではいかない。今回のミスリルメイルのような素材であれば細工だけで三日くらいかかってもおかしくはない。

 それをたった数時間で、となれば、浮かぶ感情は二つだろう。

 即ち疑念と──期待。

 あり得ない、という己の常識が疑念を浮かべるも、ベンカストの旧友であるという事実が期待を高める。

 そしてそれは、『鑑定』を持たない素人目をしてもわかるほどの輝きに膝を屈するわけだ。

 

「お願いできますかの?」

「──直ちに」

 

 なんなら俺のインベントリに『鑑定』が付与されたメガネがあったりするよ、とかは。

 まぁ、余計な話。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「いやぁホントに助かりました、ガシラさん。さすが、完璧な仕事だ」

「まぁこっちも商売だからな。で、報酬だが」

「ああはい、言い値で大丈夫です。トレ窓開いてくださいますか?」

 

 帰りの馬車。

 すでに夜となっているから宿泊施設に案内されかけたけれど、丁重にお断りした。法国は静謐過ぎて好かん。夜も騒がしいあの国の方が俺は好みなんだ。

 

「いや、金はいいよ。いくらでもあるし」

「というと、何かアイテムですか?」

「んや、情報。別に関与しようとは思わないからさ、どこで何があったのかくらいは聞かせろよ」

「……」

 

 言葉に笑みを消すベンカスト。

 目を細め、錫杖に手をかけ──。

 

「そういう演技良いから。マジでただ知りたいだけだよ。どこが滅んだのか……誰が死んだのか。お前がそこまで隠したがるあたり……プレイヤー、なんだろ。死んだの」

「……ふぅ。やっぱり善意の嘘というのは難しいですね。逆は得意なんですが」

「得意であるなよ」

 

 まぁ、そういうことだ。

 NPCの村が滅んだとかならコイツがこうも執拗に隠す必要はない。それが法国のミスとか戦争相手とかであれ、だ。俺がそういうのに興味ないの知ってるからな。

 ただ、唯一俺が食いつくのが、プレイヤー関連の話。

 で、まさに今回の件がそうだった、ということだろう。

 

「オバンシーさんが亡くなられました」

「……マジか」

「はい。場所はガナデ村。ただしそこで亡くなられたわけではなく、どこかで瀕死の重傷を負い、ホームポイント帰還でガナデ村へ転移、転移の最中に死亡したものと思われます」

「もう調査済みってか」

「死霊のフィールド化から逃げ果せた村人の証言から考察すると、ですよ。真実はまだわかりません。ただ、オバンシーさんは予てよりガナデ村を拠点にしていたため、ホームポイント先に設定していたのは間違いないかと」

 

 オバンシー。

 言わずもがなプレイヤーで、ドワーフ種族。豪快な性格ゆえ慎重派との衝突も少なくない奴だったが、根は良い奴……というか本当に豪快なだけでめちゃくちゃ良い奴だった。常に弱きを助け悪を挫く、みたいな感じの、なんだ、正義の味方ってわけじゃないが、頼れる兄貴分、みたいな。

 戦士系ジョブの最終手前くらいまで行ってたか。『耐久力+』の鎧の発注を良く受けていた記憶がある。

 

「……死亡は確定?」

「はい。残念ながら」

「そうか。……悲しいなぁ」

「ですね。僕も彼とは……色々あったので」

 

 本当に。

 誰が亡くなっても悲しいが、繋がりがあると余計になぁ。

 

「で、そこに呪毒フィールドが出来上がったと」

「はい。ただ……」

「ただ?」

「先ほども言ったように、命からがらながらも逃げ果せた村人は多いんです。加えて、彼が死したらしき場所も別の場所。なれば」

「……ガナデ村が呪毒フィールドになる要素がない、か」

「はい。現在は死霊で溢れかえっていますが、彼の死亡当時、周囲で突然死が起きた、ということもなかったらしく……。なぜそうなったのかも含め、これから法国を挙げて調査に向かう予定でした」

 

 成程なぁ。

 そりゃあ隠したがるわけだ。

 

「追加発注、今なら代金無料」

「あはは、そう来ると思ってました。けど大丈夫です、攻撃に関してはそれなりの粒がそろっていますから」

「武器だけじゃねえよ、体力回復とか魔力回復とか、色々あるぜ? 色々できるぜ俺は」

「厳しく、そして不謹慎な言い方になりますけど、オバンシーさんは亡くなりました。──ガシラさんが守りたく思うのは生きているプレイヤーの方でしょう?」

 

 う、と。

 言葉が詰まる。

 ……死んだプレイヤーに対しての弔いなんて……やっても仕方がない。奴の魂はコアとして死霊に囚われているとはいえ、そこに意思があるわけじゃあない。会話ができるわけでもなし、ただ外側の死霊の消滅を願うだけの存在だ。

 最高品質の防具の用意。

 

 これ以上、俺にできることはない。

 

「……能力付与(スキルエンチャント):Enc(ID:ElderLich_Reverti).Ob(ID:Talisman)」

 

 だから──渡す。

 もう一人いるだろう、と。

 

「これは? というか、今のエンチャントは……」

「企業秘密だ。んで、これ持っとけ。お守りだ」

 

 ジンジャークッキーみたいな見た目の木片。それに付与したスキルは『帰還』。

 攻撃力も防御力もない、発動しないに越したことはないタリスマン。"+"が一つもついていないエンチャントは一度発動したら効果を失うものだ。

 それをベンカストに渡す。押し付ける。

 

「お前が死んでも、俺は悲しむからな。覚えとけよ性悪女」

「……あはは、わかりました。ありがたく受け取りますね」

 

 馬車が進む。

 ふてくされて窓を向き、一言も喋らなくなったのは俺の方。

 ベンカストはにこにこと普段通りの笑みを取り戻して、終始タリスマンを触っていた。

 

 無事を祈る。

 

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