お 守 り く れ る 怪 し い 老 人   作:老人というだけで怪しい(偏見

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20.幕間(配下達 / 魔王と魔女 / 簒奪者と先達)

 魔界では、魔王城に新たな兵が──強き者が増えたと噂になっている。

 

 通常、魔王が兵士を登用する場合、その者は魔界でも随一の有名人……即ち猛き者であることが多い。魔王城のNo.2と謳われているファザクフルメルミリナもかつてはそうであったし、魔王の娘を除いて彼の城に努める者は猛者ばかりだ。

 しかし、というかだからこそ、魔界の誰もが知らない、一度も目にされたことのない者が兵士になることは珍しい。

 魔王はそういう忖度を働かせない人物だし、どんな辺境で生きていたって強ければ名が挙がるのが魔界だ。

 

 ので。

 

「……アレらは、斬ってもいいのだな?」

「だ、ダメだと思うよ、姉さん……」

 

 今、魔王城はすわ観光地かと思わせるほどの人だかりができていた。

 目的は勿論、新しく兵士となった魔族。

 名をルクリーシャ。呪いだの契約だのなんだのから解放され、晴れて"歴代イベント最高峰のボス"として……普通の魔族として生きることの叶った女性。プラス、あんまり役に立たない調剤師(ファーマシスト)の少年イステア。

 ちなみにイステアは本当に役に立たない。ヴォルケインとは完全に乖離されているからそっちの力は使えないし、姉のルクリーシャがポーションを必要とする場面などほぼない。けどまぁ、役に立つ立たないは関係ないのが家族だ。だから二人は共にいる。

 

「別に、斬ってもいい」

「えぇ……」

「身の程知らずは死ぬ。それが魔界。物珍しさにドラゴンを見に行って死んだ。誰が悪い。そいつが悪い」

 

 姉弟の隣にいるのはファザクフルメルミリナ。護衛の任を完遂できなかったと自ら責任を志願し、今ルクリーシャに城の案内やら仕事の説明やらを行っている。

 ルクリーシャ。彼女はミリナにとってぽっと出の怪しい人物……とはならない。何故ってその実力を認めているから。魔界では力がすべてだ。強い奴が強くて、強い奴が偉い。その強い奴が魔王城の兵士になって何がおかしいのか。おまけでついてきた少年は正直要らないが、とか思っていない。

 

「──そういうこと、お前たち。死にたくないのなら散れ。死にたいのなら来い。その足、一歩でも踏み込めば、かつて英雄たちを何百と切り裂いたこのルクリーシャがお前たちをも細切れにしよう」

「……」

「……」

「なに?」

「いや……随分と優しいことだ、と思っただけだ。一応の警告を促す程度には"兵士"をしているらしい」

「殺しても益にならないから」

 

 ああ、そういう……と遠い目をするイステア。

 己が姉も大概常識外れな人物だが、このファザクフルメルミリナも相当だと理解した。

 

「……意外、ではあった」

「唐突だな。何がだ?」

「詳しい話を聞いたわけじゃない。けど、長く長い間不自由のもとにあったと、魔王様から聞いている。なら……自由を謳歌することも、選択肢の一つ」

「ああ、それは魔王にも言われたな。……単純な話だ。私たち姉弟にとって自由とは、こうして平穏に暮らすことだった、というだけの話。何もない荒野を歩くより、険しい山を登るより、衣食住が保証された場で、適当な仕事を与えられ……他愛ない会話をして過ごす。それが何よりもの幸福だ」

「姉さん……」

 

 姉弟にとっては奇跡なのだ。

 魔神と名乗っていた何者かは、確かに魔神と名乗り得るだけの力を持っていた。どれほど強大な力を持つルクリーシャといえど、逆らえぬ何かを持つ者だった。

 そこからの解放と──「ん? あぁ、自由にしていいぞ」という魔王の寛大さは、きっかけとしてあまりにも満ち足りたもので。

 

「平穏……? 生憎だけど、魔王城での仕事はそのような生温いものではない」

「なんだ、侵入者でもいるのか?」

「似たようなもの。侵入者は私たちだけど」

「?」

 

 蜘蛛の子を散らすように去っていった魔族たちを後目に、ミリナは手招きをする。ルクリーシャと、イステア。その両名に。

 

「こっち」

「……ふむ」

 

 

 

 こっち、と。

 二人がそう誘われてきた場所は──魔王城の真下。

 あまり知られている話ではなかったりするのだが、魔界とは円柱世界。広大な土地には果てがあり、しかし空と地下は無限大……そんな構造を持っている。

 だから、第十六代魔王マルクス・オールァ・ウィンダルは考えた。

 

 ──"これは、やろうと思えばローグライクな無限に続き、無限に組み変わるダンジョンが作れるな?"

 

 ゲーム時代、そしてデスゲーム時代にはそういうダンジョンは無かった。あるいは発見されなかった。その前に色々なことが起こりすぎたから。

 だから、作ることにした。魔王は馬鹿だがアホじゃないとは彼の旧友達の談だが──付き合わされているファザクフルメルミリナからすれば、普通に馬鹿だしアホだと思っている。

 

「ここは……」

「正式名称はまだ決まっていない。仮称、『魔王城地下ダンジョン』。炎魔窟の適正レベルが76だとすれば、ここの適正レベルは300。もっとも序盤は優しめ、地下に行くにつれて難しくなる仕様」

「何故そんなものをこんな場所に?」

「はじめは部下の育成に使う予定だったらしい。育成が必要な部下なんて雇わなかったから、今は私たちの腕試しの場」

「成程。だが腕試しならば、こんなことに付き合う必要はないだろう」

「それはその通り。ちなみに私は50階が限界だった。魔王様は最下層まで行って、まだ掘削を続けている。アニータ様は42階」

「……いいから試してみろ、という風に聞こえるな」

「そう言っているけど」

 

 溜め息。

 平穏が良い、と先ほど言ったばかりなんだがな、なんてルクリーシャは考えながら──けれど。

 その口の端が上がっていることに、本人だけが気づけない。

 

「……姉さん、僕、待ってるよ」

「イステア。気を遣わなくていい。お前は私と一緒にいれば──」

「ううん。足手纏いになるのわかってるし、僕がいたら姉さん本気出せないし。大丈夫、魔王城内にいて命の危険に晒されることなんて然う然うないと思うから!」

「アニータ様の背後に足音も立てずに立つ、とか以外は大丈夫」

 

 実は。

 実は、疼きはあったのだ。ルクリーシャにも。

 だって彼女は完全なる戦闘要員として、血のルクレツィアとして生み出された存在。雨のルクレツィアの時ならまだしも、血のルクレツィアの状態で産み落とされたのだから、それはもう。

 

「安心して。今回は特別。彼は私が守っておく」

「……そうか。イステア」

「うん。危ないことはしないし、一人で変な場所にも行かない。姉さんが心配になっても勝手な行動はしない……だよね?」

「ああ。それが守れるなら、私は何の憂いもなく行ける」

「一つ忠告。このダンジョン、負けても餌にされることはないし、意識を失った瞬間にこの広間まで自動送還されるけど──その間何をされるかはわからない」

「……?」

「スライム系もいるし、ローバー系もいる。私には性別が無いけれど、それでもそれなりの屈辱を受けた。この仕組みには魔王様の悪意と悪戯心と、オールァ様の慈悲がふんだんに組み込まれているから、そのつもりで」

 

 オールァ。

 それは魔王の番の名であり、無性別にして不定形の魔族。

 

「──別に、負けなければいい話だ」

 

 最終戦。

 魔神との決戦の場において、時間を止められたまま置き去りにされる、なんて屈辱を受けているルクリーシャは、それこそそれなりの屈辱が溜まっていた。

 その鬱憤を晴らせる場所。

 

「……そう言っている人ほど……あ、なんでもない」

 

 今ここに、かつて血のルクレツィアと恐れられたイベントボスモンスターの挑戦が始まる──!!

 

 

 

 ☆

 

 

 

 カチ、カチ、と。

 動かされるのは黒と白の駒。それぞれに形があって、それぞれに役割がある。

 新たなボードゲーム、とかではない。そこまで形の再現に拘らなかったチェスである。

 

「まぁ、おかしい部分はあったんだ。黒曜山の件もだけど、流石に血のルクレツィアなんて大物を俺が見逃すはずがない」

「たしかに? 職務怠慢もいいところですよね、それ」

「だから調べていたんだ。ラクサスの指名手配の時に、ついでにな。あの姉弟の住んでいた家……あそこには、本当にあの姉弟が住んでいたのかってところ」

 

 魔王……というかまおうと対局しているのは、とんがり帽子に黒ローブというTHE・魔女な女性。ソファ脇には箒が立てかけられている。

 彼女こそ──ラクサスによってテイムされたゴブリン軍団を引き付け、村から引き離し、『飛行』によってそれらを遠くの地に置き去りにした張本人。魔界に住むプレイヤーが一人、ラットチュー。今回の件の陰の功労者と言っても過言。なんか面倒なのがいる、と魔王城に報告しに来ただけだから。

 

 ただ、プレイヤーとしての話が通じる相手で、且つ腹の探り合いをする必要のない相手として、まおうもこの付き合いを大事にしている。あとチェスが打てる。

 

「あぁ、なに? もしかして住んでなかったんです?」

「住んでいなかったどころか、そこに家などなかった。誰も気にしていなかったが、そこは『空きスペース』だったそうだ。ちゃんちゃらおかしい話だよな」

「それはそれは……なんというか。なんといえばいいんですか?」

「はっきりとしたことはわからんが、俺とベンカストの考えとしては、"パッチが当てられた"という感じだと思っている」

「……あんまり気分のいい話じゃないですね」

 

 チェスもそこまで真剣には行われていない。

 これはラットチューが魔界に住むプレイヤー達と仲のいい……まおうの百倍くらいフレンドがいるから、という理由での『伝達』であり、『開示』だ。無論まおうのフレンドは片手で足りるので、百倍いたとて、ではあったりしなくもなかったりしなくもなかったりするのだが。

 

「俺たちの記憶に齟齬が無いかは散々確認した。メール、スクショ、形あるものないもの。今のところはプレイヤーに影響は出ていない、と思う。だが、NPCは結構変わっていると気付いてな」

「ほんまですか?」

「黒曜山の破壊が戻っていたこと、血のルクレツィアの家。他にもヴィクトリア商会の長が別人になっていただとか、その息子が一人減っていただとか……大きいところで行くと、あそこ……窓の外。西の尖塔が見えるだろ?」

「……あれ? あんなん、前からありましたっけ。……て」

「そういうことだ。無かったんだよ、あんな塔。いつの間にか増えていた」

「あっていいんですか、そんなこと……意識外だったから、って」

 

 蒼褪めるラットチュー。

 だって、そんなことが可能なら。

 

「今のところ意味はわかってないけどな。前者二つを除いて、ヴィクトリア商会のことやら魔王城の塔やらと、何の意味があって、どんな得があったのかはまるっきり謎だ。魔神……奴がやったことと考えるのは当然にしても、何か意図があったなら何か仕掛けがあるんじゃないかとくまなく調べた……が、無し」

「……ヴィクトリア商会ならちょいとツテがあるんで、今度アタってみます」

「頼む。こういうのはお前が適任だからな」

「まおうさん、お友達少ないですもんね」

 

 サラっと刺して。

 

「で、どう思う?」

「まぁ、一人だけと考えるのは……早計というものでしょうね」

「俺達も同意見だ。神……奴が引き起こしたデスゲーム災害。アレがデスゲームではなく、あの時接続していた存在全員を異世界に引き込むものだとすれば……今回の魔神と同じく、事故で巻き込まれた運営側のやつがもう何人かいてもおかしくはない」

「神……。はぁ、ほんまに厄介ですねぇ。死んでもなお……」

「ちなみに、あの後から一切連絡を寄越さないガシラだが、ラクサスが接触したらしくてな。その時意味の分からん言葉を託されたそうだ。一応共有しておく」

「ラクサスって人も……よくわからんのですけど」

「大体の察しはついているが、アイツもアイツで何か悩んでいるらしいんでな。話したくなったら、でいいだろう。大丈夫、アイツは善人側だよ。そればかりは保証できる」

 

 まおうからラットチューへ、メールが送られる。

 この場で確認することはできないため中身を見るのは後になるが、それじゃあ話が進まないので紙面に内容を書き出すまおう。

 

「神は1001、魔神は1121、フィルギャの少女は22262233……?」

「このフィルギャの少女というのは、オブシディアンドラゴンと仲のいいユティという少女だった。ガシラに何らかの方法でスキルを使わされたらしい」

「……他者にスキルを使わせる、ですか。ねぇ、まおうさん。そろそろあの人捕まえたらどうです? ちょっと……あの人だけ知ってることが多すぎると思うんですよ」

「……」

「知恵は共有してこそ発展が見込めるもの。この数字だって、正確な意味を伝えてくれたら、残っているプレイヤー総動員して彼の欲しがってる答えを上げられたかもしれない。まぁ欲しがってる答えなんてないかもしれんですけど」

「……まぁ、概ね正論だな」

「概ねどころが、全てですよ、だって──」

 

 カツン、と。

 まおうが黒の駒を置く。

 チェックだ。

 

「──プレイヤー側に裏切り者がいるかもしれない」

「……んな、アホな。千年ですよ、千年。こんだけ一緒にやってきて、今更裏切って何の得があると」

「俺もそう思う。だが、ベンカストとガシラはそう思わないらしい。裏切るならば裏切る意味があると。あるいは裏切るというのなら、相応の措置を取ると。今回の魔神が動いたのだって、どうにも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が原因っぽいからな」

「互いを疑いあえ、と? ヤですよ、私。お友達多いんですから……というか、だったら私に話すべきじゃなかった。もう少し情報を絞れる人のが良かったんじゃないですか? 私の口、かっるいですよ」

「だからこその『開示』だ。いや、もっと言うなら、俺も情報を絞られている側、って感じか。ベンカストがどこまでたどり着いているのかは知らんが、俺はあまり頭が良くない。頭の良い奴らに答えを教えてもらう側だ。そして」

「……その蛇口が、ガシラさん、ですか。……この数字の意味も、教えたらあかん相手がいるってことですか」

「もしくは逆だな。この数字にピンとくる奴がいたら……ソイツかもしれない」

 

 重い沈黙。

 チェック。盤面にある駒だけではどうしようもないところにまで追い込まれたと、そういわれているように。

 

「わかりました。ガシラさんのことは一旦置いておきます。……一応聞いておきますけど、あの人死んではいない、んですよね?」

「ラクサスが接触した、というからには死んでいないんだろう。ただ、その接触も一瞬だったらしいが。いつものアイツらしくお守り一個渡して雲隠れだとよ。ラクサスが急いで探知範囲広げたみたいだが、いなかったそうだ」

「そのタリスマンについてたエンチャントは?」

「『離脱』。アサシン系ジョブの使うスイッチ用のスキルだな」

「うわ意味深……」

 

 まおうが盤外から駒を一つ取り出す。

 白の駒。まおうは黒側だから、ラットチューの側にある駒だ。

 

「どっちだと思う?」

「……わかりませんよ、私には。行動はまるっきり真っ黒。ですけど、あの人と話せば真っ白なのがわかります。何かを隠してるのは確実で、何か後ろめたいことをしているのも確実ですけど……不思議なことに、悪意は一切ない」

「お前もそう思うか。俺もそう思う。ベンカストもそう思ってるし、他、どのプレイヤーに聞いてもそうだろうよ。アイツから悪意なんか感じたことは一度もない」

「だからこそ怖いんですけどね」

 

 チェスは終わり。

 チェックメイトだ。これ以上の抵抗は無意味だとラットチューも判断したがために。

 本気でやっているわけではない。

 だから、実はまだ助かる道があったとしても、ラットチューは降参を選ぶ。

 

 あるいは──彼なら、どうしたか。

 

「重い話はここまでだ。近々魔闘祭があるのは知ってるな? 出る気はあるか?」

「まさか。プレイヤーが出たらバランス崩壊もいいとこじゃないですか」

「だよなぁ。だが今年は大物が参戦するぞ」

「大物?」

「ああ。今回の件で俺の部下になった、血のルクレツィアだ」

「……勝てる人いるんですのん? それ」

「今いる魔族じゃ絶対無理だな。アニータ、ファザクフルメルミリナもキツい。だからこそのプレイヤーだ」

「成程。……ま、血のルクレツィアが出るって話だけは流布しておきますよ。私は絶対出ませんけど」

「いやまぁ後衛ジョブに血のルクレツィアを相手させる気はないが」

「アンタだって後衛ジョブでしょうが」

 

 魔闘祭。読んで字のごとく、魔界で行われる闘いの祭り。

 参加資格はただ一つ。怪我しても文句を言わないこと。死ぬレベルになればちゃんと治してくれる素敵仕様。

 

「ちなみに、今年の賞品は?」

「例年通り最大魔結晶にしようと思ったんだが、ルクレツィアVSプレイヤーレベルのものが見られるとなれば、もう少しグレードアップはしたいよな」

「……開催までにガシラさんを取っ捕まえて、永遠エンチャント一個用意させるとかどうでしょう」

「お前天才か?」

 

 秘密主義、大いに結構。

 ただし報いは受けてもらう。たくさんの人を振り回した報いを。

 

「ベンカストにメールを出しておこう。JJJとディミトリ、あとクチリットウハコダッシュノとかの旅人組にも送り付けるか。人間界のプレイヤー総出で探せば流石に見つかるだろ」

「じゃあ私もみんなにガシラさん探すよう言っときますわ。探したら魔闘祭の賞品が永遠エンチャントになりますよってもう言っちゃいます」

「ふふ、お主も悪よのう」

「いえいえ、ガシラさんほどでは」

「……そこは魔王様ほどでは、だろ」

「一番悪いのが誰か、なんてねぇ?」

 

 そんな。

 クツクツと笑う、魔王と魔女が二人──。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ふらふら、ふらふら。

 ラクサスは歩いていた。アブラクサス。その名は最早、あまり意味がない。

 魔神から見放され──否、自ら突き飛ばした時点で、ラクサスの立場は非常に危ういものになったと言える。彼の存在から遣わされた任務を熟せど、果たしてそれが実を結ぶのかはわからない。

 

「はぁ……」

 

 世界最高にして最古の能力付与術師(スキルエンチャンター)、セギ。

 長らく雲隠れをしていた彼に出会えたのは、今はまだラクサスだけだという。貰ったタリスマンは『離脱』のスキルのついた木片。

 

 スキルの意味自体は知っている。それがラクサスの持たぬものでも、ラクサスの身近でないものでも、知識として知っている。

 だが何故そんなものを渡したのかという疑念は尽きないし、暗号めいた言葉を残し、姿を消してしまったのかもわけがわからない。

 

 今までであれば、理解の及びつかないことは尊敬のできることとして喜べていたはずだ。

 

 けれど……。

 

「ちょ、ちょっちょちょ、おぅあ!?」

「む……」

 

 誰かがぶつかってきた。

 そしてその手に持つ籠から果実類がぶちまけられ──たが、地面に落ちる前に浮遊する。

 ラクサスが浮かせたのだ。

 

「え、え……あれ。あ、もしかしてお兄さんプレイヤー!?」

「……そうだと言えば、そうだが、違うと言えば違う。そういうお前は……」

「あたし? あたしはアイネ!」

「アイネ……」

 

 ラクサスは知識を探る。

 プレイヤー。その言葉が差す意味は勿論分かっているし、そう名乗る者がどんな存在なのかも知っている。

 そしてラクサスはその存在らについてとても詳しい。

 だから、すぐに該当した。

 

「ま……まさか、お前……いやあなたは」

 

 ラクサスの浮かせた果実をぴょんぴょん飛び跳ねて籠に取り戻していくアイネに。

 わなわなと震えて、震えながら、ラクサスは。

 

「神を討滅した──攻略組の一人、アイネ・シズェンズヴァーン!?」

「へ? なんで家名まで知ってんの? 結婚したこと誰にも言ってないんだけど……え、もしかして知れ渡ってる? やだ恥ずかしっ!」

 

 果たして、その邂逅は、誰のどんな気まぐれか。

 

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