お 守 り く れ る 怪 し い 老 人   作:老人というだけで怪しい(偏見

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第1部 何をすべきか、何をさせられているのか
1.動き出す世界(90%)


 堕落都市オーバーエデン。

 かつては大陸において最大の繫栄を誇ったこの国は、今や娯楽と下落の入り混じる治安最悪の国となってしまった。物乞い、スリは当たり前。強姦や殺人さえも当たり前。

 ()()()()()()()──というのが文字通りの国。罪悪感というものをどこぞかへ置き忘れてしまった者たちの住まう場所。

 

 そんな場所でも当然"お守りくれる怪しい老人ロールプレイ"は欠かさない。

 

「ほ──突然すみませぬ。一つ、お守り受け取ってくださらんかのぅ」

「うん?」

 

 水色髪に黒縁の大きなメガネ。これ見よがしに巨大な本を腰に抱えた少女──と、それを護衛するように周囲を隠れ歩く一行。事実隠れ歩いていた一人が俺の出現に緊張した表情を浮かべている。

 

「なんだい、お守り?」

「ほほ、そうですじゃ。お守り。持っているだけでお主には幸運が訪れることじゃろう」

「ぷっ、あはは! きょうびその詐欺文句は逆に珍しいね! みんなあの手この手を変え品を変え、どうにか信頼を勝ち取ろうとやってくるのに……君と来たら!」

 

 少女はおかしそうに、本当におかしいとばかりに腹を抱えて笑う。

 巨大な本が落ちる……ことはない。ブックカバーがショルダーバッグみたいに肩にかかるようになっているらしい。そんなもん持ち歩いている時点でメイジ系ジョブ確定なんだけど、にしては……。

 

「それに、なんだいその恰好! 襤褸切れみたいなローブに、膝下まである白い髭、髪と髭はほとんどくっついてるし、そのせいか目も糸目で……あはは! なんて"如何にも怪しい老人"なんだ!」

「ほほほ……それで、どうですかな? お守り、受け取ってくださらんかのぅ」

「いいよ」

 

 差し出していた木片が、ひったくるように奪われる。

 

「それで? 君は私に何を要求するのかな?」

「いえいえ、とんでもない。儂はお守りを渡しに出てきただけ。頂くものなどありませぬ」

「ということは、君じゃない誰かがこれを身に着けている私を罰の対象にするパターンか……だから君はそんな弱っちそうなんだね。いいじゃないか、ということは、後からくる仲間はさぞかし屈強なんだろう?」

 

 プレイヤーではない。が……成程、それなりに強い。

 でもここまで余裕を醸し出せるほどのレベルじゃないはずだ。

 ……護衛が強い系か? いやまぁ襲うワケじゃないからどーでもいいんだけど、ちょっと気になってはきたな。

 

「ほほほ、何度も言いますがな、儂はお守りを渡しに来ただけ。仲間だの罰だのは知りませぬ」

「そうかい、何も知らされていないなら君は用済みだ」

 

 デコピンみたいなモーション。ああ成程、ソレね。

 

 頭を傾ける。

 

「おお?」

「ほほほ、それでは」

 

 ピュン、なんて音がして鋭く疾く伸びてきたのは中指。

 アサシン系ジョブ派生背信者(バトライヤー)の持つ、『貫通一指』というスキル。ダメージソースとしてはあんまり強くないスキルだけど、このスキルの真価は凄まじい貫通力を持つ、というただ一点にある。

 つまりまぁ、爪とかに毒だのなんだの塗っておけば、ほぼ確実に──ゴーレムとかでも──体内にぶち込めるのだ。そんでもって、このスキルの前に爪から状態異常系を分泌する、みたいなスキルを習得できる。

 

 怖い怖い。

 流石はオーバーエデンの民。魔界と違って豪快さが欠片もねえや。何も言わずに邪魔だから消す──理念こそ一緒だけど、こっちの方がとんと陰湿さな。

 

 なんでまぁ、路地裏の方へバックステップ。そのまま闇へ溶けるようにして消えていく。

 

「──いいじゃないか。退屈な毎日にしては、いい刺激だ。君、名前もわからない君。ありがとう、このお守りは大事にするよ」

「ほほ、ありがたいですのぅ」

 

 そんな感じの、オーバーエデンでの日々である。

 

 

 ☆

 

 

 ガシラは何かを抱えている。

 ガシラさんはそろそろ秘密を吐くべき。

 ガシラさんは何を考えているのかわからなくて怖い……。 

 

 とかなんとか言われてんだろうなぁ、って。

 

 だから逃げた。別の国へ。あの国も法国も監視の目がキツすぎるんで、オーバーエデンに。

 いやまぁわかるよ。10:0で俺が悪いよ。怪しい老人ロールプレイを何も仲間にまでやる必要ないってそれ何千回と言われたよ。

 

 ……が、こっちにもちょろっと言えない理由があったりなかったり。

 ラクサスの抱えてるモンの真相も聞きそびれちゃったけど、まぁ、似たり寄ったりなこと抱えてんのさ。別に運営は関係ないがね。

 

 それに、オーバーエデンに潜伏してるのは何も監視されないから、という理由だけじゃない。

 オバンシーさんだ。あの人の殺害事件において、俺的一番怪しいポイントは"オバンシーさんが殺された"という事実一点。

 いやね、あの人めっちゃ強いんだよ、ちゃんと。確かに「ハハハ、今も現役よ。ちょいと寄る年波で衰えてきたがな」、とか自分で言ってたこともあったけど、それでもそんじょそこらの奴に負けないくらいには強い。攻略組でこそなかったけれど、だからこそ彼が殺されるとなれば──搦め手、なんじゃないかって。

 

 単純パワーな魔界じゃない。クランを作って個より群なあの国でもない。群より軍な法国でもない。

 何かどうしようもない事情があって──孤立無援で戦わざるを得なくなって、しかも全力が出し切れないような状況に追い込まれて。

 そういう搦め手に掛かったが故の、なんじゃないかって。

 

 無い頭でそう考えたわけだ。

 

「……とはいえ、どこから調べたもんかのぅ」

 

 オーバーエデンは九龍城砦モチーフと言えばわかりやすいか、違法建築バリバリな改造家屋のオンパレードだ。上に上に、下に下にと重ねられた建物は今にも崩れ落ちそうで、けれど崩れ落ちそうな建物同士が、あるいは魔法がそれを支えることで、今も膨らみ続けている──そんな都市。

 だからまー、視界が悪い。ミニマップの無い身としては迷う。めっちゃ迷う。

 なんで基本は中には入らないで外側の探索になるんだけど……。

 

「企み事なんざ日の目を浴びる場じゃあやらんわのぅ」

 

 上へ上へと積み上げられた家々はまだいい。大体が家屋……居住用の建物だから。

 だけど、下へ下へと掘り進められた建造物がヤバい。地盤どーなってんだってツッコミ入るくらいヤバくて、その中で行われていることも結構ヤバい。人身売買は当然にして、その他口に出すのも悍ましいものの売買や育成と……罪のあらんかぎりがそこでは行われている。

 ただ、研究都市ではないから、物凄い製法で作られたキマイラ、とかは出てこないのが救いかな。オーバーエデンの民にそんな技術力はない。大体が行商人ジョブかアサシン系ジョブだし。

 

 しゃらん、と音がした。

 

 視界。右下から苦無が突き出てくる。

 お、珍し。

 

「──ご老体。このような場所で何をしている?」

「ほほほ、怪しい者ではございま……せぬ」

「成程、怪しい者か」

 

 いや。

 いやうん、まぁ"怪しい老人ロールプレイヤー"としては、一瞬言葉に詰まるところではあるよね。

 

 気配はなかった。当然に『無音』を使っているのだろう。

 そんで、首の苦無だけじゃなく四肢も抑えられている。こっちは技術だな。

 

「そう緊張しなくていい。怪しい者など、この国には腐るほどいる」

「それならば首の苦無を外してほしいのぅ。命の危機において緊張しない者などそうそうおらんじゃろ」

「だがご老体、あなたは緊張していない。何故だ?」

「簡単な話じゃ」

 

 抵抗する。

 ただそれだけで、俺の身体は解放された。その反応は、「抵抗するとは思っていなかった」というもの。

 くるりと振り返れば、そこには。

 

「お主に殺す気が無いから、じゃよ。ほほほ、久しいの、ゼッケン」

「……殺す気が無かったのは確かだが、私はご老体を知らない。……だが、母の名を知っている辺りは、ひとまず刃を収めておこう」

「ほ? 母? ──お主、ゼッケンの息子とな?」

 

 不安定な屋根の上。 

 その縁に何の苦も無く立っている……なんなら斜めに立っている、忍び装束の少年。黒髪黒目アンド犬耳。

 

 ほえー。

 こりゃまた。アニータ嬢が見たら卒倒しそうだ。 

 顔立ちから髪の長さ、声質の何から何に至るまでゼッケンとそっくり。ああゼッケンはプレイヤーね。アサシン系忍者ジョブで忍者ロールプレイやってたやつ。ゲーム時代から。

 中身は当然十八歳以上なんだろうけど、子供ロールプレイもしてたから、余計にクリソツだわ。違うところは性別くらいなんだろうけど、子供の性別ってよくわかんないよね。二次性徴が顕著じゃないと特に。

 

「ゼッケンは、まだ生きとるかの?」

「任務中につき、今はいない」

「そうか……にしても、良いのかの? そうもペラペラと"怪しい者"に事情を話してしまって」

「私の姿を見て、私の声を聴いて、それを母だと間違える相手。殺気を感じ取れる実力と、刃物を首に突き付けられても一切動じない胆力。他にも色々あるが、総合的に判断してご老体、あなたは"英雄"の一人だろう。違うか?」

 

 おわ懐かしい。

 この、「喋り方は大人なんだけど声が子供っぽいせいで子供が頑張って無理して大人ぶってる感ロールプレイ」の感じ! アイツのこだわりを知る者からすれば、目の前の少年の本物っぽさが逆に偽者っぽく感じることだろう。失礼な話だが。

 

「ほほほ、さて、どうかのう」

「話す気が無いのならそれはいい。問題はそんな"英雄"がこの国で何をしようとしていたのか、というところだ。悪事を働くというのなら、私が絶つ」

「ほ? この堕落都市オーバーエデンにおいて、そんな正義を執行しとるのか? 流石に毎日毎日追いつかんじゃろ」

 

 半歩下がる。

 使ってくるスキルを知っているからだ。『縮地』。その有効距離から半歩離れたのだから、当然添えられる予定だった苦無は空で止まる。

 

「!」

「血の気が多いのぅ。ゼッケンはもう少し……ああいや、アイツも脳筋ではあったが」

「母を愚弄するか?」

「なんじゃアイツ、お主の前では格好いい母じゃったか?」

「……いや。今のは試しただけだ。言い訳をするようであれば、母の友人であるとは認めずに斬っていた」

 

 子供にも脳筋と思われてるんだ。

 かわいそう。

 

「申し訳ない、ご老体。あなたが見ていた場所が場所だけに、気が立ってしまっていた」

「儂が見ていた場所?」

「……もしかして、特に理由もなく眺めていただけか?」

「そもそもどこを眺めていたか覚えとらんのぅ。この街、似たような風景が多すぎての」

 

 どこ見てたっけ。

 俺としてはオーバーエデン全体を見ている感じの、黄昏ている感じの、そういうカッコだったつもりだったけど。

 

「いや、いい。それならば問題ない。重ねて失礼をした。母が帰投した時には名を伝えて……あ」

「ほほっ、そうか、自己紹介がまだじゃったの。……が、まぁ、そう何度も会うものでもあるまい。儂の事は"なんぞか屋根にいた枯れ木のような老人"とでも覚えておくが良いぞ」

「い、いやそういうわけには──」

「ではの」

 

 プレイヤーの子孫──とはいえ、ゼッケンの奴が生きているなら、子供に余計な手出ししたらガンガンに怒ってきそうなんで、撤退。撤退理由のもう一つとして、どうせまおうとかベンカストが俺に対して指名手配的なの出しているだろうから、名前伏せのアレね。あんまり意味ないだろうけど。

 使うのは『透過』。

 だからまぁ、スルリと落ちるわけだ。建物の中に。

 

 

 ……いやまさか落ちていく最中、お楽しみ中の部屋にぶち当たるとは。

 抱かれていた子、奴隷っぽかったけど、まぁ、NPCは知らん。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 潜る。潜る潜る潜る。

 こういう時『透過』は便利だ。が、別に行きたい場所にいけるスキルじゃなければ、水平移動においてはそこそこ使い勝手の悪いスキルなので使い道は考えなければならない。

 

 今向かっているのは最下層。現状のオーバーエデンで一番深いところにある区画。

 馬鹿と煙は高いところが好き、なんて言葉がある。んじゃま、自分を馬鹿だと思わないように努めている奴は逆に一番下に行くんじゃね、っていう謎理論だ。

 そうでなくともなんかあるだろ、一番深いところには。

 

「……と、いうのは半分建前でもあったんじゃがのう」

 

 煌びやかな場所だった。

 豪華絢爛、という意味ではない。全体が金色に覆われた部屋。眩しい。

 

 その中央に──磔にされた子供。

 見覚えは、ある。無いはずがない。

 

 

「ほほほ、久しいの──ゼッケン」

 

 

 先ほど言ったばかりの言葉を吐けば。

 子供は、ゆっくりと顔を持ち上げる。

 

「……ぅ、ぁ」

「いつから水を口にしとらん。いつから食事をしとらん。……皮肉じゃの。確かにそうじゃ、ベンカスト。儂らの命はHPバーに依存しておる。故、HPバーさえ全快を保つことができるのならば、飲食をさせる必要はない、か」

 

 これは、封印だ。 

 俺に解けるものじゃない。術者を殺すか、術者に解かせるか、あるいは術者以上の技量で解くか……。

 封印はなー、スキルじゃないんだよな。魔法なんだ。だから俺にできることは少ない。

 

「……お前の息子。母親は任務に出てると言っておったが、その最中に捕まったか、それともここに封印されることが任務か──地上にいるのは偽物か」

「り……ぅ」

 

 何にせよ、今回も魔神が関わっているのは間違いないだろう。

 だってここ、回復フィールドなんてものが敷かれているし。そんなん設置できる奴はNPCにはいないさ。そして、だから死なないんだ、ゼッケンは。食べなくても飲まなくても、このフィールドにいる限りHPバーは全快を保たれる。

 

 やっぱりまだいた、って話だ。

 いるとは思ってたよ。メンテナンス事故に巻き込まれたのがたった一人だけってなおかしな話だもんな。

 さてはて、ID探る所から始めないとだが……。

 

 それよりも先に。

 

「ゼッケン。今ここに、お主を助ける術がある──と言ったら、どうする?」

 

 言うが早いか、ゼッケンは目を見開いて。

 

「ゃ、め、ろ……!」

 

 強く、強く否定する。

 ……望んでここにいるのか、はたまた何か弱みを握られているのか。状況的にあの息子か? あー、名前聞いておくんだった。

 

「死ぬなよ、ゼッケン。儂があれこれ全部解決してくるでの。──死にそうになったら、これを使え。使い方はわかるじゃろ? 『お守り』じゃ」

 

 磔にされているから、彼女の口にソレを突っ込む。

 小さな玉状のタリスマン。口の中においてもいいし、飲み込んでもいい。使えるはずだ、プレイヤーなら。体のどこにあっても。

 

「……し、ら……し……、ろ!」

「ほほ、わかっと」

 

 ぞぶり、と。

 薄く、平たい刃が俺の頭蓋を切断した。

 

 

 

 

「っと、……ふぅ。いやはや、慣れんのう、いつになっても」

「何が?」

「死ぬ感覚、という奴じゃよ。……で? 状況の説明は?」

「へぇ、やっぱり死んでんだアレ。ガシラの十八番、変わり身の術!」

 

 ──屋根。

 いや仕方ないものと思ってほしい。また屋根かよってこの国屋根くらいしか安全に身を潜められる場所が無いのだ。

 

 後頭部から入って、脳を割り、眼球を裂いた刃の感覚──なんてのは、絶対に慣れなくていいものだろう。

 あー、気持ち悪。

 

「状況説明。できないならできるものを呼べ。お主、説明下手じゃからの」

「あぁ、いいよいいよ今はRPとか。誰も聞いてないの確認済み」

「……なら戻すけど。で、何? あの悪趣味な封印の場は。んでそれに捕まってる()()は」

「いやねー、のっぴきならない事情がありまして」

「それを話せっつっとんだわこっちは」

「自分が話さないクセに他人にはグイグイ来るよねガシラって」

「やめろ返す言葉がなくなるだろ」

 

 ふんわり。ぼんやり。

 そこには──足の無い、うらめしや~、な感じのゼッケンがいた。

 

 ゼッケンだ。

 

「ゼッケン、俺に解決できる話かだけまず話せ。無理なら応援呼ぶ」

「呼べないでしょ。逃亡中の身なんだから」

「あ? んなもん『事情は後で話すから今は協力してちょ』で一発だわ」

「後で話すって言って後で話したことあったっけ、ガシラ」

「ないが?」

 

 ベンカストに聞かれたHPバー全損の件とか、何をしていたのかとか。

 後で話すとは言った。

 何の後で話すとは明言していない。

 

「てゆか、その発音やめてよ。私は絶剣(ゼッケン)であってビブスとかのゼッケンじゃないんだってば」

「うるせぇまおうもお前も一々こだわり深すぎるんだよ。俺なんか稼ぎ頭3だぞ」

「サブキャラで何をー。メインは……いやメインもあんな名前か」

「あんなとはなんだあんなとは」

 

 俺もロールプレイしてないときはこんなんだけど、コイツもコイツだ。

 普段はさっきの息子君とほぼ同じ感じのお堅い……けどやっぱり子供が無理してる感、をうまく演出したロールプレイをしているけれど、中身はこういうゆるふわ人間。性別はわからん。聞いたことないし、話しても来てない……はず。俺が忘れてるだけなら知らん。

 

 ゼッケン。攻略組じゃないものの、強さは指折りなプレイヤーで、隠しジョブである忍者の存在に真っ先に気付き、今まで使っていたメイン垢を消去までして忍者として一からやり始めた、なんて伝説を持つ奴。

 元々はメイジ系だったからそっちの造詣も深い。まぁ忍者自体がアサシン系ジョブとメイジ系ジョブの間に現れるジョブだから、そっちのも何もって感じなんだけど。

 

「で」

「はいはい。……まず、あれ。あそこにいた私は本物の私だよ。飲食はもう何十年もしてないね」

「てことは、地上にいるのは偽物か」

「んー、どうなんだろね。あの子……息子? あの子を産んだのも偽物の方だから、ぶっちゃけオーバーエデンにおけるゼッケンは偽物の方になってる。ゼッケンを知ってるプレイヤー以外の全てからすれば、私の方が偽物なんじゃない?」

「……ゆるふわ娘が。悲しい話するんじゃねえ」

 

 なんだそりゃ。

 どういう状況だ。確かに俺はここの雰囲気苦手であんまり来てなかったけど、何があってそうなってる。

 

「『幽体離脱』の時間も限られてるから言うことだけ言うけど、まずガシラじゃこの状況をどうにかするの無理だと思う。だってこれやってるのオーバーエデンの元締め……トップだから」

「NPCだろ?」

「ううん、メルカポリスとXXラオXXの孫」

「……」

「ほらねー。NPCなら殺せばいい、とか思ってたでしょ。あるいは操ればいい、とかさ。NPC相手なら外道も厭わないガシラのやりそうな事。だけど残念、オーバーエデンのトップはプレイヤーの血を色濃く引く人でした、って。ね、無理でしょ」

 

 ……無理だ。

 メルカポリスもラオの奴ももう死んでる。アイツらの子供を……どうにかできるか。

 

「同じ理由で応援呼ぶのも無理でしょ? んでー、さらに無理なこと言うと、今の状態の私を解放すると」

「オーバーエデンが崩れる、とかか?」

「お、大正解。もっと言うとオーバーエデンが沈む、が正しいかな。あの部屋の真下、どでかい空洞開いててさ。私は楔なんだよね。で、楔が外れた瞬間どーん! ……どれだけが死ぬと思う?」

「NPCの命に興味は無い」

「プレイヤーの子孫だっていっぱいいるよ。ここは後先考えずにヤりまくった馬鹿達の子供がたくさんいるんだから」

「……」

 

 ゼッケンの姿が明滅する。

 スキルの効果時間が切れかかっているのだ。だから最初のコントなければもうちょっと……!

 

「回復フィールド敷いたのは誰だ」

「それも元締めだよ。驚いたよね、ちょっと目を離した隙にそんなことまでできるようになっててさ。確かに勤勉な子ではあったけど、私を楔にした時はちょっと乱暴者になっちゃってたのは減点かなー」

「……いつの間にか変わっていた、か」

「ん? それが何……って、あ。時間だ。んじゃね、ガシラ。久しぶりに会えて嬉しかった。そうそう、その秘密主義なところ、私は忍者として応援できるけどさ、ガシラ自身が心配されてる可能性の方に目を向けてやったら、ちょっとは──」

 

 消える。

 ……『幽体離脱』。短期間、肉体から幽体になるスキル……だけど、ここで言う幽体は霊体とは違う。本来は初期の頃に実装されていた『エモート』から派生したスキルで、なんに干渉できるわけでもない、どっちかというと半透明で色々すり抜けられるだけの本人、という意味合いが強い。

 エモートは選択したエモートアクションを行う、というだけの機能だったんだけど、無理矢理身体を動かされる感覚が気持ち悪すぎると苦情が殺到。使わなければいいだけじゃん、という冷めたツッコミも束の間に、それが必須のクエストがいくつか実装されていると知れ渡ってからは大クレームの域に。

 己が身でなんでもできるVRMMOには要らなかった機能、ってことだ。

 その中の一つが『幽体離脱』だった。モーションとしては、気絶して、その腹のあたりから本人の幽霊が出てくる……みたいなもの。ギャグとしてはそこそこ使えていたものだったから、スキルとして残された。ちなみに俺は使えない。何故って汎用スキルだから。

 他にもそういうスキルがあるけれど、割愛。

 

 さて。

 

 どうするか、だ。

 

「まずは、まぁ──聞いてて一番気になった場所に行くのが先、かのぅ」

 

 向かうのは。

 

 なんでそんなもんがあるんだ、って話を遮りそうになった場所──地下の大空洞とやらへ。

 

 

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