お 守 り く れ る 怪 し い 老 人   作:老人というだけで怪しい(偏見

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5.捻じ切る世界(40%)

 優先順位から考える。

 まず、ゼッケンは最上位だ。コイツだけは必ず助ける。次に俺。その次にミンファとゼットウ。他。

 ……なら、やるべきは一つだ。

 

「ほほ、ミンファ。この盾を持ちながらの詠唱は可能かの?」

「できなくはないけれど、スキルの使用は無理だよ」

「知っとる知っとる。そんなことできるのはどこぞの魔王だけじゃ」

 

 ゼッケンとゼットウが『霊体特効』で頑張っているが、HPバーの減り具合からして無理。一日、いや二日はかかるだろう。その間ずっとここに引き留めておくができるならまだしも、スライムレイスキングの興味が他へ移った時点でアウトだ。

 と考えると、結構簡単じゃないか?

 

「よっこいしょ」

 

 サンダルで作り上げた『聖域』から出る。

 ミンファの制止の声は、まぁ届かない。聞く気が無いから。

 そしてインベントリから取り出すのは『挑発(タウント)++』のついた指輪三つ。それを全て自分の指に嵌めた。

 

 ──割れる。『魔法無効』だ。スライムレイスキングから放たれた何かが俺のエンチャントを割ったらしい。

 

「セギ、何して!?」

「『挑発』と『浮遊』、『透過』で儂が囮になる。その間にお主ら、穴掘れ」

「……そうか、『土隠れの術』!」

「下にしか使えぬ、ということはないじゃろ?」

 

 さて、『魔法無効』も無限じゃない。避けられるものは避けて行く。避けられるものなんてほとんどないけど、スライムレイスキングが遠距離攻撃に徹してくれている今、壁の中に入ったり地面に入ったり挑発したりを繰り返しながら、ヘイトを調節する。

 

「セギ、僕は──」

「ミンファはそのまま準備しているものを撃ってくれたらよい。あとは儂がなんとかする」

「……わかった、信じるよ」

「ほ」

 

 この堕落都市オーバーエデンで、一番に「信用はダメだ」と教えてきた奴が、信じるね。

 中々。

 

 さて、俺の言葉を聞いてすぐさま近くの壁に向かって飛び蹴りを始めた忍者二人組。

 使用スキルは『土隠れの術』。土遁……もとい忍者のスキルにある属性付きスキルの一つだが、攻撃力はないに等しい。効果は文字通り地面に隠れる術で、敵の広範囲攻撃なんかを避ける時に使うスキルだ。

 そして、というかだからこそ今ソレが役に立つ。

 この巨大な穴──『浮遊』も『飛行』も上がるにはキツい高さだというのなら、斜め掘りすればええやん、の精神。飛び蹴りの瞬間に『土隠れの術』を発動し、二人合わせて人が通れる程度の穴を掘ってもらう算段だ。

 

 そしてそれまでの間、俺が囮になるってね。

 

 ミンファの魔法には何の期待もしていない。動きを止めるのが精いっぱいの見立てなら、恐らく一切効かずに終わる、もあり得る。197Lvに楯突いていい練度とは思えないからだ。

 だから、ミンファには悪いがそれも囮に使わせてもらう。

 スライムレイスキングは魔法攻撃が自らに放たれると、それに当たろうとする。回復できるからだ。コイツがゲーム時代と同じAIを持っているのなら、その挙動はしてくるはず。

 

 そこを狙う。

 

 これの肝は、俺がどんだけ逃げ続けられるかと、忍者二人組がどんだけ早く穴を掘れるか、だけど。

 

 ──割れる。

 ちょーっと、消費厳しめかなーって。

 

 

 

 

 

「行けるよ、セギ!」

「頼むぞ!」

 

 長大な詠唱のあと、ミンファの背負う本が独りでに開き、そこから何か……黄金色の身体をした槍兵のようなものが出現する。

 なんじゃありゃ。確かに地水火風、そのどれにも当てはまらない魔法だ。

 

 槍兵は手に持つ槍で、ぐさりとスライムレイスキングをぶっ刺して……一度で消えないことがわかると、何度も何度も差し始めた。

 スライムレイスキングも自ら当たりに行っているから、魔法ではあるのだろう。

 しかしなんだアレは、という考察は後ですればいい。

 

 思ったより効果的な魔法っぽいから、こっちも──。

 

「は?」

「え?」

 

 光、だろうか。音としてはチュン、って感じ。すずめかな。

 それが。

 それが、俺の身体を貫いた。『物理無効』、『魔法無効』はまだあるのにも関わらず、だ。

 

「セギ!?」

「……マッズいのぅ。ミンファ、お主だけでも逃げよ。忍者二人組はなんとかなる」

 

 急所ではないが、俺の身体にはあまり関係のないことだ。

 クソ、冴えたやり方を思いついたと思ったんだけどな。誰だ横槍入れた奴は。

 

「ミンファ。お主に、これを託す。これを持って、イグリーリュグス、に……」

 

 どちゃ、と。

 何かが脳を貫いたのがわかった。わかっただけだ。いや、いや、志半ばにも程がある。

 最後に見えたのは、涙を流すミンファと──歪んだ笑みを浮かべた、ゼッケンの……。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 起きる。

 舌打ちを一つして、木漏れ日も入らないような鬱蒼とした森の奥深く。

 むくり、と起き上がれば──とかやってる場合じゃないんだよね。

 

「……オーバーエデンまで全速力で四日か。あー」

 

 どうしよっかな。

 どうもできない。フレンドリストのゼッケンは……まだ生きているが。

 頑張っても頑張ってもどうしようもないことは、諦めるしかない。

 

 最後の攻撃。ゼッケンはゼッケンでも、スライムレイスキングと戦っていた方じゃなかった。だからあれは、偽物の方……になるのかねぇ。

 いやはや、本物だの偽物だの、やめてほしい。そういうことされると誰も信じられなくなる。

 

 とりあえず森から出るか。久しぶりに息を吸う。

 

「く……ふ、ぅ」

 

 見渡す限りの黄金色。この森を囲むすすき野は、風が吹くたびに波打って美しい。これも久しぶりに見る光景だ。

 

「どうしようも……ねぇなぁ。メールは出しておくが、果たして、かぁ。ああ、悪いことをした。ゼッケンもゼットウも、あとミンファも生きててくれると嬉しいんだが、絶望的だよなぁ。あーあー」

 

 久しぶりに殺された。

 各種の『物理無効』や『魔法無効』を貫通してきたあたり、アレは魔神関連のなんぞかのアイテムだろう。初見殺しやめろってホント。またぞろ『能力無効』とかついてんじゃないだろうな。

 

「え!」

「ほ?」

 

 人の声が聞こえた。その瞬間にロールプレイに入る。

 ……しかし、この声。

 

「ガシラちゃん!?」

「……アイネ?」

 

 振り返るまでもなかった。

 猛ダッシュで抱き着いてくるのをしゃがんで避ける。ずしゃぁっとすすき野に顔面から行くアイネ。

 

 なんだ。

 何だってこんな場所に攻略組がいやがる。

 ここ、かなり辺境だぞ。

 

 ……。

 

「アイネ!」

「な、なによ~。避けなくてもいいじゃ、ってちっかぁ!?」

「ペガススの笛とか、鳳凰の笛とか持ってないか!?」

「いきなり何々! 説明してセツメー! ガシラちゃんいつも言葉足りないんだからさ、ほら早く!」

 

 乗り物こと飛べる魔物を呼び出せるアイテムがあれば、四日なんて言わずすぐに向かい直せる可能性がある。稼ぎ頭3は移動する必要がなかったから一切アイテムインベントリにその類のものを入れてないんだけど、コイツなら!

 

「今、オーバーエデンでゼッケンが死にかかってる! 俺は、あー、転移で弾きだされたんだよ。で、こっからオーバーエデンまで四日はかかる。全速力で走っても、だ。だがペガススか鳳凰、最悪グリフォンでもいい! そういうのがあれば」

「……必死じゃん、ガシラちゃん。あたしたちが神の攻略に行った時より、よっぽど」

「ちょ、アイネ。頼む、今拗ねてるとかそういう場合じゃないんだよ! ゼッケンが死ぬかもしれないんだ──俺は嫌なんだよ! 知ってるか? 知らないだろ。オバンシーさんが殺された。今なんか起きてるんだよヤバいことが!」

 

 途中まで口を尖らせて拗ねた顔をしていたアイネも、オバンシーさんの事を聞いた瞬間に顔色を変えた。

 

「え、オバンシーさんが……殺された、って、誰に?」

「わからん。だが、色々やべえ事が起こってるのは間違いない。アイネ、お前が隠居したいのはわかる。だからアイテムだけ貸してくれ。頼むよ」

「……ガシラちゃんが行ってどうにかなるの? 戦えもしないクセに」

「……」

 

 そう、だ。

 俺が行って何になる。俺が行ったところで、俺が舞い戻ったところで、何が変わる。レベル197のスライムレイスキングがいるんだぞ。それに、偽物のゼッケンも。

 今の俺が行って。

 何になる。邪魔にはなるだろうな。

 

「――だから、お姉さんに任せなさい」

「……い……いいのか? お前、戦いとか嫌になって隠居したんじゃ」

「それはそーだけど、()がそんなに憔悴してて、それを見捨てるあたしじゃないし」

「弟じゃないが」

「またまたぁ。知らないの? まだ家族設定生きてるんだよ? 役所とか行かない?」

「マジか。あの無駄機能生きてんのか」

 

 プレイヤー同士で家族になれるとか言う無駄機能。結婚まではわからんでもないが、兄弟姉妹はいらないだろってめっちゃ突っ込んだ覚えがある。

 そして実装直後にいい感じに言い包められてアイネを姉に設定してしまったが最後、ゲーム時代は姉面をされまくった。勿論稼ぎ頭3ではなくメインでの話だが。

 

「……いや、今は……めちゃくちゃ助かる。俺も出来る限りのエンチャントをする。だから、助けてくれ、アイネ」

「おっけぃ! じゃああたし準備してくるから、20秒待ってて!」

 

 瞬間、風が吹く。目の前からアイネが消え。

 20秒後、完全武装の彼女がそこにいた。

 

 ……気のせいでなければ、俵抱きにされているラクサスがいる気がするんだが。

 

「そして~、おいで、応龍!」

 

 ピーッと吹かれた笛。

 テイムモンスターではない。これはイベント報酬の、乗り物として使えるモンスターだ。

 

 現れたるは、黄金色の竜。ウィルみたいなタイプじゃなくて、蛇っぽい見た目の方。

 

「この子が最速だから。ほら、乗って乗って」

「……ああ、頼む」

「ぬ、え? 今の声は、セギか?」

「しゅっぱつしんこー!!」

 

 轟と風が吹く。

 次の瞬間、雲の合間にいた。それが凄まじい速度で後方へ流れて行く。

 

 もはや何の討伐アイテムなのか、イベント報酬なのかわからないこの笛は、アイネが最前線も最前線のトッププレイヤーならではだ。俺のメインキャラでさえ遠く及ばない強さを持つコイツは、本当の意味で英雄だろう。

 あの神を討滅した攻略組の一人でもあるのだから。

 

「アイネ。敵はレベル197のスライムレイスキングと、恐らくドッペルゲンガーか何かじゃ」

「え、なんでロール……まぁいいけど。で、え? なに? スライムレイスキング? 197レベ?」

「ああ」

「うわー。どこのどいつよそんな面倒なのつくったの。じゃあセギちゃん、これ。この刀に『霊体特効』エンチャして。鎧は全耐性あるから大丈夫」

「……これ、備中青江かの。……『霊体特効』つけたらまんまにっかり青江になるが」

「おお、よくわかったねーセギちゃん。昔は刀剣の名前なんか欠片も興味なかったセギちゃんがこうまでなるとは、感慨深いなー」

 

 詳しくなったのは間違えるとお前が怒るからだが。

 ……だが、それでゼッケンが救えるなら、それでいい。

 

能力付与(スキルエンチャント):『霊体特効+++』」

「ありー」

「本当にこれだけでいいのかの? 鎧に『霊体耐性』をつけるとか、他にもアクセは沢山あるが……」

「んー? セギちゃん、ちょっとお姉さんのこと舐め過ぎじゃない? 200年くらい会ってないから忘れちゃったカンジ? ――お姉さん、これでも一応最強の一人なんだけどなー」

 

 そんなこと忘れるはずもない。

 知っている。だけど、隠居して長いんだ。腕が鈍っている可能性は十分にある。

 

「あ、腕が鈍ってるとか考えてるんだ。でも安心して。一昨日タイラントバイパーソロ討伐してきたばっかだし」

「隠居とはなんだったんじゃ」

「しょーがないじゃん。村の近くにそんなのが出たんだから、あたしくらいしか倒せる人いなくてさ」

 

 タイラントバイパー。

 超巨大なアナコンダみたいなやつだ。レベル帯は100近いんじゃないか? 厄介なのは三種の毒液。麻痺毒、猛毒、酸を使い分けてきて、状態異常にかかった奴からその図体で体当たり。それですべてを潰していく──なんとフィールドモンスター。

 出てくるのは本来の魔界へ通じる道中だから強いのは当然なんだけど、フィールドにいていいモンスターじゃないのは確実だ。

 

「……今更になるが、なぜラクサスを抱えておるんじゃ?」

「戦力になるから。この前ばったり会ってね、何か隠してるっぽかったから監視兼村の守護者として雇ってるの。三食ふかふかのベッド付きで」

「なる、ほど?」

 

 ラクサスならそんなもの自前で用意できそうなものだが。

 何か理由でもあるのかな。

 

 まぁ、今は、とにかく、だ。

 

 応龍の速度は俺の最高速度を優に超え、あと少しでオーバーエデンに着く。

 

「けが人も多くいるはずじゃ。アイネ、お主はスライムレイスキングを頼む。ラクサスは瓜二つの顔で戦っている者がおったら、その双方の時を止めてくれ」

「む、あ、ああ。いいが。……というか今までどこにいたんだセギ! 皆が皆探していたというのに、なんでこう……」

「すまんすまん。ワケは後で話す。事が片付いたらの」

「コトってどれのコトなんだろうねー」

 

 ……ゼッケンだけじゃない。

 アイネにも俺のやり口はバレている。いやほんと、やりづらいったらありゃしない。

 

 雲が晴れる。

 

「見えた――あそこじゃ! あの陥没しとる場所!」

「わ、ほんとだ。オーバーエデンがない。つっこめばい?」

「頼む!」

 

 すまなかったな、ゼッケン。

 一度離脱しかけたが、最強を引き連れて帰って来たぞ。――だから頼む。

 間に合ってくれよ!

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