お 守 り く れ る 怪 し い 老 人 作:老人というだけで怪しい(偏見
応龍のみならず、所謂「移動用魔物」に攻撃能力はない。早く移動できる手段で、見た目が魔物である、というだけだ。
だから仮にこれで突っ込んでもダメージは与えられないが──分断する、という一点においては無類の強さを発揮する。単純に邪魔だから。
状況は。
……芳しくはない。
全身が血にまみれたミンファと、彼女を背負って防戦一方になっているゼッケン。ゼットウの姿は見えないけれど、壁の穴から定期的に土が吐き出されているあたり、ずっと掘ってくれているのだろうことが窺える。
俺を殺したのだろう偽ゼッケンの姿は──無し。
「は──レイドドラゴンとか、流石に無理なんだけど!」
「ところがぎっちょん! やっはろー、ゼッケンちゃん。おひさし!」
軽ーいノリで、アイネは霊体特効+++のついたその刀で──スライムレイスキングを真っ二つに割断する。
いや。
いやそれ、レベル197なんだけど。
「ッ、まさかアイネ!?」
「ほほほ、さっきは死んですまんかった。よって最強を連れて来たでの、安心せい」
「セギも! 良かった、死体が残らなかったからもしかして、とは思ってたけど……と、そんなことより彼女を! どうやってかはわからないけど、スライムレイスキングを一時的に凍結させて、かなり時間を稼いでくれた! けどその後攻撃されたわけでもないのに血が噴き出てて、手持ちのポーションじゃどうしようもない!」
確定NPCなんだから見捨ててもいいのに、なんて冷たい思考が流れていくのをスルーして、余裕の出来たゼッケンからミンファを譲り受ける。
「アイネ、ソロ討伐いけそうかの?」
「討伐だけならいけるけど、周囲の被害甚大かなー」
「なればラクサス! スライムレイスキングとアイネだけを囲う結界のようなものは作れるか?」
「お、おう。何が何だか、一切状況が掴めないままだが……可能である、とは答えられる」
「では頼む!」
あっちはあっちに任せて、こっちはミンファの治療に取り掛かる。
先程のゼッケンの証言通り、外傷らしい外傷はない。この傷は、まるで内側から食い破られたかのようなものばかりだ。
……ポーションにも色々な種類があるけど、内臓を癒すもの、となると……まぁ。
使わないアイテムはゴミ同然、ってな。
「ゼッケン、少し護衛を頼む。先程儂を殺したやつは、恐らくお主の偽物じゃ。『物理無効』をつけておった儂を殺したあたり、何か異質な力を使うと見ている。何かが飛来したら、悉くを弾いてほしい」
「ん、おっけー。……しっかし、セギが死んだのも勿論驚いたけど、まさかアイネが来るとは思わなかった。というか流石攻略組。苦戦のクの字も見えないや」
「じゃのぅ。隠居したものだとばかり思っておったが、今でも高レベル魔物をソロ討伐しとるらしい。腕は鈍っとらんようじゃ」
言いながらアイテムボックスをザラーっと漁り、お目当てのものを見つける。
在庫はこれを含めて五つか。
……NPCに使うのは初めてだけど、まぁ、そういうこともあるだろう。
「珍しい。NPCに対してエリクシールまで使うなんて」
「ほほほ、儂にとっても前代未聞じゃよ」
「心境の変化?」
「さて。ああいや、誤魔化すまでもないか。単純に負い目、じゃろうな。儂が油断していなければ、ミンファはここまで無理をすることもなかったはずじゃから」
アイテムボックスから取り出したエリクシール。そのコルク栓を開けて、ミンファにぶっかける。呑ませても塗布しても効果があるから本当に不思議アイテムだと思う。経口摂取と皮膚吸収で何か効果が変わる、差が出るということもないし。
「はい、おしまい!」
「え」
それは誰から出た「え」だったのか──。
少なくともその場にいた誰もがアイネの方を見て、空気に溶けて消えていく魔物の姿を見送った。
アイネ。
攻略組。ゲーム時代においても最前線を常に張り、月間獲得経験値ランキングでは三か月間連続で首位を取ったことがあるほどの戦闘馬鹿。
気さくでフレンドリーな奴だから全くそういう感じを覚えてなかったけど。
こいつ、名に恥じぬ最強だ。
「早かったのぅ、アイネ。すまんな、今回は本当に世話に──後ろだ、アイネ!」
「気付いてる気付いてる」
彼女が傾げた首。その真横を通り過ぎるはクナイ。
さも当たり前と言わんばかりにラクサスの結界を突き抜けてきたソレは、地面へと深々と刺さり──そして溶けて消えた。
……成程。物理無効が効かなかったのはそういう仕組みか。
「んー、避けるのはそう難しくないけど、ウザったるいね。あー、ラクサス、セギちゃん。壁とか張れる? 土壁でいいんだけど」
「すぐに、となると難しいのぅ」
「風の壁で良いのなら、今すぐに出せる」
「んじゃそれで」
わかった、とラクサスが言うが早いか、オーバーエデンの陥没した穴の中に、面状の嵐が出現する。
今更だけど、風魔法にこんなものはない。
「おっけー、んじゃー、ぷぅちゃん!」
ピーッと笛を吹いたアイネ。彼女のそばにいた応龍が消え、今度は……なんだろう、二階建てバスみたいなのが取り付けられた巨大な豚が現れた。
「さぁ乗った乗った!」
「あ、アイネ、ちょっと待って欲しい。あっちで穴掘りしてくれてる協力者がいるんだ」
「いいよー待つ待つ。ラクサス、壁はどれだけ保つ?」
「あと四日はいける。ただ、先ほどから何か……攻撃を受けている。敵の出方によっては突破される可能性もあることだけ伝えておこう」
それを聞いて、ゼッケンはすぐにゼットウを呼びに走っていった。
一分と経たずにゼットウが戻ってくる。俺のSTRがゴミなことを知っているゼッケンがミンファを背負うのを代わってくれて、これで準備完了。
全員でいそいそとそのバス豚に乗り込んだ。
直後、浮遊感。
飛んでいるのだとわかった。
「懐かしい。
「お、やっぱゼッケンちゃんは知ってたか。……あれ、こっちがゼッケンちゃんだよね?」
「これは、失礼をしました。私はゼットウ。ゼッケンの息子です」
「え! ゼッケンちゃん結婚してたの!?!?」
攻撃は来ない。
ゆるりと上がった豚の気球を、けれど誰も撃ち落とそうとしない。
「そういえば、生き残りがいるとかいないとかって話はどうなったんじゃ」
「ああ、その人たちはセギが死んだあとすぐに死んだよ。スライムレイスキングに飲み込まれた」
「そうか」
仮に死んだのがプレイヤーの子孫だったとしても、死んでしまった時点で仕方のないことだ。
わめきたてることはない。
「とりあえずさ、空の旅をしながら情報交換といこうよ。あたし達は何が起きてるのか全く知らないんだよね」
「セギは肝心なところを隠すゆえ、私が説明しよう」
思い出したかのようにRPに入るゼッケン。
「まずこれは、大前提、そもそもの話だ。そもそも──オーバーエデンの下には
「オーバーエデンの地下に大穴、なんて話、一度も聞いたこと無かったけどなぁ」
「右に同じく、じゃ。じゃが、あったことにされた、というのには心当たりがある。ともかく続けてくれ。何故お主があそこの楔になっていたのか、についてもな」
そこまで聞いて、ゼッケンは肩をすくめて、舌を出して──ゼットウを見た。
あ、そっか。
これは失言だった。
「楔、ですか?」
「……セギ。貸しイチね」
「ほいほい」
「それでは──ゼットウ。心して聞け。私はお前の母親ではない。全くの別人だ」
「は。それについては薄々気付いておりました。その……語弊を恐れずに言いますと、普段の母より貴方の方が幼い言動が多い。それでいて母より強い。よって私は、これらの事柄の裏付けができるまで黙っていようと心に決めていました。あの地下の戦闘時に余計なことを言って、互いの命を散らすことも良いことではないと思いましたから」
「うーん良く出来た息子。私の息子じゃないんだけど」
で、とゼッケンは一拍置いて。
「まだ確証はないんだけど、オーバーエデンには私の偽物がいる。その偽物が産んだのが、ゼットウ。君になる」
「……今までの言動から、察してはいました」
「ついでに儂を殺したのもその偽ゼッケンじゃのぅ。絶命間際に顔が見えたわい」
「セギちゃんは今からベンちゃんのとこ行って全身検査してもらった方が良いかもねー」
やめてくださいしんでしまいます。
「話を戻す。私は長い間、オーバーエデンを崩壊させないための楔として、オーバーエデンの最下部に封印されてきていた。その楔を破ったのがセギだ。よってオーバーエデンは崩壊し、この惨劇が生まれた」
「人を悪者みたいに言いよるのう。トリガーを引いたのはドーヴァじゃ。儂は何もしとらん」
「はいはい、悪人探しをしろ、って言ったわけじゃないから、責任の擦り付け合いはやめやめ。聞きたいのは現状なの。今のでわかったのは、楔が解けてオーバーエデンが陥没した、ってことだけだよね?」
「うむ。確かじゃ」
「この際オーバーエデンの復興とかは考えなくていいと思うんだ。それはエヌ……今を生きる人々がやるべきことだから。ただ、あたし達が考えなければならないのは──
「!」
考えて──いなかった。
今俺の思考は、対魔神をどうするか、にばかり力を入れていて……そうだ。
もし仮に、"あったことにされた"なんてパッチが罷り通るのなら、他の国があまりに危なすぎる。
「アイネの言葉は正しいと思いますが、そうなると犯人の動機がわかりませんね」
「うーん、そうなんだよね。でも、ちょっと怖い考え方になるけどさ。今回のスライムレイスキング、レベルも出現の仕方も不自然極まりなかったでしょ? つまり」
「……大勢が死んだ場所には、ああいう高レベルの複合魔物が現れる、と?」
「あくまでかもしれない、だけどね。千年前には無かったことだけど、あり得なくはないんじゃないかなって」
ぞっとする。
思い当たってしまったのだ。オバンシーさんの件を。
大勢を殺して魔物を作る。
その第一号に、彼はされかけたのではないか、という。
血のルクレツィアも似たようなイベントだ。
つまりこれは、完全にプレイヤーを狙った無差別殺人を行おうとしている、のか?
「……なんかいるね」
「ほ?」
「後ろ。ミニマップギリギリの範囲でこっちを尾行てきてる。ミニマップの範囲わかってるとか、まさか」
「あ、いや! 大丈夫だ。あのペガスス、多分あれはベンカストのとこのペガスス部隊だ。指揮してるのがベンカストなんじゃないか?」
「だったら直接コンタクトと取ってくるよ。特にベンちゃんは自分が怪しまれてるってわかってるからね。もっと堂々と来るはず。何より」
空。
空だ。突然の曇り、じゃない。
全天を覆いつくす程の剣が、そこにあった。
「ま、待て、アイネ・シズェンズヴァーン! それは地形を変えるぞ!」
「今更じゃない?」
「そ、そんな軽いノリで──」
剣が、落ちる。否、降る。
アイネが指をクイっとやって、ただそれだけで──俺達を尾行してきていたペガスス部隊が全滅した。
「お、おいおい。味方だったらどうするんじゃ……」
「だからさー。セギちゃんあたしのこと舐め過ぎ。たとえ三千里離れたって、自分に向けられているのが殺意じゃないかそうじゃないかくらいはわかるって」
「本当に隠居してたんかのぅ」
なんならゲーム時代に「殺意」なんてシステムは無かったんだが。
……こいつもまおうと同じく修行でガチの強者になったパターンか。元から最強のくせに。
「……あー」
「どうしたんじゃ」
「今殺したペガスス部隊? だっけ。全部アンデッドだったみたいね。
「なんじゃと?」
効果は「範囲内のエネミーがアンデッド・悪魔の場合にそのエネミーデータを書き起こす」というもの。所謂人狼ゲームみたいなストーリーイベントがゲーム時代にあって、そこで使われるものだった。
「……法国の尖兵がアンデッド、というのは……きな臭い話じゃな」
「どうする? このままイグリューリグスに行ってみる? オーバーエデンの捜索は……流石に人数いないと無理そうだし」
「ふむ。……そうじゃな。じゃが、儂はここで降りる。敵の狙いが儂なら儂は一人でいたほうが良いじゃろう」
「そんな事を言って、ベンカストに会いたくないから、なんて理由ではないだろうな」
「六割そうじゃが、四割はマトモな理由じゃ。それよりゼッケン。いやゼットウに問うべきじゃな。お主の母御はなんの任務についていて、今どこにおるんじゃ?」
少し用意することがあるから、俺はここで一旦離脱したい。ミンファが起きたら能力付与術師のことで問い詰められて面倒くさそうだし。
オーバーエデンにまつわる云々は、アイネの言う通り俺たちだけじゃ無理だ。調査に長けたブレインが必要になると思う。そこに時間をかけるくらいだったら、各国にそういう「爆弾」が仕掛けられていないか探し回ったほうが有益だ。同意、ということ。
ただし、解決していかなければならない問題は一つだけ残っている。
「……どの任務につき、今どこにいるか、という問いに対しては、申し訳ないが答えられない。これは秘しているのではなく、知らないのだ。忍は身内にさえ任務の情報を漏らさぬものゆえ」
「そうか」
「だが……話を統合するに……私の母ゼッケンは、その……こちらにいる女性の、偽物、と……そういうことで、良いのだな」
自分で。
ゼットウは苦虫を噛み潰したような顔で、けれどはっきり言った。
「そうなると、この場で最も怪しいのは私だな……」
「いいや、ゼットウのことは疑っていない。けど、申し訳ないけど、君の母親……私の偽物については疑わざるを得ない。そんなわけで、ゼットウ。君の父親について教えてくれ。あるいはそこから糸口が開けるかもしれない」
「……わかった。だが、父は今オーバーエデンにいない。タンダードにいるのだが……」
「そいじゃま、あとは任せたぞい!」
タンダード、という名前が聞こえた瞬間にバス豚から飛び降りる。
危ない危ない。アイネが運転しててよかった。そうじゃなかったら捕まってた自信がある。
タンダードがどこの国かって、俺が最近までずっと拠点にしてた国ね。今帰ったら絶対色んな厄介事押し付けられるに決まってるからやめやめ。
ミンファやゼッケンのことはアイネに任せて大丈夫だろう。あいつ最強だし。
だから──俺は俺で。
もう少し、調査をしていきますかね。
例の攻撃の対策を揃えて、瓦礫となったオーバーエデンを歩く。
路地裏も何もかもが崩壊しているために「怪しい老人ムーブ」のできそうなところはない──どころか、人っ子一人いないのでそもそも成立しないそこを、ふらりふらりと。
死体は見つけ次第燃やしていく。放置しておくとアンデッド系になる可能性があるから。遺族のこととか考えてられないのがこの世界だ。こういう場……アンデッド系魔物が発生しづらい場所で死んだ、とかなら話は別なんだけど。
まず最初に調べるのは、ドーヴァの屋敷。その残骸。
壊れているとはいえ何が起こるかわからないトラップ類をアイテムボックスに回収しながら、なにか残されたものがないか漁って行く。所々に兵士の死体があるから、それは燃やして。
「よ、っと」
「ん、なんじゃアイネ。ゼッケンたちはどうした」
「ゼッケンちゃんが全部やるってさ。タンダードでJJJに大体のこと書いたメール送っておいたから、あとはアレがなんとかするでしょ」
「そうか」
正直に言って、心強い。
もうどんな攻撃をされて、どんな原理で物理無効が崩されたのかは理解しているけれど、万一はあるっちゃあったからな。隣に最強がいてくれるのはかなりデカい。
「ガシラちゃん、何したの?」
「なんの話じゃ」
「今周囲に生物いないからRP取っていいよ。で、タンダード行ったらBuffろうにばったり出会ってさ。ガシラを知らないか、って聞かれたから一応知らないって答えといた。なんか指名手配されてるみたいねー」
「……エ」
「心当たりないみたいだし、まーたベンちゃんのいたずらかな?」
「だと……思う。犯罪はした覚えがないから」
指名手配って。
タンダードに近づくの、もうやめよっかな……。
「あ、そうだ。今回の依頼料貰っちゃいたいなー」
「そりゃ構わないけど、金なんかいくらでも持ってんじゃないのか?」
「だから、永遠エンチャ。あ、世界のバランス崩す系は要らないよ。ほしいのは生活系」
「……まぁ今回だいぶやってもらったからな。いいよ。何がほしい?」
永遠エンチャは作れば作るほど世界を壊す。
エネルギー保存則とかガン無視してるからな、アレ。永遠であるかわりに効果が弱いからゲーム時代での人気は下火だったけど、現実世界となってくると価値がまるで変わってくる。
「火を消す、みたいなやつがほしいんだけど、ある?」
「んー。タリスマンとして作るなら、二通りだな。"燃えない"か"周囲の炎を消す"。どっちがいい?」
「後者で」
「あいよ」
調査の片手間にエンチャントを実行する。
今回グリッチは使わない。「
「形は? 普通にタリスマン?」
「できるならあたしのこの耳飾りがいいんだけど、どうかな。これゲーム時代のじゃないんだけど、いける?」
「ちょい見せてくれるか」
はい、と手渡される。
確かにゲーム時代のものじゃない。なので、アイテムボックスから『鑑定+』のついたメガネを取り出し、それを見る。
アイテム名は「アドゥガルの耳飾り」。なるほど、知らないアイテムだ。
ただまぁ、俺がいつも木片なんかにエンチャントしてるように、物自体がなんであってもあんまり関係ない。グリッチ使うときだけアイテムIDがわからないとできないんだけど、今はそうじゃないしな。
「ほい」
「わ、ありがとー」
「けど、耳飾りでよかったのか? さっきも言ったけど、周囲の炎を消す、がメイン効果だから、それつけて炎に突っ込む、とかしない限りあんまし意味ないぞ」
「これをつけて炎に突っ込む予定があるからほしかったんだー」
「ソ、ソウデスカ」
隠居とは。
「でさ、ガシラちゃん。ホントは何があったのか、お姉さんに教えてほしいな」
「……ま、知る権利はあるか。んじゃ事の始まりからだな。まず──」
ざっと。
ワンバの湖に現れたウィルに始まり、オバンシーさんのこと、魔界、ラクサス、そして魔神のことを話す。今回のドーヴァとゼッケンのことも。
そんなに長い話じゃないから、すぐに語り終えて。
アイネは──神妙な顔つきで、こんな事を言った。
「パッチが当てられる。それ、すごく経験あるかも。ガシラちゃん。ここの調査が終わったら、あたしの村に来てくれない? その痕跡というか、ガシラちゃんに見てもらいたい場所があるから」
そんなことを。
さて、オーバーエデンの調査は恙無く終わった。恙無く、何の成果も得られずに終わった、というわけだ。
なのでアイネに連れられ、アイネの村へ向かう。
「そういえばラクサスは?」
「あの子もタンダードにおいてきたよ。その後は知らない」
「ふぅん」
とのことで、ゼッケン、ゼットウ、ラクサス、そしてミンファとは一旦の完全なお別れとなる。
JJJ、ベンカスト、まおう、他国王や偉い地位についているやつに、今回のオーバーエデンの件の情報共有をしておいた。「無駄足かもしれないけれど、国の地下を調べた方がいい」という旨も。
……メールを出して十数分後、凄まじい量のメールが届いたのはご愛嬌である。ポストに行ってないから中身見れないネー。
「他の攻略組は一緒に住んでないのか?」
「別に家族でもなんでもないし。最後にみんなと会ったの、三百年前とかじゃない?」
「三百年……アレか。
「そそ。あのときも集まったってより元凶叩きに行ったらちょうどかち合った、って感じだったけど。いやー、ジョブが違ってもみんなやることおんなじなんだなぁって笑っちゃったよね」
一定以下の強さの魔物がなにかから逃げるように襲ってくる……ゲーム時代は稼ぎイベント、なんて言われていた現象だけど、今となってはフツーに数万人単位の犠牲者のでる恐ろしい事件。
大抵の場合、それこそスライムレイスキングのような通常湧きしない複合魔物が現れて、そいつが当たり構わず他の魔物を食い尽くし始めることで生まれるものなので、その元凶さえ殺してしまえばスタンピードは終わる。稀に知性のある魔物からお礼がもらえたりする。
この千年の間でスタンピードは四回あった。その内の最後のやつが三百年のスタンピードになる。
「そろそろつくけど、流石に応龍で行くと村のみんなを驚かせちゃうから、この辺から歩きで行くよ」
「おう」
「背負ってもいいけど、どうする?」
「んー。んじゃ頼むわ。俺のスタミナだとアイネの倍以上かかるだろうし」
「おっけー」
ひょい、と背負われて。
瞬間、世界が後方へと置き去りにされて行く。
「何も全力ダッシュしなくても」
「え? ジョギングくらいだよ?」
「ああそう……」
ステータス格差、という言葉がガンガンに突き刺さる。
おっそろしいなぁ。