お 守 り く れ る 怪 し い 老 人 作:老人というだけで怪しい(偏見
結論から言うと、NPCの魔法もINT依存であり──その威力だけでなく、展開規模までINTに依存する、というのがわかった。要は大量の水を出すにも広範囲を凍らせるにも、INTが高くないとどうしようもない。どうにもならない。発生自体はさせられるけど、まおうやコテージローフのような「魔法らしい魔法」にするにはステータスが足りな過ぎるのだ。
そしてそれは、グリッチを使っても同じだった。
大体の構文は理解したけれど、参照するステータスを変える、ということができない以上どうにもならない。
アイネ曰く、この村の村民は大体がINTを上げる生活を送っていて、それはやっぱりNPC魔法の利便性によるところが大きいのだとか。
しかし、そうなってくると、この千年間で新たなジョブや新たなスキルが生まれなかったのも頷けてくる。NPCはみんなNPC魔法に傾向してしまっているってことだ。まぁ、当たり前といえば当たり前なんだけど、あんまり嬉しくない話を聞いたなぁ、って。
「アイネ」
「なに?」
「今、攻略組との連絡は……取ろうと思えば取れるのかの?」
「どうだろ。死んだ、って話は遙遠以外聞いてないから、大丈夫だと思うけど」
遙遠。攻略組の中で唯一の人間であり、冒険者系最終ジョブ
俺は最近知った話だからまだショックが大きいけれど、アイネらにしてみればもう遠い昔の話、か。
「取って欲しいの?」
「いや、まだ考え中じゃ」
「……なんで二人だけなのにRPしてるの?」
「近くに人がおるからじゃ」
「え? ミニマップ何にも反応してないけど」
何だと?
じゃあ、俺の視界の片隅に映っているあの少年は誰だ。いやそもそも、ミニマップになんか頼らずとも、アイネが他者の気配を読み違える、なんてことはないはず。
つまり。
状態異常回復ポーションを取り出して、飲む。
瞬間少年の姿は掻き消えた。
「もしかして幻術?」
「らしいのぅ。いつかけられたのか」
「……セギちゃんも、レベルはカンストしてるよね?」
「無論じゃ。つまり──不味い、かもしれんのぅ」
幻術はメイジ系のジョブツリーにいる
ただし忍者の変わり身の術の方が優秀だ。あれはレベル関係ないから。代わりにミニマップに敵としてマーキングされることとか、本人がいた位置にしか残せないとか色々制約があったんだけど。
比較して幻術は、視認可能な範囲であればどこにでも配置可能で、ミニマップにも映らない。だから対人戦ではあんまり役に立たなかったし、Time to Winだったゲーム時代においては中々自分と同レベル帯の敵、というのが見つからなかったから、うーん、やっぱり使いどころのないスキル、という認識だった。
それでそう、何が言いたいのかというと、サブキャラとはいえレベルカンストな俺に幻術をかけられる相手、というのは、カンストからマイナス5レベル、あるいは同じカンスト相手、ということで。
「一応聞くが、この村には」
「いるわけないじゃん。今の子たちがカンストするのがどれだけ難しいかわかってるでしょー?」
「まぁの」
ゲーム時代と違い、死が死であるこの時代において、自分より強い魔物と戦う、というのがどれだけリスキーか。レベリングにと自分より少し強いレベル帯で戦い続ける、なんて無茶が通ったのはゲームだからの話であって、レベルを上げるためだけのそんな危険を冒す奴はいないのである。
「プレイヤー、と考えるのが自然じゃが……嫌じゃのう」
「でも今日一日あたし、セギちゃん以外のプレイヤー見てないよ?」
「ふむ。……となると、魔神か? にしてはみみっちい真似をするものじゃが。何より実害が無い」
目的から考えるべきか。
俺に幻覚を見せたとして──果たしてどうなる。
俺がアイネに断りを入れずに近づいて行くと思うのか? そりゃ流石に俺の理解度が低すぎる。逆に、あそこに少年がいるから見てきてほしい、なんて俺がアイネに頼む……のもあり得ん。
なんだ。
何がしたかった?
「アイネ、一旦村に戻れ。下手人は儂で効果を試し、アイネの村の者達で本命をしにいった、という可能性も考えられる」
「んー、そんな気配ないけどなぁ。まぁいっか。じゃあ戻るけど、セギちゃんも一緒に行こうか」
「……単独になるのはマズいか」
「セギちゃんが錯乱してあたしたちに襲い掛かってきたらマズいねー」
「いや仮にアイネらが敵に見えたとしても、儂は逃げるが。自分から攻撃する、なんてことはあり得」
言葉は最後まで紡がれない。
目にも止まらぬ速さで剣を抜いたアイネが、俺の頭上を切り払ったから……というか、それによって巨大な氷柱が撃ち落とされたからだ。
「……そうなんだよねー。敵意の無いNPCはミニマップに映らない。これ、ミニマップの仕様知ってる人が敵、ってことかなぁ」
「
「ん、今なんて?」
「なんでもない。ほれ、幻術耐性+++の指輪じゃ。つけとけ」
「……それどのジョブのスキル? 幻術耐性なんてあったっけ」
プレイヤーが取得できるスキルにそんなピンポイントなものはない。あったら幻術が死にスキルになっちゃうし。
だからこれは、幻術が効かないモンスター……高レベルのアンデッド系、特に霊体ボスモンスターがたまに持っているパッシブスキルになる。
今回選んだのはバンシーの幻術耐性だけど、なんでこれが良いかって他のボスモンスターの幻術耐性と違って効果範囲が自身だけに留まらないのだ。理由はまぁ雑魚の取り巻きを死ぬほど引き連れているからなんだけど、それを利用して「身に着けているだけで幻術耐性+++、さらに周囲に幻術耐性++を付与する」エンチャントになる。
なお、今回は10*10のレンジにしたけれど、これはアイネのステータスを詳しく知らないからであり、本来であればその人にあったレンジに調整する。でないと無駄に魔力持っていかれるから。アイネはカンストしてるから大丈夫だろう読みだ。
「え」
「……これは」
そして、俺も似たようなものを付けて──気付く。
村が燃えている。
なんなら火が消えかかっている。燃え尽きかけている。
気付かなかった。いや、だから。
「セギちゃん、ごめん」
恐ろしく、果てしなく冷たい声。
直後、視界の全てが鈍色に染まりつくした。
「『
「……?」
「おはよう、コロネ。大丈夫? どこも痛くない?」
「……はい」
「うん、よかった」
最後の一人を蘇生して、ようやく、と言ったようにアイネは近くの樹木へと寄り掛かった。
アイネのジョブは吟遊聖人。その中にはアークビショップのスキルがいくつかあって、その中に『蘇生』が存在する。
他のジョブにもいくつか存在するものではあるが──この世界、死んだ瞬間に魂が消える、というわけではなさそう、というのがプレイヤーらの見解だ。アンデッドになるとその限りではないけれど、少なくとも『蘇生』というスキルがゲーム時代通りの効果を発揮するくらいには死が死ではない。
冒頭の話と酷く矛盾するけれど、俺がベンカストに渡した『帰還』然り、ラクサスがやろうとしていた蘇生然り、魂というものは存在するのだということを教えてくれる。個人的には嫌いなスキルだ。死が軽くなるから。
ともかく、何者かに襲われ、燃え尽き、壊滅しつつあったアイネ村を、アイネは彼女に出せる最大火力で殺し尽くした。
その後一人一人の住民を蘇生し、今に至る。
ただ問題は。
「どうだった? セギちゃん」
「見つからん。プレイヤーは愚か、この村の住民以外のNPCも、魔物さえも。アイネの攻撃で消えた、と考えるのが最も妥当じゃが、あまり楽観視できる状況ではないからのぅ」
「うん……。そうだね。犯人が分かるまで、あたしも油断しないようにする。この幻術耐性の指輪って量産できたりする?」
「できることはできるが、時間がかかる。儂の魔力半分持っていくからの」
「報酬は払うから、あたしが今身に着けてる奴の効果で、村に設置するタイプの奴、且つ永遠エンチャント、って……ダメ?」
……反射的にダメだ、と言おうとして、少し悩む。
この村はコテージローフに始まって、プレイヤーの子孫が多い傾向にあるように思う。それを守るためであれば吝かではない……が、やっぱり永遠エンチャントはバランスブレイカーだ。加えて設置型となると、盗まれた際がマズ過ぎる。
下手人が見つかるまで、とかならいいんだけど、そういう「契約」みたいな期限決めはできないから、さてどうしたものか。
「セギちゃんが今心配してるのって、それが盗まれたり、悪用されたりしたときのこと、だよね?」
「うむ。悪用についてはアイネを信頼できるが、アイネがこの村を離れることがある以上、盗難阻止が絶対になることはないじゃろう。そうなってくると……難しい」
「じゃあ絶対に盗めないものに、ってのはダメかな」
「絶対に盗めないもの?」
「うん」
「……いやまぁそんなものが作れるのなら構わんが」
それができないから悩んでいるんだけど。
でも、アイネは、自信たっぷりに。
そして……仄かな炎を隠さずに、言う。
「さっきやったの、ワルイコト、でしょ? なら、こういうのはできないかな。──土地にエンチャントをする、みたいな」
「──……」
土地にエンチャントをする。
……できる、かもしれない。そして思い出す。オバンシーさんの話と、炎魔窟での出来事。ドーヴァの屋敷もだ。
俺は勝手にNPC魔法の仕業だと決めつけていたけれど、もし土地に永遠エンチャントなんてことができるのなら。
呪毒フィールドも、炎熱フィールドも、毒フィールドも……作りたい放題じゃないか。
なら、一連の事件の犯人は。
「セギちゃん? 無理そう?」
「いや……少しやってみよう。ただ、試行錯誤が必要になるゆえ、数日間の護衛を頼む」
「勿論! あ、欲しい素材とかあったら言ってね。大体用意できると思うから」
メールを作成する。宛先はベンカストとまおうとJJJ。内容は「俺レベルの能力付与術師、あるいは付与術師を捜してくれ」というもの。失踪した身でこんな一方的な頼みだ。聞いてくれるかどうかはわからないが、情報共有としても十分だと思う。あいつらならこのメールから同じ可能性に至ってくれそうだし。
「あの」
「む?」
「あれ、コロネちゃん? どうしたの? まだどこか痛む?」
「いえ、そうじゃないんです。……その、私は、多分……村に火を付けた人と、戦っていて」
「──セギちゃん」
まぁ、そんな有力情報が出てきたらそうなるか。
土地へのエンチャント依頼は一旦放置で、本来の方……事件解決へと向かうべきだろう。
「コロネちゃん、その場所どこか覚えてる? あとどんな相手だったのかも教えて」
「はい……」
ただ──アイネはこのコロネという少女に全幅の信頼を置いているのかもしれないけれど、俺は違う。今になって情報を出してきた事とか、俺を狙って撃ち出された氷柱のこととか、どうも……どうも、怪しい。
プレイヤーはミニマップに映っていないとアイネは言っていた。敵意の無いNPCもミニマップに映ることがない。
ならやっぱり、犯人は。
「セギちゃん、行くよー」
「ああ、すまんすまん。考え事をしておったわい」
万一に備えて、もう一人にもメールを出しておくかね。
*
さて。
ところ変わって、タンダード。
色々と押し付けられたゼッケンは、ゼットウ、ラクサス、そして未だ意識の戻らないミンファを連れて、ヒキガエル宰相ことJJJの元を訪れていた。正確には押しかけていた。
「ふぅ。まーようやくひと段落ついたからいーけど、今度から事前に連絡してくんね? まーできなかったんだろうけど、こっちにもこっちの都合があるっていうか?」
「本当に申し訳ない。だが、これは私達"英雄"全員に関わる事態であり、国のトップに近しい君は必ず知っておくべき案件だ」
「……さっきちょろっと聞いたけど、なんだっけ。国の地下に大空洞、だっけ?」
「そう。私達が住んでいたオーバーエデンは、つい先ほど陥落した。比喩表現ではなく文字通り、だ。生き残りはここにいる三人と、恐らく敵である者達だけ」
「そっちの緑男は?」
「彼はセギの友人だよ。私達の救出に協力してくれた」
「ふーん。……アイネにはさっき伝えたけどサ。セギ今指名手配中だから、見つけたらとっつかまえておいて」
「了解したと言いたいところだが、私達は助けられた身だからな。見て見ぬふりをしても許してくれると嬉しい」
「ああいや、犯罪とかじゃなくて、まおう、じゃないや、魔王の出した指名手配ね。今度こそとっつかまえて、知ってること洗いざらい吐かせて、永遠エンチャント一個作らせて、それを魔闘祭の景品にするんだってさ」
「成程、そういう話なら喜んで受けよう」
見た目は脂ギッシュなヒキガエルのような様相をしているのに、口調は調子の軽い、なんなら声も若い女性っぽいJJJ。それと対面しているのが幼い少年のような姿でありながら、大人ぶった口調の少女ゼッケン。
ゲーム時代を考えれば特に珍しくない光景であるものの、ゼッケンの概念的な息子であるゼットウには奇異な光景に映ったらしい。彼にしては珍しく、何度も何度も首を捻って邪魔にならない程度に唸っている。
「あー。じゃあまぁ、ちょいと見てみるケドさ。『
「ほう、君は
「忍者ほど珍しいジョブじゃねーし?」
「それを言われては、返す言葉もないが」
セギのような方々のコネクション、ハブ役を務めるポジションのプレイヤーでない限り、お互いのジョブなんてものはそこまで記憶していないものだ。
今のようにゼッケンは有名人だからジョブも知られていたけれど、JJJはゲーム時代、別に名乗りを上げたプレイヤーだった、というわけではない。だから知られていなくて当然だし、それを気にするJJJでもなかった。
ただこの場には、失言ばかりをする奴もいるわけで。
「タンダードの宰相が
「……なに? アンタ初心者? 流石に普通の
「え、あ、いや、そうなのか、じゃなくて、そうだったそうだった! なんでもない、今のは忘れてくれ!」
「はぁ? だったら呟かずに心の中に留めておけし」
「その辺にしておいてやってほしいな、JJJ。セギとアイネ曰く、彼は訳アリらしいから」
「ふーん。ま、興味ないケド。で、穴とか全然ないね。ウチは大丈夫そうかなー」
「出来得ることなら、暇ができた時に確認するようにしてほしい。いつそうなるかわからないから」
「……そんな一日二日で国が沈むような穴が開くって? ジョーダンでしょ」
「冗談じゃなかったからオーバーエデンは落ちた」
「……りょーかい。毎日確認しておく。それで? そっちの寝てるのは何?」
JJJは腐っても宰相だ。
人を見る目はあるのである。なんならゲーム時代から宰相ロールプレイをしていたわけだから、板についているとかそういうレベルじゃない。
「彼女もまた私達の救出のために身を挺してくれたミンファという子だ。今は恐らく魔力の使い過ぎで眠っているが、傷などは一切ない」
「へぇ。で?」
「この子と、そしてこっちの……ゼットウを保護してほしい。私にはまだやることがある」
「母……ではない母よ。私も戦います」
「足手纏いだ。私を殺したい、というのなら止めはしない。ただその場合、君を障害として排除する」
「……っ」
「あー、そこのフクザツな関係は知らないケド、ゼッケンはクソつよだから、ついていくとか無理無理。で、そっちの初心者はいいの?」
「彼は私が連れて行く。聞きたいこともあるし、単純に戦力として優秀だ」
「り。つまり、アンタが戻ってくるまでこの二人守っとけばいいわけね。んじゃ報酬は後払いでいいから。適当な最高級素材とかでいい。守り切れなかったら報酬は無しで」
「ああ、取引成立だ」
こうして。
ゼッケンとラクサスもまた身軽になり、オーバーエデンへ舞い戻る。
果たしてこの"戦力分散"が、吉と出るか凶と出るか──。
今は未だ。