お 守 り く れ る 怪 し い 老 人   作:老人というだけで怪しい(偏見

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3.ロールプレイ含有率40%

 死んでいた。

 否──無論、法国の僧兵に被害はない。

 現在も活動しているプレイヤー二人の手によって製作された、完全耐性のミスリルメイル。それを着込んだ三十人の精鋭によるガナデ村の調査。エンチャントの制限時間たる一週間……をかけることなく、調査自体は三日とかからず終了した。

 原因らしき原因はやはり、プレイヤーオバンシーの死。彼のホームポイント帰還からガナデ村の呪毒フィールド化が始まったことは確実で、けれどそこからの時系列が些か曖昧だった。

 

「どうですか?」

「……死んでいる、と表現する他」

「やはり、ですか」

 

 浄化作業は楽な部類にくくることができたのだろう。

 そもそも法国No.2たるベンカストの同行のもとであるに加え、万全を期した装備。そこらの高位死霊如き、相手になるはずもない。たとえプレイヤーの死体から発生した魔物であったとしても、一切の関係なしに灼き焦がされて死んだ。

 本来。

 本来の想定敵……これほどの精鋭とこれほどの装備を用意したのは、別に新しく発生した死霊が恐ろしかったからではない。

 いるはずなのだ。

 オバンシーを瀕死の状態にまで追い込んだ何者かが。加え、ベンカストの推理が正しければ──対象が死んだのち、周囲を呪毒で侵食する、などというふざけた魔法を使ったのだろう何者かが。

 それが出てくることを予測しての行軍。

 しかし、何者かは出てくることなく、恙なく浄化は終了した。

 

 死霊の討滅、フィールドの浄化作業を終えたベンカスト。僧兵らへ警戒を促し、自身はあるスキルを持つ僧兵と共に調査を行っていた。

 

「再度確認しますが、外傷はないのですよね」

「はい。外皮たる死霊もコアにも傷はありません。が、死んでいます」

「……」

 

 その最中である。

 ガナデ村の小さな教会。惨憺たる有様となっている内部の、その中央。

 そこでエルダーリッチが死んでいた。浄化されかけていたとか、コアだけが砕かれていたとかではなく、死んでいた。

 

「やはり先ほどの光剣でしょうか」

「そうと考える以外に道は無さそうです」

 

 難しい顔の二人。

 というのも、今は消えてしまったけれど、ベンカスト達が来た当初はその胸に真白の剣が突き立てられていたのだ。真白の、光の粒で構成されていたかのような剣。ベンカストには一件心当たりがある……も、それはゲーム時代にあった"あるイベント"でしか手に入らないアイテムだったはず。

 倉庫への保存もできず、インベントリにあるものも強制消去されたゆえにもう手に入りようがないソレならば、この状態を引き起こすことができなくもない。

 

 と、そんな二人のもとへドタドタと足音が近づいてくる。

 

「ベンカスト様!」

「どうしました?」

 

 大声で彼を呼んだのは、当然ながら僧兵。

 しかし、常に冷静沈着であるよう訓練を受けているはずの僧兵が、顔を蒼褪めさせ、冷や汗を垂らしている様子は尋常とは言えなかった。

 

「──申し上げにくいのですが……消失いたしました」

「報告は簡潔に、はっきりと、具体的に言いなさい」

「……法国へ運搬中だったオバンシー様の遺体が、馬車の中から……いえ、棺の中から消失しました」

「!」

 

 聞いてすぐ、ベンカストは立ち上がる。

 そして手に持つ錫杖を強く握りしめ、スキルを発動させた。

 

標的爆破(マーキングエクスプロージョン)

 

 メイジ系ジョブツリー派生、カースウィザードジョブが持つスキル。事前に発動した魔法に上乗せする形で魔力を消費し、効果を乗せた魔法を敵に当てることで条件が整う。デバフの一種であり、それを植え付けられた者は何らかの手段でデバフ解除を行わない限り──術者の任意のタイミングで、付着者の残存魔力と同威力の爆発を起こす。自身へも、周囲の味方へも爆発ダメージを齎す厄介なデバフだ。

 謂わば爆発する呪い。

 ベンカストはそれを、ガナデ村の中央に安置されていたオバンシーの体につけておいたのだ。

 

「ベンカスト様……?」

「静かに。……ですが、聞こえませんね。となると長距離転移か……ミニマップには当然映らないにしても、そこまでの転移が可能となると、何かアイテムを使った……?」

「何をおっしゃっておられるのですか……?」

「オバンシーさんの遺体を運んでいた僧兵への命令を変更します。直ちに法国ペガスス部隊への連絡を。法国周辺のみで構いません、爆発痕のようなものがないか、あるいはそれを隠蔽したような痕跡がないか調べるよう言いなさい。僕、ベンカストからの直接の命令です」

「は……ハッ!」

 

 わざわざ説明をしてやるほどベンカストは優しくない。というか言っても無駄だと思うことや、言っても言わなくても変わらないと思うことについては基本口にしない。冗談を言い合うのは相手がプレイヤーであるときだけだ。

 NPCを見下しているわけではないが、どうしても知識に差がある相手に懇切丁寧な説明をする時間を無駄だと嫌う節がある。それはおそらく、ベンカスト以外のプレイヤーにもよく見られる癖と言えるだろう。

 

 考える。

 ベンカストは人差し指の第一関節を噛みながら、考える。

 

 死んだプレイヤーの死体。

 それを奪う理由は何か。利用価値があるのか。それとも弔い?

 なんにせよ、彼を奪った存在が彼の死に関与している可能性は高い。彼が死んだことはベンカスト直下の僧兵と法国にいる幾人かのプレイヤー、そして稼ぎ頭3しか知らないはずなのだから。それ以外の者が知っているとすれば、彼を殺し、ガナデ村が呪毒フィールドになるよう仕向けた張本人くらいのものだろう。

 

「……これは彼には内緒ですね」

 

 また嘘が増えた。

 稼ぎ頭3。見た目老人のあのプレイヤーは、他のプレイヤーが死ぬことを甚く嫌がる。各地で死んだプレイヤーへの葬儀にも出没しているというし、その死を辱めるような行いをされたとあらば、怒り狂うかもしれない。

 今回のベンカストの行為とて、あの男は良い顔をしないだろう。

 

「ウヒャルド」

「は」

「オバンシーさんの遺体が消えた事は他言無用です。僧兵達にも緘口令を敷きなさい」

「承知いたしました」

 

 首にかけたタリスマン。

 触って、一言だけを呟く。

 

「……せめて性悪は、性悪らしくしますよ」

 

 こういう細かいこと、結構気にするんですからね、なんて言葉は胸に秘めて。

 

 ベンカストは、そして彼についてきたウヒャルドは、教会を後にするのだった。

 

 無論、死したエルダーリッチの体は灼き滅ぼして。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 先にタリスマンを渡した少女ら四人の行方も分からなければ、ベンカストからの連絡もない。

 でもまぁそんなもんだ。いちいち気にしてたら身が持たない。だから俺は今日もロールプレイに興じている。

 

「ほほ……そこな少年、止まりなされ、止まりなされ」

「え、オレ?」

「ちょ、ちょっとクライド、ダメだって、絶対怪しい……壺とか買わされる奴だから!」

 

 今日声をかけたのは青髪金眼の少年。いやーキャラメイク遺伝だねバリバリキャラメイクだね。

 金眼の方はまぁまぁいるだろうけど、青はないよ青は。ありえないって。

 で、奥の少女は普通。垢ぬけない村娘って感じの……まぁ、可愛い部類ではある少女。うんうん、少年少女、これはカップルかね。

 となればお爺さん、余計なお世話を焼きたくなるというもの。

 

「そのような装備で冒険に出るのは危険ですぞ。そうだ、これを持っていきなさい」

「え、何? くれんの? やったー、あんがとな爺ちゃん!」

「ダメだって、ダメだよ、後で法外なお金要求されるやつだよコレ……!」

 

 渡すのは木製の指輪。

 こういう年齢層の低い相手に木片渡すと捨てられちゃうからね。最低限装備らしいものにしておく必要があるのだ。

 木で作った指輪で、さらには川辺で拾った適当な石も二つはめ込んである。別に磨いてないから宝石のような輝きとかはないけど、石にエンチャントをしてあるからなぜか輝いて見えるという不思議。

 それは素人目に見ても、やっぱり輝いて見えるようで。

 

「おー、すげー。なんだこれ!」

「ちょ、ちょっとクライド、高そうだよ、絶対まずいよこれ……!」

「これ貰っていいのか?」

「ほほ、ええ、無料で差し上げます」

「だってよ! ほら、はは、エミリアは心配性だなぁ。いいか? とーちゃんも言ってたけど、人の善意っていうのは素直に受け取っておくもんだぜ? な?」

「それとこれとは話が別だよクライド~~~~!!」

 

 そうだぞ。人の善意は素直に受け取るものだ。

 良いお父さんを持ったな少年。

 

「大丈夫だって! この爺ちゃんオレ達を騙そうとしてるようには見えねえし!」

「いつもいつもその自信はどこからくるの!?」

「勘!」

 

 あっけらかんとしている。

 いいなぁ、こういう子こそ現地民って感じあるよなぁ。プレイヤーの子孫なのは間違いないとしても、プレイヤーの中にはこういう……何? えーと、そう……自由奔放な奴っていなかったんだよな。いやだってさ、VRMMOのプレイヤーだから、ロールプレイでやってる以外じゃ大体常識あるって話でさ。

 バ……じゃない、そう、なんだ、こういう勘だけで全部を解決していく漫画みたいなキャラクターっていうのは、一般常識みたいなものが深いところまで普及していない世界だからこそ生まれるものだと思うんだよ。希少な天然物というか。

 勿論現実にもそういうやつは少なからずいたんだろうけど、少なくとも俺の知り合いには、そしてこのゲームにはいなかった。加えて言えば、そういうのは長生きしないからさ。

 

「あ、そうだ爺ちゃん! 一個お願いがあんだけどさ」

「ほ? なんですかじゃ?」

「エミリアの分もくれよ! こいつ、ちょっと口下手でさ、色々シツレーな事言ったかもしんないけど、良い奴なんだよ。な、いいだろ?」

「く、クライド、恥ずかしいよ……」

 

 ……。

 フッ。甘いな少年。

 

「ほほ……ではネタバラシをば。少年よ、その指輪、石のついている部分を両手で持って、少し捻ってみてほしい……ですじゃ」

「ん……こうか? って、おお! 二つに割れた!」

「だだだ、大丈夫なの、それ、商品を壊して……」

「ほほほ、その指輪はもとから二つのパーツで構成されていましての。さらにこれに鎖をつければ……」

 

 ネックレスになる、というわけだ。

 粋だろう。粋。

 新米冒険者のカップルに渡すのにこれほど丁度いいお守りもあるまいて。ついでに言うと、エンチャントが為されているのは埋め込まれた石の部分だから指輪が割れても問題なし!

 

「すっげー!」

「ほ……ホントに、タダでいいんですか……?」

「無論じゃよ、若人。お代を取ったりはせんから、気を付けて冒険に行ってくるんじゃぞ。決して油断せず、決して敵を侮らず、じゃ」

「おう! ありがとな、爺ちゃん! んじゃ行くぞエミリア!」

「う、うん……。あ、あの、ありがとうございました……ってあ、待って、早いよクライド~!!」

 

 ──うん、青春。

 正直な話をすれば、子供が魔物と戦うとか間違っていると言いたい……んだけど、あの様子だと貧困からじゃなくなりたいからなったパターンっぽいからな。俺が止めることじゃあない。

 前にも述べたけれど、普通の冒険者は大体貧困に喘いで、それから抜け出すために冒険者をやる。スキルがないから、キャリアがないから、あるいは前科があるから。

 普通の職場に雇ってもらえないような奴が、自らの命を天秤にかけて日銭を稼ぐ仕事だ。

 騎士や兵士のように真っ当な訓練を受けさせてもらえるわけでもなし、宿屋暮らしだったり野宿だったりするやつも多いだろう。

 失敗すれば死、あるいは信用を失い、他の国に行かなければならない。成功しても端金、もしくは何か大怪我と引き換えの勝利で、治療費で報酬がすべて飛ぶのかもしれない。

 

 リスクの方がはるかに大きい職業だ、冒険者は。

 それを望んで、というのは。

 

「……ほほ」

 

 少女らも、ベンカストも、少年少女も。

 結局俺は無事を祈るしかできない。

 ただどうか、俺の上げたお守りが彼らの命を救いますように、と。

 

 

 

「あ、セギさん。ようやく見つけました」

「ほ? ……おお、これは、総合クランの……えーと」

「はい、ファラです。ふふ、私たち同じ服装なので、誰が誰だかわかりませんよね」

 

 やはりプレイヤーの子孫も減ってきている。

 そう感じた昼下がり。

 もう少し前の時代であれば半分くらいはプレイヤーの子孫っぽいのばかりだったのに、今や一割を切っていると来た。ただ血が薄まってきているだけならいいのだけど、冒険に出て死んで、とかなら嫌だなぁなんて思いながらぼーっとしていたら、犬耳少女に声をかけられた。

 

 ファラ。彼女は総合クランの受付をしている獣人少女。

 総合クラン……乱立するクランの取りまとめをやっている国営クランであり、特定のクランに属さない冒険者は強制的にここに属することになっている。おそらくだけど、さっきの少年少女もまだ総合クラン所属だろう。

 これから何か仲間を見つけて特定のクランに入るのやもしれないが。

 

 さて獣人──とはいえ、特に亜人差別とかないこの世界においては彼女も普通に人間だ。ただ犬っぽい特徴が出ているだけの人間。まー昔はキャラメイクの関係上凄まじいまでの種族がいたからな。それらが当然のように同じクランだったりフレンドだったりしたんだから、そこまで強い差別が根付きようもない。

 するやつがいないとは言わないが、マイノリティである。

 

「総合クランがこの老いぼれに何の用かの?」

「人探しの依頼にセギさんがいたので、私が見つけに来ちゃいました。鼻が良いので!」

「……クラン職員が率先して冒険者の仕事を奪うの、どうかと思うがのぅ」

 

 人探しなんて危険性の少ない依頼、新米冒険者にやらせてあげりゃいーのにさ。

 なんて言葉はおくびにも出さず。

 

「ほほ……人探し、とな? 儂を?」

「はい! 依頼者はアウリヌス・レクスのフィミルさん、という方ですね。あ、知ってますか? あのアウリヌス・レクスに入れるってだけでも凄いのに、入って早々最強なんて噂されてる四人の女の子! ……からの、人探し依頼ですので……セギさん、とうとう何かやっちゃいました?」

「それ、本当に儂かのぅ。人違いとか……」

「あ、いえ、それはないです! ほら、セギさんが良く配ってるタリスマン。アレを見せられて、これの製作者である老人を探している、と言われましたので!」

「儂以外にも木片配ってる老人はいるかもしれんぞ?」

「いえいませんよそんな怪しい人」

 

 ファラはおそらくNPCの子孫である……が、特にそういうことは関係なく、単純に付き合いが長いのでこういう気軽な仲にある。

 というのもまー……たまに、本当にたまーに通報されるのだ、俺。怪しいからね。

 その対応をするのがいつもいつもファラである、というだけで。

 

「とにかく、あなたは依頼者に探されているわけですが、当然あなたにも会わない、という選択肢があります。セギさんが拒否するのであれば、こちらからフィミルさんに拒絶の意を伝えることも可能ですよ?」

「……儂、殺されるのは勘弁なんじゃが」

「それなら総合クランの応接室を使うのは如何でしょうか? もし荒事になっても総合クランの腕利きが対処できますよ」

 

 ふむ。

 ソレは、あり。何故って総合クランの腕利きにはプレイヤーが一人混じっているから。

 アイツなら大抵の荒事揉め事は鎮静してくれるだろうし、最悪言い争いとかになっても俺の味方をしてくれるかもしれない。

 

 ……よし。

 どうせここで断ってもあっちが直接会いにきそうだし、特に悪いこととかしてないんだから、会っておくか。面倒ごとは早めに片づけるに限る。

 

「会うことは承知じゃが、日程のほどは」

「お時間があるのであれば、今すぐにでも!」

「了解ですじゃ。では、向かうとしますかの」

 

 まぁ。

 こんな形ではあるが、生きていたことを知れたのは嬉しいよ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「──申し訳ございません。本来であればこちらから出向くべきでしたのに、呼び出すような形になってしまって……先日の失礼を含め、心より詫びさせていただきたく存じます」

「ほほ……その、何事を謝っているのかは知らぬが、まず顔を上げい、娘子よ」

 

 総合クランの応接室に、彼女らはいた。

 数日前に見たときと変わらない四人。特に大怪我もしていない様子で、うん、何よりだ。

 ただあの時言葉を交わしたもっとも年長らしき少女……フィミルという子が頭を下げて動かない。

 

 何事。

 

「他……説明できる者はおらんかの? これでは話が進まんぞい」

「……」

「……」

「……ひっ、い、いえ、私は無理ですよ!?」

 

 いないらしい。

 魔法剣士(スペルフェンサー)軽業弓兵(アクロバットレンジャー)探索者(シーカー)、そして霧魔使い(ミストメイジ)。うん、いい構成であると言えるだろう。ゲーム時代でもたまに見かけた構成だ。加えてレベルもそこそこあるし、なんというか、この時代にしてはかなりマトモ。

 内魔法剣士(スペルフェンサー)霧魔使い(ミストメイジ)がプレイヤーの子孫っぽいが……ほかの二人もレベルを見るに特徴がないだけの子孫っぽくはある、か? 全員美少女だし。

 俺は基本外見的特徴のみでしか相手を判断しないけど、流石にこうやって対面したらもう少し深く観察する。そして今、俺の中の『目の前の奴プレイヤーの子孫っぽいメーター』は基準値を大きく超えて、MAXに近いところまで来ている。

 

 ……どれ、何を話してくるかはしらないけど、手厚く対応しようか。

 何より可愛いし。

 

「頭を上げてくださらんかの、霧魔使い(ミストメイジ)殿」

「……」

「……ふむ。では心行かぬが、こう言おう──面を上げなされ、フィミル」

「はい!」

 

 うーむ。

 怪しい老人ロールプレイしてるんだけどなぁ。

 こういう尊大な喋り方は……あ、でも狂王ロールプレイしてたフレンドの会話ログ残ってるから、それ参考にするか。

 

「貴様の謝罪などどうでもよいのでな。何用か、手短に話すがよい」

「は、はい! そう、ええと、そう……先日に頂いたこのタリスマンにより、私たちは命を救われました。それで、これを私たちの村の長老に見せたところ、あなたの名と共に、かつて村を救ってくださった付与術師(エンチャンター)がいたことを語ったのです」

「……整理するがの。まず、命を救われた、というのは……ソレが発動する事態に陥ったか」

 

 ソレ。

 彼女らにあげたタリスマンには、『物理耐性++』と『魔法耐性++』、そして『物理無効』が仕込んであった。

 前者二つは説明するまでもない。そして後者のはベンカストが馬車で使っていた奴の上位版だ。

 次に受ける攻撃によってHPが全損する場合、その攻撃を無効化する結界を張る。例によって一度発動したら壊れる代物ではあるが、勝てるかどうかわからない戦いにおいては必須クラスのエンチャント。

 ただ、ゲーム時代はデスペナが無いに等しかったため、復帰ポイントをボス戦手前とかに設置できるダンジョンとかだと無用の長物だった。

 

 それでも全滅したらボスのHPが全回復する仕様を考えれば、一人でも生き残らせるための『物理無効』はそれなりにありがたがられたが。

 

 んで、デスゲームとなってからはそれはもう重宝されたし、現実となってからは言うまでもない、と。

 フツーにオーパーツ。ロストテクノロジー。研鑽に研鑽を積んだ聖職者ジョブがなんとか掴み得るスキルを、適当な木片に刻み込んであるのだ。ヤバいなんてものじゃあない。

 

「はい。全ては私たちの油断。あれはウォールベアの討伐中のこと……私たちは優勢な戦いに気を逸らせていて、ドラゴンの接近に気付かず……これがなければ全員食べられていたことでしょう」

「ドラゴン?」

「ええ、黒いドラゴンです。見たことのない種でしたので、私たちは即座に撤退を選択しました」

 

 ……ドラゴン?

 フィールドで?

 いやいや。いやいやいや。

 

「それ、どこじゃ?」

「西方は"歪みの森"を抜けた先にある湖畔です」

「ワンバの湖? いやいや、あそこの適正レベル17とかだろ。ウォールベアが出る場所でもないし、況してやドラゴンなんて」

 

 あり得ない。初心者殺しもいいとこだ。というかそんなんプレイヤーが五、六人集まって討伐する奴だぞ。しかも黒……となると、マジのガチのやつだ。なんならワールドが違う。魔界で一番高い山に住んでる奴だぞソイツ。

 つかあっぶねぇ、『物理無効』で良かった。もし『物理防御』とかあげてたら普通に死んでたな。俺のメインジョブでも直撃食らえば一撃死だぞソレ。

 

「セギ様?」

「……いや、良い。それで、儂に救われた村があった──から、なんじゃ」

「い、いえ。特に何というわけではなく、その、お礼を」

「要らぬ。謝罪も礼も要らぬわい。用件がそれだけなら、儂は帰るぞい」

 

 手厚く対応するとはなんだったのか。

 いやだって相手がこういうロールプレイお望みなんだもん仕方ないじゃん!

 俺だってずっと怪しい老人ロールプレイしてぇよ! 何聞かれても「ほほ……ほ?」とか言ってはぐらかしてぇよ誤魔化してぇよ……でもそれじゃ話が進まないんだよぉ!

 

「あ──お、お待ちください、セギ様!」

「……なんじゃ」

「お願いがあります。……件のタリスマンを、私たちに売ってくださいませんか?」

 

 そればかりは、と。

 終始だんまりだった後ろの三人も、深く頭を下げる。

 

「……何に使う気じゃ」

「私たちは──あのドラゴンを討伐しに行きます。そのために、あのタリスマンが必要なんです」

「ならぬ」

「……そう、ですか」

「して、アウリヌス・レクスに直接抗議する。主らのような程度の低い娘子を差し向けるなどなんたる了見か、とな」

 

 あり得ない。

 黒いドラゴンって報告聞いた上で、「もっかい討伐してこい」とか。

 ゲーム時代でもぜってー言わねぇよそんなこと。

 確かにレベル差あっても時間かければ倒せるゲームではあったよ。死ぬ気で回避して1ダメージも入ってないんじゃないかと思うような攻撃チクチクして何時間もかけて、って。

 でもそれは死んだって特に問題ないゲームだからやれた話だ。そんでもって、初心者にやらせることじゃ絶対にない。

 命が一個しかない現代ならなおさら。

 

「そ、それは」

「安心せい。ドラゴンは儂らが討伐しておく。報酬が欲しいなら全額主らにやる。じゃから、主らは安全な場所でおとなしくしておれ。命令じゃ」

 

 リストアップする。

 あのドラゴンに勝てそうなメンツを。ぶっちゃけ強い強いと言っても最強なわけじゃない。ちゃんと準備して、ちゃんと育ったプレイヤーが、ちゃんと連携してやれば……討伐はできるはずだ。

 

 討伐のためならエンチャントも惜しみなく使おう。なんなら秘蔵の武具防具も貸し出す。

 こんな二次ジョブの初心者四人を送り込むとか、妄言にも程がある。

 

「良いな?」

「……は、い」

「よろしい」

 

 さて──まず、宰相が手っ取り早いかな。貸しいっぱいあるし。

 

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