お 守 り く れ る 怪 し い 老 人   作:老人というだけで怪しい(偏見

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7.ロールプレイ含有率98%

 成程、と思った。

 

「ほほ……そこなお兄さんがた、ちょいとお話を」

「あぁん!? なんだジジィてめェぶっ殺すぞ!!」

「であればお暇しますじゃー」

 

 とか。

 

「ほ……そこな美しいお姉さん方、ちょいと」

「丁度いいな爺さん金出せよ! 酒飲み過ぎて金がないのさホラホライイコトしてやっから!」

「あ、ではここいらで失礼するのぅ」

 

 とか。

 

 成程、ベンカストは正しい助言をくれたらしい。

 お守りを渡すどころか、マトモな会話が成立せん。

 

 

 

 魔界。

 ベンカストの取り計らいによって無事釈放された俺は、プレイヤー連中に報酬としてエンチャント品を配ったのち、魔界へと赴いた。なんか尾行してくる僧兵いたけど撒いた。三次ジョブの追跡者(チェイサー)くらいになってからじゃないと俺には追い付けんぞ。

 ウィルとユティは放置。むやみやたらにあそこに近づいたら、あそこに何かありますよ、と言っているようなものだしな。

 

 で、魔界へきてようやく日常たる"路地裏からぬっと出てきて何故かお守りくれる怪しい老人"をやっているのだけど、これがまーったく成功しない成功しない。

 人間界でも通報されることはたまにあったけど、こっちはほぼ百で喧嘩吹っ掛けられるか金としてみられるかのどっちか。お守りなんぞだーんれも興味ない。

 

 ……まぁ、それもそのはずではあったりする。

 魔界とは、というか魔族とは、力こそ正義な種族である。権力とか経済力とかは全く重視されない。力、力、力。物理攻撃だろうが魔法攻撃だろうが闇討ちだろうがなんだろうが、強い奴こそ正義。強い奴こそ最強。

 最も最強な奴が強いのである。

 ただ、暴力が支配する世界、ということでもない。どころか治安は比較的良い方である。

 何故って、弱者は強者に楯突かないから。

 俺みたいに貧弱老人が強者に声をかけること自体がありえない話。弱き者は弱きなりに隠れ潜み、ゆっくりとでも力を付けて、強きになることを望む。

 無用なトラブルは起きない。この世界での弱者は非常に賢い。もし知恵がそのまま武力になるのであれば、魔界の勢力図は反転こそしないまでも傾くことだろう。

 

 が。

 

 あらゆる弱者が賢く強かであれど、ヒエラルキーというものは必ず存在するし、どうしようもない理由で弱者を抜け出せない者も確かに存在する。

 まーわざわざそんな弱者を狙って、狙い撃ちにしてお守りを押し付ける、というのは流石に"怪しい老人ロールプレイ"美学に反するのだけど、それがプレイヤーの子孫っぽかったら話は別だ。魔族はヒトと違って奇抜な見た目であることが多いから判別しづらいんだけど、流石に、流石に。

 

「姉さん、大丈夫?」

「……ああ」

 

 ピンク髪はまぁ、流石にキャラメイクだろう。

 

 

 ☆

 

 

 ノックが鳴った。

 扉を叩く音。ここ最近そんなものが鳴ることはほぼなかったから、ビクりと肩を震わせてしまう。

 

「……イステア、出なくていい」

「でも、姉さん」

「何か……異様な気配がする。息を……潜めるんだ」

 

 イステアと呼ばれた少年は姉と扉の方を何度か見る。

 コンコンコン、コンコンコンとノックが鳴り止むことはなく、寝たきりの姉もまた首を振り続ける。

 

 彼は、だから、彼も首を振った。

 

「イステア……ダメだ」

「大丈夫。僕だって強くなってるんだから」

 

 ノック。ノック。

 酷く単調だ。機械的なまでに一定のリズムでノックが鳴っている。

 そこに、一歩、また一歩と近づいていくイステア。こうなると寝たきりの姉にはどうすることもできない。何故なら彼女は起き上がることも大声を出すこともできない程の危篤状態にあるのだから。

 いつもならなんでもない距離があまりに長く感じられた──家の中のドアまでの道のりは、ドアの前に辿り着くことで彼の息を上がらせた。どうやら知らずのうちに息を止めてしまっていたらしい。

 

 イステアはドアノブに手をかける。

 冷たい。冷たく感じる。人間界のような太陽の無い魔界は冷え切っているのが常だが、これほどだっただろうか。

 

「……どちらさまでしょうか?」

 

 か細い声で問いかける。

 大丈夫だといったのに、恐れていたらしい。イステア自身はその「異様な気配」とやらは感じないけれど、彼の尊敬している姉の言葉がそれなのだ。

 あるいは本物の……魔王クラスの強者の可能性だってあると、甚く緊張していたらしかった。

 

「ホホ……突然すみませぬ。お守りを配っておりましてな、ええ、お代は要りませぬから、どうか一つ受け取ってくださると」

「け、結構です!」

「ホ──」

 

 断った。

 魔界は弱肉強食。強者が弱者に施しを与えることなどありえない。もしそれがあるとするのならば、強者が何か弱者を利用しようとしている時に限るだろう。

 まだ幼いイステアであってもそれは理解している。魔界で生まれ育った者にそれを理解していない者はいない、ともいえる。

 

 だから、同時に。

 

「ホホ……まぁ、まぁ、そう──言わずに」

「!?」

 

 ズ、ズズ……と()()()()()()()()()()()()老人に、イステアは諦めの心を抱く。

 弱肉強食だ。強きこそ正義だ。

 ゆえ──ひとたび強者に狙われたら、それを避ける術などない。

 

 たとえ入ってきた者が何の強さも感じられない、オーラも気迫もない枯れ木のような老人であっても。真白な髭を膝下まで伸ばした皺くちゃ顔の弱そうな存在であっても。

 これなら勝てそう、とかイステアが希望を抱いてしまったとしても、魔界の法則は絶対に──。

 

「ゃ、やぁあああああ!!」

「ホ?」

 

 あぁ、残念なことに。

 絶対を絶対だと理解できるほど、イステアはまだ成熟していなかった。

 

 老人の手がイステアに伸びる──。

 

 

 ☆

 

 

「……!」

「ほほ……そう怖い顔で睨んでくださるな。何もせんよ」

「ね、姉さん……!? ダメだよ、起き上がっちゃ……!」

 

 あっっっぶな。

 ちょっと調子に乗ったのは認めるし、押し売りが過ぎたのも認めるよ。十割俺が悪いよ。

 でも今のは違うじゃん。なんか殴りかかってきたから受け止めようとしただけじゃん。魔族は種族としての基礎ステータスがちょっぴり高いから危ないんだよ何もせず殴られたら。自分から危険に突っ込んだのは俺だけども!

 

 ただ、それを受け止めようとした手を叩き落さんとしてきた攻撃のがやばかった。

 危ないとかのレベルじゃない。ヤバい。だって今『物理無効』発動したぞ? 今の一撃まともに受けてたら俺のHP全損してたってことだ。

 

 目の前の、女性。

 窓の外から見たときも思ったけど、ピンク髪に青目の美女。弟もピンク髪で、まだ幼いながらに美形に育つことが窺える。

 ほぼ百でプレイヤーの子孫だ。この強さも含めて、な。

 しかし。

 

「……っ、ぐ、ぅ……」

「姉さん!?」

 

 ものっそい目で睨んできていた女性が崩れ落ちる。

 ドロっと零れるは赤。血。血だ。口から大量の血。なんだ、内臓が潰れでもしてなきゃ、吐血なんて。

 

「姉さん、姉さん!?」

「ほほほ……どれ、少し診せてみ、」

「ち、近づくな! 姉さんに近づくな!」

「おっと……もとい、ほほっと」

 

 また殴りかかってくる少年。君ね、その攻撃で俺のHP三分の一くらい削れるのわかってる?

 

「わかった、わかった。近づかぬ。じゃが、儂は医学の心得もあっての。遠巻きで良い、少し診せてくれぬか」

「……」

「沈黙は肯定と受け取るぞい」

 

 医学の心得なんて無いに等しいが、まぁプレイヤーなんで。

 状態異常とかあったら見抜けるよ……って。

 

 おん?

 

「呪いか」

「……っ!」

 

 インベントリにある『観察』のエンチャントしてあるメガネを取り出そうとして、するまでもないことに気付く。

 この何とも言い難い色合いのエフェクト。

 呪いだ。死霊系とかカースウィザードとかが使う状態異常。なんでこんなもん解除せずにいるんだ?

 

「お主、これが呪いであるとはわかっておるかの?」

「……」

「わ、わかってるよ! バカにすんな!」

「わかっていて何故解かん。呪いは時間じゃ解けぬぞ」

 

 火傷とか毒なら一定時間で解けるんだけどな。呪いは術者を倒すか状態異常解除をしない限り解けない。

 それともアレか、状態異常回復ポーション持ってないのか? まぁアレ今の時代高いからな。昔はスキルで解除したり、なんなら耐性つけたり無効化したりができたからあんまし要らなかったんだが。

 今は俺含めて耐性スキルなんて積んでない奴がほとんどだ、理解はできる。

 

「ほれ、状態異常回復ポーションじゃ。姉に飲ませるが良い」

「……」

「……」

 

 少年に渡す。

 彼はそれをしばし見つめた後、ゆっくりとした動作で女性の方に振り返り、之を彼女の口元へ運ぶ。

 俺が言うのもなんだけど、俺みたいな怪しい奴から受け取ったもん疑いもせずに飲ませるもんじゃないぞ。毒だったらどうする。まぁここで俺がこの女性に毒を飲ませる理由がないんだけど。

 

 状態異常回復ポーションが効果を発揮する。

 女性の体に纏わりついていた呪いが弾かれるようにして消し飛び。

 

 再度、纏わりついた。

 

 ……おー?

 

「やっぱり、効かない……」

「ほほ、既に検証済みじゃったか。しかしこれは……」

「無理だよ。アイツがいる限り、姉さんの呪いは解けない。それより、姉さんをベッドに運ぶから手伝ってよ」

「ほ? 触れてもいいのかえ?」

「今のポーション、かなり上質なものだった。姉さんに悪意ある奴があれほどのものをタダでくれるとは思えないし、なんか悪巧みしてても……どうせ僕には止められない」

「ほう、それがわかるとは……主は調剤師(ファーマシスト)じゃったか」

 

 めっずらしいな。

 魔族で生産ジョブとか、やってけないだろ。まぁ毒とか作れるから一切戦えないってことは無いけど、力isパワーな魔界でよくそんなジョブなろうと思ったな。

 

「ほいじゃま、運ぶぞい。足の方を持ってくれい」

「うん」

 

 ま、俺のSTRが弱いったって人を運ぶくらいのソレはある。

 女性の背後へ回ってその脇へ手を回して持ち上げ……つつ、少しばかりの観察。

 ふむ、『呪紋章(カースマーク)』はないか。継続的に呪いをかけるための常套手段なんだけど、それがないとなると……。

 

 できるだけ負担をかけないよう女性をベッドまで運んで寝かせる。

 呪いは尚も彼女を蝕んでいるが……うーん。

 状態異常はスキルじゃないからなぁ。強制解呪とかできないんだよな。ユティやウィルにやらせたような魔力代替での解呪もちょっと体に負担がかかりすぎる。いつからこの状態か知らないけど、ここまで衰弱した相手にやらせる行為じゃない。

 俺と少年も魔力不足。調剤師(ファーマシスト)は魔力上限アップ系のスキル無いからな。

 

「それで、アイツ、とは?」

「……」

「言えぬか。ほほ、となると有名人で強者……魔王だったりするかのぅ?」

「ッ!」

 

 一瞬で少年の顔が憎悪に染まる。

 マジか。

 え、アイツ他人に呪いかけたりするんだ。アークメイジだからできはするだろうけど、性格的にそういうことしないと思うんだけど。

 それともこの女性が過去にめっちゃ色々やらかしたとかか? 封印のために……みたいな。

 ……にしたってもっとやり方あると思うけど。これ相当キツく呪ってるし、解呪されるごとにかけ直してるってことだろ? 陰湿過ぎん?

 

 ふむ。

 

「少年。この女性は何か……過去、魔王に歯向かったことがあるのかの?」

「……ないよ」

 

 その反応はあるなぁ。

 うーん。まぁ当人に聞くのが一番か? まおうにメール出してみるか。

 

 が、返事を待つ間このままにしておくってのもなんだかな。

 継続的な呪いか。ん-。ん-、じゃあ。

 

能力付与(スキルエンチャント):『痛覚軽減++』」

 

 アサシンジョブのスキルツリーの初期の方にあるスキル。

 それはゲーム時代の話。VRMMOでも痛みというのは四分の一くらい再現されていて、ゆえに大怪我レベルの一撃をくらうと痛みで動けない、ということがそれなりにあった。それを軽減というか無視して動けるようになるスキル。

 後にVR機器を扱う会社が訴えられたりなんだりして痛みは百分の一くらいにまで減ったんだけど、スキルは残ってて。まー無用の長物にはなれど、チクっとさえしてほしくない勢は結構取ってた覚えがあるな。

 

 ……話し戻すし関係ない話だけど、グリッチじゃないエンチャント久しぶりに使った気がする。

 

「ほほ、これをやろう。痛みを減らすお守りじゃ。じゃが、痛みが減るだけで呪いが解けたわけではないでの、動けるようになるわけではないぞい」

 

 木片を女性に握らせる。すると、明確なまでに呼吸が安定した。

 ++でも結構な効果あるはずだからな。

 で、もう一個やっとくか。吐血してたし、内臓系のダメージがデカいと見たので。

 

能力付与(スキルエンチャント):『体力継続回復(リジェネレイト)++』」

 

 握らせた木片にさらにエンチャントを追加する。そこそこ強力な体力回復効果だ。内臓が傷つき続けているなら、癒し続ければいい。これが傷ついて治してを繰り返すような鬼畜効果だったらやってなかったけど、体力継続回復(リジェネレイト)は普段俺も使っているから効果は把握済み。

 なんか温泉につかってるみたいな気持ちよさと共に、傷が癒えていくんだよな。さすがスキル、理不尽だ、って思うよ体力回復系は特に。

 

「爺さん付与術師(エンチャンター)だったのか」

「ほほほ、昔取った杵柄じゃがの。……とりあえずこれで大丈夫そうじゃの。それじゃ、このあたりで儂はお暇するかのぅ」

「……」

 

 いや全然お節介焼くつもりではあるよ。

 バリバリ調査する気でいる。だから少年、別にプライド捨ててまで頼み込んだりしなくていいよ。

 俺は選民思想超絶強い系怪しい老人だからな。プレイヤーの子孫だと認めた時点からガンガン過保護になっていくぞ。

 具体的にはまおうへの聞き取りと、必要ならこの状態を研究して打ち消すエンチャントを作り出すまである。

 プレイヤーの子孫には優しいんだ、俺は。それ以外にもある程度優しいけど。

 

「あ……あのさ、爺さん」

「ほほ?」

「お願いが……あるんだ。その、えっと」

 

 うむ、うむ。

 良い良い。プライドへし折ってまでこんな怪しい老人に頭下げなくてもいいんだぞ。

 これは俺がお節介でやることだからな。なんなら完全押し売りだからな。断っても研究するぞ俺は。

 

「──ついてきてほしい場所が、あるんだ」

「ほ?」

 

 ……それは予想外デース。

 

 

 

 

 少年があの女性を置いていく、ということにもびっくりだったけど、連れてこられた場所もかなりびっくりだった。びつくりぎゃうてんだった。

 

「……炎魔窟(えんまくつ)か」

「あ、知ってたんだ。そう、ここは炎魔窟……もう随分と前に機能停止したダンジョンだけどね」

 

 火傷フィールドのダンジョンだ。火傷耐性持ってないとガリッガリHP削られて、さらに火力の高い火魔法やスキルでドーンでボーン。

 まぁ魔界に来た時点でそこそこのレベルがあるはずだし経験も豊富なはずなので、ノー対策で行く奴はいないダンジョンではあったけど……うーん。

 ここ適正レベル76とかだよな。

 まさか俺と調剤師(ファーマシスト)たる少年だけで突っ込む、とか言わないよな。耐性はつけられても火力は出ないぞ俺。

 

「機能停止という割に、魔物は健在のようじゃが」

「そりゃね。ダンジョンとしての機能は無くなっても、炎系の魔物にとって住みやすい環境であるのには変わりないし」

「で、ここに何用じゃ? 言っておくが儂は戦えんぞ」

「え、そうなの? 姉さんが止めたから、てっきり強い人なのかと思ってたんだけど」

 

 やっぱり突っ込む気だったか。

 あっぶねぇ。

 あの女性が俺の手を止めたのは、多分俺のレベルを感じ取ったとかそんなトコじゃないかなぁ。一応レベルカンストだからね俺。戦闘力皆無とはいえ。

 

「この奥に見せたいものがあると?」

「……まぁ、うん」

 

 炎魔窟の最奥ってなんか見るものあったっけ。

 一応全部のダンジョン覚えてる身としてはなーんにも思いつかないんだけど。なんなら道中迷路のマッピングも保存してあるぞ。

 

 ううむ。

 まぁどんだけ言っても俺がここを攻略できないのは変わらないんだよね。

 

 こういう時は潔く人に頼るのが吉。

 えーとフレンドリスト……と。

 

「──は? ガシラ? お前ここで何やってんの?」

「おお、噂をすれば影じゃの」

「……ッ!?」

 

 今まさに、魔界にいるフレンドから協力してくれそうなやつにメールを投げようとしていたところ。

 後方から呆けたようなアホっぽい声がかかった。

 

「久しいのぅ、まおう。何十年ぶりじゃ?」

「その喋り……う゛ぅ゛ん゛。──フ、壮健そうで何よりだ、セギ。イントネーションには気を付けろよ?」

 

 まおう。

 兼、現魔王が、そこにいた。

 

「魔王……ッ!」

 

 あ、やべ。

 呪いをかけたのがまおうなら、知り合いの(てい)で行くのやめたらよかった。




まおう は マトンと同じイントネーション
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