存在してはいけないタイプの回復担当 作:存在してはいけない回復用務員
「ウソ……だろ。だって俺はあの時死んで」
突然だが、死とは何か。
これを問われた時、君はどう答えるか。
永遠の離別。世界からの解放。人生の終着点。色々と言葉はあるだろうが、まぁ……あれだ。だいたいの人間が"終わり"を意識して考えると思う。
「……これで10人目。流石に疲れますね……主に移動で」
だって死とは文字通り死だ。生き返るなんてあり得ない。世に言う死人が生き返ったという話は、死んだように見えていて、本当は生きていたというだけなのだから。
「あんたは……」
「さて。生き返ったのなら持ち場に戻って下さいな。戦争はまだ始まったばかりですよ」
万物万象に変革をもたらす"
『ハロハロ。こちらαチーム。ゾンビアタック作戦成功を報告なり』
『βチームも同じく』
『γチームは死者多数により若干の遅れあり。巫女様の救援を求む』
「γチーム……はぁ歌舞伎町。遠いなぁ~」
この日、裏の世界の勢力図は大きく書き変わったらしい。
全部、こいつのせいである。
◇◇◇◇
「人を捨てろ!」
「断る!俺達は人であり続ける!」
目が眩むような閃光がぶつかり合い、均衡する。
対局に立つ異形の怪物が優勢に思えたのは一瞬、青年と青年を支える若者達の雄叫びと共に力の差は逆転し、その怪物は力の本流に飲まれて姿を消した。
「…………やっと、終わった」
地面に座り込むシズエ。
それでやっと怪物が消滅したんだと確信して、
「この大バカ者どもめ!!!敵地のど真ん中で気を失うやつがあるか!!!!」
そして目が覚めたら、よく知るベットの上だった。
「お前らときたら、毎度毎度……ワシに回収されおってからに」
目の前にいる妙齢の女性。皆はドクターと言っているけれど、本当の名前は誰も知らない。本人いわく名前を知ることで有利になるタイプの逸脱者を警戒しているから誰にも教えないんだとか。
「はは……すいません」
彼女には本当に頭の上がらない思いだ。毎回無茶をして倒れる俺たちを文句を言いつつも必ず助けてくれる。
「口だけなら何とでも言えるわい!全く……」
突然だけど、この世界には漫画やアニメに出てくるような超能力者がいる。総称は特になく一体いつから存在していたのかもしられていないが、力に目覚める人達は例外なく大きな欲望を持っていて、金持ちになりたいだとかハーレムを築いたいだとか欲望には色々あるけど、世界征服をしたいだなんて本気で考えるような奴らが日夜世界を乗っ取ろうと裏で暗躍している。
かくいう俺は、行方不明になった妹を探す思いからこの力に目覚めた。
欲望が強く、そしてそれが達成不可能に近ければ近いほど強い超能力者になれるんだとドクターは言っているけど、それで言うなら目覚めた頃に比べて大分成長した俺の能力には複雑な感情を抱かざるおえない。
「はぁ…………」
「またダメだったのね、妹さんのこと」
ドクターからありがたい小言を充分に受けた後、今回も妹の足取りが一切掴めなかったことに落胆のため息を溢す。
そんな俺に声を掛けてきたのはシズエ、『ちょうど一時間先の未来が見える』という少し変わった能力を持った少女だ。
彼女は俺と出会う前、俺の妹に怪我を治して貰ったらしい。
その時は敵対組織に襲われてボロボロで、ろくに会話も出来なかったらしいが、怪我をする一時間前に視た妹の姿を鮮明に覚えているという貴重な情報源であり、今では大切な仲間だ。
「ドクターの促進とは違う、まるで時間が逆行するような高位の回復能力。元々欲望の本質から発現する能力において回復系の能力に目覚める人は稀少だけど……」
「うん、分かってる」
もう何度も聞いた。
妹の異常な力とそれを取り巻く勢力図について。
どうして妹がそんな能力に目覚めたのかは分からないが、もともとドクターのような回復系の能力者は数が非常に少ない。不治の病の彼女を助けたいだとか大ケガをした肉親を助けたいという強い想いで能力を覚醒する者自体は少なくはないのだが、必ずしも回復能力を取得するとは限らないからだ。
ドクター曰く、欲の種類と目覚める能力に関連性がないとは言えない……彼女自身、特定の誰かを救いたいという想いで回復能力に目覚めたそうだが、必ずその欲望に適した能力を得るとは限らず、欲を満たしてしまえば能力とは消えるもので、回復能力に目覚めるような人間は大抵その場その瞬間に願いを叶えてしまうため持続させるのが非常に難しいそうだ。
だからこそ、ドクターのように回復能力を維持している能力者はよく狙われる。
ドクターのように数日分の疲労を一瞬で拭い去ってしまうような高位の能力者は勿論のこと、擦り傷を治せる程度の能力でも、日夜命のやり取りをしている奴らにとっては生命線となる。
だからこそ。瀕死の人間を一息で全快させ、失った四肢を生やすことの出来る妹は、どんな財宝よりも魅力的に写ったに違いない。
「もう二年も経つのね……」
「あの時……俺が倒れなければよかったんだ」
「それは何度も言ってるでしょ。あの時は皆死んでもおかしくなかった。それに警察の皆さんが直ぐに突入したのに見つからなかったってことはきっと、彼処に妹さんはいなかったのよ」
俺たちは2年前、あと一歩の所まで到達していた。
だけどその一歩が届かず、今日みたいに力尽きて、無下に終わってしまった。
「だけど」
「あーもう。その話はいくら議論しても時間の無駄だって。今日がダメでも明日を諦めるな、ってのは君が私に言ってくれたことでしょう?過去を振り返ってばかりでは本当に駄目になっちゃうんだから」
「そうかな」
「そう。きっとそうよ」
どうなら大分精神的に参っていたらしい。
その後は会話は続かなかった。お互い無言のまま夜空を眺め、何を考えているか分からないまま自然と肩を預ける。
「……もし、妹を見つけて俺が能力者じゃなくなったら皆に迷惑をかけるかな?」
「さぁ。でも面と向かって文句を言ってくるやつが居たら私が袋叩きにしてやるんだから」
その次の日。妹と思われる能力者の情報が組織に入ってきた。