Reloa-dead   作:co

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 身体中を這い回る快楽。

 強敵への絶望感。

 私は体中からありとあらゆる体液を垂れ流しながら。

 すべての感情がない混ぜになって。

――私は覚醒した。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!? はぁ……はぁ……」

「どうした? アリーシャ」

「汗凄いわよ?」

「え?」

 

 荒野を走る幌車の中で、私は飛び跳ねるように目を覚ました。

 短髪の勝ち気な女、次いでおっとりとした長髪の戦士が私に話しかけてきた。

 私に話しかけてきたのは、懐かしい同期達。

 どういうことだ?

 

「おい? 本当にどうしたんだ?」

 

 私を覗き込んだのは、半年前に黒の書を私へ託し、死んだはずのタリアだった。姉御肌で面倒見の良い女だった。

 その後ろには、覚醒者に嬲り殺しされたマルグリットの姿が見えた。あの時の私は、見ているだけで何もできなかった。

 

「ば、ばかな……お前達は、死んだはず……?」

「あ? ぶっ。ははははははは!」

「ぶ、くく。あははは!」

 

 目を見開いた私は、訳も分からずに硬直した。

 

「こいつ寝ぼけてやがるぜ! だははは」

「緊張感がないわね。あははは」

「おい、何がどうなって……」

 

 一通り私のことを笑い終えた彼女達は、幌車に座り込む私に目線を合わせて説明を始めた。

 

「いいか? 劣等生のアリーシャに教えてやるよ。くく、アタシ等は、試験に受かって担当地区に行くところだ」

「ふふふ。思い出したかしら?」

「え? あ、あぁ……」

「ったく、しっかりしてくれよ」

「えぇ、本当に。黒服に見つかったらなんて言われるか、わかったものじゃないわ」

 

 二人はそのまま、世間話を始めてしまった。

 私は唖然とした。

 しかし、デジャヴュのようにこの光景をかつて見たことがあった。

 あれは、そう。

 四年前。

 私達が訓練生を卒業し、各担当地区に配属される時の記憶だ。

 組織は隠していたが、反乱したナンバー1による大虐殺があり、大勢の訓練生が戦士になったんだ。

 当時、出来の悪かった私はナンバー43。

 タリアはナンバー28。

 マルグリットに至っては、ナンバー18の優良株だった。

 最後に生き残ったのが、元々ナンバー43の私だったのは、なんの冗談だったのだろうか。

 私は()()()()を白昼夢のように思い返したが、次第にその記憶は薄れていった。

 

 

 

 

「つまんないわねぇ……。最近増えてる雑魚を掃除してくれる味方を増やしたいのになぁ。んー、貴女は覚醒して味方になってくれるかしら?」

「リフル……。さしていい?」

「覚醒しても弱そうだから、ダフの好きにしていいわ。殺しちゃだめよ」

 

 その泡沫のような出来事の四年後。

 私は古城に囚われていた。

 両手両足を囚われて、宙づりになった私は、唐突に過去のデジャヴュ体験を思い出していた。

 

――この後、幾重もの槍に貫かれて覚醒する。

 

 思い出した私は身震いした。

 私はせめて、人間として人生を終えたかった。

 あの感覚を味わいたくない。

 

「アァァあぁああああ!」

「あら? まだ諦めてないの? 30番台が頑張ったところで、私に勝てるわけがないでしょう?」

「うるせぇ、さけぶな。あ」 

「が」

 

 抵抗虚しく。

 私の心臓は、太った男が持つ槍にあっさりと貫かれて鼓動をやめた。

 

「ばか。ちょっとぉ、死んじゃったじゃないの」

「え、だって――」

 

 

 

 

 

 

「――シャ。アリーシャ。聞いているのか?」

「え?」

 

 私はまた唐突に目を覚ました。

 

 深い森林の中だった。大陸の北西に近いこの地には、針葉樹が数多く立っている。

 ここは、私の配属された地だ。ズキリ、と心臓が死ぬほど痛んだ。

 

「頼むぞ? そう簡単にコロコロと担当の戦士が変わってもらっても困るからな。しっかりしてくれ」

「わ、分かってる」

 

 歯を食いしばって痛みに耐えていると、任務を言い渡した黒服が去っていった。

 しばらく経って、黒服との今の会話を覚えていたことに気がついた。

 これは配属されて、何ヶ月か経った頃の会話だ。

 

 

 私は自分のきれいな両手を眺めた。

 そこで愚鈍な私は、ようやく悟ったのだ。

 

 私はどういう訳か時間をやり直している。

 

 私の最期の任務は、配属地にある屋敷の調査だった。そこで屋敷の主に成り代わっていた妖魔を殺して、私は突如現れた巨大な砦のような覚醒者に捕まった。

 

 自身が殺されたときの記憶を思い出して身震いした。

 このままでは同じように死ぬ。

 何度も繰り返して、死ぬ。

 

 今のナンバーは配属当初の43。

 ナンバーは強さの指標だ。

 

 私は無理矢理にでも強くならないと、死ぬ。

 変わらなければ、何度もあの苦しみを味わって。

 終わりのない、無意味な死を何度も繰り返す事になる。

 

 それからというもの。

 私は血反吐を吐くような鍛錬を繰り返した。

 自身に忍び寄る死と覚醒の感覚を恐れていた。

 

 

 

 

 しかし――。

 

「頼む……。アリーシャ、同期で生き残っているのは……。もう、お前だけなんだ」

「タリア……」

 

 元劣等生の私が鍛錬を積んだところで、多少順位の繰り上がりが早まっただけだった。そうして、私は同じような人生を繰り返していた。

 ニ年前、昇格して直ぐにマルグリットが死んだ。

 そして、私が死ぬはずの半年前。タリアの限界が来た。

 

「ありがとう。これで、人のまま逝ける。あぁ、お前はどうか、長く生き――」

 

 私はタリアの首に、三度目の手を掛けた。

 受動的に任務を受けて討伐を繰り返す私は、能動的に自分の人生を変える力を持っていなかった。

 

 親友と呼べる存在を三度殺したことで、私は気持ちが切れた。

 

 私は組織から逃げ出した。

 

 

 

 半年間、私は逃げ延びることができた。

 おおよそ、私が受ける最後の任務の時期に差し掛かった頃。

 組織からの追跡者が私を捉えた。

 

「逃亡者アリーシャ。申し開きもあるまい。組織の掟に従って、お前をここで討つ」

「なんで、ナンバー1が……」

 

 私を追ってきたのは、ローズマリー。組織のナンバー1だ。綺麗に切り整えた短髪と冷たい目が印象的な女だった。

 

「担当地域が近かったというだけの話だ。そして、組織の掟を守ることも、ナンバー1としての矜持を保つために必要なことだ。……同じ戦士の誼だ。せめて、人のまま。苦しまずに逝け」

「くっ……! ガァ!」

 

 逃げ回るうちに、とんでもない地域に足を踏み入れてしまったらしい。

 

 何故か手加減するローズマリーは、私と大剣を数合合わせた。妖気解放して必死な私と比べて、妖気を沈めて何処か優越感に浸るような表情をしている。

 

 洗練された大剣の動き、崩れない体幹。

 

 私は妖気解放限界ギリギリまで力を高めたが、なすすべもなかった。いや、限界は超えていたのかもしれない。

 ローズマリーは、美しいとも言える圧倒的な技量で、私の大剣を弾き首元に大剣を突き付けた。

 

「ガァァァァ!」

「限界を踏み越えるなんて残念だよ……。さらば――」

 

 静から動への急激な転換。

 手も足も出ない絶望感の中、私の首が跳ねられた。

 意識を失う寸刻の間、白刃の軌跡が妙に焼き付いた。

 

 

 

 

 

「……っ!!?」

「アリーシャ。ここから西の村だ。あまり遅れるなよ」

 

 気がつくと、目の前に黒服がいた。

 切られた首元がジリジリと疼き、無意識に手をやった。

 

 また戻った。

 この任務は、配属されて半年を数えた頃の任務だ。

 目覚める時が、徐々に死に近づいている。

 このままでは、いずれ取り返しがつかない所で目覚めることになる。

 

 逃げ出すのも駄目だ。追跡者に殺される。

 鍛錬の内容を修正するんだ。無理矢理にでも強くならないと、死に追いつかれる。

 前回は鍛錬したことで、少しだけ順位が繰り上がるのが早まったんだ。

 あのおぞましい感覚を味わないためにも、未来を変えるんだ。

 タリアの死に際の顔が浮かんだ。

 諦めない。諦めたら駄目。

 鍛錬……。

 ただ身体能力を上げるだけでは駄目だ。死ぬ前に焼き付いた追跡者の洗練された動きを模倣しろ。

 死ぬ気の鍛錬だ。

 

 そして、妖気解放は出来るだけしない。

 一番初めの覚醒の感覚と、仲間に切られた感覚を思い返した。

 あんな絶望感を、もう一度だって味わいたくはない。

 元々、雑魚みたいな妖気しかないんだ。妖気に頼っては駄目だ。

 

 私は寝る間も惜しんで、鍛錬に励むようになった。

 

 

 

 

 

 早朝にも関わらず、狂った様に大剣の素振りを繰り返すアリーシャを眺める何者かの姿が浮かんだ。

 おそらく、昨晩から大剣を振り続けているのだろう。

 アリーシャのボサボサの長い金髪は、滝のような汗に濡れていた。目元には幽鬼のような濃い痣が浮かんでいる。不格好な隈だ。目は銀眼が浮くほど、赤く血走っている。

 

「まるで、何かに取り憑かれているようだな」

 

「取り憑く……ね。まるで、別の誰かのように言うんだな?」

 

「……。言葉の綾だよ。実際、配属当初の姿は見る影もない」

 

 アリーシャの担当の黒服は、傍らに居る組織の目に声を掛けた。

 担当する戦士が、急に人が変わったように、強さへ貪欲になり始めた。調べたくなるのも無理はなかった。

 

「ふん。……なにか、必死な感じは伝わってくるがな。大方、任務を乗り越えて命の危機を感じたのだろう。唯それだけにしては、鬼気迫るものを感じるが……」

 

「……何があれば、あんな狂人地味たことになるんだ」

 

「知らん。……このまま妖気を抑え続ければ、あいつの妖気はいずれ消えるだろう。私でも補足は難しくなるというわけだ」

 

「……しなければ良いがな」

 

「……」

 

 何事か黒服が呟いたが、組織の目の役目を請け負っている戦士には聞こえなかった。

 組織の目は、横目で黒服を見たが言葉を飲み込んだ。

 

 

 

 任務の間に、鍛錬。

 妖魔を殺して、鍛錬。

 移動して、鍛錬。

 食事をしながら、鍛錬。

 戦士はほとんど睡眠を必要としない。

 週に一度の眠気が来る限界まで鍛錬。

 倒れるまで、鍛錬。

 鍛錬。

 たんれん――。

 そんな生活を繰り返して、一年と少し経った頃。

 

「アリーシャ。お前に辞令が下った」

「えっ?」

「昇格だ。担当地区も変更となる。ナンバー17だ。私も鼻が高いよ」

 

 私の死ぬ気の努力が実ったのか、担当の黒服から昇格を言い渡された。大きく順位を上げて、43から17へと昇格した。

 同期のマルグリットを超える序列だ。

 

 担当地区が変わるのであれば、あの巨大な覚醒者に理不尽に捕まる事もないだろう。

 未来が変わる。

 私は内心で歓喜した。

 

 

 

 担当地域が変わったからと言って、私達戦士には安息など無かった。

 これまでの妖魔だけとの戦いに加えて、前は30番台になってようやく人頭に数えられた覚醒者との戦いが増えた。

 

 廃屋の戸を開けると、戦士が二人待機していた。

 

「こいつ……気配が()ぇ……?」

「馬鹿ねぇ。噂も知らないの? 貴女が怯弱のアリーシャよね」

 

 死への恐怖から、執拗に妖気を抑え続けた結果、私の身体からは妖気が漏れ出なくなった。

 妖気解放をせずに、妖気を失ったように見える私に付いた仇名は、怯弱だった。

 恐らく、私は死ぬその寸前まで妖気解放できないかも知れない。前回死んだときに、何となくだがそれが分かっていた。

 極端に、死ぬことや妖気解放を恐れるようになってしまった私には、その仇名もお似合いに思える。

 

「よろしく頼む」

 

 伴に討伐に赴くのは、ナンバー9のノエル、ナンバー8のソフィアだ。順に疾風、膂力と仇名される強い一桁ナンバーだった。

 

「くす。妖魔に怯えて、休む暇もなく鍛錬を積む姿を揶揄って名前を付けられたのよね」

「あー! あの狂人か」

「本人を前に狂人とか言う? ほんと脳味噌が無いわね」

「あ?」

「好きに言え」

 

 実際のところ、何を言われようと鍛錬を止めるつもりはない。私は、死にたくない。あの苦しみを味合わないのなら、鍛錬程度の苦しみなど受け入れることに否やはない。

 

「古都の遺跡に覚醒者が居着いたみたいよ」

「あ、何でオメェが仕切ってんだ?」

「そりゃぁ、私がナンバー8だからよ」

 

 細身で短髪のノエルと、ウェーブがかった髪を綺麗に切り揃えたソフィアは同期らしい。死なずに切磋琢磨して、順位を上げている姿には好感を覚える。私の同期達は、皆無事だろうか。

 

「あん? オメェが9で、あたしが8だろう?」

「は? いい加減にしなさいよ?」

 

 何方ともなく妖気解放してしまった。

 切磋琢磨といったが、ただ単に仲が壊滅的に悪いだけかも知れない。

 

 

 

 

 偶に小競り合いを交えながら、私達は古都の遺跡にたどり着いた。

 100年くらい前に滅んだらしい。

 今では、石造りの遺構が残るくらいだ。

 

「んー。覚醒体になってないみたいね。それか、サイズが小さいのかしら?」

「ふーん。見付けて殺せばいいだけだろ? じゃ、あたしは先に行くぜ! ヒャホッー!」

「……」

 

 小首を傾げるソフィアの脇をノエルが抜き去っていった。

 もの凄い速度だ。私ではとても追いつけそうにない。

 

「あーあ。行っちゃった」

「いいのか?」

「ま、死にはしないでしょう」

 

 ソフィアの言動からは、ノエルへの信頼のようなものが感じ取れた。なんだかんだ言って、憎からず思っているのかもしれない。

 

 感知力の高い覚醒者であれば、逃げるか待ち構えるかするものだが、ここに居るやつはどうだろうか。

 

 

「くふふ。ふふ」

「くふふ。ふふ」

「くふふ。ふふ」

 

 遺構の中に入ると、いくつもの声が反響していた。同じ女の啜り泣くように嗤う声。

 複数箇所で妖気を感じる。

 

「悪趣味ね」

「同じ妖気が幾つもある」

「全部潰せばいいだけ、よッ!」

 

 唐突に振り返ったソフィアは、柱に向かって大剣を振るった。

 そして、あろうことか、遺跡の柱ごとその奥に居たものを断ち切った。細腕からは、信じられないくらい力任せの太刀筋だ。

 切られたのは、鋭い触手を伸ばしかけた、白い彫像のような顔をした覚醒体だった。向こう側から攻撃しようとしていたのか。

 人と似た姿をしていて、脅威度は然程高くないように思える。

 

「群体か……?」

「ま。何にしても、ノエルより沢山倒さないとね」

 

 別れて1つずつ潰していくことになった。

 ここでも競い合うつもりか?

 

 

 二人と別れた後。

 

「はぁ……」

 

 私も何体か覚醒者を倒した。一体一体は普通の妖魔よりも少し強いくらいで、初めに感じていたほどの脅威はなかった。

 様子を窺うと、彼女達はかなりの数を倒しているらしい。

 

 私の戦い方には、これと言って特徴がない。

 鍛錬によって上昇した身体能力頼みの戦いだ。

 速度はノエル以下、膂力もソフィア未満。

 死に際に焼き付いたナンバー1の剣技も付け焼き刃に近い。

 ただ、妖気を抑え続けたことで、妖気を感じ取る感度が少し上がった。身体から妖気が漏れ出なくなったお陰だろう。

 

 256体。

 

 この古都に巣食う覚醒者の数だ。

 すでに半数以上倒されている。

 索敵が上手く行っているからか、ノエルやソフィアが40体前後なのに対して、私は50近く倒している。

 

 倒した覚醒体を検分すると、微細な触手が地中で繋がっていた。

 

「本体はどこだ?」

 

 表面に出ている覚醒者は、所詮触手の延長線でしかないのかもしれない。

 

 微細な触手を辿るに連れて、敵の圧が強くなった。

 確実に本体に近づいているのだろう。

 

「怯弱ぅ。お前何体倒した? あたしは51倒したぜ?」

「その子、貴方より倒しているわよ? お猿さん。私が52で、その子が58」

 

 いつの間にか、二人が近くまで来ていた。

 敵の数が多いところに自然と集まってきた形だ。

 

「なんだと!? ……全然強そうに見えねぇのにな」

「妖気を悟らせずに近づけるのは、良いわねぇ」

 

 迫る覚醒体を鎧袖一触しながら、本体へと近づいた。

 

 本体は白い肉塊のような化け物だった。

 体中から、先程の彫像のような覚醒体が、何本も刺さるように不気味に生えている。

 

「お先!」

 

 真っ先に飛び出していったノエルが切り掛かった。

 

「かてぇ!?」

 

 しかし、今まで簡単に切り捨てることができていた覚醒体の表皮に弾かれた。

 本体に接続されることで、強化されているのか。ノエルは速度は速いが、膂力は私にも劣るのかもしれない。

 

「お馬鹿さんねぇ」

 

 妖気を迸らせながらソフィアが、ノエルの討ち漏らしを切断した。

 私も触手の雨を切り払いながら、一角に近づく。

 

 後ろ手に大剣を構え、飛び込むような姿勢。

 模倣するのは、静から動への転換。

 鍛錬で何度も反芻した横薙ぎの斬撃。

 

「ハァっ!」

 

 大ぶりの斬撃が、硬い覚醒体を3体ほど斬り裂いた。

 力を上手く乗せることが出来た。

 

 以前の私だったら、飛び込んだ時点で串刺しにされていただろう。自身の確かな成長を感じることができた。

 

「やるわね……」

「チッ。あたしは刃が通るやつだけ狩るよ」

 

 特に苦戦することもなく、覚醒者は膾切りとなった。聞けば、ナンバー10台が覚醒した姿だったらしい。

 私の覚醒体は、コイツよりも弱いのだろうな……。

 肉片となった覚醒者の前で、私は思案を巡らせた。

 

 

 

 森林の影に隠れるように黒服と一人の戦士が立っていた。

 見ている先にいるのは、覚醒者討伐を終え別れた3人のうちの一人。怯弱のアリーシャだ。

 

「どう思う?」

 

「どう思う、とは?」

 

 黒服が問いかけたが、戦士に伝わることはなかった。

 

「……あいつの強さかな」

 

「……。妖気がかなり読みにくくなった。これ以上は、向こうに感知される。今の段階で言うなら、ナンバー一桁の下位とそう変わらんだろう。解放時の力など知る由もないがな」

 

「そこまでか……?」

 

「妖気がわからんと言っているだろう。まぁ……良かったな有望株だぞ」

 

「不気味だ」

 

「ふん……」

 

 

 

 

 あれから、ナンバー10台として、幾つか覚醒者の討伐を行った。

 基本的に組織からの任務を断ることはできない。そんなことをして反感を買えば、すぐに殺されるであろう事が何度目かの生で分かっていた。

 偶に私を見張るような視線を感じるのだ。

 定期的に感知範囲ギリギリに迫るそれは、ナンバー1のローズマリーに匹敵するように思えた。

 

 突然人が変わったように鍛錬に打ち込む私を、組織は訝しんでいるのかもしれない。

 

 

 

 

「久しぶりね、アリーシャ。私よりもナンバーが上になるなんて、見違え……。え、顔色大丈夫アナタ?」

「あぁ、久しぶりだな。私は平気だ」

「えぇ? そう、それならいいんだけど」

 

 久々に会ったマルグリットは、私の顔を見るなりそう言った。そんなに酷い顔色をしているのだろうか。

 

 組織の命により、また覚醒者討伐に参加していた。今回はナンバー一桁が一人、10台が私とマルグリットの二人。そして、20番台のタリアが同行することになった。

 

「こいつ、この間からこの調子なんだよ。同期だろう? 相談乗るぜ、アタシ等」

「だから、私は大丈夫だ」

 

 過剰に私から悩みを聞き出そうとするタリアやマルグリットに辟易しながら、この任務について思案した。

 

 次の覚醒者は少々過激で、街に人として紛れて、ある日突然覚醒体となって街を破壊することを繰り返していた。流石に目に余る為、3つ街を破壊した段階で私達が派遣された理由だ。

 

 この覚醒者。

 前回、私がまだ30番台だった頃、マルグリットをなぶり殺しにした覚醒者のはずだ。

 今の力なら、そんなことにならず倒すことができるだろう。

 

 ただ、前回と違うことといえば。

 

「やれやれ、遠足気分か。同期だからって、仲良くしすぎると足を救われることだってあるんだ。程々にな」

「失礼しました」

 

 ナンバー7に諌められてしまった。

 前回までいなかった戦士だ。

 前は別のナンバーの戦士だった。

 

「本来は、私一人でも良かったんだけど。中々狡猾で手に余りそうなのよ。そいつ」

 

 長髪を一つ結びにしたナンバー7は、名前をアイリーンと言った。

 微笑んでいるが、目の奥が笑っていない。

 前回までの人生で会わなかった戦士。

 こいつとの出会いが、私の人生の中で最も苦痛な出来事の始まりだったのだ。

 

 

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