幻想地憶譚 《とある少年の幻想入り》   作:フォーウルム

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化学結社 情報管理棟

……カチッ…カタカタカタカタ……


明かりのついた部屋でパソコンを弄っているのは化学結社の情報収集のスペシャリストで結成された情報部門『トゥルーエンド』の司令官である香坂(コウサカ)アインだ。彼の部門は少々特殊で、彼とその直属の部下達は基本的に顔を合わせることはない。各地に潜入している部下達が情報を香坂に送り、香坂は新しい任務の詳細を送る。
「退屈だなぁ。」
そんな機械的な作業の繰り返しに香坂は飽きてきていた。
部屋を出ても何も面白いものは無い。メモリの能力のおかげで知りたいことは大体頭に入ってくる。もっとも、非活動状態である今はそこまでの情報はない。
「失礼します。」
ノックと共に入ってきたのは彼の部門の構成員だ。
「どうしたぁ、なんか用かぁ?」
()()()()()。」
「…寄越せ。」
香坂は構成員から資料を受け取り、対価として1つの封筒を手渡す。
「ご苦労だったなぁ、また頼むぞぉ…。」
「御意。」
構成員が部屋を出たのを確認して、資料に目を通す。
内容は『幻想郷制圧作戦』で使用されるメモリについてだった。
(メモリは例の《ラプソディ》に………ん?《ハンド》、《ミラー》。それに《マグネット》ぉ?)
ラプソディの性能については知っているが、あとの3本は全く知らない物だった。
「……おもしれぇじゃねえかぁ。」
新型のメモリに自分の知らないメモリ達。香坂にとってそれらは彼の興味をそそり、退屈を潰すのにもってこいだった。
「さぁて、調べっかなぁ。」
香坂は椅子にもたれ掛かり、懐からメモリを取り出すのだった。









第71話

 

 

ーー戦いに備えてーー

 

 

 

 

「………以上が、先程知らされた情報だ。」

凱が資料を置く。

部屋には護や姫乃、音川と三首達。そして雪華と桜の2人が居た。部屋の外には霊夢や魔理沙達も居る。

開示されたのは1つの声明。幻想郷の人里を襲撃するという化学結社の宣戦布告であった。

「何か質問があるやつはいるか?」

「じゃあ、俺から。」

三首が手を上げる。

「化学結社とは関係ないんすけど、その御二人は?」

そう言って三首は雪華達を見る。

「僕は霜月 雪華。こことは違う幻想郷…、言ってみれば異世界から来た。で、こっちが」

「妻の、霜月 桜です」

それぞれ自己紹介をする。よく遊びには来ているのだが、意外とこの世界での交友関係は狭い。………二人のことをよく知っているのは凱と姫乃。あとは紫やフォーウルムくらいなしか詳細を知らない。

「…敵ではないんすね?」

「ああ。これもあるしな」

そう言ってスノーメモリを取り出し、全員に見えるようにする。

「……!」

メモリを見た三首を含めた数人が戦闘態勢を取る。

「落ち着け。そいつに敵意はない。雪華、安易にメモリを見せるな。ここではそれだけで戦いが始まる。」

「ああ、すまない。敵ではないことが証明出来るかと思ったんだが、軽率だったな」

「ま、敵じゃないならいいっす。時間あるみたいなんで遊び行ってきますね。」

「羽目はずすなよ?」

「はーい。」

そう言って三首は部屋を出る。

「私もこれで失礼する。ギターのチューニングがまだなのでな。」

「ああ。」

音川も部屋を後にする。

「さて、さっそくで悪いが、明日から雪華達には特訓として実戦をやってもらう。」

「了解した。メモリは使うのか?」

「存分に使ってくれ。それで相手なんだが……」

「ちょっといいかしら?」

部屋に入ってきたのは風見幽香だ。

「どうした?」

「その相手、私がやっても?」

「……雪華、お前はどうだ?」

「構わないぜ。それに……」

ふっと笑って言い放つ。

「1度母さんとは戦り合ってみたかった!」

『……!?』

姫乃と護、その他事情を知らない面々が驚きの表情をする。

「……雪華、色々誤解を招くからそれでやめとけ。」

「護さん…よろしいですか?」

「さ、早苗?!やめろ、やめろぉ!!」

凱と幽香は平常だったが、護は殺気溢れる早苗によって部屋から連れ出されてしまった。

「…別世界の、なんだがな」

「…これは雪華様が悪いですよ」

「ああ、そうだな……」

「全く、今日は休め。部屋空いてるから貸してやる。」

「…その前に、ちょっと早苗に説明してくる。僕のせいだし、さすがに可哀想だしな」

「やめとけ。殺されっから」

「…分かった、早苗ってあんな顔できるんだな……」

「あ、あはは…」

 

 

 

ーー幽香との特訓ーー

 

 

 

 

次の日…

 

地底旧地獄 闘技場

 

「これから雪華、桜対風見幽香の実戦を始める。ルールは単純。最後まで立ってた奴の勝ちだ。準備はいいか?」

「ああ。行くぞ、かあ…んっん!幽香!」

準備の出来た2人を見たあと、凱は幽香に近付く。

 

「……風見。」

「何かしら?」

「雪華は9割、桜は5割までならいいと伝えておけ。」

「!……わかったわ。」

 

 

 

 

雪華は剣を、桜は銃を出し、戦闘に備える。もっとも、これは特訓だから、実弾ではなくゴム弾だ。それでもなおかなりの威力だが。

「行くわ……変身!」

《アブソリューター》

幽香はドライバーを使用し、《ガイアナイト・アブソリューター》になる。

さらに……

《ブラッド》

補助スロットにメモリを挿し込み、ブラッドを使用し剣を出現させる。

「いきなりか。なら、こちらも遠慮は無用だな。桜!」

「はい!」

《スノー》《リコリス》

「「変身!」」

スノーガイアナイト、リコリスガイアナイトが顕現し、辺りは深雪に包まれ、そこから薄氷の華が咲く。

「さあ、行くわ!」

幽香は剣を構え、かなりの速度で雪華の首を狙い、振り下ろす。

「この程度」

彼はそれを右手の氷剣で受け止め軽々と押し返す。そして、体勢が崩れるであろう瞬間を狙い、桜がダガーを投げつけた。

「甘いわね。」

幽香はそれを見ずに首を振るだけで回避する。さらにそのまま体を倒し、連撃に繋げる。

「へえ、やるね」

そんな事を呟きつつ、その連撃を片手でしのいでいる。

「中々やるじゃない。」

幽香はそう言って笑みを浮かべる。

「…楽しくなってきたな。」

不敵な笑みを浮かべると、剣の速度がさらに上がる。

「そうね。でも、ここまでよ。」

幽香はそう言って距離を取り、何かを宙に投げあげた。

「…何だ、あれ?」

本能が警鐘を鳴らす。あれはかなりまずい代物だ。

「桜、下がるぞ!」

「はい!」

桜も同じことを思っていたようだ。

すぐに後退した。

「遅いわ。」

《カラミティ》

メモリから黒い腕が溢れだし、瞬く間に雪華と桜を引きずり込む。

 

 

 

ーー厄災は見えず、唯荒らすのみーー

 

 

 

 

 

気がつくと、2人はビルの立ち並ぶ場所に居た。

「何処だ、ここ」

「幻想郷、なんでしょうか…」

辺りを見渡す2人。その時、僅かだが地面が規則的に揺れていることに気がついた。

「…これは」

「揺れている…?桜、飛ぶぞ!」

「は、はい!」

2人は慌てて飛びあがる。

その瞬間、二人の前に建っていたビルが轟音と共に砕け散り、瓦礫が砲弾のように飛んでくる。

「はぁっ!」

雪華は桜の前に立ち、剣を振り回して全ての瓦礫の軌道を逸らしていく。

弾かれた瓦礫はありえない軌道を描き、他のビルを貫いていく。

「…やっぱり、何らかの意思があるな。桜、兎に角上に飛ぶぞ。」

「分かりました!」

時折向かってくる瓦礫などを受け流しつつ、兎に角上へ上へと向かう。

二人がビルの高さを追い越した瞬間、辺りが再び変化する。

そこは、日差しが照りつける浜辺だった。そんな中、雪華は幽香が投げたメモリを思い出す。

「カラミティ、『災害』の記憶か。ということは………津波が来るぞ、備えろ!」

「はい!」

2人はそのままの高度を維持しつつ、陸の方へ向かう。

だが、それは間違いだった。二人の足元の水は、縦方向ではなく横方向に、まるで渦を巻くかのように動き始めていた。

「違う、これは、竜巻です!」

「前兆くらい起こせよ、そこ含めて災害だろうが」

そんなことをボヤきつつ、雪華は不可融かつ不可壊の氷のドームを作る。

「つかまえた」

竜巻が発生すると思いきや、渦から出てきたのは何十本もの腕だった。腕は海水を巻き込み、氷のドームを抑え込む。

その様子を見ながら呟く。

「…もう災害関係ないだろ」

「さいがい…ちがう」

声が二人の頭に響く。

「おれは「カラミ「ティ」やくさいをつかさ「どる。」

複数の声が頭に流れ込んでくる。

「厄災ねぇ…。マ〇ターソードでも出すかな」

「多方面から苦情来るのでやめてください」

「兎も角、こいつもエクストラかな」

「ゆうかいってた。「しな「ないていどに」たたかって」いい。「ころ」さなければ」じゆうにしていいって」

「成程な。ここはお前の世界か。なら、正々堂々やろうじゃないか。」

「ここ、つまらない」

辺りが再び変わり、今度は荒野になった。

その為か、水中に居たカラミティの姿が現れる。黒い体に、四本脚。背中からも巨大な腕が2本生え、目は単眼で紅く充血している。

「おぞましい、ですね……」

「…さっきの見る限り、変幻自在なんだろう。本質を見定めるぞ」

雪華は落ち着いた声で剣を構える。

「おまえ、やっちゃだめっていわれた。」

カラミティから黒い光が溢れ、桜の体にまとわりつく。しかし、痛みや苦しさは感じない。

「きゃあ!離れて…!」

腕などを振り回し、剥がそうとするが、一向に離れる気配はない。

「それはぼうぎょのそくばく。おれのこうげき、それでまもれる。」

カラミティの口に光が収束していく。

「桜、そのままじっとしていろ。こいつの目的は僕だ」

そう言って身構える。

「けしとべ。」

カラミティから光線が放射状に放たれる。

「……」

雪華は無言でそれを受ける。

「きゃああああ!!」

向かってきた光線を、避けることも出来ず受けるが、桜には傷1つない。だが、雪華は。あの方はどうなのか。無事であってほしい。

「………?おかしい?」

カラミティは首を傾げて雪華が居るであろう方向を見る。

「てごたえ、ない。」

そこには、巨大な氷盾があった。

「…フリージング・イージス。僕の持つ防御技。ほとんど全ての攻撃を防ぐことのできる、かなり凄技さ」

「雪華様…!」

「あれぐらいでタヒねるかっての」

「くひ」

「あはは「ははっは「は「HAH」A」はは」ははは!」

カラミティから狂ったような笑いが響く。

「おいおい、どうした」

「笑ってるんでしょうか…?」

「あははっは……いい!オマエイイ!!」

カラミティから何百本もの腕が伸ばされ、そこに光が集まっていく。

「なんかヤバそうだな…。」

「まずい…!」

しかし、間に合わないことを悟り、フリージング・イージスを起動、設置する。

「キャハアハハッッコワレロコワレロコワレロォ!!」

カラミティは光を解放する。

瞬間、桜と雪華の意識はブラックアウトした。

 

 

 

ーーエクストラ()すら恐れる(悪魔)ーー

 

 

 

 

数分後

 

「ん…」

先に目覚めたのは雪華だ。記憶はカラミティの攻撃が放たれた瞬間で途切れている

「…負けたんだっけか。我ながら情けない」

1人ごちる。とは言ったものの、雪華に関しては九割(死亡三歩手前)まで本気を出していたカラミティと渡り合っていたのだ。十分化物である。

それにしても、辺りの雰囲気がおかしい。ここは確かに現実世界のはずだが違和感が拭えきれない。

そう思った雪華は隣で昼寝をしているかと思うくらい心地よく寝ている桜を起こす。

「…桜、起きてくれ。」

「ふぇ……?」

「何かおかしいぞ。」

「え…?」

そして2人は同時に背後を見た。

2人の目に映ったのは……異形の集団だった。体の所々に銃や弾丸がへばりついたり、一体化している。

「…こいつはヤバいな。」

「こんなの、どうすれば……。」

「桜、上に飛べ。」

「は、はい!」

桜が上に飛び上がった頃を見計らい、雪華はメモリを刺し変える。

《スノー マキシマムドライブ》

「グラン・アイスエイジ!!」

次々と異形達が凍結し、剣の衝撃波によって破壊される。

「ぐぎゃああ?!」

そんな中、響いたのは聞き覚えのある声の絶叫だった。

「あ、あれ?なんか余計なもの攻撃したな?」

「その声…、ウォーズさん!?」

「痛ぇ…痛ぇよ…」

声のした方向にいたのは悶え苦しむ、人の姿になったウォーズだ。周りに居た異形達はウォーズを心配している。

「その…、すまなかった。」

「うわあ、痛そう……」

「ただでさえ、コイツらは俺と感覚共有してるってのに…容赦ねえな。」

ウォーズは体を擦りながら起き上がる。

「知らなかったからな…、誰がお前と感覚共有してるなんて思うんだよ」

心底申し訳なさそうだ。

「まあ、いいさ。それよりも、無事か?」

「なんとかな。」

「雪華様のおかげでしょうか…?それともウォーズさん?」

「いや、お前らが無事なのは……。」

ウォーズが何かを言いかけた瞬間轟音と激震が三人を揺らす。

「何…!?」

「この気配…、カラミティか!?」

確かにカラミティだった。もっとも、その姿はボロボロの雑巾のようになり、体は崩れかけている。

「何だ?まだ殺り足らんか?」

その先に居たのは凱……なのだが、体からは緑色の粒子が溢れ、手には巨大な鎌が握られている。

「待て、凱!」

「それ以上は…、死んじゃいます……!」

「む?起きたか、霜月夫妻!」

至極真面目な顔で冗談のような言葉を口にする。

「ああ、おはよう。………いやいや! そうじゃなくてだな!」

「カラミティさんが、死んじゃいます!」

「はっはっは!我らマジェステルダムに『死』という概念は存在せぬわぁ!」

凱はそう言って再び鎌を構える。

「落ち着け、ヴォイド。」

「む?ゲボフッ」

そんな彼に対し、ウォーズは膝蹴りを叩き込む。

「…何なんだ、これ。」

「さぁ…?」

微妙に付いていけない2人であった。

「グヌゥ。」

凱から光の球が出てくる。

「流石にやりすぎだ。」

「ダガ……」

「凱に言いつけっぞ」

「ソレハヤメロォ!」

「なるほど、ヴォイドは凱が弱点と。」

「メモしておきます。」

「いや、エクストラ全般アイツ苦手だぜ?」

「一体何やらかしたんだあいつ……」

首を傾げる雪華にウォーズは肩を竦める。

「俺らは『死』、つまりメモリブレイクという事が存在しない。」

「ふむ。」

「メモリブレイク…?」

「マキシマムドライブを受けると、メモリが破壊されることがあるんだ。」

「…だから、だからな?」

「「だから?」」

「アイツの攻撃を気が済むまで受け続けなきゃいけない羽目になる。」

ウォーズは死んだような目をしており、ヴォイドはさっきから「バスターハヤダ、バスターハヤダ。」と呟いている。

「うわ生き地獄」

「文字通りの、ですね……」

「そりゃこんなになるわな……」

「何の話だ?」

凱が意識を戻したらしく、話に参加してくる。

「なんでもねえよ。」

ウォーズは何事もなかったかのように振る舞っている。

「そうか?まあいっか。それより、雪華。異常はないか?」

「…少し力が重い。メモリの力だけじゃない、僕自身の力もだな。」

「私もです…」

「そうか。本当は桜にもう1個実戦させたかったが、無理か。」

「明日には治るか?」

「どうでしょうか……」

「様子見だな。最悪の場合はそのまま本番になるが、とりあえず休め。」

「分かった、じゃあ明日は少し慣れておくか。」

「そうですね。」

 

 

そうして、また1日が終わった。

 

 

 

 

続く

 

 

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
どうも、フォーウルムです。
最近は可もなく不可もない平和な日常を過ごしております。
捻挫の方もだんだん良くなってきて、今では普通に歩けるまでになりました。
さて、次回も特訓回です。
誰と誰が戦うのか、お楽しみに




あと、アフタートークの方もよろしくお願いします。

凱、姫乃、護、三首、音川の五人の紹介は……

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