幻想地憶譚 《とある少年の幻想入り》   作:フォーウルム

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「………退屈だ。」
男は椅子に寄りかかって溜め息をついた。
男の体は鍛え抜かれており、離れていてもその圧を放っている。
「……なんか面白いことねえかな。」
最近、()()()()()から1枚の報告書をもらっていた。
「…暇だしアイツのところに行くか。」
男は立ち上がり、部屋から出ていく。
数秒後、別の扉から1人の女性が入ってくる。
「鳴神さーん、この書類なんですけど……あれ?」
入ってきた女性、尾釜は辺りを見回す。
「…どこ行ったんだろ?」






第75話

 

 

 

 

雪華は雪銀で、桜は対物ライフルでどんどん倒してゆく。

「雪華君、気付いてる?」

姫乃はパンドラをガトリング状態のまま片腕で扱いながら聞く。

「弱すぎる。ドーパントなのに。」

「恐らく複製品ね。」

「なるほど。なら、一気にやっても問題ないな?」

雪華は姫乃に確認をとる。

「ええ、構わないわ!」

「離れていてくれ。死んでも責任は取らんぞ。」

雪華は雪銀を腰に構えた。

「あれをやるつもりですか?」

「桜も離れてて。」

「分かりました。姫乃ちゃん、後退の指示を。」

「わかったわ。前衛後退!指示を出すまで待機!」

姫乃の号令で全体が大きく後退する。

「行くぞ、神剣『桜華』。……『インフィニットストラッシュ』!」

次の瞬間、ドーパントの軍勢が、文字通り『弾け飛んだ』。

「やるじゃない!………?」

姫乃は首を傾げる。その視線の先にいるのは一人の少女だ。

「お前は、何だ?只者じゃないな?」

「貴方が霜月雪華ですか。私はアザリア・シロッコです。」

少女はそう言う。しかしその眼には底知れない殺意が籠っている。

ほとんど条件反射で桜華を構え、斬りかかる。狙うは首の急所、だったのだが。

その剣は見えない何かに弾かれる。

「結界…!?」

僕の剣を防ぐ結界など、半端ではない。認めよう。こいつは強い。

…力を封じたままで勝てるだろうか。

「結界……そんな物ではありません。」

彼女の後ろから現れたのはマスクを着け、2本のレイピアを持った幽霊のような何かだった。

「貴方も私と同じと聞いていたのですが、はっきり言って残念です。」

「僕と同じ?…まさか、異界から?」

「そう考える時点で、貴方の敗けです!」

アザリアは指を鳴らす。すると背後に居た何かがアザリアと1つになる。彼女の姿が変わり、ドーパントになる。腰にはレイピアが2本。そして顔には赤い仮面が装着されている。

「ドーパント……!なら、遠慮は無用か。」

ドライバーとメモリを取り出す。

《スノー》

「変身!」

周囲を凍てつかせ、スノーガイアナイトが降臨する。手には桜華と、身の丈程あろうかという氷の大剣。

「私の、この想いが………その程度で防げると思うな!!」

アザリアはレイピアを抜刀する。

「この力で、《ラプソディ》で、貴方を討つ!」

「『狂詩曲』……。その狂おしい想い、優しき桜の下に眠るがいい。」

右手の桜華の切っ先を彼女へ向ける。

「「…………。」」

両者はにらみ合い、互いの武器を構え、激突する。

 

 

 

ーー氷桜の騎士と狂愛の剣士ーー

 

 

 

しばらくの拮抗の後、ラプソディが距離をとり、抜刀したレイピアを音速を越える速さで突き出す。

「ちっ。」

軽く躱し、出来た隙に桜華を叩き込むも虚しく空を斬った。

「遅いですよ。」

ラプソディは既に雪華の後ろにまわっている。

「…負担が半端ないけど、あれやるか。」

彼女の視界から、雪華が消える。

「?」

「喰らえっ!」

ラプソディの背に衝撃が走る。

振り向くが、そこには何もない。

「……何が?」

体を襲った衝撃に警戒する。

「ぶっつけ本番だが、案外イけるな。」

後ろから聞こえてきたのは、雪華の声。

──居た。

「そこですね。」

ラプソディは再び抜刀する。

「遅い。」

再び消え、今度は腹に痛み。

「ぐぅ?!」

「『熾天使』を舐めるな。」

そう。彼が行なっていたのは、『熾天使』の力の解放。彼の世界に存在する皇帝直属軍である『熾天会』。

彼は、300年の史上唯一その頂点に到達した者なのだ。それに加え、ガイアナイトの身体強化。音速の10倍ほどであれば造作もない。

「………ふふふ。」

ラプソディは不敵に嗤う。まるで雪華を嘲笑うかのように。

「…何がおかしい。」

まさかと思って否定した予想が頭をよぎる。有り得ない。熾天使は僕1人のはず。

──もしや新しい『熾天使』?

だが、それにはすでに『熾天使』となっている者を倒さなければならない。

いや、いるではないか。

霜月 雪華…、いや、『朝霧 修羅』という熾天使(僕自身)が。

「貴方は愚かですね。」

ラプソディの体が崩れ始める。

「その程度だから、周りが倒されても気付けない。」

崩れるラプソディは右腕で彼の背後を指し示す。

「……?…なっ!?」

雪華が振り向くと、背後では咲夜と姫乃が血塗れで倒れていた。

「…ちっ。桜!手当てを!」

「わ、わかりました…!」

今は怒りを押しとどめ、奴を倒すことに集中する。

「させるとでも?」

いつの間にか桜の背後に移動していたラプソディが斬撃を飛ばし、桜の妨害をする。

「きゃあっ!」

紙一重で回避したが、髪が数本持っていかれた。しかし、一瞬で雪華が移動し、反撃をする。

「素晴らしいですね。」

ラプソディが2本目のレイピアを抜き放つ。

「でも、これで終わりです。」

《ラプソディ マキシマムドライブ!》

「そっくり返す。」

《スノー マキシマムドライブ》

桜華を雪銀に納刀し、それに氷を厚く堅く纏わせていく。

「無駄です。」

ラプソディのレイピアから斬撃が放たれる。それは雪華達を直撃するが、痛みはない。だが、体から力が抜け変身が解除されてしまった。

「ちっ……。」

何とか膝はついていないものの、先程までのような動きは不可能。といっても音速の3倍くらいまでなら出せるが、後を考えればやめておきたい。

「諦めてください。」

レイピアが雪華の首に向けられる。視線をずらせば、背後にも、そして桜のところにもラプソディがいる。

「…残念だがお断りさせてもらおうか。」

「そうですか、なら………死んでください。」

レイピアが首を貫く、その瞬間だった。

「面白いことをやっているな。俺も混ぜろ。」

「は?」

凱や護の声ではない、聞きなれない男の声にラプソディが振り向いた瞬間、霞むほどの速度でラプソディは右に殴り飛ばされた。それと同時に桜達を囲んでいた分身も消える。

「誰だ!」

「あれは…?」

突然のことに驚く。

その男の姿は、人間ではなくガイアナイトだ。

金色の鎧や白い装飾の目立つ姿は、今までのガイアナイトとは格が違う事の証明であった。

「随分とボロボロじゃねえか、小僧。」

「割と体張ってたんでね。さてと、治療をしよう。」

彼は熾天使にのみ許された魔法を使う。

瀕死だとしても連れ戻す、理外の力。

「『リバティウィング』。」

しかし、上手く発動しない。

「あれ。」

「発動しない…?」

「なるほどな。『ドーパントでありながらマキシマムを発動でき、異能を封じる能力』は報告書通りか。」

男は感心したように頷く。

「小僧、まだ歩けるな?」

「ああ。当然。…異能封じ……。さながら『E』だな。」

「ふん、あんな化物よりはましだろう。」

そんな時、ラプソディが男の背後に迫る。

が、男はそれを見ずに裏拳で殴り飛ばす。

「メモリは…、使えないか。」

起動してみようとしたが駄目だ。

「あれはどうやら特殊なもののようだな。」

男は腕組みをする。

「…原作でいうハイドープみたいなものだろうか?」

「どうだろうな。とにかく、メモリの使えんお前は足手まといだ。」

男はそう言って後方にいる姫乃達を指差す。

「あいつらを連れて拠点に退け。」

「了解。凱に見てもらわなくちゃな。死ぬなよ、おっさん。」

不敵に笑って巫山戯たように言った。

「ふん。」

男は鼻で笑い背を向ける。

 

 

ーー撤退ーー

 

 

 

彼を見送り、雪華は無線を起動した。

「すまん凱。将らしき奴を取り逃した。被害を報告する。」

沈鬱な表情と声で、彼は被害状況を報告した。

しかし、雑音が鳴るだけで何も返答はない。

「…ノイズか?さっきのあいつだろうか。仕方ない、能力も使えないし、1人ずつ運ぼう。姫乃さんは最優先だ、死なせるわけにはいかない。」

「…はい!」

涙を拭いながら桜は頷いた。

そこで雪華は目の前に落ちていた見慣れないものを見つけた。それは凱からもらったもので質素な包装がされた小箱であった。

「これは…、姫乃さんのものか?中身は……。」

不躾であるとは分かっているが、中身を見ると、そこには片耳のワイヤレスイヤホンのようなものがあった。

雪華は思い切って付けてみる。

すると、頭にノイズの様なものが少し走るが違和感はない。

「…これは、何だ?ただのイヤホンというわけでもあるまいし。」

少し触ってみるが、反応はない。

「………ぉぃ…おい…聞こえてんなら返事しろ!」

頭の中から凱の声が聞こえる。

「す、すまん……。」

「何の用だ?そっちが連絡寄越したってことは、終わったみたいだがこっちは処理が終わってない。ちょっかいかけるなら後にしてくれ。」

何時ものように冗談を言うが凱は普段より若干苦しそうだ。

「…将らしき奴を取り逃した。そしてそいつのせいで姫乃さんが重傷だ。……僕の責任だ、すまない。」

心底苦しげな声で告げる。

「………死者は?」

凱からの問いに雪華は、苦しくも淡々と被害状況を伝えた。

「………そうか。聞きたいことは山ほどあるが死者だけは出なかったみたいだな。」

「…それと、奴の力によって僕のメモリと能力が無効化された。熾天使の力もだ。凱さえ良ければ、後で点検を頼みたい。」

「ほう?なるほど、それが原因で姫乃もやられたんだな。」

「…いや、それは僕の過失だ。目の前の相手に捕らわれて、奴の策略に気付けなかった。……………本当に、すまない。」

「失敗は誰にでもある。さっさと戻ってこい。」

凱は雪華を責めることはせずに指示を出す。

「…了解。軍も一度退かせるか?」

「そうだな。あの男が居るなら尚更だ。指示はこっちで出す。」

「承知した。」

そう言って雪華は通信を切った。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

凱、姫乃、護、三首、音川の五人の紹介は……

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