幻想地憶譚 《とある少年の幻想入り》   作:フォーウルム

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第76話

 

 

 

ーー悔しさを糧にーー

 

 

 

防衛戦本部

 

雪華達は本部に戻ってきた。

「「……。」」

2人とも、沈鬱な面持ちだった。

友人を護れず、相手をむざむざ取り逃した。自責の念が彼らの中で渦巻いているのは、誰の目にも明らかだった。

「何て顔してんのよ。」

そこにやってきたのは博麗霊夢だった。2人ほどではないが彼女も戦闘を行ったのが見てとれる。

「……僕の、せいだ。僕のせいで、姫乃さんが。」

血の付いた手で、前髪を掻き揚げる。その目は、とても剣呑で、触れれば切れそうなまるで抜き身の剣のようだ。

「そんな事?くだらないわね。」

霊夢は溜め息を吐く。

「そんな事?くだらない?ふざけているのならやめてくれ。…最も、君はこんな時にふざけるような奴じゃないが。」

そのまま霊夢を見る。自然と睨みつけるようになってしまった。

「大体、あんたらどんなに頑張ろうがきっとこうなってた。被害を最小限に抑えてる時点で上出来なのよ。」

気だるそうに霊夢は言った。

「……驚いた。霊夢に気を遣われるなんてな。」

一瞬目を見開いた後、その場を後にした。

 

「あんたの事は知らないけど、それでも…その強さには気づいてるつもりよ。」

霊夢が雪華にはなった独り言は誰にも聞かれずに空気にとけた。

 

 

 

「処理状況を報告しろ。救護班は怪我人の補助だ。」

雪華と桜が向かった先では凱が指示を飛ばしていた。

もっとも、その姿は開戦前とは大きく事なっている。手や脚には包帯が巻かれ、左腕には点滴という明らかに怪我人だった。

この時、雪華たちが知ることはなかったが、凱が永琳から投与された薬は傷や怪我を服用者の魔力や霊力を使って無理矢理回復させるというものだった。そのため、途中で魔力切れになった凱に点滴という形で魔力を注いでいたのだ。

「今帰投した。………酷いな、魔法が使うことが出来れば。」

そこの惨状を見て歯噛みする。

「お?戻ってきたか。」

背後の雪華に振り返りつつ凱は言う。

「ああ、ついさっきな。……リバティウィング。」

再び、回復魔法を試みる。

「……発動しねぇな。」

「ちょいと異能封じがな。…してやられた。」

そう言う彼はとても悔しげだった。

「…取り敢えず姫乃さん達には出来る最大限の応急処置を施した。今のとこ、命に別状はなさそうだ。」

「なるほどな。……さて。」

凱は手足の包帯を外し、歩き出す。

進む方角は人里の西エリアだ。

「大丈夫なのか…!?」

慌てて止めようとするものの、押し退けられた。

「まだ、戦いは終わっちゃいねぇ。」

凱はドラグニスを自分に突き刺し、デビルトリガーを発動させる。

ドラグニスの魔力で変身しているため効果時間は極端に短い。

「やめておけ!それは負担が大きい、下手したら死ぬぞ!!」

怒声とともに止めようとするも、力の差が圧倒的だった。

「待ってろ、直ぐに戻る。」

そう言って凱は飛び立ち雪華達が戦っていた西エリアに向かっていった。数秒後、巨大な爆発音と激しい炎が立ち上った。

 

 

 

「…!あれか!」

高速で翔ぶ凱が見つけたのはゼウス・ガイアナイトと戦っている1体のドーパントだった。

「仕留めるのは……無理そうだな。」

凱は自身の眼でドーパントを視認し、その強さから勝てないと判断する。

「ならば!」

ドライバーにプロミネンスを挿し込み、プロミネンスガイアナイトに変身する。

「喰らいやがれ!」

空を翔ぶそのままの勢いで炎で作った槍を投擲する。

それはまるでミサイルのように飛翔し、ドーパント目掛けて翔んでいく。

が、ドーパントの真横に着弾し、激しい炎と爆音を撒き散らした。

煙が消え、視界が良くなると既にドーパントの姿はなかった。

「随分遅かったな、五十嵐凱。」

凱が変身を解くと、背後からゼウス・ガイアナイト、もとい鳴神恭介が話しかけてきた。

「悪かったな、こっちも忙しかったんだよ。」

「そうか…そんなことより()()()?」

「わかんねえ。旧型でもT2ガイアメモリ(俺等が使っているやつ)でもない感じだったな。」

「なるほど。新型…あるいは次世代型か。」

「どっちにしろ厄介だ。ってか何でここにあんたがいんだよ?」

凱は鳴神に疑問をぶつける。記憶が正しければこの男は現在、組織の最高司令官兼新人隊員の教官をやっているはずだ。

こんなところで油を売っている余裕など無い筈だが。

「久々に貴様と喧嘩しようと思ってきたが、それどころではないようだ。日を改める。」

「本音は?」

「……缶詰に嫌気がさした。」

「…あー。」

凱は鳴神が言わんとしている事を察する。

「近々、また来るさ。」

鳴神はそう言って姿を消した。

「あんにゃろう。まあ、終わったことは放っておいて戻るか。」

 

 

ーー終戦後の休息ーー

 

 

 

紅魔館 廊下

戦いは終わった。死者は奇跡的に1人も出ず、完全勝利とまではいかなかったが勝利には違いない。酒好きの彼女達は祝勝会をやろうと動き始めていた。

宴会まで時間があるので、雪華達は紅魔館の中を歩いていた。

「姫乃さんは、大丈夫だろうか…。」

「私の、せいでっ……。」

暗い表情の雪華の隣を桜は泣きながら付いていく。

「桜のせいじゃないさ…。奴の策略に気付けなかった僕にこそ非がある。」

彼らは、祝勝会に参加する気にはなれず、時折準備こそ手伝っているものの、やはり心は沈んだままだった。

そんな中、二人の鼻にとても美味しそうな匂いが…

「ん、良い匂いだな。」

「……。」

なんとか桜を元気付けようとするものの、桜は沈黙した。

彼らが今居るのは、記憶が正しければ厨房のすぐ近くだ。おまけに料理している音が少し開いた扉から聞こえる。

「咲夜か妖夢が作ってんのかな。」

「…おいしそうですね。」

やはり姫乃が重傷を負ったことがかなり堪えているようだ。

彼だって、妻の親友を護りたかった。だがそれは果たせず、少なからず傷を負った。

そんな彼らの耳に届いたのは…

「凱君、切り終わったよー!」

「よし、こっち盛り付け終わったから持ってってくれ。」

例の2人の声だった。

「姫乃、ちゃん…?」

「…入ってみようか。」

そうして、2人は扉を開けた。

そこにはまるで包丁を自分の体の一部であるかのように扱う姫乃と、味付けと盛り付け、さらには調理を1人でこなす凱がいた。

「姫乃ちゃん……!!」

「待て桜、今は……。」

桜は思わず姫乃に抱きついた。

「きゃっ?!」

急なことに反応できなかった彼女は……とっさに包丁を桜から遠ざけた。

 

そこに凱が居るのを忘れて。

「イッッタイ?!!」

「凱!!大丈夫か!!?」

雪華は慌てて駆け寄る。

「姫乃、危ないじゃないか。」

凱は背中に包丁が刺さったまま姫乃に注意する。

「…大丈夫だな、お前だってことを忘れてた。」

桜は凱と雪華をそっちのけでわんわん泣いており、抱き着かれた姫乃は優しく桜を撫でる。

「時間が惜しい、このままやるぞ。」

「凱君、私が言うのもあれだけど衛生面駄目じゃない?」

「血はでてない、それにあと一品だ。」

「えぇ………」

確かに血は1滴も出てないとはいえ、流石にまずいので凱を厨房の外に出し、盛り付けを終わらせる。

「でーきた!桜ちゃん、もう大丈夫よ。」

「姫乃、ちゃん…、大丈夫、なの……?」

「あれほど血を流していたのに。」

桜の顔には涙の跡が残っており、雪華も少し青ざめていた。

「うん、致命傷を避けてたみたいだったし、それに輸血したから!」

姫乃はフフンと言わんばかりに胸を張る。

「…怪我のほうは?」

桜を抱き締め、雪華が姫乃に聞いた。

「…それが。」

「もう既に完治している。」

扉から顔を出したのは凱だ。

「どうやって?」

雪華が魔法を使ったわけではないし、並大抵の回復魔法ではあれ程の傷を治せるとは思わない。

「永琳の薬。魔力や霊力を………まぁ詳しくは省くが、要は即効性の回復薬だ。」

「永琳先生なら納得だ。あの人最強のヒーラーだし。」

どんな薬でも作ることが出来る彼女ならそれも可能だろう、と納得した。

「さて、後の事はメイド達に任せてこっち来い」

「ああ…、行くよ、桜。」

「……はい。」

ようやく雪華から離れ、歩きだした。

 

 

 

「どうしたもんかしらねぇ……」

霊夢は悩んでいた。というのも、先ほど凱に「宴会の乾杯任せるからよろしく」と急に言われたのだ。

「こういうの柄じゃないのだけれど…………ん?何これ?」

そんな彼女はふと机の上に小瓶が乗っているのに気がついた。中身はピンク色で匂いを少し嗅ぐと、とても艶めかしい香りがした。

「……まさかこれって…媚薬?」

馬鹿馬鹿しいと思ってそれを置きかけるが、ふと何を思ったかそれを持って歩き出した。

 

 

ーー祝勝会!ーー

 

 

凱達は宴会の会場である紅魔館のホールにやってきた。そこには大きなテーブルが並べられ、大量の料理が乗っている。

「これは凄いな。軍上層部でもこんなのは見た事ない。」

「いっぱい、です……。」

2人は呆気に取られた。

「すげぇな。…………俺等が作ったにしては。」

「…これ全部お前らが?」

「まあな。」

「……頼まれてた量よりも多くない?」

姫乃は少し考えながら凱に言う。

「途中で足りなくなるよりはマシだろう?」

「………そうね!」

姫乃は考えるのをやめた。美味しければいいよね!

「姫乃さん、思考放棄するのはやめてくれ。」

「…まぁ私達も居ますし……。」

「多分それでも余るんだよなぁ…。」

雪華は遠い目をした。

「見てればわかる。ほらグラス。」

凱は雪華と桜にグラスを渡す。中には透き通った茶色の液体が入っている。

「桜は酒には弱いぞ?」

「あ、あれは霊夢さんに沢山飲まされたせいですから!」

「この匂い……麦茶?」

「正解!」

姫乃は匂いでグラスの中身を言い当てる。

「なら良かった。僕も酒類は控えるようにしているんだ。」

「そうなんですか?」

「まあな。」

「変なやつだ。お、始まるぞ。」

凱は少し先を指差す。そこにいたのは霊夢だ。

「みんなお疲れ様!完璧な勝利じゃなかったけど、今回の戦いは私たちの勝利よ!それを祝して、乾杯!」

『乾杯!』

霊夢の音頭に合わせてホールにいた全員が乾杯をする。

雪華達も、それに合わせてグラスを掲げる。

 

 

一通り料理を楽しんだあと、凱が話し始めた。

「ふぅ。さて、お前らに少し話がある。」

「僕達に?」

「何でしょうか…?」

揃って首を傾げた。

「まず、メモリについてだな。」

凱はグラスの中の麦茶を飲みつつ話し始める。

「単刀直入に言うと、お前らのは使えなくなってる。」

「ああ、いきなり変身が解かれた。十中八九、あいつのマキシマムドライブのせいだな。ラプソディ、だったか。」

「それについては少し調べた。結論を言えば、あれは一種の封印だ。」

「なるほど…。なら、奴を倒せばまた使えるだろうか。」

「そうだとしても、戦うためのメモリが無くちゃ……。」

「それについてだが。」

凱は事前に受け取っていた雪華のスノーメモリを取り出す。

「見てろ。」

そう言うと凱はメモリのスイッチを押す。

《スノー》

「起動した…?…つまり、僕達のメモリに対する適性を封じた、ということか?」

「正確には『対象者の能力、及びメモリの使用を制限する』だな。詳しいことはまだわからないが解除の仕方は判明してる。」

「本当か?」

「なら、すぐにやらないと!」

「だが、敢えてやらないというわけでもあるまいし、すぐには出来ない、ということか?」

雪華は慎重に尋ねる。

「いや、これは経過観察だ。」

「え?もう治せるの?」

凱の言葉に姫乃は声をあげる。

「治せるのか。」

「でも、経過観察ってどういう…?」

「……お前ら体に痛みは?」

「多少負傷したが、特には。」

「私も、怪我はしてません。…髪は、数本持っていかれちゃいましたが。」

「なるほど、息が苦しいとか腹が痛いみたいなことも無いな?」

「無いな。」

「私もです。…何か嫌な予感がするのは気の所為ですか?」

「最後の質問だ。相手のマキシマムは『赤い斬撃』だったか?」

「…その通りだ。」

「それが、重要なんですか?」

「そうか……」

「何が言いたいのよ、凱君。」

「…治せない、とかないよな?」

雪華が不安そうに聞く。

凱は目をそらしつつ言った。

「えっとだな。その斬撃は今もお前らに刺さってる。」

「…つまり、それを取り除かなければ永遠にこのままだと?」

「それって、マズイんじゃ……。」

「取り除けなくはない。」

「もしかして、さっき調理前に私にやったのって。」

姫乃は凱に尋ねる。

「ああ、刺さってたのを引っこ抜いた。」

そう、凱と姫乃は雪華たちが来る前に処置を終わらせていたのだ。

「…痛そうだな。」

「まさか、それをやるってことですか…?」

2人して渋面を作った。

「でも痛くはなかったわよ?」

姫乃はそう言う。

「まあ、刺さってたのが背中だったからな。」

「桜はまだしも、僕は真っ向から受けた。その場合はどうなる?」

「だからか。胸に1個、腹に2個刺さってるのは。」

凱は納得したかのような反応をする。

「えと、私はどうなんですか?」

桜も恐る恐るといった感じで問う。

「背中に1本刺さってるな。」

「それを抜く、ということか。出来ることならすぐにやってほしいが……。」

雪華は考え込む。

「構わんぞ。」

「頼めるか。」

「私も、お願いします。足でまといはもう二度と御免ですから。」

2人は頭を下げる。

「わかった。雪華は顔上げろ、桜はそのまま。」

「分かった。」

「は、はい……?」

言われた通り雪華は頭を上げ、桜はそのままだ。

「ふむ。」

凱は右手にデビルブリンガーを発現させる。

そして、優しく桜の背中に触れる。

「ひゃっ!?」

驚いた声とともに彼女の背が跳ねた。

「動くな。」

まるで戦闘中であるかのような冷たい声が凱から発せられる。

「は、はい……。」

そのまま桜はじっとしていた。

「…………。」

凱は見えない何かをゆっくりと掴み引き上げる。

「ふぅ。終わったぞ。」

「本当ですか?……魔力が動きます!」

桜は顔を上げ、能力を発動寸前まで使ってみると、魔力が回った。

「よかったわね!」

姫乃が嬉しそうにそう言うと、

「姫乃ー、あんたもこっち来て呑みなさいよー。」

遠くから霊夢が姫乃を呼んでいる。

「姫乃ちゃん、私も良い?」

「行くなら悪酔いするなよ。」

「は、はい!」

「よし!行くわよー!」

そう言って姫乃と桜は霊夢の方に向かっていった。

「よし、覚悟はいいか、雪華。」

凱は姫乃達を見送り、雪華に向き直る。

「ああ、頼む。」

「ほい。」

凱はパパっと雪華から斬撃を取りだす。

「ほれ、終わったぞ。」

「随分すんなりいったな。感謝する。」

「お前のは案外浅く刺さってたからな。」

凱はグラスにワインを注ぎながら言う。

「そうなのか。ま、とにかくこれでまた戦える。」

そう言ってグラスを飲み干した。

「戦うって言ったって、今回は俺らの勝ちだろう?」

「いや、まだあいつが残っている。名は確か……、アザリア・シロッコ。」

「あれか、俺もあいつを潰そうと思ったんだがな。」

「居なかっただろ?」

「いや、鳴神とやり合ってるのを見つけた。」

「あのおっさん、鳴神っていうのか。感謝しとかないとな。」

雪華は戦いに乱入してきた男を思い出す。

「おっさん?あいつまだ25だぞ?」

「マジかよ、えらくガタイ良かったからおっさんかと思った。…名前から察するに、トールかゼウスのメモリだな?」

「ほう?よくわかったな。確かにあいつのメモリはゼウスだ。」

トールは美鈴な、と言いながらワインを飲み干す。

「名は体を表すって言うだろ?しかしトールは美鈴か。眠気覚ましに使ってそうだな。」

笑ってふざける。

「いや、普通に寝てるところを咲夜にぶった斬られてるが?」

「…美鈴は美鈴ってことか。」

自分の世界と全く同じであったため、渇いた笑みを浮かべた。

「さて、話を戻すが。ラプソディを見つけた俺は逃さない様にと空中から攻撃しようとプロミネンスを使った。」

「…それで?」

「デビルトリガーが切れるとまずいから、空中からやろうと思ったんだ。」

「なるほど。」

「だが、気づいたんだ。」

「気づいた?話が読めない。」

「………プロミネンスって近接型だから遠距攻撃が武器を投げるしかなかったんだ。諦めて武器投げたら見事に外して大爆発したんだ。」

「…逃げられた、ということか?」

「おう!」

凱はこの上なく晴れやかにそう言った。

「…自信満々に言うことか?」

「仕方ねぇじゃん。」

凱は再びワインをあおりつつ言う。

「正直、あいつは他とは違う。万全じゃないあのときでは、仕留めることよりも逃げさせることが大事だと思ったんだ。」

「……なるほどな。」

「まぁ、そんなとこだな。………飲まないのか?」

「飲めないことはないが、酔って桜に手を出してしまいそうで怖いんだ。」

若干顔を顰めている。

「ふーん、お前って酔いやすいのか?」

周りでは酔い潰れた者達が居る中、凱はワイン瓶の2本目に手をつける。

「そこは人並み程度だな。だが桜は弱い。以前こっちの霊夢がめちゃくちゃに酔わせた。」

「へー、まあこっちは心配ないな。姫乃は鬼よりも酒の耐性が強いからな。」

「…それ、すごくないか?」

少し顔が引き攣っている。

「単に姫乃の能力がおかしいだけだがな。」

「…そういえば、姫乃さんの能力って何なんだ?」

「姫乃の能力は『外部からの影響を受けない程度の能力』だ。」

 

 

 

 

 

「…つまり催眠術とかをシャットアウト出来ると?」

「ああ、アルコールはもちろん、睡眠薬や麻痺毒、銃撃や車両の追突まで防げる。」

「分かりやすいぶっ壊れじゃないか……。」

雪華は額を押さえる。

「今回は例外だったみたいだがな。」

「…例外なんてあったことに驚いたんだが。」

「姫乃の完全耐性は『自分の身に害する影響を無力化する』ものだ。ここまではわかるだろ?」

ワインを飲み干した凱の顔はいつもどおりだ。

「その耐性を上から無効化されたんだろう。無効化自体は害じゃないからな。」

「なるほど、そういうことだったのか。…模倣できないか試してみるか。」

自身の力を増すことが出来る、ひいては、桜を守ることができると考えた雪華は能力を発動しようとしたが、凱に止められる。

「やめておけ、あれは『外部からもらった物』だ。解析なんてすれば発狂するぞ?」

「…もらった物?」

自分のように、紫から貰った、ということだろうか。

「理由は不明だが、阿求に解析してもらったら先天性ではなく後天性なものだというところまではわかった。」

「…僕と同じだな。」

「俺の『メモリを作る程度の能力』も後天性だな。で、阿求のメモリの能力で確認しようと思ったが、どういうわけか記録が残ってなかった。」

「残ってなかった?どういうことだ?僕は紫さんから貰ったが……。」

「てっきり外部の人間の記録は残らないのかと思って試しに俺の過去を全部調べ直したんだ。」

「…それで?」

「手つかずで全部残ってたよ。阿求に護達のも見てもらったが、変なところはなかったそうだ。」

「…そう、か。少し、羨ましいな。」

「………現世での反吐を吐くような俺の記録も残ってたことは嫌だったがな。最後に姫乃を確認させたが、能力関係だけ全部消されていた。」

「能力のことだけ?」

「ああ、いつから使えるのかに関しては姫乃も覚えてなかった。内容は知っていたみたいだがな。」

「そんなことがあるのか?いや、しかし……。」

「あり得るだろうな。まぁ暗い話はここまで!食うぞ!」

凱は気分を変え、料理に手をつける。

「それもそうだな。今日くらい弾けるか。」

彼は優しく笑った。

 

 

数十分後

 

「言っただろ?足りなくなるって。」

宴会はすでにお開きとなった。大量にあった料理は全部食べ尽くされている。

「…あれほどの料理が食いつくされるとは思わなかったよ。」

呆れる雪華であった。

「……そういえば姫乃達は?」

「あれ、そういえばどこに。」

雪華は辺りを見渡す。すると…

「ちょ、ちょっと姫乃ちゃん、大丈夫?」

姫乃と桜を見つけた。桜は姫乃に肩を貸していた。

「えへへ~さくらちゃ〜ん。」

姫乃は完全に酔っ払っている。

「…姫乃さん、思いっきり酔っ払ってるな。」

雪華は頭を抱えた。

「ふむ…………………あ。」

凱は姫乃をしばらく見つめていた。そして気がついた。

「…能力ちゃんと仕事してるのか?」

「………………。」

凱は右手で姫乃の髪を優しくとく。

「むふふ〜。」

姫乃は気持ちよさそうにしている。

それを見つつ凱は手を離す。

右手には薄っすらとデビルブリンガーが宿っているのを雪華は見逃さなかった。

「デビルブリンガー…?」

「………髪に小さい破片が刺さってた。原因はこれだろうな。」

「はぁ……。しっかりしてくれ。桜、姫乃さんを凱に。ここからは王子様の役目だ。」

「ふふっ、はい!」

そう言って、桜は姫乃に貸している肩を抜く。

「えへへ~、がいく〜ん。」

姫乃はピッタリと凱に密着する。

「全く、ここまで酔うとは思わなかったな。」

「こりゃ黒歴史確定かな。」

雪華は苦笑した。

「……。」

そんな彼をよそに、桜は何やら考えていた。

「がいくん、キスして〜」

「は?おい何を言ってるn……」

「だめ?」

姫乃は上目遣いで凱を見る。彼女の紫色の瞳は潤んでおり、とても綺麗だった。

「………あのなぁ…」

「さて、僕達は退散しようか。」

「そうですね。」

2人は笑って背を向けた。

「まってよさくらちゃ〜ん!」

姫乃は霞むほどの勢いで桜に飛びつき、床に押し倒す。

「きゃあっ!?」

「ど、どうしたんだ姫乃さん……。」

2人は目を見開き、ただただ驚いていた。

「う~ん、かわいいなぁ。」

酔っ払っていると言うには些かおかしい。

「……ん?…これは?」

凱はテーブルの上にあった小瓶に気が付く。そして思い返す。そこに立っていたのは誰であったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢だ。

 

 

 

「……霊夢…あいつ……。」

「ひゃんっ…!?ちょっと、どこ触って…、やんっ!」

「これは……!…なあ凱。ちょっと用事できたわ。」

小瓶を見て驚愕し、その後黒い微笑みを浮かべた。

「何する気だ?………まさかとは思うが」

「ちょいと霊夢のとこに殴り込み行ってくる。」

晴れ晴れとした笑顔で恐ろしいことを言う。

「言っておくが、霊夢のとこにはエクストラの一体《エレメント》がいる。下手に刺激するなよ?」

「そうなったらまとめてぶちのめす。」

そして、彼は駆けていった。

「……まあいっか、ほい。」

凱は姫乃の首に懐から取り出した一本の小さい針を刺す。

「ふにゃぁ………。」

姫乃は瞬く間に眠ってしまった。

「はぁ…、はぁ……。」

桜はその場にへたりこんでしまった。

……その後、轟音とともにフルボッコにされた霊夢が発見された。

なおエレメントはすやすやと寝息をたてていた。

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

凱、姫乃、護、三首、音川の五人の紹介は……

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