推しをラスボスにしないひとつの冴えた方法   作:ねこぶるふ

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サブヒロインと行う作戦会議

 翌日、放課後になってすぐの事。私は、昨日約束した通り、風森さんと待ち合わせをしていた場所へと向かっていた。

 

 場所は学校から少し歩いた場所に位置する商店街、そこの広場にあるベンチには既に風森さんの姿が見えた。駆け足気味に彼女の元まで近づいていく。

 すると彼女はこちらの存在に気づいたようで、黒い髪を揺らしながら立ち上がった。

 

 

「お待たせしました! すいません、遅れちゃいまして……」

「いえ、特に待ち合わせも指定していませんでしたし、気にしないでください」

 

 

 男子がクールビューティなどという俗称を付けているのは伊達ではなく、彼女は努めて落ち着いた声色で言った。そんな彼女に連れられる形で商店街の喫茶店へと足を踏み入れる。店員に案内されて窓際の席に着くと、向かい側に座っている風森さんがメニュー表を差し出してきた。

 

 

「先週の……。その、借りみたいなものがありますし、奢りますよ」

「ほぇ……? や、やだなぁ。そういうのはのんちゃん、……希海に言ってあげて? 私は風森さんを助けてって言うことしか出来なかったんだし。むしろ逃がしてもらって私の方から奢りたいというか……」

 

 

 心の底から嬉しい話なのだが、風森さんの申し出をやんわりと断らさせてもらうとしたのだが、風森さんの様子は暗いままだった。

 

 

「えっと……」

 

 

 私が困惑していると、彼女の方が口を開いた。

 

 

「ですが香苗さんを私の判断で危険に晒しました。だから、これくらいはさせて貰えないでしょうか?」

「へ……? 私だってあの時は風森さんを容赦なく置いて行っちゃったし、お互い様だよ。それに、あの状況じゃ誰一人として正確な判断なんて出来ていなかったと思うし」

「それでもです!」

 

 

 そう言い切った風森さん。強い意志を感じさせる翡翠の瞳がこちらをまっすぐに見つめてきていた。こうなってしまえば私は弱い。どうしてもと縋る女の子の想いを足蹴になど出来ようものか……。

 

 

「うーん。それなら、のんちゃんの方にって言いたいけど、それは流石にフェアじゃないよね。分かった、ここはご馳走になるね」

 

 

 私がそう答えると、風森さんは「ありがとうございます」と表情をパッと明るくさせた。やっぱり可愛い子には笑顔が似合う。

 注文を一通り終えて一息ついたところで、風森さんが口を開く。

 

 

「本題に入りましょう。まずは香苗さんの現状を把握しておく必要がありますから」

「現状? そうだね?」

「はい、さしあたっては香苗さんのステータスですね。魔力の量を確認すればある程度は分かると思いますので」

「ま、魔力の量……? ええと、学園でもそういうのを測定する検査とか、あったっけ?」

「ありましたよ……?」

「そ、そっか~……。わ、忘れちゃってたナ……」

 

 風森さんの言葉に冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる。しかし、風森さんはそんな私を見て特に気にした様子もなく、自分の生徒手帳をポケットの中から取り出した。

 本のように開閉のできるカバーの中には薄く軽い小型のタブレット端末のような機械が嵌め込んである。ゲームでは詳しい描写などはなかったのだが、このセレヘブ世界の生徒手帳が電子化されているのかと感動を覚えたのは秘密だ。

 

 

「個人情報ですのであまり見せたくはありませんが、これに記載されるようになっています」

 そう言って風森さんは自分の生徒手帳を開いて見せてくれた。そこには彼女の名前や生年月日などの情報に加えて身体測定の結果、及びに冒険家としての能力が記載されているようで、その中でも冒険家の能力のみを表示して見せてくれている。

 

【氏名】風森紀々

【年齢】15歳

【性別】女性

【魔力量】2614.0

【耐久力】120.64

【魔力制御】0.74

【適正属性】火炎・自然

【魔具適合値】133.53

【魔力変換効率】0.0123

【身体強化効率】0.0905

【総合戦力評価】D-

【聖装情報】未発現

 

 

「あの、これでも恥ずかしいので、まじまじと眺めるのはよして下さい……」

「あっ、ごめんなさい」

 

 

 つい、じっくりと見てしまった私の視線に耐えかねたように風森さんが頬を赤らめながら言った。私は慌てて謝りつつ自分の生徒手帳を探してみると胸ポケットから簡単に見つかった。

 やはりゲームと同様のステータス表記があるとは思ってはいなかったが、その項目はゲームのそれとは大きく違っている。

 

 

「このボタンをタップしてください」

「こ、これ?」

「はい。それで能力値を閲覧できますよ」

 

 

 言われた通りにボタンを押してみる。すると画面が切り替わり、そこに数値化された私のステータスが表示された。

 

【氏名】藤咲香苗

【年齢】15歳

【性別】女性

【誕生日】1月12日

【身長】145.2cm

【体重】34.8kg

【バスト】72.9

【ウェスト】60.4

【ヒップ】73.2

(以下、身体測定の情報は割愛)

 

 これステータスと違う、私の身体測定の結果だ……! 見ている自分が恥ずかしくなるくらいに恐ろしいほどの寸胴(ロリ)体型をしていらっしゃる……。

 

 

「香苗さん、その、ボタンを押し間違えて……」

「あ、ウン。ソウダネ」

「……大丈夫ですか? 顔色が優れませんけど」

「見た?」

「えっ、いや、何を……、はい」

「……素直でよろしい。不問に処す」

「は、はぁ……?」

 

 

 何が何やらと困惑している様子の風森さんだったが、私が気にしていないならまあいいかといった感じだった。私としても変に意識されるよりかは余程良いのだが。それにしてもここまでの寸胴であれば自分の身体にコンプレックスを持ってしまうのも分かる。一部の界隈ではそれこそ好まれるようなものであるのは間違いないのだろうが……。

 気を取り直して表示するデータを切り替えると、今度は風森さんの生徒手帳に映っていたものと同様の情報が映し出される。

 

 

【氏名】藤咲香苗

【年齢】15歳

【性別】女性

【魔力量】64.8

【耐久力】4.74

【魔力制御】0.52

【適正属性】自然・水氷

【魔具適合値】1.53

【魔力変換効率】0.0003

【身体強化効率】0.0012

【総合戦力評価】G

【聖装情報】未発現

 

 

「えっ、私の能力低すぎ……?」

「入学前から魔巣窟に行っていた私と比べるのがおかしいんですよ。藤咲さんの魔力量は一年生でも平均的です。

 細かく言えば平均よりも少し低いくらいですが、評価も尻尾付きじゃないのでマシな方かと」

 

「尻尾付き?」

「その話についてはまた今度話しましょうか。それよりもまずは―――」

 

 

 そう言うと、彼女は自身の生徒手帳を取り出して、電子生徒手帳に内蔵された辞書機能を起動させる*1

 風森さんの生徒手帳には文字が表示されていく。

 

 

「―――軽いお勉強ですかね。その様子だと、ここに表示されている項目についても分からないでしょう?」

「……か、返す言葉もございません」

 

 

 確かに彼女の言う通り、この項目の内容に書かれていることがさっぱり理解できていない。今世の私は学園で一体何をしていたのか……。蛇足だが、学園での授業は基礎的なものが多いが冒険家の授業だけが全く頭に入らないのが悩みなのだ。

 

 

「少なくとも生徒手帳に記載されていた項目については覚えておいてください。最初に、これらは魔力計測値、別名エーテリアルスタッツなどと総称されます」

 

 

 そう言って風森さんは生徒手帳を操作して画面の表示内容を変える。そこにはいくつかの文章が表示されていた。

 

 

「この魔力量については分かりますか?」

 

 

 私は首を横に振る。

 すると風森さんは自身の生徒手帳を操作したあとにこちらに見せてくる。そこに表示されていたのは先ほど見たものと似たようなものだった。

 

魔力量:空気中より魔素(エーテル)を取り込み、体内に存在する魔力に変換し蓄積できる最大の量を指す。

 

 

「魔力は防御、攻撃の両方に使用されるので冒険家にとって重要な生命線となります。特に魔巣窟内ではセーフエリア以外では休みなく魔物と戦う可能性があるので、魔力量を超える魔力を使用して魔力切れを起こした。なんて事態に陥ればそこで人生が終わりになることは想像に難くありません。

 そして、この魔力量の値によって装備が可能な魔具の種類やランクにも影響が出てきます。なので、冒険家にとって最も重要な数値と言えるのです。訓練を受けていない一般人の平均的な値としては80~100が多い印象ですね。とはいえ、訓練によって伸ばせる値なので()()()()()()()()今は気にする必要はないです」

 

 

 なるほど、と私は相槌を打つ。平均を下回ってはいるが、使えるだけ私にとっては十分すぎるくらいだ。しかし、私の表情から察したのか風森さんは苦笑を浮かべた。

 現在の私の魔力量は64程度であるが、あまり気にするなと言いたいのだろう。小さいことを気にし始めたらキリがないことは既に分かっているので笑って風守さんの気遣いを流す。

 

 

「続けて良いですか?」

 

 

 私はこくりと首肯した。

 風森さんは電子生徒手帳に視線を落としながら説明を続ける。

 

耐久力:人間が体内に保有する魔力とは別に人間を守ろうとする耐久魔力のことを指す。魔具・聖装の装備時のみ効力を発揮するため厳密には魔力とは別物であるが、自身が受けることになる外傷を大きく抑えることが可能であるため重要な値である。

 

 この世界がゲーム通りならばHPなどと呼ばれていそうな存在だ。これらのおかげで世の冒険家たちは大きな怪我を負うことなく戦い続けることができるらしい。

 

 

「耐久力、これも訓練で伸びます。とはいえ、最初が低いとあんまり伸びは良くないん……ですよね。一般的に平均とされている数値は10程度なので、香苗さんは半分以下ですね……。伸びにくいかなと、存じます」

「あはは……」

 

 

 なんとも言えない気分になる。確かに元より冒険家向きでは無さそうだと自覚していた為に仕方ないことではあるが、もう少しなんとかならないものだろうか。

 要するに私は打たれ弱くて魔力が低いので魔具の力を引き出せない……。なんて産廃キャラクター?

 

 

魔力制御:体内に宿す魔力を制御する能力を示す値。高ければ高い程、少ない量の魔力でも魔具の性能を引き出すことが可能になる。

 

 

「魔法制御はそれこそ現在自身が出来る魔法操作の限界値を記録した値です。努力したら伸びるけど、どうせ伸びるから最初から高くても意味はない。

 でも、低いならこれからある程度は鍛え上げる必要がある。これも訓練すれば上がるから気にしないでください」

「うん、オーケー。とりあえず色々な値は私の頑張りで伸びるって事ね……。ひとまず、努力すれば問題ないところは置いておいて、これはどうしようもないって項目はあるかな?」

「そうですね……、強いて言うなら適正属性だけれど適正外の属性でも使えるからそこまで気にはならない、はずです。……ある程度は分かりましたか?」

 

 

 私が肯定の意を込めて大きく首を縦に振ると風森さんも満足げな表情で一つ相槌を打った。

 

 

「さ、次は私たちの立ち回りと役割分担を決めましょう。この前は私が自信過剰だったこともあって適当だったから」

「わ、わかった」

 

 

 風森さんの言葉に私はごくりと生唾を飲み込んだ。この前の実地演習なのだが、魔力を上手く使えなかったりと私は完全にお荷物であった。前世で格闘技を齧っていた事が功を奏して多少はマシな戦い方にはなっていただろうが、索敵から探索まで含めると足を引っ張っていたといっても過言ではないかもしれない。

 

 

「まず、香苗さんは後衛に回るべきだと思っています。香苗さんの耐久力は低いし、魔力量や魔法制御等の値も総じて低めですから、前衛は私がやる方が良いでしょう」

「うっ。やっぱりそうかぁ……」

 

 

 薄々感づいてはいたが、改めて言われるとショックが大きい。

 

 

「大丈夫、香苗さんの役割はちゃんとあります。香苗さんは支援に徹してください。そうすれば低い能力は誤魔化せますし、香苗さんが回復してくれたら、私は安心して戦えます」

「うぅ、支援か……」

 

 

 回復(ヒーラー)支援(バッファー)。それはゲーム内のセレヘブの戦闘においてはそこまで重要な役割を担っていなかったことを覚えている。ゲームの仕様上、プレイアブルキャラクターの全員が聖装を所有しており、聖装の能力を使用しつつ、適宜キャラクターを交代させつつ戦うというのが基本だ。言わば全員の性能が実質アタッカーそのものになっており、タンクやヒーラー、バッファーなどの役割はほとんど必要無かったのだ。

 しかし、現実ではたった一人だけで魔巣窟を探索する訳では無い。そうなれば自然とアタッカー以外の役割が必要となってくるわけであって、通常の冒険家が聖装持ち程強いという訳では無い。

 

 

「私に何が出来るんだろう……?」

 

 

 聖装無しの聖装所持者なんてただのモブキャラに過ぎない。それならばまだ、聖装を所持している悪役キャラクターに転生あるいは憑依していた方がよっぽどマシだったであろう。

 

 

「だから、出来ることを探さないと。出来ないなら穴を埋めるんです。自分なりのやり方で」

 

 

 聖装を持っていない冒険家は、聖装を持っている冒険家に劣る。それがこの世界の常識であり、真理である。

 聖装とは魂の力であり、それを手元に作り出せるということは己の肉体に眠る潜在能力を引き出すということである。聖装に目覚めた者は、常人よりも優れた身体能力を発揮することができるようになる。*2

 故に冒険家にとって、聖装の有無というのはかなり大きな差である。きっと目の前の少女もそう思っているに違いない。だから、努力を重ねている。

 

 風森紀々はサブヒロイン(プレイアブル)。きっと、報われるはずだ。

 

 

「……それじゃあ、香苗さんが使えそうな魔具について考えておきましょうか。何かあります?」

 

 

 だが、そんなことは関係ないとばかりに、彼女は平然と話を続ける。

 

 

「魔具には詳しくないから、特に……」

「そうですか……では、私の方でも調べておくことにしましょう」

 

 

 私の言葉に、風森さんは少しだけ残念そうな顔をする。しかし、すぐに気を取り直してメモ帳にペンを走らせる。

 どうやら彼女も、自分でできることをしようとしてくれている。それが嬉しくもあり、仲間として頼もしいなと思った。

 

 

「ひとまず回復と支援を両立してもらう形で行きたいと思います」

「うん、分かった」

「とりあえず、金曜日の放課後に一度、二人で訓練場に行きませんか? あそこならダミードール*3を動かせますし」

「そうだね。それがいいかも」

 

 

 確かにいきなり役割分担をして演習などは厳しいものがある。実際に動く人形を相手に事前の練習ができるのはありがたい。

 

 

「それでは、本日はこんなものですね。他の項目については帰って自習しておいて下さい」

「分かりましたー」

 

 

 私はスマホに金曜日の予定をメモをして仕舞う。すると風森さんも同じように紙の手帳を取り出していて何かを記入し終えていた。

 

 

「じゃあ、帰ろっか?」

「はい、帰りましょう」

 

 

 私たちは荷物を持って席を立ち上がる。そしてレジに向かい会計を終えてお店を出た。

 夕暮れ時だからだろうか、少しだけ涼しい空気が流れている気がする。

 

 

「今日は付き合ってくれてありがとうございます」

「ううん、わたしの方こそ。色々教えてくれて助かったよ。ありがとう」

 

 

 私がお礼を言うと風森さんは黒いロングヘアを小さく揺らして微笑んでいた。私達は別れ、それぞれ帰路につく。

 私は妹に今日は帰りが遅くなると連絡を入れると希海の居る病院へと足を急がせた。

 

 私の顔を見るなり表情ほころばせた希海。しかし、私が約束より遅い時間帯にやってきた事に文句を言いながらも嬉しそうにしていて、私が内心悶苦しむことになるのだが、それはまた別の話になる。

*1
調べるならスマホで良くないか? 等と言いたいところだが冒険家関連の情報はあまりネットに転がっていない事が多い。そのため、冒険家の情報が詰まった電子生徒手帳はものすごく有能なのだ。実はこれを高額転売しようと学園生徒を狙った事件もあったことがある。……らしい。

*2
(参考文献:セイクレッドヘイブン公式設定資料集第一巻)

*3
買えば目が飛び出でるほど高価な魔物を模した自動人形のこと。学園の訓練場では実地演習で使用されるものと同じモデルのものが使えるとか。

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