推しをラスボスにしないひとつの冴えた方法   作:ねこぶるふ

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新年明けましておめでとうございます。
大遅刻の投稿ですが、今年もよろしくお願い致します。


迫るヒロイン、鉄壁の防衛網

「……ふぅ。なんとかなったね」

 

 

 グシャリと音を立て崩れ落ちる魔物を見下ろしながら希海がそう呟く。今私たちが戦っていた魔物は、ファンタジーの創作物でもよく見るオークと呼ばれる二足歩行をする豚のような生き物だった。

 前方で先頭を行うメイングループから流れてきた魔物はこの一体だけで、他には血の跡しか残っていない。

 

 

「ほとんどが、前の人たちに持っていかれちゃってるねぇ」

 

 

 希海が残念そうな声を上げた。

 魔物は体内に魔核という魔力を宿した宝石のようなものを持っており、これの換金率がとても良いらしい。しかし、メイングループが優秀なために言い方こそ悪くなるがおこぼれが殆ど無い状態だ。

 

 

「魔物を倒すのは彼ら(メイン)の仕事なんですから。私たち(バック)はそのサポートに徹するべきです」

 

 

 そう言いながら紀々が水筒を取り出して水を飲んだ。希海はというと、不満そうな顔をしながら、先ほど倒した魔物の死体を見ている。

 

 

「もう少し暴れたかったなー……」

 

 

 その言葉を聞き取った私は思わずため息を吐いてしまった。希海が暴れたいとつい口走ってしまう気持ちも分からなくはない。

 

 私たちが魔巣窟に入って既に約4時間ほどが経過していた。私たちは順調に魔巣窟を進み、今は第3層まで到達している。移動速度が速い分、遭遇する魔物の数もとても多く、従ってメイングループの戦闘回数も多くなっている。

 魔物と遭遇した回数は両手でも数え切れないくらいになっており、それのほとんど全てをメイングループで討伐してしまえている。

 それでも、前にいる彼らは余裕があるように見えた。さすがは主人公が率いるパーティーである。

 

 後ろに流れ込んでくる魔物は確かにいるものの、それは全体から見てしまえば誤差程度の手応えのないものばかりだ。強大な力を持つ希海はそれを持て余してしまっているのは聞かなくても分かる。

 

 そんな希海をやや離れた場所で控えている海馬先輩は特に咎めるようなことはなく、魔巣窟に入る前に自主性に任せるみたいな事を言われていたことを思い出す。

 とはいえども限度というものはあるとは思うが。

 

 もちろん希海の気持ちが分からないわけでもない。私だって魔物との戦闘には興味を持っているし、できることなら魔物と戦ってみたいと思っている。でも私自身がそんな力を持ち合わせていない為、こうして後ろの方で待機していることしかできないのは残念に思っているくらいだ。

 そうやって私がひっそり不貞腐れていると、希海が私の方へと振り向いてきた。

 

 

「ねぇ、香苗ちゃん。そろそろ魔巣窟に入ってから結構経つけど……、疲れたりとかしていない?」

「え?あぁ、うん。大丈夫だよ。まだまだ元気だから!」

「無理しないでね? 香苗ちゃんは参加してる中でも一番体力が無いんだから」

「うっ……。ま、まだ全然いけるよ! ほら、この通り!!」

 

 

 そう言ってガッツポーズを作って見せると、希海がにっこりと微笑んでくれた。

 その笑顔にドキッとしてしまって少しだけ目を逸らしてしまった。そしてすぐに我に帰ると、恥ずかしくなって頬を掻いた。

 

 

「それにしてもさ……、前の人たちペース早いと思うの。香苗ちゃんにも負担になるし」

 

 

 希海が前にいる天城総司たちを見てぼやくように呟く。

 

 

「事前に話し合いもしましたし、許容範囲かと思いますよ」

「経験値のある紀々ちゃんはいいかもしれないよ?

 でも、香苗ちゃんはほとんど初心者みたいなものだし。ペースが早すぎると思うんだけど……」

 

 

 希海から出た懸念点に、紀々は表情を変えることなく返答した。

 

 

「香苗さんには持久力が向上するような魔具を装備してもらっているので心配はないと思います。

 それに、こちらに流れ込んで来ている魔物はほぼ全て希海さんに処理されてしまっていますし。希海さん以外は結構余裕があると思いますよ?」

 

 

 そう言って希海に視線を向ける紀々。希海は照れ臭そうに笑みを浮かべると、「えへへ」と言って頬を掻いた。

 

 

「褒めてません。希海さんもペース配分を考えてください。聖装が無いとはいえ、私もバックアップの護衛なんですから」

「うっ。そ、それは……ごめんなさい?」

 

 

 紀々にジト目で睨まれて希海はたじろぐと申し訳なさそうに謝る。それから気まずげに黙り込んでしまった。

 

 

「全くもう……。香苗さんも何か言ってあげてください。いくら聖装を持っているからって、このままだとすぐにバテてしまいます」

 

 

 呆れた様子でそう告げる紀々。私はそれに対して苦笑いで返し、「のんちゃんは頑張り屋だから」と希海の肩を持つ。すると、彼女は嬉しそうな顔でうんうんと力強く首肯するのであった。

 そんな私たち二人の様子を見た紀々はため息を吐きやれやれと言った具合に肩をすくめる。

 

 

「はぁ。まあ、もう少し進めば休憩ですし。いいですけど」

 

 

 紀々は諦めたように呟くと「それじゃ、行きましょうか」と言って歩みを進める。私は彼女の後を追いかけるようにして歩き出す。その後を希海がニコニコ顔で追いかける。

 

 魔力が枯渇気味な私に代わってメイングループの治癒を行っていた海馬先輩が私たちの元に戻ってくると、私たちの様子を見て何かを察したのか無言のまま小さく笑みを浮かべていた。

 

 

 それから数分、私たちは魔物に襲われることなく順調に進んでいけば、やがて少し開けた空間に出る。

 そこの中央付近には青々と茂った草木に天井から漏れ出る暖かな日差しのような光。その光景はまるで洞窟の中の小さなオアシスといったところか。

 ここはいわゆる安全地帯と呼ばれる場所であり、この部屋の範囲内に限ってのみ魔物が出現せず、侵入もしないのだそうだ。ゲームでも回復&セーブが行える地点が所々にあったが、恐らくそれがこの安全地帯にあたるのだろう。

 

 メイングループの天城総司達も先にここに到着していて休息を取っていた。天城総司の隣には來素水波が座っており、それを引き剥がそうとする風森千々の姿が目に入る。

 それを後ろで見守っていた東條タリアが私たちの到着に気がついたようでこちらに近づいてきた。

 

 

「バックアップの皆さん、ご無事で何よりです。何かお怪我などはありまんでしたか?」

 

 

 そう言いながら心配そうな表情を見せる彼女に私を含めた皆がそれぞれに首を振る。それを見た彼女はほっとした様子を見せた。

 

 

「それは良かったですわ。もし万が一にもお怪我をされていたらどうしようかと思っていましたので」

 

 

 東條先輩は笑顔を見せながらそう言う。そんな彼女に対して海馬先輩が一歩前に出て口を開いた。

 

 

「天城のヤツ、後ろに敵を回さないように張り切りすぎてないか? 戦闘後の怪我も多いし、ちょっとばかし無理をしているように見えるんだが……」

 

 

 そんな彼の発言に東條先輩は顎に手を当てて考える仕草をした。そして、数秒ほどして顔を上げる。

 そして困ったような笑みを浮かべると東條先輩はゆっくりと口を開く。

 

 

「そうですね……ソージは確かに普段から無理をすることが多い方なのですが、今回はいつも以上に頑張られているような気がしますわ。

 バックアップのほとんどを一年生が占めているから負担を減らしたいつもりなのかもしれません。私からもそれとなく注意できるようにしますね」

 

 

 彼女の返答を聞いた海馬先輩は腕を組みながら小さく息をつく。

 

 

「なるほどな。まぁ、アイツなら大丈夫だとは思うけどよ。あんまり無茶すんなって俺からも言っとくわ」

「はい、同性の方からの忠告なら多少は大人しく聞くでしょうし、よろしくお願いいたしますわ」

 

 

 海馬先輩の言葉に東條先輩は柔らかな微笑みを浮かべる。海馬先輩はそれに対してしっかりと力強く首肯した。

そして、その後、東條先輩と海馬先輩の二人はその場を離れていった。

 海馬先輩は少しだけ振り返って私達を見渡す。

 

 

「一年生、お前らも無理するんじゃねぇぞ」

 

 

 そんな言葉を吐いて彼は去っていった。

 しかし、海馬とか言うこの男は一体何者なのか。というかゲームに友人キャラなんていた覚えがないし、当然ながら私に記憶にも存在していない。

 しかしそれを言ってしまえば、私自身も一体誰なんだということになる。在野にも名も知らないモブは大量にいるんだと深く考えるのは止しておく。

 

 ひとまず海馬先輩の後ろ姿を見送った後、紀々が声を掛けてくる。

 

 

「私も千姉に話があるので少し離れます」

「それじゃあ、私と希海は先にお昼を食べ始めるね」

「はい」

 

 

 そう言うと紀々は天城総司の元へと向かう。それを静かに見送っていると希海はこちらへと顔を向けて口を開いた。

 

 

「とりあえず休憩しよう! お昼ご飯、食べよう!」

 

 

 その元気な声を上げる希海は、私の背負ったリュックサックに入っている食事を待ちきれないと言わんばかりに私を見つめている。

 彼女は今にも飛び込んで来そうなくらいにウズウズと体を揺らしている。好物をチラつかされた猫みたいだ。

 

 

「えぇ。そうしましょうか」

 

 

 そして、私たちは近くにあった適当な倒木に腰掛ける。それから、私が背負っていたバックパックを希海に渡した。

 希海はその中から学園支給の無骨な弁当箱を取り出す。

 

 私も同じものを取り出した。しかし、中に入っている食事はそれぞれで異なったものとなっている。希海のそれは洋風のおかずを中心に構成されているが、私の方は和洋折衷な内容となっている。

 これを見ていると、間違いなく冒険学科の学費は高額であることが伺える。

 

 

「うぅ~ん……いい匂いっ! 美味しそう!!」

 

 

 希海は瞳を輝かせて鼻をヒクつかせている様子に餌を前にしてヨダレを垂らす犬が重なって見える。

 彼女の反応を見て、私は思わず苦笑してしまう。犬なのか猫なのか、これが分からない。

 

 しかし、出来たてではないとはいえ確かに良い匂いではある。お昼前の空腹には毒だ。

 

 

「ふふ、楽しみだね」

 

 

 私はそう言って希海へと笑いかける。

 希海はそんな私の声に反応してハッとした表情になる。そして、すぐに頬を赤く染めた。何か恥ずかしいことでもあったのだろうか?

 しかし、それはすぐに笑顔によって掻き消される。

 

 

「……うん、すっごく楽しみ」

 

 

 希海は花が咲くような可愛らしい満面の笑みを浮かべながら言った。

 私はそれに自然とつられて笑ってしまう。

 

 

「さぁ、食べようか?」

「はーい!」

 

 

 そう言うと、希海は嬉しそうに返事をした。私はそれを微笑ましく思いながらも、自分の分のお弁当を手に取った。開けると、そこには色とりどりのおかずが詰まっている。見た目も華やかだし、とても美味しそうだ。

 私は手を合わせてから、箸を持ち上げる。

 

 

「いただきます」

 

 

 希海もそれに合わせて「いただきまーす」と言って、お弁当に手を付け始めた。彼女も私と同じように料理を口に運ぶと、口元をほころばせる。そして、幸せそうな顔を見せている。

 

 

「うーん、おいしー!」

 

 

 本当に美味しいものは希海がしているようにこうやって口に出すべきだと私は思う。だって、それを食べている時の幸福感は言葉で表現し切れないほど素晴らしいものだから。それならせめて言葉に出して味わった方がより一層、美味しさを堪能できると思う。

 

 

「うん、美味しい。あむ……」

 

 

 私はそう言って、自分のお弁当に入っているミートボールを摘んだ。冷めているとはいえ、それでも十分すぎるほどの旨みが口の中を駆け巡っていく。そして、その味は空腹と言うスパイスによってその価値は最高潮まで引き上げられている。

 私は、おかずの味付けに舌鼓を打ちながらご飯を食べる。そして、また、一口食べると、その美味しさで身体中が満たされていく。この感覚は癖になってしまいそうだ。

 

 

「戻りました。どうですか? 学園支給のお弁当は」

 

 

 私が幸せな気持ちに浸っていると、背後から声が聞こえてきた。

 そちらの方を見ると、紀々が立っていた。

 

 

「海馬先輩はメイングループとの予定の相談ついでに向こうで昼食を摂るらしいです」

 

 

 そう言いながら、彼女は手に持っている私のリュックから三つ目のお弁当をと取り出して私の隣に腰掛ける。

 それから、お弁当を開けて食事を始めた。

 

 

「海馬先輩って天城先輩達と仲良いの?」

 

 

 海馬先輩がこちらへ戻ってこないことに疑問を感じた私は隣に座っている紀々に訊ねた。

 すると、彼女は少しだけ困った表情をしながら答えてくれた。

 

 

「そうみたいですね……。詳しくは知りませんが、色々と顔は広いみたいです」

「へぇー」

 

 

 その様子からはそれ以上の情報は出てこないことが察せられた。海馬先輩がこちらに戻らずに向こうで食べることを考えると、少なくとも天城総司らと面識はあるのだろう。それか、年下の異性に囲まれるのが恥ずかしいのかもしれない。

 後者の比重が高い気がするが、私も海馬先輩の立場であれば御免被りたいと思うことだろう。

 そんなことを考えつつも、私はお弁当に入っていたウィンナーを頬張った。やっぱり、冷めてても十分に美味しいように作られている事は尊敬に値する。

 

 間もなく弁当箱を空にした私は両手を合わせて、「ごちそうさまでした」と食べ終わった後の挨拶をした。希海も私に続くように手を合わせる。

 休憩を終えた私たちは探索再開の準備を整えるのだが、そこにはメイングループからやってきた闖入者がいた。

 

 

「風森さん、あまり1年生に迷惑をかけないようにしてくれよ」

「大丈夫だよ、海馬君。私が絡んでるのは香苗ちゃんだけだし」

 

 

 海馬の注意に対して、闖入者こと風森千々は悪びれることも無く平然と答えた。

 

 

「そういう問題じゃ無いんだよ。他の子たちに示しがつかないだろ」

「えー、でも香苗ちゃんは許してくれたもん。ねぇ、香苗ちゃん」

 

 

 千々はそう言うと、後ろを振り向いた。すると、私を守るようにして希海が立ちはだかった。

 彼女は、準備を始める前まで見せていた笑顔とは打って変わって明らかに不機嫌そうな顔をしていた。

 

 

「何が許した、ですか。私は許可を出した覚えなんてありませんけど」

 

 

 希海のその言葉を聞いた途端、千々の顔から笑みが消えた。次いでに海馬先輩もあまり関わりたくないのかひっそりと姿を消す。男としていい判断だと思う。

 しかし、それは一瞬のことだった。すぐにまた彼女は笑顔を浮かべた。だが、先程まで浮かべていた朗らかなものとは違う、どこか胡散臭いような印象を与えるものだった。

 そして、彼女は希海に一歩、そして二歩と歩み寄っていった。希海は彼女の接近に合わせて身体を固く強ばらせる。希海の後ろに隠れるようになっている私には見えないが、おそらく彼女たちは睨み合う構図になっているのだと思う。

 

 

「なぁに? 希海ちゃん。香苗ちゃんのこと取られちゃうと思ってヤキモチ焼いてるんだ。可愛いところあるじゃん」

「……先輩、ふざけたこと言わないで。なんであなたなんかに」

「ふぅん、まあいいや。今日は香苗ちゃんに用があってきたんだけど、ちょっといいかな?」

「良くないです。私たち、今、忙しいんで」

 

 

 希海はそう言って、私を背にして彼女に対して警戒心を剥き出しにしている。それもそうだろう。

 私だって、突然こんな風に馴れ馴れしくされた上に、敵意に近い感情を露わにされたとするなら良い気分にはならない。

 

 

「そう邪険にしないで欲しいな。香苗ちゃんと談笑したいだけなんだよね〜」

 

 

 千々の言葉に、私は思わず首を傾げた。

 この人、何を考えているのだろうか。こんな私と会話をして一体、彼女にどんなメリットがあるというのだろう。しかし、彼女が私と会話したいと望んでいると言うことは私に何か変な気があると言うことだ。

 

 

「えっとー。あの、どうして……?」

「香苗ちゃん、そんなに構えなくても大丈夫だよ。別に取って食おうってわけじゃないし」

「信用できません」

「希海ちゃんには聞いてないんだけどな〜」

 

 

 希海は私に付き纏おうとしている千々に対して、排除しようとする姿勢を変えるつもりはないらしい。しかし、千々も引き下がる気配が無い。それどころか、ますます意固地になって食い下がっているようにすら見える。

 

 

「ねぇ、香苗ちゃん。ちょっとだけでいいからさ。千々お姉さんとお話しない?」

「だから、うちの香苗は取り合いません! 他所を当ってください」

「えぇ〜。困ったな?」

「……」

 

 

 どうしよう。

 私は正直、困っていた。いくらなんでもゲームの知識が豊富にあるとはいえども初対面の人と話すのは緊張しないわけが無い。そもそも、千々が私に何を求めているのかが分からない。だから、返事に詰まっているのだ。

 しかし、そんな窮地に颯爽と現れた人物がいた。

 

 

「千姉、天城が呼んでました……って、希海さんとなに向かいあってるんですか……」

「あ、きぃちゃんだ。やっほー」

「や、やっほーじゃなくて……」

 

 

 色々と所用あってメイングループへ顔を出していた紀々が希海と睨み合いをしていた自身の姉を見てげんなりと肩を落としていた。

 

 

「おかえり、紀々ちゃん。ごめんね。風森先輩が中々にしつこくて」

「あぁ、うん。なんと言うか……大変だったみたいですね」

 

 

 紀々は苦笑いを浮かべながら、私の隣に立つと彼女の方へと視線を向けた。そして、そのままジト目で見つめ始める。

 

 

「千姉……、香苗さんが困っているように見えるんですが」

「いやいや、香苗ちゃんとは仲良くしておきたいんだよ。これから先、一緒に戦うことになるかもしれないし? それに、香苗ちゃんは可愛いじゃん。妹にしたくなる気持ち分かるでしょ?」

「分かりません。千姉は度が過ぎてるんですよ。香苗さんが迷惑しているでしょう」

 

 

 紀々の言葉に、私は小さく首肯する。すると、それを見た千々が悲しげな表情を見せた。

 

 

「香苗ちゃんまで……酷いよぉ」

「千姉、当然の帰結です。酷くありません」

「うぅ……香苗ちゃんは私のこと嫌いなんだ」

「そういうわけじゃ……ないですけど」

 

 

 千々の言い分を否定しきれないのは事実だ。風森千々というヒロインは確かに天真爛漫さにダークな危うさを秘めたキャラクターであり、それはこの世界でも共通しているのだろう。なにより最初に攻略しようとしたキャラクターは風森千々だった訳だし、ゲーム内外の評価は最悪だったが個人的には彼女のことを嫌いという訳では無い。

 しかし、彼女がバッドエンドの引き金になる可能性が高いために強く警戒しているだけなのだ。しかし、それを彼女に説明したところで理解してくれるどころか悪化しそうに思える。

 だから、私が口に出来る言葉は一つだけだ。

 

 

「別に嫌ってはいませんから。ただ、ちょっと苦手なだけで」

「苦手……。嫌いより、マシだけどグサリと来るね〜……」

 

 

 千々は泣きそうな顔をしていた。その隣では呆れた様子の紀々がため息を漏らす。希海はそこで勝ち誇った顔をしているんじゃありません。

 

 

「えっと、その、なんて言うか距離感近いじゃないですか。だから、少し戸惑ってしまうと言いますか……」

 

 

 嘘は言ってはいない。

 実際、千々の距離の詰め方は少々強引なところがある。

 しかし、それを言ったところでどうにかなるとは思えない。彼女は一度決めたら絶対に曲げようとしないタイプだ。だからこそ、彼女に対してはっきりとした拒否の意思表示をしなければならないだろう。

 それはそれで大波乱の予感がするが、あんまり考えたくは無い。

 

 

「まぁ、良いや。それで、きぃちゃんは何の用事だったのかな?」

「千姉を呼びに来たんです。天城先輩が千姉を探していたので」

「そっか。わざわざありがとね〜」

 

 

 千々は紀々の頭を撫でる。紀々も満更ではないようで嬉しそうだ。

 その様子を眺めていると不意に視線を感じた。そちらに目をやると希海がこちらを見つめていた。

 

 

「のんちゃん?」

「な、何でも無いよ。気にしないで」

「うん? ……分かった」

 

 

 希海は慌てて私から視線を外す。一体何だったんだろうと思いながらも私は再び探索再開の準備、荷物と魔具の点検作業をする。

 

 

「あ、海馬先輩どこ逃げてたんですか!」

「え? いや、それは……」

 

 

 風森千々が去っていったや否や、フラリと戻ってきた海馬先輩は目敏い希海に詰め寄られて、タジタジとしている。

 逃げるという選択をしたのは海馬先輩は自業自得だ。ということで彼への助け舟は出さないことにした。

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