推しをラスボスにしないひとつの冴えた方法   作:ねこぶるふ

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なんだろう、全部壊れてる

 探索は再開され、私たちは魔巣窟のより深くへと潜っていく。

 

 私たちバックアップグループはメイングループと比べると戦闘の機会は少なくなるが、それでも全く戦わないという訳ではない。

 そもそも、私たちはサポートがメインの役割ではあるが、メイングループがバックアタックを受けないように事前に報告或いは排除する役割も持っているのだ。

 

 それでもメイングループのそれと比べても、こちらが安全であることに違いは無い。

 

 

「香苗さんお疲れ様です。これを」

「紀々ちゃん、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 

 私は魔力を回復させる薬剤が詰められた水筒を受け取り、中の飲み物を口に含む。スポーツドリンクのような塩味と酸味が口の中に広がり、喉を通っていく。

 支援の魔具を使用するのも体内の魔力を消費し、疲労をガンガン蓄積させていく。なのでこまめな魔力回復は非常に重要だ。

 魔具と言えば死亡を回避出来るややレアな魔具を紀々から借り受けている。そのため余計に消耗しやすいのには目を瞑るとして、それはドがつく初心者だからといって皆に迷惑をかけ続けるわけにはいかない。もし効果を発揮するタイミングがなかったのだとしても、心身を鍛えられるいい機会だと思って利用させてもらうつもりだ。

 蛇足だが、この魔具を借り受けた時にこれ一つでおいくら万円かと聞いたところ、取引不能と答えられた。親からのプレゼントなので後ほど返してくれと添えて。

 

 私はゆっくりと息を吐いて呼吸を整える。そして、希海は私の隣に腰を下ろして、こちらを覗き込むようにして話しかけてきた。

 

 

「香苗ちゃん、大丈夫? 無理していない?」

「うん。大丈夫だよ」

「本当に?」

「本当だってば」

「でも……」

 

 

 希海は私のことを心配してくれているようだ。もちろん彼女の気持ちは嬉しいのだが、あまり過保護になって貰っても困る。というのも、希海が私に対して依存気味になっているように思えてならない。

 記憶が戻ってくる前の私では、こんなことは考えなかっただろうが今の私は違う。私は希海のことを親友と思っているし、彼女のことを一人の人間として好きだ。だからこそ、希海(推し)には自分の人生を歩んで欲しい。

 そのために私ができることは限られてくるだろうが、それでも彼女の力になりたいと思う。

 

 

「私なら大丈夫だよ。そんなに心配しなくても平気」

「そうかなぁ……。香苗ちゃん、前は結衣ちゃんと一緒じゃないと眠れないとか言ってたし……」

「いやいや、流石に今は一人で寝てるから」

「じゃあ、一緒に寝ちゃう? 昔みたいに」

「どうしてそういう話になるの……」

 

 

 希海がニヤリと笑う。完全に遊ばれている。いや、揶揄われていると言った方が正しいか。普段はゲーム通りにあまり人と関わろうとしない希海ではあるが、こういう風に私と会話しているときの希海は実に楽しげにしている。

 香苗の記憶にある希海と言えばコレだ、なんて思うが故に私に依存しているだなんて考えが浮かんできてしまう。

 

 

「冗談。ちょっとからかっただけ」

「知ってるよ。もう、あんまりからかわないで」

「二人とも、探索中の私語は慎んでください。メイングループが接敵します」

 

 

 希海に注意することをもはや放棄している海馬先輩に代わって、呆れた様子の紀々が注意してくる。紀々の言う通り、今まさにメイングループの面々が魔獣と交戦するところであった。

 私はそれを眺めながら紀々が入れてくれた魔力回復の薬液をちびちびと飲む。彼らの戦闘は相も変わらず安定した戦いと言うべきもので、危なげなく戦闘を進めていく様子は正に圧巻の一言に尽きる。流石は主人公、と褒めておくべきなのだろう。

 希海は希海でその様子をどこか羨ましそうな眼差しで見ている。私は少し躊躇いながらも彼女に気になっている事を問いかけてみることにした。

 

 

「ねぇ、希海はああいう風に強くなりたいって思ったりするの?」

「えっと……、まぁ、憧れはある、かも。強くなれたらなって」

 

 

 彼女は苦笑してそう答える。その瞳には確かな憧情の色が見えるような気がした。彼女もまた天城総司たちのように、誰かを守りたいと心の底から思っていたりするのだろうか。だとすれば、私にもできることがあれば協力したいと思う。

 

 

「のんちゃんが強くなったら私も嬉しく思っちゃうかも」

「……うん。頑張る」

「私も手伝うよ。だから、無理はしないで」

 

 

 照れ臭そうに俯く希海の頭をつい撫で回してしまいそうになる手を自らの意思で抑え込み、彼女の肩を軽く叩いて激励の言葉を贈る。そんなこちらの様子に、彼女は頬を朱色に染めて恥ずかしそうにしながらも笑顔を浮かべてありがとうと呟く。そして顔を再び前に向けると魔物が巨体を揺らし、メイングループの戦闘が終わる瞬間を目撃した。

 希海はそれを眺めていると小さくため息を漏らした。

 

 

「のんちゃん、どうかした?」

「えっ? ああ、何でも無いよ」

 

 

 希海が何かを考え込んでいるようだったので声を掛けると彼女は慌てたような反応を見せたが、誤魔化すように微笑む。

 彼女は私の手を手繰り寄せるようにして握ってくると、私にの顔を伺うようにじっと見つめてくる。彼女のその行動の意図を掴めず首を傾げつつも、特に抵抗することなく彼女の好きにさせる。

 やがて思いを決めたのか、希海は言い聞かせるように口を開いた。

 

 

「ね、香苗ちゃん」

「どうしたの?」

「香苗ちゃん……、その……」

 

 

 希海は言いづらそうな感じで、言葉を探すかのように口籠っている。しかしそれも一瞬のことですぐに覚悟を決めたのか私のことをしっかりと見据えてきた。

 希海は私の目を見詰めたまま口を開く。

 

 

「……あの、さ。魔物のこととか、怖かったりしない? 香苗ちゃんこそ無理なんかしてないんだよね」

「魔物が?」

 

 

 彼女が指さしたのは、メイングループが討伐したばかりの火熊(フラメベアー)。その死骸からは大量の血が流れ出ており、辺り一面を赤く染め上げている。

 私は希海の質問の意図を測りかねながらも、とりあえず答えることにした。

 

 

「のんちゃんと一緒なら、怖くないよ」

「……へ? あぁ、うん。そ、そうだねっ?」

 

 

 希海は何故か顔を赤らめて、視線を彷徨わせている。一体何なのだろう。私としては希海と一緒であれば怖いことなど何もないので、別に普通に答えているつもりだったのだが。

 希海は私の回答に戸惑ったようで困惑しているようだ。しかしすぐに立ち直って笑顔を見せる。

 

 

「な、何かあったら、私に相談してよね。すぐにだよ!」

「うん」

 

 

 

 希海は嬉しそうでいて、どこか複雑な表情をしていた。もしかすると彼女に心配をかけてしまっていたのかもしれない。私は彼女にこれ以上不安を与えないよう出来る限りの明るい声を出して笑いかけると、大丈夫だと告げた。

 私がそういう風に返事をした途端、彼女の中で張り詰めた空気が緩んでいくのを感じた。

 

 

「そっか……。香苗ちゃんも無理なんかしちゃダメだからね」

 

 

 彼女はそう呟くと同時にほっとした様子で微笑むと私に身を寄せて、きゅっと私の手を握りなおす。そしてこちらを見つめてくるのだが、彼女の目には私のことしか映っていないように思える。私は苦笑しつつも、再び彼女のしたいようにさせてあげた。

 私達が見守る中、魔獣の亡骸は徐々に粒子となって崩落していき、後に残ったのは火熊の魔核と素材だけだった。それを私と海馬先輩の二人がかりで回収し終えると私達は先へと進む。

 

 

 

 しばらく歩いて、二度の戦闘を終えた頃合だっただろうか。

 洞窟の中に見合わない程の大きな湖が姿を現す。まるでどこかの地底湖さながらの秘境のような場所。神秘的と言っても良いかもしれないが、ここが魔巣窟であることを考えれば、この光景がどれだけ異質なものなのかを実感できるというものだ。

 地底湖の畔にはキャンプ地として使えそうな空間がある。予定では次の層へたどり着いてから野宿をする予定ではあったのだが、二層の魔物と三層の魔物を比較し防衛のしやすさも考えるとここで野営を行うのが安全だろうと言う結論が出ることになった。メインの面子と合流し、バックアップのメンバーはそれぞれで二人用のテントを張っていく。

 

 

「香苗さん、そっちの荷物からロープを持ってきてください。二本ほど足りなくて」

「あ、分かりました」

 

 

 紀々に呼ばれ、荷物を運ぶ手伝いをする。こういった作業に関しては私はまだまだ未熟者なので私よりも中期に及ぶ魔巣窟の探索に慣れているだろう紀々や海馬先輩の指示に従う。私が紀々にロープを受け渡すと彼女はそれを慣れた様子でペグに留め付けていく。その動作は淀みが無く、無駄がない動きと言える。

 

 

「手馴れてて頼もしいね」

「ありがとうございます。まあ、このくらいはできないと追いつけないので」

 

 

 感心したように私が呟くと、照れくさそうにして彼女は作業を続けて、瞬く間にテントを組み立ててしまう。 私はそれを手伝うわけなのだが、私がいない方がもっと早いのではないかと思ってしまう。彼女は私よりも遙かに効率よく作業を済ませてしまい、手際の良さを感じずにはいられない。

 彼女はテントの設営を終えると、私の方に振り返る。

 

 

「これで粗方の準備は完了ですね。香苗さんの方は大丈夫ですか?」

「うん、もう終わるところだよ」

「お疲れ様です。じゃあ少し休みましょうか」

 

 

 紀々はそう言うと折りたたみのスツールを二つ並べて置いて、そこに座るように促してくる。私はその言葉に従って腰掛けると、ふうと一息ついた。すると自然と体が弛緩していくのを感じる。それだけ疲労していたという事だろう。

 私は自分の体を労わるようにゆっくりと背筋を伸ばしたり、手足を動かしたりしながら緊張していた筋肉を解していく。

 

 

「やっぱり、初めての場所は落ち着かないかもしれない」

「意外ですね、香苗さんはもう少しどっしり構えているものかと思っていました」

「そう、……かな?」

「はい。私もそう思っていたんですけど」

 

 

 そうだろうかと私は苦笑しつつ、頬を掻く。

 私自身、私の事をあまり頼り甲斐のある人物では無いと思っているのだが。どちらかと言えば、誰かがフォローをしてあげなければ危なっかしく、どこか抜けた部分が目立つような人間であると認識している。

 しかし、こうして指摘されるとそんな風に見えているんだなと思うと不思議な気持ちだった。

 

 

「そうですね、どっしりと言うよりも図太いと言うのが合っているかもしれません」

「うーん……」

 

 

 それは褒められているんだろうか? 何とも言えない気分だ。

 

 

「か、香苗ちゃーん!」

「ぴぃっ!? のんちゃん?」

「……変な鳴き声」

 

 

 突然、背後から希海に抱きつかれ、私は思わずひよこのような小鬼を連想させる悲鳴を上げてしまう。紀々はその様子を眺めながらくすりと笑うと、そのまま視線を希海の方へと移した。

 

 

「希海さん、どうしました?」

「えっと、テントを張りたいんだけど全然上手くいかなくて……」

「……私が様子を見に行った時は上手くいっていたように見えたのですが」

「いやぁ、あの後、一人で頑張ってみたら何故か全部壊れちゃって……」

 

 

 希海は困ったように笑って、頭をかく。私は彼女の腕から抜け出すと、彼女が張ろうとしていたであろうテントの傍まで歩み寄っていく。紀々も私の後を追うようにして席を立った。

 テントは布が所々が裂け、支柱が何故が地面に生まれた亀裂に呑まれた上に折れ曲がっている。なんだろう、全部壊れてる。

 

 

「あ、あはは……、おかしいよねぇ……」

「……」

「これは酷い」

「いやこれ、何があったんですか」

「それがですね、……さっぱりで」

 

 

 希海の言葉に私と紀々は顔を見合わせる。

 テントを張る作業は確かに力のない一般の女性であればコツか力が必要だったり難しい作業ではあるのだが、テントを壊すような失敗はしないはずだ。多分。

 

 

「何か、力が入っちゃったとか?」

「そうなのかなぁ……。でも、今までこんなことなかったのに。それになんか、最近、力が強くなり過ぎてるような気がするんだよねぇ」

「力が強い、ですか?」

「うん。前に魔物と戦った時からなんだけど」

 

 

 希海はそう言って、拳を握る。そしてそれを見つめると、不思議そうに首を傾げた。

 

 

「最初は気のせいかなって思ったんだけど、やっぱり、強くなったのかな」

「そう、なんですね。……ちょっと、失礼しますね」

 

 

 紀々はそう言うと無惨にも潰れた上に地面にめり込み、使い物にならなくなったペグの残骸に手を触れる。彼女は眉間にシワを寄せて、難しげな表情を浮かべていた。

 

 

「聖装が覚醒した影響でしょうか。姉も聖装が目覚めた三ヶ月間は身体能力の変化に慣れずに苦労したものと聞きますが」

「確かに私も初めて覚醒した時はそうだったよ。でも、今になってまた起こるなんて思わなかったな……」

「確かにそれを思えば、おかしい話ですね。希海さんが初めて聖装を手にしたのは小学生の時と聞きかじってます」

「うん」

 

 

 紀々は考え込むように顎に手を当て、俯く。私も彼女と同じように、希海に起こった変化について考えていた。希海の身に起こっている事は、確かにおかしなことだ。

 本来、聖装とは十代後半から二十代前半にかけて目覚めると言われているものだ。しかし、希海の場合は例外中の例外で、小学五年生の時に覚醒している。当時の記憶は未だに曖昧なので思い出すことすら出来ないが、とても凄かったということだけを憶えている。

 

 

「早い段階で聖装に目覚めたのは知っていましたが、聖具師の誘いも多かったでしょうに」

「全部断っちゃったー」

 

 

 聖装に目覚めること自体が稀有な例だが、平均より早い年齢で聖装に目覚めることはそれよりも珍しい。そして早く聖装に目覚めた者は通常よりも聖装の力を引き出すことが出来るようになる事が多いため、飛び級で専門の聖具師なる公務員を育てる教育機関に入学させられることが多いのだと紀々が教えてくれる。

 例外も多い上に優秀な聖装を持った聖具師の座を蹴ってすら居るとは流石はラスボスの素養を持っているだけはある。

 

 

「あの時はお母さんが私のことを案じてくれてね、そのまま小学校、中学校と通わせてくれたんだ」

「それで、そのまま進学したと」

「うん。だから中学校に入った時点で、聖具師の誘いが来ていたけど、それをずっと断っていたの。私は香苗ちゃんと冒険家になるって決めてたから」

 

「なるほど。だからこの学園に」

「そういうこと。でも、そのせいで中学校に入学した時は色々と大変だったんだ。ね、香苗ちゃん」

「お、憶えてないな……」

「えぇっ!?」

 

 

 希海は驚いた様子を見せると、悲しそうな表情で項垂れてしまう。希海がぐったりとして今にもしくしくと泣き出してしまいそうな様子を見て、私は慌てふためいてしまう。

 

 

「……その、ひとまず話を戻しませんか? そろそろ真面目にテントのことを考えていかないと、今日寝るところが足りなくなってしまいます」

 

 

 項垂れた上に私がオロオロとし始めたのを見て、収集がつかなくなると考えたのか紀々が慌てて話題転換を持ち出す。

 

 

「あっ、ごめん! テント、そうだよ。……ええと、どうしようか」

「それを考えている最中です」

 

 

 希海はハッとした表情になると、すぐに落ち込んだ表情に戻る。彼女には色々と申し訳ないことをしてきているが、コロコロと変わる表情を見ていると本当に感情表現が豊かだなぁと感心しながらその様子を眺めていた。

 

 

「おい、一年。テント立て終えたか?」

 

 

 そんな風に彼女が一人で百面相をしていると、背後から声を掛けられる。振り返るとそこには海馬先輩が立っていた。彼はこちらを見ると、不機嫌そうに顔をしかめる。

 

 

「これ、テント……? 何があったんだ、こりゃ」

 

 彼の視線の先には地面にめり込み原型を留めていないペグと、そこから生じた細い亀裂に巻き込まれたテントの支柱、そして何故が刻まれるように破れたテントの天幕がある。

 恐らく、ペグを打ち込んだ際に力加減を間違えてしまったのだろう。テントの支柱は地面とほぼ平行になっており、まるで巨大な獣が噛み付いたかのように地面に食い込んでいる。そしてテントの生地には無数の穴が空いており、それはもう見るも無惨な姿であった。

 海馬先輩は至って冷静に私たち三人の様子を窺っているようだったが、内心では怒りを覚えているようで額に青筋を浮かべながら笑顔を作っていた。

 

 

「……大体、コレを仕出かした奴は分かった」

 

 

 海馬先輩は腕を組み、苛立ちを隠さずに言い放つ。

 

 

「お前らも連帯責任だ。さっさと予備使って建て直しとけ」

「す、すみませんでした……」

「怒っても仕方がねぇ。とりあえず設営は俺も手伝うから。藤咲、お前は柴宮が怪我してないか再度確認しろ。風森は俺と一緒にメイン組の荷物から予備のテントもって来るぞ」

「分かりました」

「はい!」

 

 

 海馬先輩の指示に従い、私たちは動き始める。希海に痛いところはないかどうかを訊ねると、特に無いとのことだったのでそのまま彼女の担当していたテントの設営を手伝うことになった。その後、希海がハンマーを振るう際に発生する衝撃波(ソニックブーム)が周囲の物を音もなく切り裂くことが判明したり、希海の握力で洞窟の地面が抉れることが判明したりと色々あったのだが、どうにかこうにかテントを建てることに成功した。

 

 設営を終えた頃、()()()海馬先輩はやつれていた。怪我は私が治した。

 

 

 

 

 

「では、不寝番は予定通りにします」

「風森妹と來素さんにトップバッターは任せる。俺と天城は二番目な」

「では私とチユキがトリですわね」

 

 

 紀々と海馬先輩の言葉を受けて、東條タリアが口を開く。メンバーが決定した時から話はしていたのだが、初日の夜は中期の探索に不慣れな私と希海は最初の夜番から外れることとなっていた。

 

 

「初心者の香苗さん達は気にせずゆっくり休んでください」

「うん、ありがとう。おやすみ」

「では、おやすみなさい」

 

 

 私は紀々と就寝の挨拶を交わし、横になる。今日は魔巣窟で初めての本格的な探索を行ったこともあってか、精神的にも体力的にも疲れていたらしくすぐに眠気が襲ってきた。魔巣窟について少し甘く見ていた。希海と二人で寝る予定だったが予期せぬハプニングもあり、結局一人きりの就寝となってしまったのはすこし物悲しさを覚える。瞼を落として意識を暗闇に沈めていく。

 

 眠りにつく寸前、何か柔らかいものが私の唇に触れたようなそんな感覚がしたのだがそれが何だったのかは良く分からなかった。

 ただ一つ言えることは、私はその瞬間が嫌ではなかったということだけ……。

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